ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 5月3日 1653時 ノルドランド ケルンゼン海
ノルドランド北部、ケルンゼン海。冬は流氷で真っ白く閉ざされるこの海だが、今の時期は紺色の海原に、白い波が時折、見えるだけだ。
その海の上に、灰色の大小の艦船が浮かんでいる。ノルドランド海軍のフリゲートや駆逐艦からなる機動部隊だ。この部隊は、ウェルヴァキアの戦略航空潜水艦"バレナ"を捜索し、破壊する任務を担っていた。そして、"バレナ"が潜む海域をほぼ絞り混み、あとは攻撃の時を待つばかりであった。
1996年 5月3日 1654時 ノルドランド海軍駆逐艦 ゲルパルゼン
「スクリュー音探知。複数です」
対潜戦術士官の大尉がヘッドホンを耳に当て、囁くように言った。ソナー室は静寂に包まれ、微かに機械が作動する音が聞こえるだけだ。
モニターには、海中の音を表すグラフが表示されている。ゲルパルゼンは対潜能力が強化された艦船で、アクティブソナーとパッシブソナー、アスロックなどを備えている。
「やはり、護衛の潜水艦を引き連れているか。そいつらは何者かわかるか?」
砲雷長である少佐が話しかける。
「スクリュー音からドルニエスク級攻撃型潜水艦と思われます。ディーゼルエンジンを備え、長魚雷、対艦ミサイルを装備する他、機雷敷設機能も備えています」
「厄介だな。まずは、そいつらから排除しないといかんな」
「バレナは、要は潜水可能な軽空母です。我々が手に入れたデータによれば、長魚雷、対艦ミサイル、対空ミサイル、巡航ミサイルを備え、少数のヘリとVTOL機を搭載しています。この艦船のコンセプトを最初に発案したのはベルカです。ベルカ人は、敗戦間際になって複数の兵器開発計画を様々な国に流したとされます。勿論、敗戦時には、ウスティオ、オーシア、ユークトバニアといった国が戦後処理のどさくさに紛れ、あの手この手でベルカから技術者や兵器開発の計画データ入手しました。そんな中、ベルカの技術者たちの一部は連合国から戦犯として訴追されれのを避けるため、兵器開発のデータを手土産にベルカの同盟国への亡命を画策しました。連中は、結果的にレサスやエストバキア、そしてウェルヴァキアに逃亡したと考えられています。バレナを開発したのも、そういう連中で間違いありません。ウェルヴァキアは核兵器を保有していませんが、ベルカからV1またはV2を密かに手に入れ、配備している可能性は否定できません。それを仕込むには、バレナは格好のプラットホームになり得ます」
「核を搭載するなら・・・・・対艦ミサイルか巡航ミサイル。そうでなければ核魚雷か」
「はい。それしか考えられませんね。あれには航空機を格納するスペースがあるので、弾道ミサイルは容積の問題で搭載できません」
「何にせよ、あれを破壊しなければ我が国は制海権を失い、戦況をひっくり返されることになる。正に、ゲームチェンジャーだな」
「ええ。その為に我々がいるのです」
「全くだ。バレナを見つけることができなければ、我が国はとんでもないことになる」
「静かにっ!別のスクリュー音を探知しました・・・・・」
ヘッドホンから聞こえる音に耳をすませていた二等軍曹の言葉に、その場にいた全員が沈黙した。軍曹は息を潜め、スクリュー音に耳を澄ます。
「見つけた。バレナと・・・・・恐らく、トン級攻撃型潜水艦です。トン級は護衛ですね」
「上空の哨戒機に座標を伝えろ。ソノブイをばら撒いて囲んでしまえ」
「了解です。では、ピケットバリアの構築といきますか」
1996年 5月3日 1701時 ノルドランド ケルンゼン海上空
P-3Cオライオンから断続的にソノブイが投下された。パッシブ式とアクティブ式の両方が海面に浮かび、潜水艦を追い詰めていく。そして、パッシブソノブイの一つが、潜水艦の音を捉えた。
1996年 5月3日 1701時 ノルドランド ケルンゼン海上空 P-3C機内
「ビンゴ!奴を見つけました!」
戦術士官がソノブイから送られてきたデータを入力し、データリンクに送信した。それがAWACSを中心とした航空部隊の戦術ネットワークに乗せられる。
「やるぞ!魚雷発射準備!」
「戦闘機部隊に伝えろ!攻撃開始だと!」
「ターゲット確認・・・・・魚雷投下!」
1996年 5月3日 1703時 ケルンゼン海
P-3Cはバレナを発見していたが、哨戒機もまた敵に発見されていた。バレナのVLSから射出された対空無人機がP-3Cの姿を確認し、VLF通信で位置情報を伝えた。そして、そのUAVは加速し、哨戒機に向かって突進を始めた。
無人機はP-3Cの胴体後部に衝突した。それは哨戒機の尾翼とMADをもぎ取り、海面へと叩き落とした。明るいグレーの機体が藍色の海面に衝突し、バラバラに砕けた。
1996年 5月3日 1704時 ケルンゼン海
P-3Cから投下されたMk48魚雷はスクリューを回し、バレナに向かって進み始めた。ほんの僅かの間、魚雷は旋回するような動きを見せたが、バレナのスクリュー音を再び探知し、海中の深いところへどんどん潜航していく。そして、ターゲットを発見し、弾頭を炸裂させた。
1996年 5月3日 1705時 ケルンゼン海 海中
凄まじい衝撃が巨大な船体を突き抜けた。立っていた水兵たちは床に投げ出され、重傷や軽傷を負った。
「畜生!今のは何だ!?」
「魚雷だ!」
「ダメコン急げ!」
「バラストと注水弁に損傷!このままでは潜航できません!」
「仕方が無い!こうなったら浮上して奴らを片づけろ!艦載機の発艦とミサイル、魚雷の発射準備をしろ!」
バレナはゆっくりと海面を目指した。その間、格納庫ではパイロットたちがYak-38の発艦の用意を整えていた。
1996年 5月3日 1707時 ケルンゼン海上空
凄まじい飛沫を上げながら巨体が海上に浮かび上がった。その姿に戦闘機乗りたちは息をのんだ。ある程度は想像していたが、ここまで巨大な艦船だとは思っていなかったからだ。そいつは雲の切れ目から注ぎ込んだ日光を反射し、黒光りしている。上空から見る限り、こいつは空母よりもずっとでかい。こんな大きな潜水艦を、ノルドランド空軍兵も、傭兵たちも見たことが無かった。
『おい・・・・・こいつがバレナだってのかよ』
『いくら何でも大きすぎるだろ。ウェルヴァキアはこんなバケモノを作ったのかよ』
『ふん。あんだけでかいなら、撃てば当たるさ。やる・・・・・・』
バレナの"背中"に何か小さなものがいつの間にか現れていた。それは巨大な潜水艦の背中を滑走し、空に飛び立った。艦載機のYak-38フォージャーだ。2発のR-73と2つの増槽が翼に吊り下げられている。
『AWACSガーディアンより作戦中の部隊へ。バレナから戦闘機が発艦した。注意せよ!』
更にバレナのVLSが開き、炎と煙が吹きあがった。その中からS-300Fが放たれた。ミサイルは連続して撃ち放たれ、戦闘機に狙いを定める。
『くそっ!ミサイルだ!やばい!』
トーネードIDSがチャフとフレアを撒きながらミサイルを避けようとした。しかし、ミサイルは戦闘攻撃機のすぐ近くに迫り炸裂した。機体はズタズタに引き裂かれ、飛行不能になった。機体の下に吊り下げられていた2発のコルモラン対艦ミサイルは無用の長物となってしまった。パイロットとWSOは緊急脱出し、パラシュートが空中で開く。冷たい海水の中で生きていられる時間はほんの僅かだ。
『ツェニン61、ツェニン62、脱出したパイロットの救助を頼む!全戦闘機、バレナを攻撃せよ!ここが奴の墓場だ!』
1996年 5月3日 1709時 ケルンゼン海上空
サイファーは自分の目の前にYak-38が飛び込んでくるのが見えた。HUDにそいつを捉え、機関砲の引き金を引いた。劣化ウラン弾が機体を切り裂き、海に叩き落とす。こんな小物に構っている余裕は無い。もっとでかい獲物が、目の前に転がっているのだ。サイファーはレーダーモードを対水上モードに切り替え、ブラモスの発射用意を整えた。
傭兵のF-2Aが、一斉に搭載していた4発全てのASM-2を放った。ミサイルは無防備に海上に浮かぶ巨大なクジラに向かう。バレナは再び対空ミサイルを放った。だが、そのミサイルが向けられたF/A-18FとJAS-39Cはチャフとフレアを撒き、巧みに回避した。バレナから炎と煙が立ち上る。しかし、これだけの大きさの標的だ。簡単に沈むことは無かった。
サイファーはブラモスを1発、放った。ブラモスはバラストの弁ごと外殻を吹き飛ばし、鋼鉄の破片を空に巻き上げた。やがて、P-3Cから放たれた魚雷が複数発、着弾する。360°全方向から放たれる銛に、クジラは成す術も無かった。幾つもの爆発が起き、やがて"バレナ"は冷たい北の海の中へ、二度と浮上できない最後の潜航を始めた。