カルラ・イーターに憑依しました(凍結)   作:緋月 弥生

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第19話 第57回壁外調査――開始★

 第57回壁外調査まで、あと1日となった。

 相変わらず旧本部から出ることが許されない俺は、窓から庭を見下ろして暇つぶし中である。

 班の再編成も作戦内容の確認も終わっちまったから、訓練以外に何もやることがねぇ。

 娯楽の1つでも欲しいところだが、こんな世紀末な世界ではそれすら難しい。

 せいぜい読書くらいか。

 アニの記憶を継承しているおかげで文字の読み書きは問題ねーし、壁外調査から無事に生還したらハンジさんに何冊か本を貰おう。

 ……なんか、こんな思考すら死亡フラグに思えてきて怖いな。

 

 頭を振って、嫌な思考を振り払う。

 ネガティブなのは俺らしくねぇよ。何事も前向きに。

 改めてもう見慣れた庭へと意識を向けると、ちょうどアリーセにエレンが放り投げられていた。その光景を見たラウラが歓声を上げている。

 うわぁ……今のは痛そうだ。エレンのやつ頭から落ちてたぞ。

 

 次の壁外調査では、高確率で「知性巨人」が襲来してくるはずだ。

 『超大型』は走って調査兵団を追い回すなんて事は無理だから、出てくるのはまず間違いなく『鎧』だろうな。

 硬質化能力の使えない今のエレンが、鎧の巨人に勝つのはかなり難しい。つーか、ぶっちゃけ無理だろ。

 この1ヶ月間休みなく訓練したとはいえ、まだまだ荒削り。暴走の可能性も孕んでいるし、巨人の力をセーブ出来ないこともある。

 なので少しでも勝率を上げようと、対鎧の巨人用にエレンに極め技と投げ技を叩き込むことにした。先生はもちろん、アリーセだ。

 

 104期の中で対人格闘術の成績がトップクラスなだけあって、エレンは信じられない早さでアリーセから技を学んでいる。

 あれが才能ってやつか……。

 気を引き締めないと俺も簡単に追い抜かれそうだ。

 やべぇ、なんか不安になってきたぞ。

 

 窓際の椅子から立ち上がり、俺は兵服に着替えて自室を出る。

 早足で廊下を歩き、俺と同じく暇そうにしていたフォルカーの首根っこを掴んで引きずりながら庭へ。

 ちょうど試したいこともあったし、エレンと一緒に対人格闘術の訓練といこう。

 まぁ、エレンと組手は出来ねぇんだけど。

 

「あ、ダイナさん」

 

「……チッ、余計なのが」

 

 庭に出てきた俺の姿を見て、アリーセとラウラが正反対の表情を浮かべた。

 アリーセが花が咲いたような笑顔を見せてくれるのに対して、ラウラは舌打ちしながら眉間にしわを寄せる。相変わらず嫌われてんなぁ。

 

「少しやってみたいことがあったので、私も訓練に混ざりますね。良いですか?」

 

「もちろんです。エレンとの組手も、ひと段落ついたところですし」

 

 そう言って、地面に転がるエレンを指差すアリーセ。

 ボッコボコである。

 生死に直結することだから厳しく訓練してあげてとは確かに言ったけど、やり過ぎじゃね?

 顔が変形しちまってるぞ、おい。

 アリーセがエレンに対して個人的な恨みでも抱いてるのかと、邪推してしまいそうになるレベルだ。

 

「エレン、起きてますか?」

 

「何とか……」

 

 声をかけてみると、意外としっかりした返事が返ってきた。

 流石に頑丈だな。

 

「今からエレンに見せたい技があるので、そこに座って見物していて下さいね。……フォルカー、組手の相手をお願いします」

 

「組手の相手が欲しいなら、最初からそう言ってくれよ……。何も首根っこ掴んで引きずることないだろう」

 

 ブツブツを文句を言いながらも、フォルカーは構えを取って俺と向かい合う。

 よし、やってみっか。

 両拳を握りしめて頭の高さまで持ち上げ、軽く膝を曲げ、腰を落として、俺も構えを取る。

 俺の構えを見たフォルカーとアリーセが、同時に目を細めた。ラウラですらも、光の消えた瞳を俺の方へと向けてくる。

 そう、これは訓練兵団で習う格闘術じゃない。

 俺の対人格闘術は全てアリーセから学んだものだが、1つだけ例外が存在するんだよ。

 即ち――アニの記憶から得た、アニの格闘術。

 

「どうぞ、何処からでも。先手はお譲りします」

 

 俺がそう言うと、フォルカーは口元を吊り上げた。

 

「オレも随分と舐められたな。じゃあ、勝負しようぜ。勝った方が負けた方の言うことを1つ聞くってのはどうだ?」

 

 勝負?

 確かに面白そうではあるが、俺は別にフォルカーにやって欲しい事とかねぇしな……。

 でもまぁ、暇つぶしにはなるか。

 

「構いませんが、先に私が負けた時に何をさせられるのか聞いても?」

 

 変なことをさせられたら堪ったもんじゃないので、念のために負けた時のリスクを確認しておく。

 するとフォルカーはさらに笑みを深め、俺を指差しながら何故かドヤ顔でこう言い放った。

 

「その時は、ダイナには丸1日オレとデートしてもらう!」

 

 予想の斜め上の返答に、俺は思わず咳き込んでしまう。

 アリーセがパニックになり、ラウラは面白いことになったとニヤニヤ嗤い、エレンは何を見せられてるのか分からずに無表情だ。

 この野郎、今なんつった?

 俺の聞き間違いでなければ、コイツは子供持ちの元人妻相手に、その義理の息子の前でデートを申し込まなかったか?

 

「それ、本気で言ってます?」

 

「無論」

 

 絶対に負けられねえ戦いが、ここにある。

 何が悲しくて男とデートしないといけねーんだよ。断固拒否。

 壁外調査の直前に何を言ってんだマジで。

 

「そんな勝負ダメに決まってます! ダイナさんにはエレンという義理のむ――」

 

「あああああああっ! よし、勝負しましょう!」

 

 エレンのいる前では絶対に言ってはいけない事を言おうとしたアリーセの声を遮り、俺は構え直す。

 エレンにアニの格闘術を見せて、少しでも鎧の巨人と戦う時に有利にしてやろうと思っただけなのに、どうしてこうなった。

 退屈から一転、崖っぷちじゃねーか。チクショウが。

 

「それでは、ダイナとフォルカーの対人格闘術による模擬戦を始めましょう」

 

 薄ら笑いを浮かべたラウラが俺とフォルカーの間に立つと、審判を始めた。ハイライトの消えた彼女の瞳には、ダイナ負けろと書いてあるのがよく分かる。

 こういう時だけ張り切るから、ラウラはタチが悪い。

 しかし勢いでやると言ってしまった以上は、もう引き下がれねえ。覚悟を決めて、俺は集中力を高めていく。

 

「では……始めっ!」

 

 スタートの合図と同時、フォルカーが大きく前に踏み込んだ。

 引き絞られたフォルカーの右拳が、俺の胸元あたりを狙って繰り出される。それを僅かに首を傾け、姿勢を低くすることで回避。

 右肩の上、耳を掠めるようにしてフォルカーの拳が通り過ぎた。

 フォルカーが放った拳を引き戻そうとするより早く、俺は彼の懐へと飛び込んでいく。

 俺は自分の右腕でフォルカーの右腕を下から押し上げ、彼の腕と首をまとめて右腕で抑え込む。そして同時にフォルカーの足を払い、体重を前に倒して相手もろとも地面へと倒れ込んだ。

 

 対人格闘術の訓練の際、アニがエレンに使用した技。エレンが鎧の巨人に対して使った技でもある。

 地面に後頭部をぶつけて抵抗するのが遅れたフォルカーを、俺は全力で締め上げた。

 負けたらデートしなければならない俺に、容赦という文字はない。

 フォルカーの顔が赤くなり、そして少しずつ紫色へと変わっていく。

 流石にこれ以上はマズイな。

 俺は紫色からついに蒼白になりつつあったフォルカーを離し、軽く土を払って立ち上がる。

 

「私の勝ちですね」

 

 肩まで伸びた髪を後ろで結わえながら、勝利宣言。

 観戦していたエレンとアリーセが同時に歓声を上げた。

 けど、2人の歓声の意味は間違いなく違うだろう。

 アリーセは俺がデートを免れたことに対して、エレンは凄い格闘術を見れたことに対して歓声を上げているだろうから。

 2人が同時に駆け寄ってくる。

 ちょっ、アリーセは構わんがエレンは来るな。間違って接触したらどーすんだよ。

 しかし流石に、お前に触りたくないから近づくなとは言えんし。

 仕方ない、さりげなくアリーセをクッションにするか。

 

「今の技、どうやったんですか!? ぜひ俺にも教えてください!」

 

 もの凄い食いついてくるエレン。

 そんな純真な表情で尊敬してくれるのは嬉しいけど、マジでもうちょっと離れてくれ。

 アニの記憶からこの技のコツを探り出し、エレンに伝える。

 才能のあるエレンなら、すぐに原作同様に使えるようになるだろう。これで硬質化が使えなくても、多少は鎧の巨人に対抗できるようになったはずだ。

 

 そして一通りコツを伝え終わった後、俺は未だに悔しさから拳で地面を叩いているフォルカーへと駆け寄る。

 さて、デートなんていうふざけた要求したんだ。

 それなりの罰ゲームは覚悟してるんだろうなあ?

 俺はフォルカーに向かって微笑を浮かべながら、慈悲なく罰ゲームの内容を告げた。

 

「それじゃあ、負けたフォルカーにはリヴァイ兵長と組手をやってもらいましょうか。もちろん、どちらかが気を失うまで終わらないデスマッチです」

 

 この世の終わりと言わんばかりに絶叫する、フォルカー。

 そんな感じで、壁外調査の前日は終わりを迎えた。

 

 平和な日常はひとまずここまで。

 ここから先は、死と絶望が渦巻く壁外の世界となる。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ウォールローゼ、カラネス区。

 現在は開閉門の前で隊列を組み、壁外調査の開始を待っている状態だ。

 馬の手綱を握りながら、俺は頭の中で作戦内容を反芻する。

 今回の壁外調査は状況によって発動する作戦が変わっちまうから、結構ややこしいんだよな。

 「知性巨人」の襲撃があった場合に発動するのが、プランA。

 これは原作の通りの作戦で、後列の班が時間を稼いでいる間に立体機動装置の真価が発揮できる巨大樹の森へと入り、捕獲作戦を行うというもの。

 プランAでは、俺は捕獲地点で待機だ。

 万が一捕獲出来なかった場合は、俺が巨人化して「知性巨人」を叩き伏せなければいけない。

 『鎧』が出てきた場合、ほぼ間違いなく俺の出番が回ってくる。一時的にアニを捕獲したあの兵器も、鎧の巨人の前には無力だろうから。

 先端のアンカーが刺さらず、全て弾かれて終わりだろう。

 

 で、「知性巨人」が襲来しなかった場合のプランB。

 これは純真に、カラネス区からシガンシナ区までのルート形成を行うというもの。

 こちらでは、エルヴィン団長に指定された場所に補給地点を築くのが俺の仕事だ。

 Aと比べるとかなり楽だから、俺個人としてはBが発動することになれば良いと思うんだが……無理だよな。

 女型(ダイナ)進撃と始祖(エレン・イェーガー)が揃って壁外に出るなんて、向こうからしたら絶好の襲撃チャンスなんだから。

 

 軽く周囲を見渡す。

 第二特別作戦班――通称ダイナ班となったのは、俺、アリーセ、ラウラ、フォルカーに加えて、我らが女神クリスタと、初対面となるドミニクという男兵士。

 クリスタとドミニクの2人が新兵枠として、第二特別作戦班に入った。

 

 クリスタの方は原作知識で分かるが、ドミニクの方はさっぱり知らん。

 顔合わせの時の印象としては、ひたすらビビりという印象しか受けなかったしなぁ。俺がエレンと同じ巨人化能力者だと知った時のドミニクは、生まれたての子鹿より震えていたし。

 お前、何で調査兵団に入ったんだよ。そんなに怖がるくらいなら、駐屯兵団に行けばよかっただろうに。

 身長はアリーセより少し高いくらいだから、(ダイナ)より低い。髪の色は明るい茶色で男にしては少し長いか。

 何にせよ、戦力になることを願うばかりである。

 簡単に死なれてしまったら、こちらとしても寝覚めが悪い。

 

 と、そこで動きがあった。

 ひっきりなしに鳴り響いていた壁上固定砲台の砲撃音が止み、エルヴィン団長の叫びがここまで聞こえてくる。

 

「これより、第57回壁外調査を開始する! 前進せよおおおおおおおおッ!!」

 

「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 団長の掛け声に兵士達も雄叫びで応じ、我先にと言わんばかりの勢いで壁外へと飛び出し行った。

 俺も馬の横腹を軽く蹴って「走り出せ」と合図を送り、先行する兵士達に続く。

 

「右方に8メートル級!」

 

「援護班に任せろ! 止まるな! 進め、進めぇ!」

 

 大勢の人間の気配に引かれ、次々と現れる巨人。

 あらかじめ壁上固定砲台で開閉門近くにいた巨人を一掃していても、どうしてもこれだけの数が現れてしまう。

 何気に、1番の貧乏くじは援護班の皆さんかもしれない。

 

「長距離索敵陣形、展開!」

 

 団長から命令が飛んでくると同時に、一斉に散開し始める。

 俺の班の配置は3列中央。

 エルヴィン団長のすぐ後ろに位置しており、陣形の中でもかなり安全な場所だ。後ろには補給物資を積んだ荷馬車を挟んで、エレンたち旧リヴァイ班がいる。

 

「おい新兵、そんなに青い顔をしなくても大丈夫だ! 何度も伝えた通り、俺たちダイナ班の配置場所は巨人との交戦が少ないからな」

 

 フォルカー……班長に任命されたから、張り切ってんのかな。

 今にも吐きそうなドミニクの背中をバンバン叩き、下手くそな励ましの言葉をかけている。

 取り敢えず叩くのやめてやれ。余計に気分が悪くなってるっぽいぞ。

 

 俺も手綱を引いて、ドミニクの横へ並ぶ。

 そしてなるべく小さな声で彼に話しかけた。

 

「そんなに怖いのなら、どうして調査兵団に入ったんですか?」

 

 まだ巨人化能力者が怖いのか、ドミニクはビクビクしたまま喉の奥から声を絞り出して返事をする。

 

「……しても……どうしても、クリスタさんと同じ兵団に入りたかったんです」

 

 あ、もう良い理解したわ。

 興味を失った俺はドミニクから離れ、元の位置へと戻る……その時だ。

 右翼側から黒い煙弾が次々と打ち上げられる。

 あれは普通の奇行種なのか、それとも「知性巨人」なのか。

 今のところ陣形が乱れている様子はないし、対して気になるようなこともない。

 順調のはず――?

 

 ちょっと待て、右側からまた黒の煙弾だ。

 また索敵の取りこぼしで、奇行種が陣形の内部に入っちまったのか……?

 ……いや、これは違う。

 黒の煙弾が打ち上げられる位置が、どんどん中央に近くなっていっている。

 間違いない、来やがった。

 プランAかよ……!

 

 俺の予想を裏付けるように、伝令兵が班に合流する。

 

「口頭伝達です! 右翼索敵、奇行種により壊滅的打撃! 索敵が機能していません! 以上の伝達を左に回してください!」

 

「よし、聞いたなドミニク! お前が行け」

 

「は、はい!」

 

 フォルカーに指示され、ドミニクが左翼側へと馬を走らせて班から離脱する。……直後。

 入れ替わるようにして、左翼からも伝令兵がやって来た。

 

「口頭伝達! 左翼後方索敵が壊滅! 陣形の内部にまで、奇行種が侵入しました! 以上の伝達を右に回してください」

 

「な……っ!?」

 

 思わず、変な声が出た。

 俺だけではなく、他のメンバー全員が俺と同じような表情をしている。

 左翼後方からも奇行種……どうなってんだ?

 片方が『鎧』なのは間違いない。アニの代わりに、鎧の巨人が俺とエレンを狙うのは分かる。

 だとするなら、もう片方からは何が来ている?

 

 フォルカーに命じられたクリスタが、口頭伝達を行うべく離脱するのを見送って俺は奥歯を噛み締めた。

 俺たちは一体、何に挟み撃ちされている……!?




ごすろじ様から頂いた、素晴らしいイラスト第三弾。
アリーセ(戦闘態勢)です。
前作とは一転して、凛々しくなった彼女の姿にご注目ください。
このイラストに負けないくらいカッコよく、アリーセを活躍させてあげたいです。


【挿絵表示】


※所用により、明日の更新はお休みさせて頂きます。
誠に申し訳ございません。
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