ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 5月12日 1138時 ウェルヴァキア領内
瞬く間に2機の敵機を血祭りに上げたダニエル・"ルップ"・イオネスク大佐は周囲を見回した。今日の戦果は、味方が撃ち落とした機体を含めて3機。これでまた2機撃ち落としたら、自分はまたエースの称号を得ることになるのか。この称号は、何度も与えられたため、もうこの引退間近の大佐にとっては、もう名声も栄誉も、価値が薄れていっているような気がしていた。勿論、5機撃ち落とすごとに、仲間たちは自分を称え、制服にはささやかな勲章として小さなリボンが縫い付けられるのだが。
イオネスクは周囲を見回した。あの"円卓の鬼神"。奴もこの空で飛んでいるのだろうか。レーダー画面には多数の敵味方の機影が映り、多くの戦闘機が飛び交っている。
「ヴィペラ1よりヴィペラ隊各機へ。攻撃を開始する。まずは、正面の敵編隊をやれ」
『2、了解しました』
『ヴィペラ3、仰せの通りに』
きれいに編隊を組んでいた6機のMiG-29SMTは、アブレスト体形の編隊を作り、左右に広く距離を取った。お互いの距離は遠くなるため、敵から攻撃されたときにすぐに味方を援護できなくなるが、その代わり、集中攻撃であっという間に全滅してしまう可能性を低くすることはできる。
勿論、イオネスクは、部下たちは簡単に撃墜されるようなヤワなパイロットではないと確信していた。
1996年 5月12日 1138時 ウェルヴァキア領内
『AWACSガーディアンより戦闘機部隊へ。新たな敵機だ。数、6機。既にこいつらに3機もやられている。敵のエース部隊の可能性が高い。十分注意せよ』
『エース部隊のお出ましってところか。おい、こいつらを撃ち落として、報酬をたっぷり頂くとしようぜ』
『おい、気を付けろよ。もう3機も殺った奴らならば、並みの腕の敵じゃないことは確かだ。数は少ないが、腕は奴らの方がずっと上だってことか』
『了解だ。無暗に近づくな。遠巻きに観察して、中距離ミサイルや長距離ミサイルで撃とう。この戦術で文句は無いな、隊長』
『クロコダイル1、それで問題無い。攻撃を仕掛けるぞ』
1996年 5月12日 1139時 ウェルヴァキア領内
空は雲一つなく、藍色に晴れ渡っていた。その最も高いところで、白く丸い太陽が燦燦と輝きながら、飛行機雲の尾を引き、急上昇、急降下、急旋回を繰り返す戦闘機を見下ろしている。普通の人間が見ることができない、美しくも恐ろしい空中戦を見ることができる特等席だ。
2機のMiG-29SMTがF-16AMとF/A-18Cを追い回した。このフルクラムに乗っているパイロットからしてみたら、こいつらの動きは素人同然だった。
評価するにも価しない、酷い動きだ。ヴィペラ3とヴィペラ4は目の前の敵機をロックオンして、R77を放った。2発のミサイルはあっという間にオーシア製の戦闘機に追いつき、近接信管を作動させて無数の金属片を空中にばら撒いた。
ミサイルの破片を食らった戦闘機は射出座席を作動させ、続けざまにコックピットからパイロットを空中に放り投げた。パラシュートが開いたところを見るに、こいつらは運よく脱出できたようだ。
全く、造作もない。ノルドランドは傭兵を雇ってはいるが、大した腕前を持つ連中をかき集められないでいるようだ。だが、そうじゃない奴が一人だけいる。
果たしてここに"鬼神"はいるのだろうか。もし、そいつがいるとしたら次から次に味方が食われていっているはずだ。
とはいえ、こっちの攻撃に敵のフォーメーションは崩れ始めている。MiG-29Sが放ったR77がミラージュⅢに命中し、炸裂する。それにしても、傭兵連中が乗る戦闘機の多彩なこと。かなり古いMiG-21やハンターF.58から新鋭のラファールCやSu-30SMなど、まるで戦闘機の見本市かと言わんばかりに多種多様な機体が飛び回っている。
イオネスクは5人の部下に指示を出し、正面の敵機を攻撃するよう指示した。それは既に目視でそのシルエットが小さく見えるほどまで接近している。
HUDに目標指示ボックスが表示され、緑色の四角いグリッドに敵機のシルエットが重なる。やがて、R73短射程ミサイルの射程内に敵機が入る。イオネスクはヘルメット搭載照準装置を使い、敵を狙った。ロックオンを知らせる電子音が鳴り、イオネスクは操縦桿の発射ボタンを押し込んだ。ミサイルが右翼端のランチャーから滑り出し、煙の尾を引きながら敵機を目指した。ミサイルに狙われたF-16Aはすぐに機体を旋回させながらフレアをばら撒き、更に急上昇させる。ミサイルは白く燃えながら煙を出すマグネシウムの塊に騙され、下に向かってしまった。
イオネスクは舌打ちした。だが、このベテランパイロットは冷静に周囲を見回した。こいつらを侮ってはいけない。ノルドランド空軍の連中は、これまでの戦闘で多くの経験を積んできただろうし、傭兵連中は空軍パイロットとは比べ物にならない程の手練れのはずだ。
そうこうしているうちに、友軍のMiG-21UMが目の前でミサイルを食らい、煙の尾を引きながら落下していくの見えた。だが、それに構っている余裕は無い。レーダーが再び敵機を捉えた。正面にいる奴らだ。
レーダー波が敵機を捉える電子音が聞こえてくる。しかし、それと同時にレーダー警戒装置が耳障りな電子音を鳴らし始めた。向こうからも当然ながらこっちが"見えている"。
イオネスクはちらりと燃料計を見た。ここに来るまでに想定外の燃料を使ってしまったため、交戦できる時間は短い。恐らく、5人の部下が乗る機体も同じような状況だろう。
「ヴィペラ1よりヴィペラ隊各機へ。燃料に注意しろ」
1996年 5月12日 1140時 ウェルヴァキア領内
『ガーディアンよりマングース隊へ。目標は11時方向。距離87マイル、高度15000だ。マッハ0.8で飛行中だ』
標的は正面を飛んでいる。AWACSからの情報を加味すると、どう考えても普通の連中でない事は明らかだ。だが、そんな奴らも叩き落とすまでだ。
やがてイールビスEレーダーが標的の姿を捉える。間もなく、R77の先端に搭載されたアクティブレーダーもターゲットを捕捉した。
「マングース1、Fox1」
Su-35BMの主翼ランチャーからR77が滑り出た。放たれたミサイルはほんの少しの間、戦闘機が放つ火器管制レーダーの電波を頼りに標的を探し出し、自身のアクティブレーダーを起動させた。R77が飛んで行くと、フランカーはすぐに高度を下げながら旋回し、敵の攻撃をさけようとする。僚機のグリペンも後に続いた。
1996年 5月12日 1140時 ウェルヴァキア領内
「ミサイルアラート!避けろ!」
MiG-29SMTやMiG-29S、MiG-23MLが一斉に散らばり、ある者は急降下し、ある者は上昇しつつECMを作動させ、チャフを撒いた。
だが、旧式の電子防御装置しか持たないMiG-21bisが最初に餌食になった。AMRAAMの弾頭の爆発に巻き込まれ、黒煙を曳きながら落下していく。続いて、ヴィペラ隊の5番機がR77を食らった。ミサイルの破片がエンジンのインテイクに吸い込まれ、タービンブレードを切り刻んだ。
『畜生!ヴィペラ5被弾!』
フルクラムのコックピットの中で、赤い警告灯が幾つも点滅し、耳障りな警告音が鳴り響く。パイロットは素早く故障した方のエンジンをカットオフした。MiG-29SMTはシングルエンジンになっても飛行し続けられるように設計されているが、あくまでも飛ぶことができる程度で、このまま空戦を続けるなどとんでもない話だ。
仕方が無く、イオネスクはヴィペラ5に離脱を指示した。そして、標的に神経を集中させる。レーダーで標的を探し出す。
正面にいる4機の戦闘機を捉えた。その編隊のうち、先頭にいる1機を選び出しロックした。そして、R77を放った。
1996年 5月12日 1141時 ウェルヴァキア領内
『ミサイルアラート!ブレイク!』
F-16AMとミラージュ2000Cの編隊が散開し、ECMを作動させ、チャフをばら撒きながらミサイルを避けようとした。だが、その後ろにいたF-16CとトーネードF.3は反応が遅れた。2機の戦闘機はR77の破片をまともに浴び、ズタズタに切り裂かれた。
『ペッカー1被弾!脱出する!』
F-16のキャノピーが飛び、射出座席がパイロットを空中に放り投げる。煙を上げながら落下する戦闘機の全体に火が回り、燃料に引火したのか空中で爆発した。その破片の一部がウェルヴァキア空軍のMiG-21MFに当たり、左の主翼を大きく抉った。
フィッシュベッドのパイロットは一瞬、何にやられたのか分からずパニックになった。即座の射出座席のハンドルを引いた。
1996年 5月12日 1143時 ウェルヴァキア領内
サイファーとジャガーは新たに現れたミグに狙いを定めた。その6機で現れた連中のうち1機を撃墜した。だが、残った5機はフォーメーションを組みなおし、再び攻撃を仕掛ける体勢を整えている。
『サイファー、奴らまだ諦めていないようですよ。やりますか?』
「当然だ」
サイファーはそれだけ言い放つと、敵の編隊の5番機に狙いを定めることにした。今の攻撃で距離が離れてしまったので、旋回し、距離を詰めねばならない。そうしている間に、黒い機体に赤いラインを描いたフルクラムはミサイルを放ち、あっという間に味方を4機、血祭りに上げた。
1996年 5月12日 1145時 ウェルヴァキア領内
イオネスクは次なるターゲットを探し出そうとした。だが、そこで問題が発生した。ここに来るまでに結構な距離を飛んでいたため、燃料をかなり消費してしまっていたのだ。それほど長くこの空域に留まることはできない。
『ヴィペラ6、ビンゴ。これ以上戦闘を続けられません』
『ヴィペラ4、間もなく燃料が無くなります』
仕方が無い。ここは大人しく帰る他、選択肢は無くなった。
「ヴィペラ1からヴィペラ隊へ。帰還するぞ」
1996年 5月12日 1146時 ウェルヴァキア領内
新たに現れた赤と黒の塗装の敵機は、突然方向転換し、あっという間に空域から離れて行った。どうやら、燃料切れのようだ。
『AWACSガーディアンより攻撃部隊へ。敵機が引き上げていく。ここで作戦を終了とする。全機、帰還せよ』
ノルドランド空軍と傭兵部隊は編隊を組み、それぞれが所属する基地に向かって戻って行った。敵機の妨害により、思ったほどターゲットに対する攻撃を行うことができなかった。ここに対しては、二次攻撃作戦が行われる可能性もあるだろう。