ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 5月21日 1023時 ウェルヴァキア上空
『AWACSガーディアンより交戦中の戦闘機へ。敵機接近。全部で8機、ミグのようだ』
ウェルヴァキア軍の補給廠はすっかり破壊しつくされ、施設としての機能を完全に失っている様子だった。燃料タンクが燃え、油ぎった真っ黒な煙が空に向かって幾つも伸びている。再び爆発が起き、黒煙が空のキャンバスに新たな色を描き加える。
傭兵たちはAWACSのオペレーターであるピーター・ダールの声に酸素マスクのベルトを締め直した。このターゲットは殆ど破壊し尽くされてしまっているが、ミグが襲い掛かってくるようなら話は別だ。
戦闘機乗りたちは、燃料と兵装の残りを確認した。一部のパイロットは空戦を行えるだけの燃料と兵装が残っていないと判断し、帰投することを選んだ。また、対地攻撃に参加していたSu-25SM、A-6E、A-10Aといった攻撃機は、そもそも空戦には不向きであるため、その場を離脱することにする。一方で、ミサイルと燃料を十分残した戦闘機は旋回を始め、敵機を迎え撃つ準備に入った。
『ガーディアンより交戦中の戦闘機へ。更に多数の敵機をレーダー上で確認した。後続機のようだ、注意せよ』
1996年 5月21日 1024時 ウェルヴァキア上空
MiG-29SMに乗ったウェルヴァキア空軍のパイロットは兵装を確認した。このフルクラムはレーダーが一新され、R-27ER1中射程セミアクティブレーダー誘導ミサイルの他、R-77アクティブレーダー誘導ミサイルも運用することができる。
このフルクラムの近代化改修を請け負ったのは、他でもないベルカ人たちだ。ベルカ人は資金さえあれば、ウェルヴァキア空軍に対して機体の調達でも近代化改修でも、何でも提供してくれている。ウェルヴァキアは、そのカネを密かに国産のアヘンを闇の薬物市場に適切な価格と量で流通させることで得ている。
当然のことながら、このようなことが明るみになれば、ウェルヴァキアに対する国際的バッシングは避けられない。
しかしながら、経済的に極めて行き詰ったウェルヴァキアには、なりふり構っている余裕などあるわけがなかった。10年分の国家予算を優に超える多額の負債を抱え、更には今、後ろ盾となっているベルカ人に対しても見返りを提供する必要がある。
一応、ベルカ人に対しては前払いとしてウェルヴァキア領内にある数少ない鉱山の権利を渡しておいた。当然のことながら、このことはラズヴァン・メリンテと数少ない指導部の人間しか知らない事だ。
『ブルサク1よりブルサク隊各機へ。敵機確認。方位、071、高度12000、距離110マイル』
今日、搭載している兵装は新型のミサイルだ。何でも、こいつは今まで使ってきたR-27ER1と違い、ロックオンしてしまえば敵機の方を向いている必要は無いようだ。
このパイロットは、空軍がどうやってこの高性能のミサイルを調達してきたなど興味は無かった。取り敢えず、高性能な武器が手に入った。それは、敵を仕留められる可能性、更には、自分が生きて帰ることができる可能性が高くなるということだ。
1996年 5月21日 1027時 ウェルヴァキア上空
『AWACSガーディアンより迎撃に向かった部隊へ。間もなく交戦距離に入る』
迎撃に向かった部隊の先鋒を務めるのは、ノルドランド空軍のF-16AMだ。初期型のF-16Aの改良型で、オーシアの手により、レーダーがAN/APG-66からAPG-68(v)3に換装されており、AIM-120Bアクティブレーダー誘導式中射程空対空ミサイルの運用能力が追加されている。
「クローケ1了解」
『クローケ2、ミサイル発射準備完了』
勿論、この敵機に目を付けたのはノルドランド空軍兵たちだけでは無い。寧ろ、獲物に目が無い傭兵たちの方が目ざとくこの新たな獲物に向かう。
「マングース1よりマングース2へ。燃料と兵装の残り状況を知らせろ」
『燃料は十分。あと4時間以上は交戦できそうです。AMRAAM残り4発、サイドワインダー残り2発』
「なら十分だな。奴等を仕留める」
付き合わされるこっちの身にもなって欲しい。ジャガーはそう思ったものの、円卓の鬼神の戦いぶりは、それは鮮やかで目を見張るものがある。自分は、僚機という特等席でそれを見ることができるのだ。
1996年 5月21日 1029時 ウェルヴァキア上空
カニン1というコールサインのノルドランド空軍のF-16Cのパイロットはレーダーで敵機の機影を捉えた。僚機は、同じノルドランド空軍のF-16Cが1機と、傭兵部隊のF-14Aトムキャットが2機という組み合わせだ。
このF-14Aは、珍しくAIM-54フェニックスを搭載せず、AIM-7Mスパローを6発、機体に吊り下げている。その理由として、AIM-54は射程が長く、極めて破壊力があるのだが、その分値段もかなり高価なのだという。よって、この傭兵パイロットは状況に応じてスパローとフェニックスを使い分けていた。
傭兵パイロットも決して楽では無いのだな、とカニン1はそのような事を考えつつ、敵機に集中した。間もなく敵を射程内に捉える。
当然ながら、敵のミグもこちらをR-27ERの射程内に捕捉してくるはずだ。とはいえ、そのミサイルも自分のスパローと同じようにセミアクティブレーダー誘導だ。撃てば、後は我慢比べとなる。そして、どっちのミサイルが先にターゲットに到達するか、それで勝負が決まるのだ。
「ブルサク1、ターゲット捕捉・・・・Fox1!」
『ブルサク2、Fox1!』
4機のミグはR77をそれぞれ1発ずつ放った。それとほぼ同時に、敵側もミサイルを発射する。フルクラムは、ミサイル自身のアクティブレーダーが敵機を捕捉したことを確認してすぐに旋回し、回避行動を取った。
1996年 5月21日 1029時 ウェルヴァキア上空
『何だ、こいつら?どうして旋回して・・・・・』
その直後、F-16のコックピットの中で激しい電子音が響き始めた。ミサイルアラートだ。
『くそっ!やばい!』
F-16CとF-14Aは一斉に回避行動を取った。散開し、機体を裏側にロールしてから急降下。そして機首を徐々に上げていく。スプリットSという機動だ。その間、素早くECMを作動させ、ミサイルに対する目くらましを仕掛ける事も怠らない。
ところが、ミサイルはどんどんこちらに迫ってくる。耳障りな警報音が鳴り響き、透明なキャノピーに反射して、コックピットの中を満たす。
『チャフ!フレア!』
F-16Cはチャフとフレアを撒き、ミサイルがなんとかこの囮に騙されてくれるよう祈りながら、今度は操縦桿を引いてスロットルレバーを押し込み、機体をほぼ垂直の状態で上昇させる。
機内では、ミサイルアラートの他、オーバーGの警報、更には失速を知らせる機械的な音声まで流れ始めた。
『畜生!』
やがて、F-16Cにミサイルが追いつき、弾頭を炸裂させた。F110エンジンが鋭い破片に切り裂かれ、タービンブレードやコンプレッサーがボロボロになる。推力を完全に失った戦闘機はあっという間に地面に叩きつけられてバラバラになった。一方、パイロットの方は射出座席にトラブルがあったのか、その機体と運命を共にする羽目に遭ってしまった。
1996年 5月21日 1030時 ウェルヴァキア上空
ノルドランド空軍機が1機、レーダー画面上から消えた。その代わりみたいにウェルヴァキア空軍機が8機、悠然と飛んでいるのがレーダー画面上に表示される。
「AWACSガーディアンより作戦中の各機へ!さっきの8機の敵機に1機・・・・・いや、3機がやられた!奴らを排除し、空域を確保せよ!」