ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

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新たなるターゲット

 1996年 5月12日 1001時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地

 

「諸君、ではブリーフィングを開始する。"バレナ"の撃沈、そして燃料庫の破壊により、ウェルヴァキア軍は疲弊状態になっていると言われているが、我々はそうは見ていない。これまでのパターンから推測するに、奴らは何か奥の手を隠しているものと考えている。そして、我々の偵察機が観測したところ、敵が大規模な兵器工場を立てているのが確認された」

 

 ロビン・リー少佐がキーボードを操作すると、ウェルヴァキアの工業地帯の地図が映し出された。

 

「ここが滑走路で、ここが格納庫、そしてエプロンだ。この写真からわかるように、そこの建物からMiG-29とMiG-23がこの格納庫に向かってトーイングされている。偵察機のパイロットは途中で敵機に追跡されて、命からがら戻ってきた。国境を超えて、味方の護衛機がやってくるまで執拗にウェルヴァキア空軍機が追いかけてきたことを考えるに、ここは奴らにとって相当重要な施設であるに違いないという分析結果を出した。裏返せば、ここを破壊することができれば、奴らに大きな打撃を与え、継戦能力を削ぐことに繋がる。また、未確認ではあるが、ここには国籍不明の大型航空機が頻繁に離発着しているという情報ももたらされている。諸君には、可能であればこの航空機に関する情報も手に入れてもらいたい。ここには迎撃部隊が多数配備されており、敵機との交戦は避けられない他、強固に対空兵器も配備されているだろう。困難な任務にはなるだろうが、ここを叩けば戦争を早期に終結させることもできるだろう。搭載する装備は作戦調整中隊の指示のもと、慎重に選んでくれ。以上、解散!」

 

 1996年 5月12日 1045時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地

 

 まるでピクニックにでも出かけたくなるような天気だ、とサイファーは掩体壕の外を眺めて思った。基地の向こうには緑色の平原が広がり、深緑色の林が点在している。ここで戦ってはや4か月。最初に到着した時に見た、真っ白な不毛な荒野と思えた国土は、緑豊かな大地へと変貌していた。

 氷に閉ざされて、採掘が停止されていた油田やガス田が稼働を始め、地下から原油や天然ガスをどんどん吸い上げ、自分たちが乗る戦闘機の燃料となり、鉱山から採掘される金属や石炭が加工され、戦闘機のスペアパーツとなるジュラルミンや炭素繊維となる。それだけノルドランドは鉱物資源に恵まれているのだ。この国の工業力が強いのも納得できる。

 

 愛機のSu-35BMの翼に兵装が搭載され、燃料が補給されていく。サイファーは戦闘機の周囲を歩きまわり、メーカーマニュアルが示した通りの手順に従って機体の点検をする。サイファーのその手には、母国語であるウェロー語に翻訳されたSu-35BMのマニュアルがあった。この戦闘機に乗って早5ヶ月となるが、まだ完全にマニュアルの中身を頭に叩き込んだ訳では無い。傭兵稼業を始めて10年近く乗っていたF-15Cに関しては全て頭に叩き込まれ、ベルカ戦争に参戦した頃にはマニュアル無しでも完璧な整備ができる程にまでなっていた。

 しかし、それでもサイファーは決してそのマニュアルを捨てることは無く、それを見ながら整備をしていた。

 

 整備兵にも、傭兵がやって来ていた。サイファーのフランカーの整備を手伝っているのは、かつてユーク空軍にいたという人間だ。

 

「Su-27系統は現役時代に扱っていたが、Su-30系統とSu-35の整備は初めてでね。しかし、随分簡単になったもんだな」

 

「自己診断プログラムが最新型だから、不具合があれば全部機体が知らせてくれる。F-15と同じだ。F-15はフライバイワイヤへの過渡期みたいな機体だったから、半分機械制御、半分コンピューター制御だったが、こいつはほぼ完全なコンピューター制御の機体だ。無理な操縦をしたら、自動的に機体が修正してくれるから、その分空戦に集中できる」

 

 サイファーはしゃがんでフランカーの機体の下を入念に点検した。頭の中で、どいいう兵器を搭載するのかを考え、手に持ったオーダー表に兵装を書き込んでいく。他の傭兵やノルドランド空軍のパイロットもオーダー表を補給係の兵士に渡していた。

 

 軽快なディーゼルエンジンの音を立て、兵装を乗せたトラクターが次々とエプロンに入ってきた。様々な種類のミサイルや爆弾が、オーダー通りの機体の近くへと運ばれていく。AIM-9Mサイドワインダー、AMRAAM、マジック550、R-77、GBU-12、Kh-29等々・・・・・・。

 今まで慣れない機体の整備に戸惑っていたノルドランド空軍の整備部隊も、何人かの兵士はすっかりミグやスホーイの系列の機体の整備に慣れてしまっていた。勿論、それに乗っている傭兵パイロットが指導していたのだが、ノルドランド空軍の整備兵は飲み込みが早く、あっという間に新しい機体の整備に習熟していった。

 

 遠くのハンガーから4機、小さな機体がトーイングされてエプロンに引き出された。A-4Kスカイホーク。30年以上前にオーシア海軍に採用され、今ではF/A-18CホーネットやAV-8BハリアーⅡにとって代わられているが、オーレリアやウェローでは現役だという。

 A-4Kには増槽2つに3連装の爆弾ラックが3つ、取り付けられていた。Mk82通常爆弾を9発搭載する形態だ、とそれをちらりと見ていたサイファーは思った。そうなると、AIM-9Lサイドワインダーを搭載することができないため、他の戦闘機に援護してもらう必要があるが、それが無くても逃げられるという自信が、そのパイロットにはあるのだろう。勿論、サイファーは同じ飛行機に乗るのであれば、自衛用のサイドワインダーを必ず搭載するし、それ以前に、空戦性能がその程度であるA-4には乗りたくも無かった。同じ機体規模の戦闘機・攻撃機を選ぶのであれば、自分はAV-8BハリアーⅡ+を選ぶだろう。A-4と同じ機体規模で、空戦性能はそっちの方が格段に上だからだ。

 

 出撃の準備をしているのは、何もここヨアキムロルだけでは無い。セリノベルゲンの基地では、自分たちのような戦闘機部隊を支援する空中給油機の部隊が出撃の準備をしている。このKC-10Aには、自機が消費する分と戦闘機に給油する分を合わせて200キロリットル以上もの航空燃料をつぎ込まれている。しかも、これを行っているのは数十機ものKC-10Aに対して行われているのだ。

 ノルドランドは非常に大規模な油田やガス田を持つので、自前でこういった航空燃料を用意できるのは大きい。

 

 滑走路にC-130Hハーキュリーズ戦術輸送機が着陸した。出撃前であっても、ここでは頻繁にC-130やC-17が物資を輸送しにやって来る。その積み荷の殆どは、戦闘機のスペアパーツや兵器類などだ。

 

 傭兵と空軍兵たちは、入念に戦闘機の状態を確かめていた。傭兵たちのルールは明確だ。機体に関する全ての責任は、自分だけが負う。機体の不調は全て自分の責任だ。

 

 全ての点検を終了し、サイファーは機体のアクセスパネルを閉じて、コックピットの射出座席に座りAPUのスイッチを入れた。甲高い音と共に、APUが作動する。エプロンのあちこちで、同じように眠っていた戦闘機が目を覚ます。

 

 サイファーは多機能ディスプレイ、HUD、MFDが正しく表示されているか確認して、機体のすぐ外にいる整備員に親指を立てた。

 

『マングース1、ラダー、フラップ、エレベーター、ノズルの作動確認をしてください』

 

「了解した」

 

 サイファーはブレーキをかけたまま操縦桿とラダーペダルに軽く力を伝える。フライバイワイヤ式の機体なので、それらは殆ど動かない。全て正常に動いているらしく、整備員が親指を立てて見せる。

 

 エンジン内部の温度、エンジンの回転数、どれをとっても正常だ。エプロンの端で待機していたF-16CやF-15Eが滑走許可を受けて誘導路に向かった。これから、この飛行場では戦闘機の列が出来上がるだろう。

 

 サイファーはリラックスした様子で背中を射出座席の背もたれに預けた。緊張するのは、離陸する時と、ターゲットを射程に収めるか、敵機が接近してきてからでいい。新人パイロットは皆、操縦し、戦うだけで手一杯で、こうした待っている時間ですら緊張するものだが、もうすぐ戦闘機に乗って10年になる"円卓の鬼神"は、緊張する時とリラックスする時のバランスもしっかりと心得ていた。

 

 やがてサイファーとジャガーに離陸許可が出た。サイファーはスロットルレバーに力を込め、アフターバーナーに点火させて戦闘機を滑走路上で走らせた。V1、V2速度の間に離陸するかどうか即座に判断を下し、VR速度に達すると同時に操縦桿を引いた。Su-35BMはそれに即座に反応し、機首を上げ、群青色の空に向かって上昇する。その左後方には、JAS-39Cがぴったりと付いていた。

 

 正直、サイファーはジャガーの腕前には舌を巻いていた。二番機として申し分ない働きを、この若者は"円卓の鬼神"に見せていた。

 

『ヨアキムロルタワーよりマングース隊へ。これよりこちらからの管制を終了する。周波数113.33に合わせ、AWACSガーディアンと交信せよ』

 

「タワー、マングース1了解」

 

『2了解』

 

 サイファーは無線機のダイヤルを回した。

 

「こちらマングース1だ。AWACSガーディアン、聞こえるか?」

 

『こちらAWACSガーディアンだ。マングース1とマングース2は予定通りエリア・ジュリエット・ヴィクターで空中給油を行え。そこで給油機の部隊が待機している。ランデブーポイントで追って指示を出す』

 

「マングース1了解」

 

『2了解』

 

 先日破壊した大きな獲物程ではないものの、そこそこ狩り甲斐のありそうな獲物だ。勿論、サイファーは持てる全ての燃料と弾薬を駆使して、ターゲットを根こそぎ破壊し、報酬をどっさり手に入れるつもりでいた。 

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