ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

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鉛色の雲の戦場

 1996年 5月21日 1047時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯上空

 

 先ほどまでは薄っすら雲がかかる程度だったが、急速に雲の塊が空を覆い始めた。そんな中、戦闘機が翼の端から白い水蒸気の条を引きながら敵機を追い、ミサイルや機関砲を放つ。

 

 F-16AMから短く、断続的に放たれた曳光弾がMiG-29Sの水平尾翼とエンジンノズルの一部を吹き飛ばした。フルクラムは機体を裏返しの姿勢にすると、機首を下げて高度を下げつつ反転する。インメルマンターンという機動だ。僚機のフルクラムも同じ動きをする。F-16AMとその後ろから追随している2番機のF/A-18Dも全く同じ動きをしながら敵機の追跡を続けた。

 やがて、F-16AMは再度、ミグに曳光弾を叩き込んだ。今度はフルクラムの左主翼に幾つもの弾痕が刻まれ、そこから凄まじい勢いで真っ白な霧のようなジェット燃料が漏れ出し始めた。このミグは、あっという間に燃料切れになるだろう。F-16のパイロットの予想通り、フルクラムは高度を上げながら戦闘空域から離脱していった。

 

 ウェルヴァキア軍は慌てて9K33"ゲッコー"や2K22"ツングースカ"、9K37"ブーク"といった移動式の地対空兵器を国境付近に移動させてきた。しかしながら、それらのミサイルは上空を飛ぶ戦闘機に発見され、AGM-154JSOWやタウルスKEPD350といったスタンドオフ兵器の餌食となる。

 とはいうものの、地対空ミサイルユニットはRQ-2パイオニア無人偵察機を見つけ、ミサイルを放って撃墜していった。

 当然ながら、無人機は囮だった。F-16Cに搭載されたHTSポッドがセミアクティブレーダー誘導式ミサイルのFCSレーダーの発信源を受信した。その電波を捉えたF-16CはAGM-88D高速対レーダーミサイルを放った。隊レーダーミサイルは真っすぐ電波の発信源に向かって飛び、地対空ミサイルのFCSレーダーを破壊する。

 

『ミサイルアラート!ブレイク!』

 

 ウェルヴァキア防空軍の地対空ミサイルが放たれた。戦闘機がECMを作動させ、チャフをばら撒きながら回避行動を取る。

 

『くそっ!振り切れん!』

 

 凄まじい勢いで飛ぶミサイルが、ノルドランド空軍のF-4Eを捉えた。ミサイルはファントムに追いつくと胴体の真下で近接信管を作動させた。無数の金属片が戦闘機に食い込み、ズタズタに引き裂く。

 

『プーマ2、やられた!脱出する!』

 

 ファントムの僚機をつとめていた、傭兵のF-111Cがミサイルを食らった。この戦闘攻撃機は、まだ機体に大量の爆弾を抱えた状態だった。

 

『畜生!先遣隊が対空ミサイルを掃除しているんじゃなかったのかよ!一体、何をしていやがった!』

 

『AWACSガーディアンより作戦中の各機へ。どうやら、ウェルヴァキアはこのエリアに新しく地対空兵器を移動させてきたらしい。見つけ次第排除せよ』

 

『畜生!』

 

『長射程の兵器を持っている部隊は、地対空ミサイルを優先して排除せよ』

 

『ミサイルアラート!ブレイク!』

 

『チャフ!フレア!』

 

 1996年 5月21日 1051時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯

 

 重々しい音を立てながら、巨大な車両に載せられ、束ねられた6つの筒が直方体直立する。それと全く同じものが8両、ある程度の間隔をあけて設置されている。

 

 8両は等間隔に、ちょうど菱形陣地になるように並べられ、やや距離を置いた場所には、形状が異なる、くるくると回る対空レーダーのアンテナが幾つか点在している。

 

 このミサイルは、アスター30SAMP/Tと呼ばれており、防空兵器としてはかなり新しい。更に、短距離防空を担う、アスター15を搭載したランチャーもある。

 

 アスターはエルジア製のミサイルだ。性能は折り紙付きで、ファートやレクタ、ゲベートの陸軍や空軍にも採用されている。

 

「敵機確認!データ入力完了!」

 

「方位、013!高度8000!」

 

「レーダーロック!発射!」

 

 長方形のランチャーの下から大量の煙が吹き出し、即座にミサイルが打ち上げられた。複数のミサイルが連続して上空の敵機へと向かう。

 

 1996年 5月21日 1052時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯上空

 

『ミサイルアラート!ブレイク!ブレイク!』

 

 ウェルヴァキア側から再び地対空ミサイルが続けざまに飛んできた。戦闘機がチャフとフレアを撒き、ECMを作動させる。

 

 F-16CやSu-30MK、タイフーンFGR.4といった、比較的新しい世代の機体は新型の電子防御装置を搭載していたため、ミサイルを避けることに成功した。しかし、F-4EファントムⅡやF-5EタイガーⅡ、ミラージュⅢ、MiG-21といった旧世代機の貧弱な電子戦装置は新鋭のミサイルのシーカーを騙しきることができず、ミサイルに捕まってしまった。

 

『ハマーヘッド4被弾!脱出する!』

 

『畜生!振り切れない!』

 

『くそっ!今のは危なかった!』

 

 地上からZSU-23から放たれる曳光弾の列が飛び、ミサイルが煙を引きながら上昇する。9K37から放たれたものだ。そのミサイルは飛行中のF-5Eタイガーを見つけ、真っすぐ追いかける。

 

 当のF-5Eからチャフとフレアがばら撒かれる。機体を裏返しにして、機首を下に向け、数千フィート程急降下した後に機首を水平に戻す。インメルマンターンという機動だ。アスター30はその機動と囮に騙され、明後日の方向に飛び去ってから弾頭を炸裂させる。

 

『こちらマンティス隊、対空兵器を排除する』

 

 ノルドランド空軍のF-4EファントムⅡからAGM-12ブルパップが、傭兵部隊のF/A-18CホーネットからAGM-62ウォールアイが放たれた。2種類のミサイルが地対空ミサイル陣地に向かう。

 

 再び9K33が数発、放たれた。そのうちの1発に傭兵パイロットが乗るミラージュF-1Cが捕まり、炸裂した時に飛び散った金属の破片を食らう。

 

『バラクーダ4脱出!』

 

 一方で、ウェルヴァキア陸軍の地対空ミサイルのランチャーにブルパップやウォールアイが命中し、爆発を起こす。それに巻き込まれたウェルヴァキア軍兵士は痛みを感じる間もなく黒焦げになったミンチ肉となった。

 

 1996年 5月21日 1056時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯

 

「くそっ!ECMが強すぎる!」

 

 SA-8"ゲッコー"こと9K33地対空ミサイルシステムの火器管制レーダーの画面を見ていたウェルヴァキア軍兵士が叫んだ。旧式のレーダーは強烈なECMの影響を受け、画面にはグリッドや砂嵐が映り、まともに敵機を捉えることができない。

 

「ECCM作動!」

 

「ダメだ!砂嵐が晴れない!」

 

 やがて、戦闘機の轟音が聞こえてきた。それは、どんどん大きくなっていき、やがて、上空に傭兵が乗るF-1とノルドランド空軍兵が乗るF-16AMが上空に現れた。

 

「退避!退避!」

 

 ウェルバキア陸軍兵たちはその場から全速力で走って逃げようとした。だが、敵機が投下したCBU-87クラスター爆弾の外殻がすぐ頭上で割れ、無数の小さな子爆弾がシャワーのように注ぐ。兵士たちは全員、小さな爆弾の炸裂に巻き込まれ、絶命した。

 

 1996年 5月21日 1058時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯上空

 

『AWACSガーディアンより作戦中の部隊へ。敵の戦闘機の増援を確認した。攻撃部隊は間もなくターゲットへ到達する。彼らをやらせるな』

 

 多数の爆弾や空対地ミサイルを抱えた傭兵部隊のA-4KスカイホークやA-6Eイントルーダー、ジャギュアGR.3などが高度を下げ、爆撃体勢に入った。だが、E-3BのレーダーにはMiG-29SやMiG-23ML、MiG-21bisといったウェルヴァキア空軍の迎撃機の姿を捉えている。

 

 傭兵パイロットたちは舌なめずりをした。待ちに待った獲物がやって来た。さて、奴らを撃墜し、報酬を得るとしよう。

 

 サイファーはレーダーを長距離探知モードに切り替えた。多数の敵機を示す光点がこちらへと向かってくる。自分とジャガーが今回、任されたのは敵の迎撃機の排除だ。やがて、ターゲットがR77の射程内に入ってくる。サイファーは先頭の1機を選択し、R77のシーカーが敵機をしっかりと捉えたことを知らせる電子音が鳴る。"円卓の鬼神"が操縦桿のミサイル発射ボタンを押し込むと、左翼のランチャーからR77が飛び出して、空を覆い尽くす雪雲の中に消えて見えなくなった。

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