ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

84 / 84
返り討ち

 1996年 5月21日 1031時 ウェルヴァキア上空

 

 ガーディアンからの命令でサイファーは新たに現れた獲物を探した。レーダーを長距離探索モードに切り替えると、8機の戦闘機がこちらに向かって飛んできているのがわかる。IFFでの応答が無い。

 

 サイファーはこの編隊を、最優先目標かつ最大の脅威とみなすことにした。あれだけの短時間で敵機を撃墜できるパイロットなど、そういるわけでは無いからだ。

 できるだけ接近戦は避け、中射程ミサイルで攻撃した方が良さそうだ。レーダー画面に注意を向けると、4機の味方編隊が、この敵の新手と接敵するところだった。

 

「マングース1、敵機を確認した。迎撃する」

 

『2』

 

 サイファーは多機能ディスプレイの表示を兵装選択画面に切り替え、R77を選んだ。ミサイルは十分残しているため、引き続き敵を狩り続けることができる。

 

 他の傭兵パイロット連中も、新たに現れた敵を獲物とみなし、わらわらと群がり始めた。F-5EタイガーⅡやSu-33フランカー、ユーロファイターなどが敵に向かう。

 

 だが、先に矢を放ったのはウェルヴァキア空軍の方だった。R77やR27ETが傭兵・ノルドランド空軍連合部隊に向かって飛んで来る。

 

『ミサイルアラート!避けろ!』

 

『チャフ!フレア!』

 

 新しい防御システムを搭載しているF-16AMやJAS-39Cなどは、このアクティブレーダーミサイルを何とか回避することに成功していた。しかしながら、旧式のF-4EファントムⅡやF-5EタイガーⅡは、このような新型のミサイルに対抗可能な電子戦装置が無かったため、炸裂したミサイルの弾頭によって巻き散らされた無数の金属片を食らい、火の玉と化して落下していく。

 

『クーガー1、Fox1!』

 

 ノルドランド空軍のJAS-39Cがミーティアを放った。この新型ミサイルはグリペンにしか搭載できないが、F-16AM及びF-16Cに搭載するAMRAAMに比べて射程が長く、誘導性能もそれほど変わらない。ましてや、F-4Eファントムに搭載されるAIM-7Fスパローと比べたら、雲泥の差の性能だ。

 ミーティア空対空ミサイルは、ランチャーレールから飛び出すと、一気にマッハ4にまで加速した。射程は100km以上で、対ECM性能もずば抜けている。ミサイルはあっという間にミグに追い付き、弾頭を炸裂させた。

 

 1996年 5月21日 1034時 ウェルヴァキア上空

 

 ブルサク1は周囲を見回した。ノルドランド空軍機を何機か撃ち落とすことはできたが、こちらにも少なからぬ損害が出た。フルクラムやフロッガー、フィッシュベッドがミサイルを食らって落下してく。

 

 このパイロットは、傭兵連中を嫌っていたが、過小評価はしていなかった。連中はカネを稼ぐために各地の戦場を渡り歩き、そして生き残ってきた奴らだ。そのような連中が生半可な空戦の腕前である訳がない。

 

『ブルサク1よりブルサク隊各機へ。無理に傭兵連中を相手にするな。ノルドランド空軍のファントムやグリペンだけに集中しろ』

 

 ブルサク隊の2機が後方からブルサク1を追い越す。こちらの残りは6機。他にもウェルヴァキア空軍の戦闘機は残っているし、こちらが圧倒的に不利という訳では無い。だが、こちらの戦力も少なからず疲弊しており、燃料や弾薬を消耗したMiG-21やMiG-23が基地に向かって帰っていくのが確認できる。

 

『ブルサク4、Fox1!』

 

 4番機のミグがR77を放った。新型のミサイルはあっさりと傭兵部隊のトーネードF.3に追い付き、弾頭を炸裂させて撃墜した。

 

『よくやったブルサク4、戻ったらウォッカを奢ってやる!』

 

 ブルサク1は次の獲物を捕らえた。大ぶりな機体と機首の特徴的なカナード翼から、それはSu-33フランカーDだということがわかる。ノルドランドは、この比較的新しいユークトバニア製の艦載戦闘機を持っていないので、それは傭兵部隊のものだ。このフランカーの僚機は、ノルドランド空軍のF-4EファントムⅡが努めているようだ。

 

『ブルサク1より2へ、次の獲物だ。目の前のフランカーをやる。ブルサク3、ブルサク4。低空から仕掛けろ。4機で囲んで仕留める』

 

『3、ラジャー』

 

『4了解』

 

 4機のMiG-29SMTは、それぞれ2機ずつの編隊に分かれ、高空と低空に陣取った。先に上からブルサク1とブルサク2が仕掛け、敵機が低空に逃れたところをブルサク3、ブルサク4が仕留めるという戦術を取った。案の定、ブルサク1とブルサク2がロックオンした獲物はスライスバックという機動で低空に向かう。

 

『ブルサク3、ブルサク4。やれ』

 

 2機のMiG-29SMTがフランカーとファントムの正面から襲い掛かった。Gsh30機関砲から放たれる曳光弾が両方の戦闘機を切り裂き、撃墜する。ブルサク1がちらりと撃墜された敵機を見ると、フランカーからは1つ、ファントムから2つのパラシュートが飛び出るのが見えた。運の良い奴らだ。勿論、パラシュートで空中を漂うパイロットに追い打ちを仕掛けるのは無意味だ。それよりも、別の敵機に集中することを優先せねばならない。

 

 次に目を付けたのは、2機のF-16ファイティング・ファルコンと2機のF-14トムキャットからなる編隊だ。ブルサク隊は再度、高低差を付けた2機ずつの編隊でターゲットの後ろから忍び寄る。

 

『AWACSガーディアンよりレイヴン隊!5時の方向から敵機!君らを狙っている!』

 

『畜生!』

 

 ノルドランド空軍・傭兵の混成から成る4機が編隊を解き、敵の攻撃を避けるべく低空に逃げる。勿論、ブルサク隊はこの動きにしっかり対応した。

 

 高い高度にいる4機のフルクラムが、スプリットの機動でレイヴン隊を追尾する。幸い、これらのミグはR77を温存していた。そのため、離れたところからこのF-16とF-14を安全に狩ることができる。

 

『ブルサク1よりブルサク隊全機へ。準備ができた者から矢を放て』

 

 やがて、フルクラムが1機、また1機と翼の下から下げたR77を放つ。ブルサク隊に背を向けていたF-14とF-16は、1機、また1機と狩られていった。

 

 1996年 5月21日 1034時 ウェルヴァキア上空

 

「マングース1よりガーディアンへ。最適な迎撃コースを計算してくれ。後はそちらの指示に従う」

 

『マングース1、少し待て・・・・・・』

 

 ややあって、ガーディアンのオペレーターであるピーター・ダールから返事が来た。

 

『ガーディアンよりマングース隊へ。新たな迎撃コースを算出した。データリンクでそちらのレーダー画面に出す。必要に応じて、こちらでコースを修正する』

 

「敵はこっちで片づけるから、誘導は任せる」

 

『マングース2、援護します』

 

 サイファーはレーダー画面を見て迎撃コースを確認した。こちらのレーダーを使わないため、敵の戦闘機に気づかれる危険性は低い。

 この場合、R77を使えば、即座に敵に感づかれるだろう。ギリギリまで敵に近づいて、R73か機関砲で最初の攻撃を仕掛けるのが良さそうだ。

 サイファーはSu-35のスロットルを握り、前方に力をかけ、エンジン推力がミリタリーパワーになったところで出力を安定させた。燃料計にちらりと眼をやる。敵の数が多いため、アフターバーナーをやたらと焚いて、燃料を無駄使いするのは避けるべきだ。

 キャノピー越しの周囲の状況とレーダー画面、両方に目をやりつつ、AWACSからの新たな指示が来ないかどうか、無線にも集中力を割く。また、敵機が後ろから接近していないとも限らない。勿論、後ろにからついてきているジャガーが警戒しているだろうが、常にワンマンエアフォースで通してきたサイファーにとっては、全てを僚機任せにしてしまうというのはあり得ないことだった。

 

 ジャガーはサイファーに追随しつつ、常に自機から見て左右後方に注意を払い続けた。2番機の役目は1番機を敵から撃墜されないように援護すること。そのため、1番機を脅かす敵機は、確実に排除せねばならない。

 サイファーのフランカーは鋭い機動を繰り返し、全く目印の無い空を何一つ迷ったり躊躇したりするそぶりを見せずに敵機へと向かって行く。

 

 やがて、前方に小さな機影が見えてきた。サイファーはそこでようやくレーダーを作動させ、IFFの質問信号を送信する。反応が無いため、攻撃に移ることとした。

 

 サイファーはR73をフォックス2の号令と共に2発、連続で発射した。小さなミサイルは敵機のすぐ近くで炸裂し、あっさりとターゲットを破壊した。

 

 1996年 5月21日 1034時 ウェルヴァキア上空

 

 ブルサク隊の編隊長は驚愕した。何の前触れも無く、自分の部隊の機体が2機、撃墜された。

 

「くそっ、何者だ!?ブルサク2!ブルサク3!」

 

『わかりません!クソッ!ミサイルアラート!』

 

 更に被撃墜は続き、ブルサク隊の戦闘機はいつの間にか半数にまで減っている。あいつか。ブルサク1は周囲を見回し、1機の戦闘機を見つけた。Su-35BMフランカー。

 まさか、この1機にこの優秀な部下たちは負けたのか?そう考えた途端、ブルサク1の中に激しい怒りが立ち込めてきた。ブルサク1はアフターバーナーの出力を最大限にまで上げ、そのフランカーとグリペンに向かう。

 

『ブルサク1、前に出すぎです!』

 

 だが、僚機の言葉はもはやブルサク1には届いていなかった。このパイロットは、今まで一度も僚機を失ったことが無かった。だが、部下を失ってしまったという事実が、この飛行隊長の冷静さを完全に奪ってしまっていた。

 ブルサク1はフランカーにどんどん接近していった。HUDに大きな機影が映る。こいつだけは許さん。こいつはミサイルで撃つよりも、機関砲で攻撃し、その機体がバラバラになってパイロットが落下していく様子を見届けるなければならない。

 ブルサク1はスロットルレバーの引き金を1度だけ引いた。HUDにレティクルが表示され、機関砲のピパーが映る。

 もう少しで奴を仕留められる。そうブルサク1が考えた途端、不意に獲物がロールしながら高度を落としてくのが見えた。

 

 サイファーは、敵機が自分を機関砲で仕留めようとしているのを既に読んでいた。そこで、どのタイミングで射撃をして来るのかを頭の中でシミュレートし、自分がここだ、という時に減速しつつ機体の高度を下げ、さらにロール運動をした。

 後ろのミグは、この時、非常にまずい対応を取った。サイファーの動きに合わせて機体を傾け、機首をしたに向けたのだ。だが、このほんのコンマ数秒前にはサイファーのフランカーはブルサク1のすぐ後ろの位置に入り、30㎜機関砲を放った。

 

 1996年 5月21日 1035時 ウェルヴァキア上空

 

 複数の機関砲弾を左エンジンの排気口とテールブームに食らい、フルクラムはコントロール不能になった。エンジンは完全に停止してしまい、スピンしながら落下していく。コックピットには幾つかの警告表示が点滅し、この戦闘機がもはやコントロール不能になってしまったことを示していた。

 

「くそっ、何なんだあいつは!?」

 

 ブルサク1はそうつぶやきつつ、射出ハンドルを掴み、力いっぱい引っ張った。キャノピーが後方に吹き飛び、強烈な風が吹き込んできたと思った直後に射出座席のロケットモーターが作動。パイロットを虚空へと撃ち出す。パラシュートは正常に開き、ブルサク1は地上に到達するまでの間、ゆっくりとした空中散歩を楽しむこととなる。

 

 周囲を見回してみると、味方の戦闘機が基地の方向へと引き返して行くの見えた。敵機は暫くこの空域に留まっていたようだが、1機、また1機と北東の方へと向かって行く。ここの戦いは、どうやらウェルヴァキア軍の敗北のようだ。

 畜生。ここまで負けが続くと、もうこの空軍は持たないのではないか。だが、それを判断するのは政治家の仕事だ。ブルサク1はすぐにそのようなことを考えるのを捨てた。このまま安全に地上に降りられますように。今、一番大事なことはそれなのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。