カルラ・イーターに憑依しました(凍結)   作:緋月 弥生

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【前回のあらすじ】

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ダイナ&アリーセ&ラウラ「「「アクセサリー買っただけなのに!?」」」


第25話 巨人化能力者捕獲作戦

 ストヘス区にある、憲兵団の支部の1つ。

 上官たちが酒を飲みながら賭け事をして盛り上がる部屋の前に整列した新兵たちは、突如として与えられた任務に困惑の表情を浮かべていた。

 

「調査兵団との連携を強化するために、新兵同士で合同訓練を行うのは分からんでもない。だが、装備をせず私服で待機とはどういうことだ……?」

 

 生来の性格から雑な仕事を行う上司に対してバカ真面目な発言をしてしまった為、指揮官に選ばれてしまったマルロ・フロイデンベルクは訝しげに呟く。

 特に何の目的があるのかも分からない雑務を押し付けられるのは日常茶飯事だ。もはや慣れてしまってすらいる。

 だからそれは別に構わないのだが、今回の仕事は特に意味がわからない。合同訓練とあるのに私服で待機するだけで、立体機動装置すら身に付けないとはどういうことなのか。

 真剣な表情で上司に押し付けられた任務内容が纏められた書類と睨み合うマルロの背中を、隣に立っていた女性兵士が強く叩いた。

 

「何するんだ、ヒッチ! 俺は今、与えられた仕事の意義を……」

 

「そんなのどうでも良いでしょー。要するに私服でぼーっとしてるだけでしょ?」

 

 憤慨するマルロの声に自分の声を被せた女性兵士――ヒッチは、自分の髪を弄りながら、

 

「楽な仕事でラッキー、くらいの感覚で良いんじゃないの? せっかく腐敗した組織なんだから、利用しないとね。新兵のうちは雑務を押し付けられるのは面倒いけど」

 

 そう言って木桶を蹴り飛ばすヒッチを見て、マルロが奥歯を噛み締めた。

 

「自分のことしか考えられないクズが……」

 

 喉の奥から絞り出すようなマルロの声に、近くにいた同期が反応して口を出す。

 

「マルロ……自分は違うとでも言いたいのか? 憲兵団(ココ)を選んだ時点でお前も同類だろうが」

 

「違う! 俺はこの腐った組織を正すために入団したんだ!

 

「えー!? すごーいマルロ、アンタそういう奴だったの?」

 

 拳を握りしめて熱弁を振るうマルロに、可笑しくて堪らないとヒッチが手を叩いて笑う。彼女につられて、周囲にいた他の新兵たちも苦笑を浮かべた。

 憲兵団に入団する者のほとんどは、内地での快適な生活が目的だ。そんな者たちからすれば、憲兵団が腐敗している方が都合が良い。

 自分から茨の道を行くマルロの姿は、彼らからの目にはさぞ滑稽に見えただろう。

 しかし、そんな新米憲兵の中でもマルロのことを笑わなかった者が2人。

 

「いいや。お前は間違ってないぞ、マルロ。どんな仕事であれ、全力で臨むのが本当の兵士だ」

 

「ああ……その通りだ」

 

 マルロの肩に手を置いて彼を庇うのは、2人の男性兵士。

 それは短い金髪に角ばった輪郭が特徴的な大柄で筋骨隆々な青年と、高身長で黒髪のこれといって目立たない青年だった。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ウォール・シーナ西部、ヤルケル区駐屯兵団支部近くの裏路地にて。

 

「久しぶりだね、ユミル」

 

「お前……アルミン、か……? その格好は一体どうしたんだ?」

 

「荷運び人さ。立体機動装置を雨具で隠してるんだ」

 

 そう言って雨具の下にある立体機動装置を見せたアルミンに、ユミルは目を見開く。

 

「おい、そりゃ何の真似だ?」

 

「ユミル、エレンを逃がすことに協力して欲しいんだ」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 寝巻きを脱ぎ捨て、もう着慣れた兵服に腕を通す。

 腰に立体機動装置を装着し、調査兵団の象徴である深緑のマントを羽織った俺は、エルヴィン団長、リヴァイ兵長、エレンの影武者のジャンそして憲兵団のトップであるナイル・ドーク団長と共に馬車へと乗り込んだ。

 言わずもがな、アリーセも一緒だ。

 フォルカー、ラウラ、クリスタの3人はすでに対顎の巨人に備えて、ヤルケル区内の持ち場で待機中だろう。

 エレンたち幼馴染3人組が上手く作戦を進めているなら、今ごろユミルと接触しているくらいか。

 

 5人全員が乗車すると、すぐさま馬車は動き出した。

 さて、随分と『原作』とは違う内容の捕獲作戦になっちまったが……果たして成功するのやら。

 個人的な考えだが、アニと比べればユミルの方が弱い。

 まぁ、当たり前だわな。

 アニが厳しい訓練の末に選ばれたマーレの戦士であるのに対して、ユミルは俺と同じで偶然奴らから巨人の力を奪うことに成功した略奪者に過ぎないのだから。

 巨人化能力の熟練度がまるで違う。

 

 そして、巨人化には意外と「適性」がモノを言うらしい。

 同じ『顎』を継承しているのに、ユミルとポルコ・ガリアードの巨人体は大きく姿や性能が異なるのがその証拠だな。

 無垢の巨人の中にも個体差が現れるのも、元となった人間の適性が大きく作用するからだろう。

 要するに高い適性を持つ奴が素体になると、その適性の高さに比例して巨人体のスペックも高くなるってことだ。足の速さやスタミナ、大きさとか。

 

 で、恐らくユミルはそんなに適性が高くない。

 ガリアードと比べると、そこまで顎の巨人の力を引き出せている訳ではなさそうだ。

 強敵であることには変わりないが、どうしても勝てない相手じゃねぇ。

 アニには通用しなかった「捕獲兵器」も、小柄な『顎』が相手なら効果は抜群だろうし。

 勝算は、ある。

 

「お前がエルヴィンの鬼札か。確か名前は――」

 

「ダイナです。よろしくお願いしますね、ナイル・ドーク師団長」

 

 顔を強張らせ、冷や汗を流しながら話しかけてくるナイルさん。

 気持ちはもちろん十分に理解できるが、その反応は地味に傷つくな。まぁ、こんな密室空間に巨人化能力者がいると知ればそうなるか。

 

 そう、今回の捕獲作戦における『原作』との最大の違いは、憲兵団がグルということだ。それと駐屯兵団も憲兵団の下に位置するので、自然と駐屯兵団の兵士も利用させてもらってる。

 尤も、俺の正体や作戦の全貌を知っているのは、トップであるナイルさんだけなんだけどな。

 『原作』では憲兵団にもまだ巨人化能力者が潜んでいる可能性があるために、憲兵団に協力を依頼することが出来なかった。

 しかし、俺がいるなら話は変わる。

 既に全ての巨人化能力者を炙り出せたのだから、何の心配もなく協力を依頼できるって訳だ。

 ライナーとベルトルトが2人揃って憲兵団にいたのは、流石にビビったが。

 

 ともあれ、今回の作戦内容はこうだ。

 まずはエルヴィン団長とナイルさんが協力して、調査兵団と憲兵団の新兵による偽の合同訓練を行う。

 これによって、憲兵団に入ったライナーとベルトルトをターゲットであるユミルから隔離。

 今ごろヤツら2人は、捕獲作戦に参加しなかった104期の調査兵や憲兵団に入った104期と共にウォールローゼの南区にいるだろう。

 ミケ分隊長が率いるフル装備の精鋭調査兵に囲まれて。

 多少の差異はあれど、これは『原作』と同じだな。

 

 そしてエレン、アルミン、ミカサの3人が、これまた『原作』通りにユミルに接触。

 地下深くに誘導して捕獲する一次作戦に始まり、ハンジさんの部隊が行う「捕獲兵器」で捕獲を試みる三次作戦まで用意してある。

 もうエレンが巨人化する必要すらない気がするが、戦場は立体物の多いヤルケル区内。

 前回の巨大樹の森程ではないだろうが、顎の巨人の機動力が活かせる地形だ。高速機動する『顎』を仕留め損なう可能性は十分にある。

 その時は、まぁ、エレンに頑張ってもらおう。

 大丈夫、相手がユミルなら勝ち目はあるぞ。対人格闘術ならエレンの圧勝だろ。

 

 じゃあ俺たちは何するかって話だが、こっちは襲来するだろう獣の巨人の相手だ。

 獣の巨人を捕獲するか、討伐するか、撃退するのが俺の任務だな。

 今俺たちが乗っている馬車は、獣の巨人の出現予測地点であるウトガルド城に向かっている。

 もちろん、ラガコ村を経由して。

 出来れば村人が巨人化させられるのを防ぎたい。人命救護だけでなく、相手側の戦力低下と一石二鳥だし。

 しかし獣の巨人の出現するタイミングは大雑把にしか予想出来ないので、必ずラガコ村の住民を助けられるとは限らない。

 この辺りは、悪いが運任せだ。

 俺だって全知全能の無敵キャラって訳じゃないからな。

 

 つまりは、鎧の巨人(ライナー)超大型巨人(ベルトルト)を隔離している間に顎の巨人(ユミル)獣の巨人(ジーク)をやっちまおうぜ作戦だ。

 大雑把な戦闘の構図としては、以下の通り。

 ハンジさんの分隊、エレン、ミカサ、アルミン、ペトラさん、オルオさん、フォルカー、ラウラ、クリスタ等VS顎の巨人。

 ミケ分隊長、ナナバさん、ゲルガーさん、リーネさん、ヘニングさん、隔離された104期生VS鎧の巨人&超大型巨人。

 エルヴィン団長、リヴァイ兵長、俺、アリーセ、ナイルさん、ジャンVS獣の巨人。

 

 もはや総力戦だな、これ。

 まあ、真ん中はあくまで隔離してるだけの予定だから戦闘にはならないと思うけど。

 万が一ベルトルトとライナーが異変に気付いて動き出したら、ミケ分隊長たちはかなり厳しい戦いになるだろう。

 何せ鎧の巨人は兵士には倒せないからな。

 あそこが戦闘に発展しないことを祈るしかねえよ。

 

 因みに獣の巨人についてをエルヴィン団長にどう説明したかというと、巨大樹の森で戦った時に奴らの記憶に干渉して情報を抜き取ったと嘘をついた。

 要するに『抜き取った奴らの記憶によると、捕獲作戦決行時に新手が出現するようです』と言った訳だ。

 

「まさか、調査兵団がエレンの他にもう1体巨人を隠し持っているとはな」

 

「説明した通り、彼女は人類にとって必要な存在だ。今は敵対するべきではない」

 

「ああ。そこの女が巨人化して壁内で暴れるのを防ぎたいのなら、このことは黙っておくことだ」

 

 何故もっと早く俺の存在を公表しなかったのだと遠回しに責めるナイルさんに対して、団長と兵長がそう返す。

 するとナイルさんは苦虫を噛み潰したような表情で、

 

「エルヴィン。お前のやり方の全ては受け入れられないが、お前が今までこの女を制御していたのも事実だ。1年以上もな。お前の能力は信用している」

 

「そうか、なら良い」

 

 相変わらず、いつ暴発するか分からない不発弾みたいな扱いされてるわ。

 これ以上エルヴィン団長たちの会話を聞いてても良いことは無さそうなので、俺は窓の外へと視線を向ける。

 流れていく景色をぼーっと見ていると、ほんの一瞬だけ空が光った。

 ……誰か巨人化したな。

 タイミング的に考えると、ユミルである可能性が高い。

 ということは地下深くに誘導して捕獲する、第一次作戦は失敗しちまったか。

 頼む、第二次作戦と第三次作戦で何とか捕獲してくれよ……!

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 空から雷が降り注ぎ、轟音と共に蒸気が充満する。

 そして現れたのは、およそ5メートルの巨人。

 

「始まりましたわね」

 

 顎の巨人が現れた位置からは少し離れた場所で、望遠鏡を覗いて様子を見ていたラウラが呟く。

 すると隣に立っていたフォルカーが、超硬質ブレードを引き抜きながら応じた。

 

「そのようだな。どうやら相手は、ホイホイ地下に誘導されてくれるような間抜けじゃないらしい」

 

「この程度は想定内ですの。二次作戦に移行しますわよ」

 

 そう言うと同時に、ラウラはワイヤーを射出して顎の巨人の元へと向かう。

 その後を、フォルカーが慌てて追いかけた。

 

「なぁ、ラウラ。俺の方が階級上ってこと忘れてねぇか?」

 

「偉ぶるのは、私の討伐数を上回ってからにして下さいな」

 

「上官侮辱罪で牢屋に入れてやろうか……」

 

 緊張をほぐすためにそんな軽口を叩き合いながら、2人は建物の屋根を伝って疾走する顎の巨人へと追いすがる。

 ……が、

 

「くそ、速え!」

 

 舌打ち混じりにフォルカーが叫ぶ。

 どうやら顎の巨人はエレンの捕獲は早々に諦め、撤退に全力を尽くすと決めたようだ。

 『顎』は少しもその速度を緩めることなく、壁へと一直線に向かっていく。

 精鋭兵であるフォルカーやラウラですら、建物を利用して高速機動する顎の巨人には追いつけない。だからこそ、そんな精鋭兵すらあっさりと追い抜いた少女の姿に2人は目を見開いた。

 ラウラとフォルカーを一瞬にして突き放し、顎の巨人へと迫って行く黒髪の女兵士。

 その名をミカサ・アッカーマン。

 今はまだリヴァイの住む領域に届いてはいないが、片足を踏み込んでいる『常識外の怪物』。

 

「ユミル、止まって」

 

 ミカサは顎の巨人にそう囁くと同時に、アンカーを『顎』の背中へと打ち込む。

 咄嗟に身を捻りワイヤーを掴もうとする顎の巨人だが、ミカサの方が速かった。ガスを最大出力で吹かしたミカサの華奢な体が加速し、残像すら見える速度で顎の巨人に肉薄。彼女が刃を一閃すると、顎の巨人の右肩が大きく裂ける。

 それによって四足歩行していた顎の巨人は大きく失速し、屋根の上で動きを止めてしまう。

 そして刹那の間に生まれたその好機を、ハンジ・ゾエは逃さなかった。

 

「撃て――ッ!!」

 

 用意されていた「捕獲兵器」が一斉に火を吹き、樽から放たれたアンカーが顎の巨人目掛けて殺到する。

 まさに完璧なタイミング。

 傷を負ったばかりの顎の巨人では、まず回避は不可能。

 

「っしゃあ! 決まった!」

 

 捕獲の成功を確信してようやく追い付いたフォルカーがそう叫んだ瞬間、顎の巨人がその本領を発揮した。

 『顎』は建物の屋根に穴を開けるほどの力で跳躍すると、空中で硬質化した巨人の皮膚すら引き裂く爪で、次々と飛来するアンカーを迎撃する。その結果アンカーは半分も刺さらず、顎の巨人はあっさりと拘束を振り払った。

 そして油断していたフォルカーに向かって、その爪を振り下ろす。

 

 パッと。

 ラウラの視界が、赤く染まる。

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