ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 5月12日 1113時 ウェルヴァキア領内
『AWACSガーディアンより攻撃部隊へ。ターゲットまで残り50マイル』
『こちらアングラー1、予定通り行動を開始する』
EA-6Bプラウラーの編隊が国境付近に近づいた。ESM機能を使い、敵の防空レーダーの位置を割り出す。
『アングラー1、敵のレーダー波を検知。妨害を開始する』
EA-6Bが翼の下にぶら下げたAN/ALQ-99から妨害電波が放たれた。見た目では何も起きていないようだが、敵のレーダー画面は砂嵐のや靄のようなものが映り、無線通信は大きな雑音が混ざって会話が困難になっているはずだ。
『アングラー2よりガーディアンへ。妨害電波照射開始。敵機の様子に目を光らせていてくれ』
『アングラー隊へ、こちらAWACSガーディアンだ。敵さんはこっちに気づいたみたいだ。方位143からマッハ1で急速に接近する物体が4つ』
『くそっ』
EA-6Bは電子妨害とレーダーの破壊に特化しているため、敵機と交戦する能力は皆無だ。
『近くにいる味方機を呼び出す。少し待ってろ』
1996年 5月12日 1115時 ウェルヴァキア領内
『AWACSガーディアンよりウィーゼル隊へ。仕事だ。電子妨害機へ向かう敵機を確認した。援護に向かえ』
『ウィーゼル1了解』
『2』
中距離空対空ミサイルと短距離空対空ミサイルで武装した2機のF-15Cと2機のF-16AMが編隊から離れ、敵機へと向かう。他の機体は予定通りターゲットに向かっていた。
『今日のエースは俺のものだ』
『それは"円卓の鬼神"を追い抜いてから言うんだな。奴の総撃墜数見たか?普通じゃないぜ』
『全くだ。あれじゃ、このまま戦争が10年続いても追い抜けそうにないな』
『その前に、せいぜい死なないように気を付けな。自分のケツの面倒は自分で見ろよ』
『ふん、言ってろ』
『AWACSガーディアンより攻撃部隊へ。敵機が上がってきた。警戒せよ』
1996年 5月12日 1118時 ウェルヴァキア領内
雲一つない青空が見えの前に広がっていた。視程はこの上ないが、空戦となると、あまり好ましくない状況でもある。曇り空ならば、濃淡の灰色に塗られた機体はその雲に紛れて、目視で確認しにくくなるが、鮮やかな水色の空ではそれがはっきりと目立ってしまう。
しかし、それは敵機とて同じことだ。戦う空の環境という条件というのは、敵味方、軍での階級、機体性能、空戦の腕前、それらの要素を一切無視して平等に、対等に発生するのだ。
サイファーはレーダーを確認した。電子妨害機に向かう編隊が2つ。敵機に向かう編隊が複数。そのエスコートを行う部隊に自分は含まれていない。サイファーのSu-35BMには自衛用のR73とR77の他、KAB1500レーザー誘導爆弾が吊り下げられている。今回、マングース隊は攻撃部隊の護衛では無く、攻撃部隊そのものに加わるよう命じられたのだ。
敵機と積極的な交戦をさせてもらえないのは不満だが、命令は命令だ。それに、大きな爆弾を多く抱えて空力性能が低下した状態で無暗に敵機と交戦しようとするほどサイファーは馬鹿では無かった。
『AWACSガーディアンより攻撃部隊へ。ターゲットまで残り80マイル。敵の地対空ミサイルと戦闘機に注意せよ』
『こちらアングラー1、敵の防空レーダーの電波を捉えた』
『アングラー2、こちらでも確認した。Lバンドレーダーだ。恐らくは、SA-11のものと考えられる』
『ガーディアンよりアングラー隊へ。確かなのか?』
『間違いない。攻撃の許可を』
『了解した。攻撃を許可する。全機、自由戦闘。繰り返す、攻撃部隊全機、自由戦闘を許可する』
1996年 5月12日 1119時 ウェルヴァキア領内
EA-6Bプラウラー電子攻撃機からAGM-88D対レーダーミサイルが放たれた。また、トーネードECRからもALARMが放たれる。ミサイルは敵の防空レーダーの電波を捉え、マッハ2.9というスピードでランチャーレールから飛び出し、敵のレーダーに向かった。このミサイルはパッシブシーカーにより、レーダー波の発信源を目指して飛んで行く特性を持っているため、敵がそのことに気づいてレーダーを停止しない限り、自らミサイルを呼び寄せてしまうことになるのだ。
プラウラーはミサイルを放った後も、AN/ALQ-99から妨害電波を照射し続けた。こうすることで、敵のレーダー画面を曇らせ、ミサイルの射撃に気づくのを遅らせる。後は、ミサイルが命中するのを待つだけだ。
1996年 5月12日 1121時 ウェルヴァキア領内
ウェルヴァキア空軍機がようやく迎撃に向かい離陸し始めたのは、ミサイルによって一部の防空レーダーが破壊された後だった。
迎撃に向かったのは、MiG-21bisとMiG-21SM、MiG-21MF、MiG-23PとMiG-23MLだ。ここ最近、MiG-29SMとMiG-29SMTに関しては、ベルカから部品と機体そのものを手に入れるのが困難になってきており、稼働率が低下した状態だった。よって、フルクラムは一部のエース部隊にのみ回され、所謂、"通常の飛行隊"に対しては、工場で大量制裁されたMiG-21"フィッシュベッド"シリーズとMiG-23"フロッガー"シリーズが配置換えによって供給されていた。
しかしながら、これらのフィッシュベッドやフロッガーはオットー・マインリヒト以下、亡命ベルカ人技術者手によって、近代化改修され、レーダーやミサイル警戒装置、ミサイル妨害装置がベルカ製のものに更新されていた。それらは、元々これらの機体に搭載されていた、オリジナルのユーク製の電子装置に比べて性能面で各段に勝り、油断のならない機体に変貌している。
『畜生!もう奴らはここまで侵入してやがるのか!』
『HQ、こちらチオアラー1。パブナ・ヴォツーカのレーダーサイトから迎撃コースを誘導してもらえないのか?』
『ネガティブ。そこのレーダーサイトとの連絡が付かない。既に破壊されているものと思われる』
畜生。これまでは、こちらから仕掛けることがほとんどだったが、今度は奴らに後れを取ってしまっていた。
こんなことを他の兵士に言う事なぞ、口が裂けても言えないが、この戦争は負け戦になるのではないか、とチオアラー1のパイロットであるディミトリエ・コステア少佐は思い始めていた。すでにオーシアやウスティオから経済制裁を発動され、石油資源などの入手手段を違法な密輸に頼らざるを得ない一方で、それを手に入れるための資金を、国内に回すはずだった公共予算から差っ引くことで捻出している。
チオアラー1のMiG-21bisの新しいレーダーが、敵戦闘機の姿を映し出した。コックピットのレイアウトも一新され、アナログ計器の一部がデジタル式のディスプレイに変更されている。ところが、搭載できるミサイルに関していえば、今まで搭載可能だったのがR-3SやR-60Mだったのだが、R-73やR-27シリーズを搭載できるようになったため、空戦性能は各段に向上した。これならば、簡単にノルドランドのF-16やF-4Eに負けることは無いだろう。
「チオアラー1よりチオアラー隊各機へ。敵機を確認。交戦せよ!」
MiG-21bisが機首を上げ、上昇した。後ろから続いている機体もそれに続く。これ以上、ノルドランドやならず者たちにこのウェルヴァキアの空を蹂躙される訳にはいかない。
20機を超える単発の戦闘機がアフターバーナーに点火し、それらのエンジンが燃料を凄まじい勢いでがぶ飲みした。ところが、そんなことをに構っていられるほどの余裕はウェルヴァキア空軍のパイロットたちには欠片も残っていなかった。ここでノルドランド空軍機を阻止できなければ、国土はあっという間に蹂躙され、火の海になってしまうのだから。