カルラ・イーターに憑依しました(凍結)   作:緋月 弥生

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第21話 第57回目壁外調査――咆哮

 しっかりとラウラの華奢な体を腕に抱いたまま、俺は体を横に回転。空中で姿勢を制御しながらワイヤーを射出し、鎧の巨人の手が届かないくらい高い位置にある木の枝に着地する。

 チクショウが。

 後たったの一撃で、顎の巨人から本体を引きずり出せたっつーのによォ……!

 

 リヴァイ班の追跡を中断し、走るのをやめた鎧の巨人。

 奴はそのまま顎の巨人が乗っている木の枝の真下まで歩くと、手を振って顎の巨人へと何か合図を送る。合図を見た顎の巨人はすぐに枝から跳躍すると、鎧の巨人の肩に飛び乗った。

 しかしエレンの追跡は開始せずに、奴らは揃って俺の方を見上げて動かない。

 

 目標をエレンから俺に変えたのか?

 ……そうか。

 『原作』でマーレの戦士がエレン=始祖の巨人ってことに気づくのは、エレンがカルラ・イーターと2度目の接触した時。つまり、ハンネスさんが食い殺された直後だ。

 つまりそれまでは、エレンのことを進撃の巨人としか見てねぇ。

 今の奴らの目的が巨人化能力者なら、別にエレンでなく俺でも構わねえってことだろう。

 いや、むしろ、アニを殺された恨みがある分、俺の方を積極的に狙う可能性の方が高い。

 もしエレンが『座標』を持っていると知っていれば、流石に私情は挟まずに狙いをエレン一択に絞る筈だろうからな。

 

 鎧の巨人の全身から放たれる濃密な殺気に、俺は思わず冷や汗を流す。

 絶対に逃がさないって気迫が嫌でも伝わってくる。

 

 さて、どうすれば良い?

 現在の兵装で鎧の巨人を倒すのは不可能。兵士が『鎧』を相手に出来ることは、関節を狙って動きを阻害する程度だろう。

 尤も、刃が通ったとしても鎧の巨人を仕留めるのは困難を極めるが。

 動きこそ『女型』より鈍いが、運動性能は無垢の巨人とは比べ物にならないほど高いし。

 

 加えて、顎の巨人と完全に協力体制に入ってやがる。

 あの2体、地味に相性良いな。

 耐久の『鎧』と機動力と高火力の『顎』。

 鎧の巨人はそのパワーと防御力で軸となり、襲ってくる兵士を顎の巨人がはたき落としていく。それだけで陥落不可能な要塞の出来上がりだ。

 俺が巨人化してやり合ったとしても、突破は難しいか。

 鎧の巨人と殴り合っている間に、顎の巨人がその機動力を活かして俺の背後へ回り込む。あとは鎧の巨人がそのパワーで俺を押さえつけ、回り込んだ顎の巨人が俺のうなじを齧り取れば決着だ。

 

 理想は、奴らをもう一度分断すること。

 『鎧』と『顎』が別行動を取ってくれれば、こちらにも勝機が戻ってくる。

 もしかしたら、捕獲のチャンスすら得られるかもしれん。

 特に顎の巨人は小型だから、あの「捕獲兵器」で捉えれば絶対に逃げられることはねぇ。

 逆に言えば、分かれてくれない限りは勝機は薄いってことになるんだけどな。

 

「……で、やっぱりいつまで抱きしめてますの?」

 

 そこで俺に後ろから抱きつかれていたラウラが、不快感を滲ませた声で話しかけてきた。

 すまん、完全に忘れてたわ。

 慌てて謝罪してラウラを離す。

 

「どうせ抱きしめられるなら、貴女ではなくアリーセ姉様が良かったですわ」

 

「私で悪かったですね」

 

「……助けて貰ったことには一応感謝しますが、私の貴女に対する意識は変わりませんので」

 

 そう言って俺に背を向け、アリーセの下へと飛んでいくラウラ。

 感謝すると言いつつも、俺に対する警戒心や嫌悪感が全く揺るがないところが彼女らしい。

 彼女が油断も隙もなく俺を監視しているせいで、思うように動けねーんだよなぁ。

 ある意味、調査兵団の中で最も危険なのはラウラかもしれねぇ。

 当然、エルヴィン団長やリヴァイ兵長とは異なるベクトルで。

 

「おい、ダイナ」

 

 現状を打破する作戦をいくつか考えていたら、リヴァイ兵長が俺の下にやって来た。

 兵長の後ろには、グンタさんとエルドさんの姿もある。

 エレン、ペトラさん、オルオさんの姿はないから、その3人は当初の予定通りに捕獲地点へと進ませたんだろう。

 

「状況は大体把握した。あの小せえ方は何て巨人だ?」

 

「『顎』ですね。並みの兵士を遥かに凌駕する立体機動能力を持っています。相手が『顎』の場合に限り、この地形は兵士に不利になります」

 

 リヴァイ兵長の質問に口早に回答すると、兵長はしばらく思考して口を開く。

 

「『鎧』に兵士の刃は通らねえ。ダイナ、そっちはお前が相手しろ。残りで『顎』をやる」

 

「……了解。ですが、巨人化能力者3人が入り乱れての戦場となります。兵長ならともかく、他の兵士が割り込むのは危険でしょう」

 

 下手したら、俺の攻撃が仲間に当たりかねない。

 鎧の巨人と戦いながら、顎の巨人と戦って周囲を飛び交う調査兵団に配慮する余裕は流石にねーよ。

 そう思っての発言に、リヴァイ兵長は鞘から超硬質ブレードを引き抜きながら端的に返した。

 

「「知性巨人」2体を相手に、犠牲なしで勝てる訳ねぇだろうが」

 

 思わず口を閉じる。

 そうだった、ここはそういう世界だ。

 誰も死なせずに切り抜けるなんてのは、夢物語だよな。

 だから俺は、自分の命とアリーセの命を守るために、他のものを切り捨てる覚悟をしたんだろ。陣形の後方の兵士や、単独で顎の巨人に挑んだあの兵士の死を利用したんだろ。

 フォルカーに言った通り、本質を見失うな。

 俺と調査兵団は協力関係ではあるが、本当の仲間じゃねえ。本当に大切な親友(もの)を守りたいなら、それ以外を切り捨てろ。

 自分の中にある、命の優先順位を見失うな。

 

 俺は、何もかもを救い出せるヒーローじゃねぇんだから。

 

 木の枝を蹴って空中へと身を踊らせ、俺は懐から取り出した護身用ナイフで自分の手のひらを切り裂いた。

 鮮血が飛び散り、閃光と共に現れた骨肉が渦を巻いて巨人の体を生成していく。本体が女型の巨人のうなじへと収まり、本体と巨人体の肉が癒着。神経系が接続され、巨人体の感覚が伝わってくる。

 そうして女型の巨人と化した俺は、『鎧』と『顎』の前に着地した。

 

「オオオオオオッ!」

 

 俺の着地の瞬間を狙って、鎧の巨人が拳を振り下ろす。

 それを硬質化した右腕で受け止め、俺は反撃のハイキックを繰り出した。

 蒼白に輝く俺の右足が、鎧の巨人ごとその左肩に乗っている顎の巨人を吹き飛ばす……直前。

 顎の巨人は跳躍してその場から離脱し、鎧の巨人は左腕で俺の蹴りをガードする。

 

「ガアアアアアアアッ!」

 

 蹴りを防がれて体勢を崩す俺に、真上から顎の巨人が飛びかかって来た。

 すぐさま右足を引き戻して、俺はカウンターを仕掛けるべく握りしめた右の拳を引きしぼる。だが、その拳を放つ必要はなくなったらしい。

 顎の巨人の体に、アンカーが突き刺さった。

 そして銀の光が顎の巨人を一閃。顎の巨人の腕から、鮮血がぶち撒けられる。

 

「エルド!」

 

「了解です、兵長!」

 

 『顎』の右腕を切り刻んだリヴァイ兵長が部下の名を呼ぶ。

 名前を呼ばれたエルドさんが、リヴァイ兵長と入れ替わるようにして顎の巨人へと向かう。

 顎の巨人も空中で身を捩り、無事な方の腕を振り回して迎撃を試みるが、エルドさんには当たらない。

 振り回される巨人の腕を掻い潜ったエルドさんが刃を振るい、その眼球を潰す――

 

「――……!」

 

 その直前、顎の巨人を守るようにして鎧の巨人がエルドさんに向けて右拳を放った。

 まるでアッパーカット。

 眼球を狙って刃を振り上げたエルドさんを、真下から撃ち抜く軌道。

 俺は咄嗟に鎧の巨人を蹴り飛ばし、何とか拳の軌道を逸らす。

 だが僅かに遅かったらしく、エルドさんの立体機動装置を『鎧』の拳が掠った。

 それだけで体勢を崩し、エルドさんが吹き飛んだ。

 木々の奥に消えていってしまったので、俺の位置からは生死は分からない。

 

「くそッ……よくも!」

 

 再び『鎧』の肩の上へと戻った顎の巨人を見て、グンタさんが歯をくいしばって叫ぶ。

 

 チッ、やっぱり強え。

 リヴァイ兵長なら単独でも顎の巨人に勝てそうだが、鎧の巨人がそれを許さない。

 ともかく、まずは鎧の巨人だ。

 何とかして俺が鎧の巨人を押さえ込めば、その隙にリヴァイ兵長が顎を倒してくれるだろう。

 ここは少し強引にでも、奴らを分断してやる……!

 

 大きくバックジャンプして一旦距離を取り、俺はアリーセに合図を送った。

 すぐさま彼女は頷くと、俺の送った合図通りに動き始めてくれる。

 よし、アリーセなら間違いなく完璧に援護してくれるだろう。

 俺は彼女を信じて、ただ突っ込め!

 

 硬質化した両の拳を握りしめ、俺は真正面から『鎧』と『顎』に突貫する。

 腕の再生を終えた顎の巨人が跳躍して、頭上の枝へと掴まってぶら下がった。鎧の巨人の方はその場で腰を落として、俺を迎撃する姿勢。

 ほら、お得意のパワーバトルをしてやる。

 来いよ、鎧の巨人!

 

 顔面を狙って、俺は拳による大ぶりの一撃を放つ。

 それを鎧の巨人は僅かに首を傾けるだけで避け、反撃として俺の顔を狙って拳を繰り出して来た。

 

 クロスカウンター……ッ!?

 

 マジかよ、そんな大技まで使えんのか。

 冗談じゃねぇ……完璧に、予想通りだ。

 

 膝を曲げて腰を落とし、首を傾けて鎧の巨人の拳を躱す。

 最初に放った大ぶりの一撃は、相手のカウンターを誘発するただのブラフだ。

 鎧の巨人の腕の下を潜り抜け、奴の腕を首ごと右腕で締める。そして足を払い、渾身の力で投げ飛ばした。

 俺と共に背中から倒れ込んだ、鎧の巨人の目が見開かれる。

 アニの格闘術が鎧の巨人に効果的ってことは、原作のエレンが教えてくれているんだよ。

 そのまま極技へと移行し、鎧の巨人の関節を締め上げる。

 

「『女型』が鎧の巨人を投げ飛ばした!」

 

「やったぞ!」

 

「ダイナ、上だ!」

 

 兵士たちの歓声に混じって、警告を発するフォルカーの声が聞こえた。

 鎧の巨人を拘束する力を緩めずに上を見れば、顎の巨人が俺に向かって爪を振り下ろしてくるところだった。

 うなじを硬質化で守る余裕はない。

 だが、鎧の巨人の拘束を解く必要もない。

 

「るるるああああああああああッ!」

 

 狙っていたかのような絶妙なタイミングで飛来したアリーセが、顎の巨人の眼球を切り裂いていた。

 視力を奪われた顎の巨人が俺への攻撃を外し、すぐ横に頭から墜落する。

 ここだ……っ!

 

 渾身の力を込めて鎧の巨人の右腕を引き千切り、その勢いのまま首を掴んで上体を後ろへと反らす。

 バックドロップ。

 持ち上げた鎧の巨人を後ろへ倒れた勢いを利用して、頭から地面に叩きつける。

 軽度の脳震盪を起こしたのか、動きが鈍くなった鎧の巨人を放置して、次は視界を奪われてまともに動けない顎の巨人に拳を叩き込んだ。

 小柄な『顎』が水切りの石のようにバウンドしながら吹き飛んでいく。

 

「ダイナさん、今です!!」

 

 『鎧』と『顎』の距離が大きく開いたのを見て、アリーセが叫んだ。

 これが最後のチャンス。

 もう今の技は鎧の巨人には通じないだろう。何度も同じ技が通じるほど、鎧の巨人は弱くない。

 ここで絶対に分断しろよ、俺。

 

 両手のひらを地面につけ、力を解放。

 範囲硬質化――!

 俺の両手を起点として、硬質化によって生み出された結晶が巨大な壁を構築していく。俺と鎧の巨人を取り囲むようにして現れる、高さ25メートルの円形の壁。半径は30メートルと壁の中は狭くて、網状の天井つき。

 これなら、外から顎の巨人が入ってくることは出来ねえだろ。だが網状なので、兵士は入ってこられる。

 当然、鎧の巨人も簡単には外に出られない。

 

 が、硬質化による構築が完全に終わるより早く。

 立ち上がった鎧の巨人が、残された左腕を振り上げた。

 もう動けるのか!? バックドロップのダメージが思ったより無かったのかよ……!

 まずい。今は硬質化能力の発動中。防げない。当たる。顔が狙われてる。重度の脳震盪が起きたら、鎧の巨人に負ける――

 

「これで、先ほどの借りは返しましたよ」

 

 ラウラの声がした瞬間に、ガクンッと鎧の巨人が膝から崩れ落ちる。

 見れば、ラウラが鎧の巨人の膝裏を深く切り裂いていた。

 アリーセにも負けないくらい完璧な支援。

 おかげで「壁」は完成し、完全に鎧の巨人と顎の巨人の分断に成功した。

 

 今ごろ、外ではリヴァイ兵長たちが顎の巨人と向き合っているだろう。

 確かに巨大樹の森での『顎』は驚異だが、今は兵長に加えて精鋭兵が何人もいる。十分以上の戦力。

 負ける要素の方が少ねえくらいだ。

 と、そこで網状の天井の隙間からさらに増援が現れたのが見えた。

 おそらく先行して捕獲地点に向かったエレンたちが、エルヴィン団長に状況を伝えたんだろう。

 

「――……ァァ」

 

 俺に千切られた右腕を再生しながら、鎧の巨人が立ち上がった。

 ここからは完全にタイマンとなる。

 しかし、有利なのは圧倒的に俺だ。

 鎧の巨人は壁外調査の開始から巨人化して俺たちを追いかけてきたからな。調査兵団を追ってそれなりの距離は走っただろうし、道中で兵士の妨害も受けたはず。

 今までの戦闘で『鎧』にも『顎』にも少なくないダメージを与えたから、その再生にも体力を使っただろうか。

 今さっき巨人化したばかりの俺より、かなり体力を消耗しているはずだ。

 そして、それは顎の巨人も同じ。

 ……勝てる。

 

 大きく息を吐いて、俺は拳を構える。

 そのまま鎧の巨人と睨み合うこと数秒、先に動いたのは鎧の巨人だった。

 全身の筋肉を膨張させ、口から蒸気を吐き出しながら鎧の巨人が俺に向かって突進してくる。

 ショルダータックル……!

 猛烈な勢いで迫り来る鎧の巨人。

 しかし、俺は小さく笑った。

 半径30メートルしかないこの壁の中で、体当たりを選ぶのは悪手だろう。

 まともに助走も出来てねえタックルなど、簡単に避けられる。

 

 ギリギリまで引きつけたところで半身となり、タックルを回避。

 無様にも壁に激突した鎧の巨人の背中に向かって蹴りを放つが、これは当たる直前で回避され、俺の足は壁を蹴りつけて終わる。

 俺の蹴りを躱した鎧が、横薙ぎの拳で俺の頭部を狙う。

 それを硬質化した腕で受け止めるが、想像以上のパワーで僅かに吹き飛ばされてしまう。

 

 チッ、受け止めた右腕の骨にヒビが入った。

 すぐさま修復のために、力を右腕に注ぎ込む。

 だが鎧の巨人は再生させてたまるかと、止まることなく追撃を仕掛けてくる。

 再びのショルダータックル。

 これもギリギリまで引きつけて躱し、また壁にぶつかった鎧の巨人に左の拳を放つ。

 が、鎧の巨人が素早く膝を曲げてしゃがんで俺の左拳を回避。

 すぐさま拳を引き戻すが、間に合わずに鎧の巨人に掴まれる。

 

 やべぇ、純粋な腕力勝負じゃ分が悪い。

 何とか振り解こうと蹴りを繰り出すが、俺の足が鎧の巨人に当たるより早く、体が持ち上げられた。

 これ以上もがくのは諦め、受け身の体勢に。

 直後、背中から壁に叩きつけられてしまう。

 咄嗟に顎を引いたので頭は守れたが、背骨から嫌な音が聞こえてきた。

 右腕の次は背中かよ……っ。

 

 膝をつく俺の頭を狙って、右足を持ち上げる鎧の巨人。

 それを転がって回避し、鎧の巨人の足が壁に当たるのを見ながら、壁を背に立ち上がる。

 そんな俺に向かって、鎧の巨人は三度めのショルダータックルを繰り出してきた。

 だから、当たるかっての!

 先ほどと同じ光景が繰り返される。

 直撃を食らう直前に俺が回避し、鎧の巨人がまた壁にぶつかる。

 

 ……?

 何でこいつ、当たらねえのが分かっててタックルばっかり――……!?

 

 そこで、ようやく俺は気づく。

 この壁の中での戦闘が始まってから、奴が常に壁の近くで戦っていたことを。そして、事あるごとに壁に攻撃していたことを。

 最初のタックルに始まり、俺を持ち上げて投げた時も壁にぶつけた。

 踏みつけの攻撃も、本当は俺の頭ではなく壁を狙っていたのだとしたら?

 

 咄嗟に自分の手で作り上げた壁を見る。

 そこには幾度となく鎧の巨人の攻撃と戦いの余波を受けて、ヒビが入っていた。

 確かに即興で作った壁だが、榴弾だって傷一つなく防げる硬度なんだぞ……!

 くそが、どんなパワーをしてるんだよ!

 

 思わず奥歯を噛み締めてしまうが、もう遅い。

 鎧の巨人はその頑強な体にさらに硬質化を加え、口から大量の蒸気を吐き出す。一目で分かる、次に渾身の一撃を繰り出すのだと。

 間違いない。次で壁を破るつもりだ。

 どうする?

 躱せばせっかく作り上げた壁が破壊され、だが受け止めれば俺は大ダメージを受けてしまう。

 ……あの技は?

 いや、確かに鎧の巨人の渾身のタックルすら防げるかもしれないが、準備に時間がかかる。

 そんな時間はねぇ。

 

「オオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 俺が対策を講じるより早く。

 鎧の巨人が地面が陥没するほどの力で踏み込み、渾身のタックルを繰り出した。

 慌てて横っ飛びをして避けるが、相手はそもそも俺など狙ってはない。奴の狙いは、俺の背後にあるヒビが入った箇所なのだから。

 地震かと思うほど大地を揺るがしながら、壁へと激突する鎧の巨人。

 高さ25メートルの壁が震えて、巨大な穴が開いた。

 

 砕け散った壁と共に、鎧の巨人が外へと飛び出していく。

 慌てて俺も外に飛び出した。

 そこで俺の視界に飛び込んできたのは、全身を斬り刻まれ血塗れで地面に倒れ伏す顎の巨人。そして今まさに『顎』にとどめを刺そうとしていたリヴァイ兵長。

 その周囲には最初からアリーセたちに加え、増援として来たらしいペトラさん、オルオさん、クリスタ、ドミニクの姿もあった。

 

 壁を破った勢いをそのままに、鎧の巨人が『顎』の下へと疾走。

 周囲を飛び交う兵士たちの中を突っ切ると、鎧の巨人は何かから守るように顎の巨人に覆い被さった。

 そして、鼓膜が破れるかと思うほどの雄叫びを上げる。

 その声量は、周囲のリヴァイ兵長たちが思わず耳を塞いで蹲ってしまうほど。

 

 顎の巨人が回復するまで盾になるつもりか……?

 いや、もう無理だろう。

 俺の見る限り、顎の巨人はもういつ巨人の体を維持できずに力尽きてもおかしくない程に消耗している。

 今さら時間稼ぎをしたところで、何の意味も――

 

 パシュン、と。

 木々の奥からそのワイヤーの射出音が聞こえたのは、間違いなく奇跡だったと思う。

 また増援かと音が聞こえた方向へと視線を向けると、深くフードを被った兵士が巨木を利用して大きく飛び上がるところだった。

 真上から攻撃を仕掛ける気か?

 どの角度から攻撃しても、鎧の巨人が防御に徹している限り何の意味もねぇだろ……

 そこで。

 フードの奥に隠れたその兵士の顔が、一瞬だけ見えた。

 

 おい、まさか、嘘だろ!?

 お前まで来てるのかよ……ッ!!

 

 それを見た俺は、残る力の全てを消費する勢いで走り出す。

 王家の血筋の力まで解放して身体能力をブーストし、一瞬で最高速度に。

 そしてアリーセとその周囲にいた兵士をまとめて鷲掴みにし、胸元に抱えて蹲った。同時に力を振り絞って出来る限り大きな壁を築く。そして全身を硬質化した俺は、次の瞬間に襲ってくるだろう衝撃に備えて地面を踏みしめた。

 

 その直後。

 巨大樹の森を丸ごと吹き飛ばすのではないかと思うほどの、強烈な熱風が吹き荒れた。

 樹高80メートルを超える巨木が小枝のように吹き飛び、僅かに残った枝葉が燃えていく。

 もちろん、吹き飛ばされたのは木々だけではない。

 俺が庇いきれなかった兵士が黒焦げとなり、ボロ雑巾のように吹き飛んでしまう。

 

 そして更地と化した巨大樹の森の中心部に、途方もなく巨大な影が姿を現わす。

 実に60メートル級。

 マーレからは破壊の神とまで呼ばれる超大型巨人が、燃え上がる殺意を閉じ込めた眼で俺を見下ろしていた。






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