カルラ・イーターに憑依しました(凍結)   作:緋月 弥生

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第15話 破壊の予兆★

 俺が制止の声を言い切るより早く、ラウラが単独で11メートル級へと突っ込んでいってしまった、その直後。

 取り残された12メートル級は、ラウラでなく俺たちの方へと大口を開けて突っ込んできた。

 

「ダイナさん!」

 

「分かってます!」

 

 アリーセの声に、俺も短く応じて立体機動のトリガーを引く。

 今まさに街路を走っているから、立体物には事欠かない。両側にズラリと建物が並んでんだから、アンカーの刺す位置を選ぶ必要すらねぇな。

 ワイヤーを射出すると同時に鞍を蹴り、馬上から空中へと身を踊らせた。俺とアリーセの後を追って12メートル級も手を伸ばしてくるが、その指先をまとめて切り落としてやる。

 

「……ふっ!」

 

 12メートル級の指を切り落とした勢いをそのままに、俺はガスを噴出させて加速。独楽のように回転しながら巨人の腕を切り刻みながら進み、一気に背後まで回り込む。これで奴の右腕は使えない。ピクリとも動かせないほど、腕の筋肉はズタズタになったはずだ。巨人の再生力は個体差があるが、ズタズタにされた右腕を再生するには例え『女型』でも10秒は要する。

 それだけあれば、トドメを刺すのに十分以上。

 残るは、うなじのみ!

 

 無茶な使い方をしたせいで刃こぼれしたブレードを捨て、両腕を交差させて鞘のストックと持ち手を接続。火花を散らしながら、新しい刃を引き抜く。

 しかし刃の換装をしている間に、12メートル級は無事な方の左腕で俺を掴もうとしてくるが、俺はそれを無視。強引にうなじへ向けてワイヤーを射出した。

 何故なら最高の相棒が、絶対にカバーしてくれると分かっていたから。

 

「らあああああッ!」

 

 俺に集中するあまりに、意識外にしてしまっていたアリーセに巨人は左腕を切り落とされた。さらに彼女はブレードの換装レバーを引きながら腕を振るい、刃を投擲して12メートル級の両目を潰す。

 両目、両腕の完全破壊。そして俺のアンカーは、既に奴のうなじに突き刺さっている状態だ。

 

「殺った」

 

 確信を込めてそう呟き、俺は体を回転させながら飛翔して両手に握る刃を一閃。

 V字にうなじの肉を削ぎ落とし、近くの建物へと着地した。

 ほぼ同じタイミングで隣に着地したアリーセと、無言でハイタッチを交わす。

 そして顔にこびりついた返り血を袖で拭いながら、すぐにラウラの方を確認。

 

「え、なにあの子強い」

 

 加勢しようとしたが、その必要が全くなかったとラウラの方を見た瞬間に分かった。既に11メートル級は急所を削ぎ落とされて、ただの肉塊となっている。

 見事なくらいの圧勝。

 苦戦するどころか、俺とアリーセの戦いを観戦するほどの余裕すらあったらしい。

 俺たちがいる建物よりも高い位置から観戦していたラウラは、パチパチと気の無い拍手を俺に向かって送ってきた。

 

「巨人の割にはやるじゃないですか。ま、アリーセ姉様がいなかったら勝てそうになかったですけど。それに比べて、姉様は見事なフォローでしたわ! 次の戦闘では、是非ともそこの巨人ではなく私とペアになって下さいな」

 

「……あの」

 

「お願いですから私の方に持ってこないでください」

 

 弱々しい声で話しかけてくる相棒から、俺はそっと目を逸らす。

 そんな捨てられた子犬みたいな目で助けを請われても、俺にはどうする事もできない。

 だってラウラが俺を見る時は目からハイライトが消えるのに、アリーセを見る時はハートマークが浮かんでるんだぜ?

 もう触れるな危険って文字しか見えねぇよ。

 ここで「いや、ペアとか以前にお前が1人で勝手に突っ込んだじゃん?」とか言ってみろよ。あの子、間違いなく俺に向かって刃を向けるぞ。

 

 もうこれ以上は関わりたくないので、俺は思考を切り替える。

 何はともあれ、これで補給拠点の建設地点となる広場の周囲からは巨人の姿が消えた。

 今なら邪魔される事なく、今回の壁外調査の目的が達成できるだろう。

 剣を鞘に納め、指笛を鳴らして自分の馬を呼ぶ。

 幸い、俺の馬はすぐに駆けつけてくれた。

 建物から飛び降りて馬に乗り、手綱を握ると同時に横腹を軽く蹴ってやる。

 

 ここから広場まで、直線で数百メートルほどだ。

 調査兵団ご自慢のサラブレッドなら、数分も掛からずに到着できるだろう。

 懐からナイフを取り出し、巨人化する準備を整えたその時。

 

 パンッ! と。

 乾いた発砲音と共に、空に煙弾が打ち上げられた。

 その色は黄色。

 意味は、作戦遂行が不可能。

 つまりは撤退。

 

 な、何で……!?

 慌てて手綱を引いて馬を止め、俺は唖然としながら空を見上げる。

 後ほんの数百メートルだ。

 移動時間と硬質化による建設時間を足して考えても、10分も必要ない。数分で補給拠点を作れる。

 なのに、ここで撤退とか意味が分からねえ。

 このまま目的も達成出来ずに引き返すのなら、死んだ兵士の命はどうなる?

 俺を建設地点へと進めるために、少なくない数の調査兵が死んだはずなのに。それを無駄にするほどの理由なんてあるのか?

 

 くそが、どうなったんだよ。

 舌打ちしながら再び立体機動へと移り、俺は指示を仰ぐためにリヴァイ兵長の許へ。兵長の下にはもう既にフォルカー、テオバルト、ラウラ、アリーセが揃っていた。

 4人とも俺と同じ考えのようで、分かりやすく不服の表情を浮かべている。

 

「兵長、どういう事ですか!? やっと全ての準備が整って、後は拠点を建てるだけなのに撤退なんて! 自分は納得できません! 死んだ仲間の命が、無駄になります!」

 

 フォルカーのその叫びは、俺たち全員に共通する気持ちだった。

 しかしリヴァイ兵長はそれを無視して、俺たちに背を向ける。

 

「お前ら、さっさと馬に乗れ。撤退するぞ!」

 

「兵長!」

 

「ピーピー喚くな! エルヴィンが何の理由もなく、撤退の指示を出すとお前たちは本当に思うのか? 奴は俺たちよりずっと多くのことを見ている。俺たちは黙って命令に従うのみだ」

 

 そう言われてしまえば、もう従うしかねえ。

 未練がましく目的地である広場を振り返りながら、俺は兵長たちと共にエルヴィン団長の許へと向かう。

 ……ちくしょうが。

 判断を間違ってペトラさんたちを失い、女型に負けた時のエレンも、こんな気持ちだったのだろうか。

 自分のために誰かが死んだという事実は、ひたすらに罪悪感を掻き立ててくる。

 後もう少し早く、あの2体の巨人を討伐していれば。

 もしくはその後に無駄なやり取りなどせず、ノンストップで広場へと向かっていれば。

 そんな後悔ばかり溢れてくる。

 

 もしかしたら調査兵団とは敵対関係になるかもしれねぇのに、『原作』を知ってるから、どうしても感情移入しちまうな。

 ファンとしてはやっぱり、彼らに大手を振って帰還して欲しいと思ってしまう。

 

「ダイナさん、あまり気を落とさないでください。次こそは成功させましょう。今は後悔するより、目標達成寸前でありながら団長に撤退を決断させた『何か』に注意を向けるべきです」

 

「アリーセ姉様の言う通りですわ。知性のない巨人が、いくら悪い頭を動かしたところで意味がありません。黙って団長の指示に従いなさいな」

 

 右にアリーセ左にラウラと、横に馬を並走させた2人から言葉が飛んでくる。

 ラウラはもちろんのこと、調査兵団に所属していた経験のあるアリーセも切り替えが早い。

 彼女たちからすれば、壁外調査など成功する方が珍しいのだろう。一度や二度の失敗でうじうじしているようでは、調査兵団は務まらないということか。

 後、ラウラよ。

 うじうじするなと発破をかけてくれるのは嬉しいんだが、その言い方は地味に傷つくからやめてくれ。冗談交じりならともかく、光の消えた瞳に加えてガチトーンで言われると辛い。

 これでも、頭悪くて感情的なのは自覚してんだよ。

 

「励まし合う美女と美少女……良いな……」

 

「テオバルト……まさかお前、そんな趣味が……。普通はチラチラと見える白い首筋に反応するだろ」

 

 オイ、後ろの男2人。

 背筋が粟立つような会話はやめろ。小声で話してるつもりだろうが、がっつり聞こえてるぞ。

 男に肌を見られてると思うと、ゾッとするな。フォルカーにはあまり近寄らないようにしよう。

 テオバルトの方は……その、何だ。ちょっと俺には理解できないご趣味をお持ちのようだが。

 

 ちょっと嫌な会話を聞いてしまったが、おかげで落ち込んでいた気持ちがいくらか軽くなった。

 死んだ兵士たちの命を軽く見るのは良くないが、いつまでも引きずられるのは良くないのもまた事実。

 今は次の事態に備えるか。

 

 そう気を引き締めたのと、俺たちがエルヴィン団長と合流したのはほとんど同時だった。

 リヴァイ兵長がエルヴィン団長のすぐ隣で馬を止め、俺たちは少し離れた位置で手綱を引いて馬を止める。

 

「目的地が目の前ってところで呼び戻したんだ。部下の死を無駄にするくらいの理由はあるんだろうな?」

 

 冷徹な態度を取っていても、兵長が本心では誰よりも部下を想っているのが本当によく分かるな。

 だから、兵長の部下たちは死地に飛び込めるんだろう。

 自分が死んだとしても、兵長が次に繋げてくれると確信しているから。

 そんな感慨を抱きながら会話の成り行きを見守っていた俺は、次のエルヴィン団長の言葉で頭を殴られたかのような衝撃を受けることになった。

 

「巨人が一斉に北上を始めた。5年前と同じ……壁が、破られたかもしれない」

 

 『原作』が、始まった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 最高速度で馬を走らせながら、俺は必死で思考を巡らせる。

 俺がもたらした『原作』との乖離は、トロスト区決戦の時にはまだ影響しないはずだ。

 いや、待てよ。

 アニがいないって事は、ガスの補給所を奪還する作戦が失敗するかもしれねえ。

 リフトに乗ってガスの補給所に入り込んだ小型の巨人7体をおびき寄せ、ギリギリまで引きつけてから散弾による一斉射撃で視界を奪い、天井に隠れていた7人が一斉に攻撃を仕掛けるってシーンだ。

 あの時、確かサシャとコニーが巨人を仕留めるのに失敗する。

 そのフォローをミカサとアニがするんだが、アニがいないって事は……

 

「ダイナ、ボサッとするな!」

 

 兵長に怒鳴られ、俺は思考の渦から帰還した。

 慌てて周囲を見渡す。

 俺の目の前に兵長がおり、兵長の両隣にテオバルトとフォルカー。俺の両隣にアリーセとラウラという形だ。

 そして真後ろには、

 

「オオオオオオッ!」

 

 大地が震え、地鳴りのような足音が響く。

 15メートル級。

 四足歩行で追いかけてくるソイツは、運が悪いことに巨人の中でも足が速い方らしい。調査兵団の馬でも、なかなか引き離すことが出来ていない。それどころか、少しずつ距離が縮まってやがる。

 チッ、このクソ忙しい時に……!

 

 再び『原作』を思い返す。

 調査兵団がトロスト区へと辿り着くのは、エレンが岩で穴を塞いだ直後だ。

 力を使い果たしたエレンが巨人に食われそうになる直前で、リヴァイ兵長が助けに入る。

 恐らく原作でも、調査兵団は全速力でトロスト区へと帰還しただろう。

 つまり俺が下手なことをして少しでも到着が遅れてしまえば、エレンが死ぬ。それもかなりの高確率で。

 

「迎え撃つ余裕がない……!」

 

 俺の気持ちを、前を走るテオバルトの呟きが代弁してくれた。

 場所は平地で、しかもこの高速移動中だ。

 一瞬で立体機動に移り、一瞬で巨人を仕留めて戻るなんて不可能に近い。

 いや、巨人を討伐する事は出来るだろう。

 しかしその討伐した兵士を、回収するほどの時間がねえ。

 既に長距離索敵陣形は最高速度でトロスト区へと帰還中だ。巨人と交戦なんてすれば、確実に置いていかれる。

 ならどうするか?

 最善手は、誰か1人を見殺しにする事だ。

 討伐に成功するにしろ失敗するにしろ、誰かが巨人の相手をすれば、残りは陣形に置いていかれる事なく帰還できるだろう。

 ……じゃあ、その1人は誰だ?

 

 まず間違いなく、俺は選ばれない。

 俺の持つ巨人の力と情報は、調査兵団にとっては絶対に失えないものだ。捨て駒に出来るわけがない。

 アリーセもない。

 ここでアリーセを見殺しにすれば、俺が調査兵団の敵に回ってしまうから。

 そうなると残るはラウラか、フォルカーか、テオバルトか、もしくはリヴァイ兵長か。

 

「後ろのしつけえ奴は俺が相手する。お前らはこのまま馬で駆けろ!」

 

 兵長が信じたのは、自分の力だった。

 確かにリヴァイ兵長なら後ろの15メートル級を倒し、陣形に合流出来る可能性が最も高いだろう。

 死人を減らすという観点では、間違いなく最善手。

 しかし俺は、反射的に叫んでいた。

 

「ダメです! 本当に壁が破られたのなら、兵長こそ一刻も早く帰還すべきです! 兵長の力を最も欲しているのは、今まさに巨人の襲撃を受けている駐屯兵団や憲兵団でしょう!?」

 

 というのは方便だ。

 俺の本心は、リヴァイ兵長がエレンを助けるという未来を守りたいというものなのだから。

 流石に、主人公であり始祖の巨人を持つエレンに死なれたら困る。

 ただでさえ木っ端微塵になっている原作が、さらに砕け散ってしまう。

 そんな事になったら、原作知識による未来視が完全に意味なくなっちまうだろうが。

 

「じゃあどうする? お前に、これ以上の策があるのか?」

 

 待ったをかけた俺に、振り返ったリヴァイ兵長が冷ややかな視線と共に問いかけてくる。

 考えろ。

 このまま6人全員が、誰も脱落せずに15メートル級の脅威から逃れる方法を。

 

「兵長、私に巨人化の許可を下さい。私なら巨人を撃破した後、遅れずに合流出来ます。なんなら、馬以上の速度を活かして少数の精鋭兵をいち早く壁まで運べます!」

 

「却下だ。まだ俺たちはお前を完全に信用できた訳じゃない。お前が鎧や超大型の仲間だった場合の損失が大きすぎる」

 

 やっぱり無理だよな。

 人は巨人になれる。

 その事実を知ったエルヴィン団長やハンジさんは、既に『鎧』や『超大型』が俺と同じ巨人化能力者だと予想していた。

 調査兵団から見れば、俺は壁を破壊した奴らと同じ力を持っている事になる。

 さらに警戒されるのは当たり前だ。

 本当に俺が敵だった場合、精鋭兵を預けて先に行かせるなんて出来るわけがない。そんな事をしたら、俺に精鋭兵に皆殺しにされて大損失になるうえ、鎧や超大型と同格の「知性巨人」をさらに壁の中に送り込む事になるのだから。

 

 ならば。

 

「……それならもう1つの策を」

 

 緊張でカラカラになった口で、俺はリヴァイ兵長に必死に即興で考えた作戦を話す。

 俺が作戦を伝え終えた後、リヴァイ兵長はしばらく無言だったが、やがて口を開いた。

 

「本当にそんな事が出来るのか? ハンジの前でやった巨人化能力の実演では見ていないが」

 

「リヴァイ兵長なら、自分の最後の切り札の全てを敵対する事になるかもしれない相手に晒しますか?」

 

 俺がそう返すと、リヴァイは舌打ちして。

 

「テオバルト、全速力で近くを走ってるはずの荷馬車護衛班から荷馬車を借りてこい。後ろのデケエのが、俺たちに追いつくまであまり時間がねえ」

 

「了解です!」

 

 兵長に指示を与えられたテオバルトが、威勢のいい返事を残して班から離脱していく。

 アイツが荷馬車を借りて戻ってくるまで、数分ってところか。

 ギリギリ追いつかれる前に戻ってきてくれそうだ。

 この能力は馬の上からでも出来なくはないが、バランスを崩して転倒する可能性が高いからな。

 荷馬車の上でもバランスを崩す可能性はあまり変わらない気もするが、馬上より多少はマシだろう。

 

「ダイナ、準備をしておけ。一度だけ巨人化を許可してやる」

 

「はい!」

 

 敢えて余裕のある笑みを浮かべ、俺は懐からナイフを取り出す。

 さて、いっちょやったりますかぁ!

 

 右の拳を握りしめながら、俺はそっとナイフの刃を肌に当てた。




ごすろじ様から頂いた、本当に本当に素晴らしいイラスト。
これのおかげで私はモチベーションを失うことなく、更新期間を空けずに済みました。
心よりの感謝を。


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