私の妹が監察官なわけがない 作:たぷたぷ脂肪太郎
深町親子と瀬川一家のアメリカ移住。これはリスカーの大手柄であった。ユニットGは解放され原型ではないが、結果的にリスカーはユニットを一つ確保した事になる。深町晶は〝治療〟と称する実験に協力的であり、クロノス本部技術陣は初めて無傷のコントロール・メタルの解析が出来て大喜びであった。
Dr.ハミルカル・バルカスや獣神将シン。バルカス直属の
リスカーは深町一家を本部に送り届け、諸々の手続きを終えると彼らへの挨拶もそこそこに日本へとんぼ返りをした。彼にはユニット確保の他にも重大任務があったからだ。クロノス一の監察官と言われるのは伊達ではなく、リスカーの忙しさは生半可ではない。
重大任務名とは即ち『クロノス日本支部、殲滅作戦』だ。
その発動が間もなくであった。
リスカーのとんぼ返りにはアリゾナ本部の面々も同道する。先の話題に出た、獣神将シン。バルカス直属超獣化兵五人衆。その他、選抜された獣化兵が300人。これがアメリカからの増援軍。
そしてアフリカ方面支部からラグナク・ド・クルメグニク。
インド方面からはカブラール・ハーン。
オーストラリアからジャービル・ブン・ハイヤーン。
南米のトゥアハ・デ・ガレノス。
ヨーロッパのエドワード・カールレオン。
以上が各自手勢200名程を率いて増援として駆けつける手筈となっており、そこに現地の感があるプルクシュタール率いる日本
日本支部粛清を音頭をとって企図したのは怪物頭脳ハミルカル・バルカス。彼の〝粛清〟への本気度が伺える抜かり無い布陣であるのは一目瞭然。本部内でブラックホールを発生させるという大反乱をやらかしたギュオーと、それと同程度の反乱テロを画策していた山村教授…その両反乱分子への怒りは凄まじいのがよく分かる。
日本支部に潜むはギュオー、山村、村上、そしてガイバーⅢ。バルカスはその四名を決して許さないだろう。身内には理解と慈悲を示す義理堅い老爺だが、敵となると誰よりも…ある意味でギュオーよりも冷酷で悪辣なのがバルカスだ。アルカンフェルへの鉄壁の忠誠心故に、その障害となるモノへの敵意と害意は凄まじいのだった。
◆
マックス製薬会社本社ビル。日本でも有数の製薬会社であり、同業界で国内シェアの30%を占める大企業だ。高度経済成長期に頭角を現し、前社長の弟が後を継いでからは凄まじい速さで躍進を続け、今では国外展開まで波に乗せている。現社長、巻島玄蔵には少々、違法すれすれの吸収合併や先物取引等を繰り返す剛腕経営が過ぎると噂が絶えないが、総評としてはヤリ手のカリスマ社長で、マスメディアへの露出や自著書籍の売上もあって一般市民の好感度は上々だ。
その本社ビル警備の男達が、警備室で首を傾げた。
「あれ?第3変電室のカメラが映ってないな」
「ん?…本当だな。って、おい。こっちのカメラも画像が…。参ったな。一緒に買い換えなきゃか」
「待ってくれ。これは…こっちのカメラもだ」
十数個の小モニターに映る監視映像が次々に砂嵐になり、そして黒一色になってシャットダウンしていく。いい加減、平和ボケの日本の雰囲気に浸りきった警備員達も異変に気付いた。
「これは…すぐに上に報告だ!」
通信機を手にとったが、それは一向に上層部に繋がらない。緊急時は直通で繋がる筈の特別回線が、全く機能しない。警備員は舌打ちをすると、直様走り出して古式ゆかしい伝令での通信という最終手段を敢行する。
警備員が廊下を走り出したその時、既に黒塗りの大型特殊ヘリが本社ビル上空に数機たむろしていた。幹部級のみが搭乗するステルス製の特別製であり、搭乗者の一人である獣神将・シンがそこから広域電波障害を起こしていたのだ。シン・ルベオ・アムニカルスの能力は、全身に強力なエネルギー器官たる棘を展開し、それを応用しての広域バリヤー展開や超砲撃であるが、棘を応用すれば微弱なエネルギー放射を広範囲にタレ流してのエネルギー物質の伝搬の妨害も可能だった。また、当然ながらその他の物理的な連絡手段や交通手段もクロノスの特殊部隊によって妨害されている。マックス製薬本社ビルは、今、陸の孤島となっているのだ。
シンが周囲数kmのエネルギーの流れを己のエネルギー流で乱し、掌握したのを感じ取って同乗者の顔を見回してから頷く。
「クロノス日本支部は絶海の孤島も同じ。陸を固めたカブラールからも人の出入りは無しとの報告だ」
同乗者、リスカーは既に殖装し、ガイバーⅡとなった姿のままにシンへと頷き返す。
「もうすぐ時間ですな。では…パーティーに遅れてはいけませんからね。行ってまいりますよ、ボス」
ガイバーとなったマスク姿の下では、リスカーはきっとほくそ笑んでいるだろうとシンは見抜いて、同じように笑って「行って来い」と一言だけ返してやる。次の瞬間、ガイバーⅡはヘリから飛び出し、重力制御球を輝かけながら空を駆ける。
「リスカー殿!」
「ゼクトール、来たな」
ガイバーⅡに続くようにして、他のヘリから飛び出したのはカブトムシのような屈強なゾアノイド。名をゼクトールといい、超獣化兵5人衆のリーダーだ。その地位に相応しく、極めて強力で優秀な戦闘員であり、飛行能力と砲撃能力を買われリスカー共々開戦の狼煙役に抜擢されている。
「タイミングは私に合わせて貰うぞ」
「お任せを。ハイパーゾアノイドの力、お見せします!」
ガイバーⅡとゼクトールは、互いに急上昇していく。雲を突き抜け、ゼクトールが太陽光を吸収できる成層圏近くまで一気に飛び昇る。
「メガスマッシャー充填…!」
「太陽光収束…!ブラスター・テンペスト展開っ!」
ガイバーⅡは胸部に粒子をかき集め、ゼクトールは背甲と翅を展開し、そこから太陽光と周囲の熱を貪欲に食らう。2人に莫大なエネルギーが急速に集う。
「目標は眼下…クロノス日本支部ビル…いいな、ゼクトール!」
「充填完了です、リスカー殿。いつでもどうぞ」
「…発射!」
「おう!」
ガイバーⅡの胸部から光の粒子が。ゼクトールの腹部から超熱戦がそれぞれ放たれ、二筋の光条はやがて一つに溶けて、眼下の地上へ極大の光の矢となって向かっていった。
「おお!この出力…見事だな」
シンも、そして他の獣神将から見てもその極大ビームは恐ろしいものだった。この一撃で作戦の全てが完了しても不思議には思わない。それぐらいに重々しい開幕の狼煙であり、情け容赦無い殲滅戦では重畳な滑り出しである。
クロノス日本支部の職員達も、夜の空が突然、昼のように明るくなったのを感じ、異常を察知するも、次の瞬間には皆灰燼と帰してしまう。無論、中には裏切りに加担していない者もいようが、裏切りの糸がどこまで侵食しているか分かず、また可及的速やかな解決も求められる今、そのような者達が巻き込まれるのは
光の矢はビルを唐竹割りにし、大地を穿って大爆発を起こす。
轟く音。広がる閃光。爆炎。衝撃波が広がり、周囲の木々となぎ倒しかけるも、無制限に広がるかと思われた爆発と衝撃は周囲の獣神将達のバリヤーフィールドによって遮られる。そして遮られ、逃げ場を失った破壊エネルギーはフィールド内で荒れ狂う事になるのだ。
「ほほ~、これはこれは…くくく、ガイバーと超獣化兵か。見事じゃな。ま…わしの
バリヤーフィールドを張る獣神将の一人、カブラール・ハーンは好々爺のように見える笑顔を不気味に歪めて笑う。その笑みには、ユニット・ガイバーと超獣化兵への称賛以上に己自身への絶対の自負が見て取れとれるが、味方であるこの場では不気味な翁のその自信は心強いものだ。
やがて衝撃波も消え失せ、辺り一面を飲み込む煙なども獣神将達が腕を震えば霧散していき、そして煙幕全てが晴れた時に皆の目に飛び込んできたのは中々の壮観であった。
超熱によって溶けたての、マグマにぐつぐつと煮えるコンクリートやら土石やらのクレーターが現れて、そこにあった筈のマックス製薬本社ビルは跡形もない。
ゼクトールは笑いながら隣のリスカーへ言う。
「派手な狼煙ですな」
「フッ、まったくだ」
リスカーも小気味良く微笑みゼクトールへ返す。確かに凄まじい一撃だった。二人の出力調整も抜群で、見事に溶け合った二筋の超熱線は、直撃すればゾアロードとてただでは済まない一撃だったはず。だがそれでも、リスカーはこれで平穏無事に粛清が終わったとは思えないのだ。
(…ガイバーが敵の手にある限り…油断はならない。アレは降臨者ですら恐れる規格外品なのだから)
ピン…と意識を張り巡らせ、煮えるクレーターのさらに下…土中をセンサーメタルに走査させていくリスカー。その緊張感がゼクトールにも伝わったのか、彼もまた笑いを殺して再度、目をクレーターに向けて腕の熱線砲を構える。
「…何か感じるのですか?監察官殿」
「いや…私は小心者でね。念には念を入れ――…む?」
――ググググ、グリ、グリィィ
頭部センサーメタルが激しく反応し、土中の一点を凝視するように稼働すれば殖装者本体の本能へ警告を寄越す。
「っ!これは…っ、エネルギーの超反応!!アムニカルス閣下!!」
咄嗟に叫んだリスカーに、ヘリの中のシンもまた反応し、そして即座にクレーターの
「っ!!」
「ぬお!?」
「こ、これは!」
「なに!?」
クレーターを、土中から切り裂くようにして猛烈な光が漏れ、そして瞬間的に大地が膨れ上がって破裂した。先程の狼煙の一撃を超える光の渦が熱を伴って噴き上げて、それはまるで地球が吐き出した怒りのように激しいものだった。
クルメグニクも、カブラールも、カールレオンも、この場の全ゾアロードも仰天し、上空に陣取っていた包囲軍は光に飲み込まれていく。
そして立て続けに巻き起こる大爆発。これが地上で包囲網を構築していたゾアノイド達を吹き飛ばし、肉塊と肉片へと変えていった。
その爆発は周囲の都市をも大いに揺らし、関東近郊に局地地震を発生させる。それ程に強力な大爆発であった。
「ぐ…、か、閣下、ご無事ですか!」
「ぬ、ぅ……あ、ああ、なんとかな………だが…――!」
その大爆発の中、リスカーとシンは辛うじてその身を軽傷で済ませ、凌いでいた。彼らが無事で済んだのは、ガイバーとゼクトールのメガスマッシャーや光熱砲を応用した疑似バリヤーを、シンが得意とする高出力バリヤーと掛け合わせた事による。
だが、リスカーとゼクトールにとっては狼煙から連続しての高出力解放であり、リスカーの胸部砲身やゼクトールの腹部砲は焼け爛れ、エネルギーの枯渇も著しい。それなりの代償は支払わせられていた。
「――な、なんだったのだ、今のエネルギー砲は…!まさか、日本支部がこれ程のものを作っていたというのか!?」
戦闘形態となっていたシンの彫像のような荘厳かつ異形の顔…一見して表情の読み難いその顔でも驚愕と焦燥が見て取れる。
「他のゾアロードは…カールレオン達は無事であろうか……。いや、今は…まずは部隊の指揮を優先せねば。被害状況を調査せよ!」
シンは直様、後方待機の部隊に思念を送ると、矢継ぎ早に指示を飛ばすのは流石であった。
日本支部の切り札はユニット・ガイバーだけではないかもしれないと、ある程度は最悪の状況は想定していた。その上で万全を期し、油断は無かった筈の包囲網は、まだ作戦開始から間もない内に中々のダメージを負ってしまったらしい。部下の獣化兵軍団の被害は大きいだろう。それを悟ったシンは臍を噛むが、それでも周囲を見渡せば、墜落したヘリコプターから飛び降りた超獣化兵五人衆は見当たるし、その他にも無事だった獣化兵部隊が救助作業に入っている様子で、ゼクトールは取り敢えず安堵のため息をつく。
「ダーゼルブ、エレゲン、ガスター、ザンクルス…みんな無事か。ヘリが少し離れた所にいて助かったのだな。全くヒヤヒヤさせる。…だが、光の渦の中心に近かった獣神将の方々は…ご無事であるといいが」
距離があったとはいえ超獣化兵程度が皆無事だったのだ。己風情が獣神将の心配など身の程を知れといった所だろうが、それでもゼクトールはカブトムシのような無表情顔に冷や汗を浮かべて上司たる超人集団の身を案じるが、そこにリスカーが慌てる事なく言い切る。
「我らが無事なのだ。他の獣神将も無事に決まっているさ」
ゼクトールも「そうですな」と力強く頷き、そして冷静な監察官を頼もしく思う。
「地上部隊の救援作業は、超獣化兵五人衆のうち、四人が現場を回してくれている。ならば、我らはこのまま上空で閣下をお守りし、閣下の指揮を滞りなくさせるのが――…ん?」
リスカーがゼクトールに改めて自分達の役割を確認するさなか、リスカーが
「っ!閣下、あそこをご覧ください!」
「…あ、あれは…!」
全てを吹き飛ばし、周囲一面全てを荒野に変えたその爆心地に、一人の人影が佇んでいた。リスカーも、シンも、そしてゼクトールも、そいつを見てゴクリと唾を飲み込む。
「あれは…ガ、ガイバー…!?」
ゼクトールがそう言う通り、そいつはガイバーに見えた。その姿にはリスカーも思いあたる節がある。
「ガイバー…Ⅲ……!し、しかし、あの姿は…前とは違う!」
しかしその姿は以前との遭遇とやや異なる。色素こそ同じ黒だが、ガタイが一回りがっしりし、そして頭部ブレードは三叉となり、三叉の根本は肥大化して大きな水晶が光る。コントロール・メタルの光輪と同調しているかのように、妖しく鋭く光り輝いていた。まるで王冠のようにそびえ、左右に伸びるブレードにはセンサーメタルが蠢いている。首元の有機装甲は鋭く尖り、肩も大きく逞しく肥大し、そして腕部の高周波ソードは肘部のやや前に一本増加し計四本をも備え、その威容に一役買っていた。
「リスカー…お前の姿とも、そして報告とも違うようだな」
シンが最大限、警戒をしつつそいつを睨む。もちろんシンの言葉はリスカーを責めるわけでもない。彼はつまりこう言いたいのだ。ガイバーⅢは〝進化〟あるいは〝成長〟したのではないか、と。それを理解しつつリスカーは首を縦に振る。
「申し訳ありません、ボス。あれは…正直予想外です。だが…あのガイバーⅢの姿、どうも
「っ!ま、まさか…」
二人の会話を聞いていたゼクトールが、複眼の瞳をギョッと見開き言い淀み、そしてシンは最悪の想像が実現してしまったかもしれぬ状況に戦慄した。
「あの額のクリスタル…!まさか、巻島顎人は………!!」
シンの声が自然、震える。可能性としては幾らでも有り得る事。そして最悪の事。殖装者を万全の状態に補修してしまう強殖装甲ユニットだからこそ成り立ってしまう可能性。それはつまり――
「巻島顎人は…自分に、ギュオーのゾアクリスタルを埋め込んだ…!!!」
己がゾアロードになる。
極めて短期間且つ強行的な、無理矢理の改造・調製。それが、プロフェッサー山村とユニット・ガイバー、そして日本支部の調製設備という3つの要素が揃えば出来てしまうのだ。寿命も肉体限界も無視し獣神将へと調製し、それを強殖装甲ユニットが補えば、崩壊寸前の肉体も精神すらユニットが補強する…そういう原理なのだろう。
「だ、だが…強殖装甲ユニットは殖装時の姿を基本形態とし、ダメージや消耗は常に基本形態を目指して補修される!殖装後に調製しても、ユニットは恐らく遺伝的な変異や強化もリセットし、真人間に戻してしまうはずではないか!!」
バルカスの言葉を思い出しながらシンは言うが、だがバルカスとて全てを解明しているわけではない。降臨者の技術のブラックボックスなど、ひょっとしたら永遠に誰にも解明出来ないかもしれない…それぐらいに雲の上の超技術の塊がユニットである。それはシンにもリスカーにも薄っすらと分かっていた事。
「弱化に繋がるダメージや変異…例えば四肢欠損などの損傷・疾病などは恐らくそうなるでしょう。ユニットは弱化前の状態までリセットしてくれる。ですが…それが素体の成長や強化などだったら…ユニットはその変化を是として受け入れるかもしれない」
リスカーが冷静な分析を呟く。シンに言ったというよりは、己に言い聞かせて自分自身の思考を整理し、納得させる為のものだった。
シンが唸る。
「ユニットはどこまでいっても神の遺物…我等の手には余る…そういう事なのかもしれん」
ユニットとゾアクリスタルが溶け合った