ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

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破壊の爪痕

 1996年 5月15日 1003時 ウェルヴァキア ゴルヴォグラード

 

 ノルドランド・傭兵部隊の連合軍による空爆から3日後、ようやくウェルヴァキア政府による調査団が現地入りした。ミサイルや航空機の部品を作っていた工場は徹底的に潰され、復旧させるのがほぼ困難な状態だった。

 兵士や作業員が焼け焦げた鉄骨やコンクリートの瓦礫の山を茫然と見上げていた。全く、信じられない。ここまで徹底的に破壊されるとは思ってもいなかったのだ。ここが破壊される前は、生産ラインからミサイルや爆弾、砲弾などが毎日のようにウェルヴァキア各地にある軍の基地へと運ばれていた。

 ところが、それはもう途方もない金額のゴミの山となっていた。復旧させるとなると、数か月から半年以上の期間、そして年間国家予算の数パーセントのお金が必要になるだろう。

 

 空からヘリの羽音が聞こえてきた。やがて、Ka-32"ヘリックス"汎用ヘリコプターが二重反転ローターの独特な音を立てながら着陸する。ヘリのスライドドアが開くと、制服を着た軍の上級将校、スーツ姿の政府高官と数名の外国人が降りてきた。

 

 高級なスーツの上から黒いコートを来たオットー・マインリヒトは周囲を見回した。倉庫は完全に焼け焦げ、製品を空輸する航空機が利用するためのエプロンや滑走路には無数のクレーターができている。ここまで酷くやられるとは思ってもいなかった。

 

 工兵部隊が滑走路の様子を確認していた時だった。突如として数回、大きな爆発音が鳴り響いた。何事かとマインリヒトがその音が鳴った方向を見ると、膝から下を切断されたり、脛や太腿が血で真っ赤に染まった兵士たちが20人ほど、その場に転がっていた。

 

「畜生!一体何だ!?」

 

「くそっ!無暗に滑走路に近づくな!不発弾があるぞ!」

 

 マインリヒトはそれが何なのかわかった。JP233小弾頭ディスペンサーがSG357子爆弾と一緒にばら撒いた、HB876汎用地雷の仕業だ。この兵器は、トーネードIDSに搭載される滑走路破壊用クラスター爆弾散布兵器なのだが、小さな爆弾の中に更に無数の小さな対人・対車輌両様の地雷を混ぜてある。そのため、地雷の処理が必要になり、滑走路の復旧作業を妨げる効果がある。

 兵士や作業員たちは負傷者を慎重に滑走路上から運び出した。兵士の一人が通信機を持ち出し、爆発物処理班を手配するよう要請している。

 

 全く、厄介な事をしてくれる。だが、この戦争が長引けば長引いてくれるほど、自分の懐と祖国、そして、"組織"には多額の金が転がり込んでくる。それは闇資金としてプールされ、いずれはベルカ復興のために使われることになるだろう。勿論、このことを知っているのはマインリヒトと数名のベルカ政府関係者、そして"灰色の男たち"のみである。

 

 1996年 5月15日 1034時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地

 

 春の爽やかな風が、騒々しいターボファンエンジンの爆音を運んできた。4機のF-15Cイーグルが綺麗なエシュロン編隊を組んで基地の上空をオーバーヘッドパターンで駆け抜け、1機ずつ、大きく間隔を空けて滑走路に着陸する。乗っているのは、新しくこの基地にやって来た傭兵たちだ。

 

 

 非常に豊富な天然資源、そしてオーレリアやオーシアといった同盟国からの援助により、ノルドランドには戦争を続けるための潤沢な資金・資源を調達することができている。そのため、食い扶持を求める命知らずの傭兵たちが続々とノルドランドの各基地に集まっていた。

 

 この基地にやって来るのは、何も戦闘機ばかりではない。戦闘機に搭載する航空爆弾やミサイル、機関砲の弾薬などを持ってくる輸送機も頻繁に離発着している。そして、ノルドランドの航空会社によるチャーター機もまた、ここのところよくやって来ていた。

 

 シリウス・ノルド航空のB747-400Fが甲高い音を立てて滑走路にズシンと着陸した。長い滑走路の途中で一時停止し、すぐにやって来たフォローミーカーのハマーについて誘導路を移動し、貨物ターミナルを目指す。貨物ターミナルには、既に空軍のC-130T輸送機が1機、駐機していた。

 

 1996年 5月15日 1044時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地

 

 4機のF-4EファントムⅡが轟音を立てて離陸していった。燃料タンクを3つ、武装はAIM-9MサイドワインダーとAIM-7Fスパローをそれぞれ4発ずつという重武装だ。機体には、ノルドランド空軍の所属であることを表す国籍マークが描かれている。

 この4機は、定時の空中哨戒に向かったところだ。ノルドランド各航空基地では、毎日、こうして戦闘機がリレー方式で離陸し、ウェルヴァキア国境地帯付近を中心に警戒飛行が行われている。

 

 基地の各所ではホークやパトリオットといった地対空ミサイルのランチャーが空を向き、基地上空にまで到達してきた敵を迎え撃つ用意をしているが、これらを使うような事態という事は、即ち、基地が壊滅的な打撃を受けているような状況とも言える。

 

 サイファーは相変わらず、一人自分のSu-35BMが収められた、頑丈な強化シェルターの中にいた。作戦が無い時はいつもここにいる。今、自分のフランカーは燃料が抜かれ、武装も外されている。そもそも、今日は、サイファーと相棒のジャガーは非番なのだ。

 

 サイファーは次の作戦が決まらないか、と考えていた。戦闘機に乗って、敵を撃ち落とす。これこそが、サイファーにとっての生きがいの全てだ。

 

 サイファーはシェルターの外に出て、空を見上げた。鮮やかな水色に染まった空には、所々、綿菓子のような小さな雲が点在しているのがわかる。多くの人々にとっての空は、ころころと季節によって表情を変えながらも、普段は穏やかな場所である。

 ところが、"円卓の鬼神"にとって、空は獲物を狩り、生きる糧を得るための戦場だ。一見、美しい青に見えるキャンバスは、人間が流す血と、飛行機が流す油であっという間に赤黒く染まってしまう。サイファーはそんな空しか知らない。

 

 だが、それで十分だ。ひたすら敵を撃ち落とし、報酬と血に染まった道を行くのが自分という人間だ。これこそが、この世界で生き残るためにできるたった一つのこと。それができなければ死ぬだけだ。

 

 再び轟音が鳴り響いた。離陸したのはSu-30MKとF-16C。どちらも空対空ミサイルで武装している。傭兵とノルドランド空軍パイロットのコンビだ。地上のレーダーサイトだけでは"敵機"の捕捉に間に合わないことも多々あるため、ノルドランド空軍はこうして定期的に決まった空域に戦闘機を差し向けて空中哨戒を行わせている。

 これまでのところ、空軍のIl-20"クート"電子情報偵察機が防空識別圏に侵入してきたり、海軍の情報収集艦がノルドランド南部の接続水域に出没する以外、ウェルヴァキア軍の目立つ動きは無い。とはいうものの、いつ、ウェルヴァキア軍による攻撃が再び行われてもおかしくない状況なのは確かだ。

 

 サイファーはタラップに足をかけ、自分のフランカーの射出座席に座り、両足をフットベダルに置き、左手をスロットルレバーに、右手を操縦桿にかけ目を閉じ、うつむき加減の姿勢になった。空中戦のイメージトレーニングをするときは、いつもこうしている。

 

 "円卓の鬼神"は、誰にも邪魔されることなく、たっぷり数時間もの間、自分の脳内に描いた空の戦場のなかに入り浸り続けた。

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