カルラ・イーターに憑依しました(凍結)   作:緋月 弥生

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第28話 『女型』&兵士長VS『獣』&『車力』

 ――死んだはずだ。悪い夢だ。そうに決まっている。あり得ない。楽園送りになった。あの父親と一緒にだ。俺が告発した。もう十数年も前に。アレは偽物だ。他人の空似だ。いや違う。俺のことを知っていた。本物。ダイナ・イェーガー。母親。俺の。まさか父親も生きているのか? それとも俺が告発したことで楽園送りになった全員が生きていて、俺のことを今も恨んd#&/_○:^/〜=j%#¥a$j€8&,g=〆a@m6・^||++・*<……!!??

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 まるで何かの限界が訪れたかのように、ジークは頭を抱えて絶叫する。

 その背後に現れるのは、超硬質ブレードを振り上げるリヴァイ兵長。

 刃が霞むほどの速度で横薙ぎの斬撃が走り、鮮血が舞う。刃の軌道上にあったのは、ジークの両腕だ。

 

「あああああああ、っあ、ああ、があああああああああっ!?」

 

「うるせぇぞ、髭面野郎。どうせお前もまた生えてくるんだろ? トカゲみてぇにな」

 

 赤い線を引いて吹き飛んでいく己の腕を見て絶叫に絶叫を重ねるジークの背中を、リヴァイ兵長が蹴り飛ばす。

 両腕を失い、頭から地面に倒れ伏して血の海に沈むジークはピクリとも動かない。

 あまりに呆気ない決着。

 しかし、覆しようのない決着だ。

 今ならまだ腕の傷をトリガーに巨人化できるだろうが、再生が始まれば巨人化が出来なくなる。

 そして今のジークに巨人化に必要な「強い意思」は持てない。

 戦闘終了。

 

 ジークから視線を外し、俺は何気なくボロボロになったラガコ村を見渡す。

 おそらく、殆どの住民が家の中にいたのだろう。どの家も内側から爆散したような形で壊れていた。

 『原作』で見た、自分の母親が巨人になったと知った時のコニーの顔が浮かんでくる。

 ……俺たちが後もう少し早くここに来ていれば、助けられたのだろうか。

 

 ふとそんなことを思った、その時だった。

 リヴァイ兵長とジークを挟んで、馬車の対面にある瓦礫の山と化した家。その中で息を潜めている誰かと、俺の視線が交錯する。

 村の生き残りじゃねぇ。

 俺は目が合った相手の顔を、知っていたのだから。

 ラガコ村に知り合いはいない。なのに見覚えがある。

 それはつまり『原作知識』に色濃く残る人物だということ。

 

 自分の頬をナイフで浅く切り裂いて鮮血を流す、長い黒髪のその女性は。

 

「兵長、後ろです!!」

 

 反射的に叫んでいた。

 凄まじい反射神経を発揮してリヴァイ兵長が振り返り、俺も愛用の護身用ナイフで自傷しようとするが、ほんの僅かに間に合わない。

 空が眩く輝き、落ちてきた雷が廃屋へと突き刺さる。

 轟音と共に爆風が吹き荒れ、俺はリヴァイ兵長や馬車もろとも大きく吹き飛ばされた。それでも空中で何とか姿勢を制御し、新手の姿を確認すべく俺は目を見開く。

 蒸気の中から現れたのは、面長の顔の四足歩行の巨人。

 

 『車力』……ッ!?

 予想外の不意打ちを受けて頭が真っ白になるが、奥歯を噛み締めて必死に思考を回す。

 何でここに車力の巨人がいやがるんだよ。

 『原作』を思い返してみても、ウトガルド城での戦いでピークさんはいない……あ。

 いた。

 ジークが巨大樹の森でリヴァイ兵長に「ガス兵器」の説明をしている時の回想に、車力の巨人は確かにいた。

 

 ちくしょう、やっちまった!

 一番やってはいけないことを、こんな大切な時にやらかしてしまった。

 『原作知識』を持ちながら、重要な情報をド忘れするという大失態。思わず拳を握りしめてしまうが、今さら後悔しても何も変わらない。

 巨人化の際に引き起こされた風圧でなす術なく吹き飛ばされる俺の前で、車力の巨人がジークの下半身を咥え込んだ。

 

「クソ……ッ!」

 

 リヴァイ兵長が俺と同じく吹き飛ばされながらも体勢を整え、車力の巨人に向けてアンカーを放つ。だが、射出したワイヤーは風圧によってあらぬ方向へと飛んで行ってしまう。

 そして、後退を始める『車力』。

 こんなチャンスはもう二度と訪れない。

 ここで逃したら、ジークはパラディ島に対して高い警戒心を抱くはずだ。なら、次に行われる攻撃はさらに苛烈なものとなる。

 マーレに本気で攻められたら、俺たちに勝ち目はねえ。アリーセも死ぬ。

 そんな未来は許さない、絶対に逃がさん!

 

 大地に手をついて、受け身をとって転がりながら着地。

 護身用ナイフで手のひらを斬り裂いて自傷を行い、「獣の巨人を捕らえる」という意思の元、俺は巨人化すべく顔を上げる。

 すると、同じように傷口から稲妻を迸らせるジークと目が合った。

 

「クサヴァーさん、見ててくれよ! 俺はもう一度母さんを殺して、全てのエルディア人をこの残酷な世界から救う未来を作るから!」

 

「アリーセの未来を奪う安楽死計画など、(オレ)は認めない! 未来を作るのは(オレ)たちだ!」

 

 俺が血が流れる拳を握り締め、ジークが切断された両腕を掲げる。

 直後、空から2つの雷光が交錯しながら落ちてきた。

 傷口が目に見えない「道」と繋がり、巨人の血肉と骨格が刹那の間に生み出されていく。本体に巨人の肉が癒着し、神経系が接続。

 同タイミングで巨人化した俺とジークは、膨大な量の蒸気を放出しながら向かい合う。

 

 互いに巨人の力の真価を引き出すことが出来る、王家の血を引く者。

 巨人化能力の練度は、おそらく同等かジークが僅かに上回ると思われる。

 俺が15メートル級、ジークが17メートル級とサイズも相手が有利だ。

 さらに向こうには『車力』も控えている。

 しかし『女型』と『獣』なら女型の巨人の方が戦闘向き。『車力』の持久力は凄まじいが、『原作』を見る限りじゃそこまで戦闘能力が高くはないだろう。

 加えて至近距離で向かい合っているため、奴は得意の投擲攻撃が使えない。

 それに、こちらには作中最強たるリヴァイ兵長とエルヴィン団長ら精鋭兵がいる。

 戦力は、ややこちらが有利か。

 

「チッ、どいつもこいつも直ぐにデカくなりやがる」

 

 拳を構えて『獣』と『車力』の出方を窺っていると、舌打ちしながらリヴァイ兵長が俺の頭の上に飛び乗った。

 兵長は吹き飛ばされた際に折れたと思われる刃を捨て、新しい刃を鞘から引き抜きぬく。

 そして口を開いた兵長から、

 

「ダイナ、お前は奴らの動きを止めることに集中しろ。中身は俺が引き摺り出す」

 

 という心強いお言葉を頂いた。

 敵に回したら笑えないが、味方となると本当に頼りになるな。

 『原作』で何度も『獣』を圧倒したリヴァイ兵長がいる今なら、勝機は十分にある。

 ここで『獣』と『車力』を纏めて潰す。

 ジークとピークを捕獲して情報を吐かせた後に、信頼できる人物を俺の脊髄液で巨人化させて食わせれば良い。

 妥当な相手は、フォルカーとラウラか。

 フォルカーは巨人化能力者である俺にも幾らか心を開いてくれてるし、ラウラはアリーセをダシにすれば味方になるだろう。

 そうすれば俺とアリーセの陣営は、『女型』、『獣』、『車力』の3つの力が手に入る。

 

 硬質化能力を発動。

 両拳が青白く輝く膜に覆われたのを確認。

 行くぞ、獣の巨人。

 俺は獣の巨人に向かって大地が陥没するほどの力で右足を踏み込み、体を捻ってエネルギーを腰、肩、腕、拳へと伝えていく。

 全体重を乗せた渾身の右ストレートだ。

 あまりの威力と速度に衝撃波すら生み出すそれを、俺は容赦なく獣の巨人の顔面へと放つ。

 しかし、ジークは咄嗟に首を傾けることでこれを回避。カウンターの拳が俺の顔を狙って飛んでくる。

 すぐさま膝を曲げて腰を落とし、紙一重で躱す。元から俺と『獣』には2メートルの身長差があるので、腰を落とせば比較的簡単に拳打は避けられるんだよな。

 体がデカいってのは確かにアドバンテージだが、何のデメリットもない訳じゃない。

 

 拳を掻い潜るようにして避けた俺は、さらに足を踏み出して前へ。

 獣の巨人と密着するほど近づき、下顎を狙ってアッパーを繰り出す。『獣』は仰け反ることで回避に成功したが、敵がゼロ距離にいる状態で体勢を崩すのは悪手だろう。

 右肘を硬質化させ、渾身の肘打ちを獣の巨人の鳩尾へと叩き込む。

 肋骨がまとめてへし折れる凄絶な音が鳴り響くと同時、獣の巨人の巨体が吹き飛んだ。

 このまま追撃でトドメを――

 

「オオオオオオッ!!」

 

「ッ!?」

 

 そこで、今まで沈黙していた車力の巨人が大口を開いて真後ろから飛びかかってきた。

 ギリギリのところで体を反転させ、『車力』の口内に硬質化した拳を叩き込んでやる。歯が砕け、顔面をひしゃげさせて、カウンターを受けた車力の巨人が大地に沈んだ。

 倒れ込んだ『車力』の腹を蹴り飛ばし、獣の巨人と同じく吹き飛ばす。

 

「これが巨人化能力者同士の戦いか……!?」

 

「こんなの、兵士の出る幕じゃねぇぞ……!」

 

 ひとまず最初の攻防を終えたところで、吹き飛んだ馬車から出てきたナイルさんとジャンの掠れた声が聞こえてきた。

 どうやら、今まで馬車の中にいることで俺たちの戦いの余波から身を守っていたらしい。援護しようと出て来たのは良いけれど、巨人同士の戦いを見て絶句してるってところか。

 支援しようとしてくれるのは嬉しいんだが、下手に動かれたら巻き込んでしまいそうで怖いんだよな。

 スケール的には、人間と人間が喧嘩しているところを虫が飛び回るようなもんだし。

 

 まぁ、1つ例外を挙げるなら……

 

「――――ッ!」

 

 俺に与えられた傷を再生して、立ち上がろうとした『車力』の両手両足がまとめて千切れ飛んだ。

 言わずもがな、躊躇なく3体の巨人が入り乱れて戦う場に飛び込んできたリヴァイ兵長だ。

 周囲に家はあるが、その大部分は瓦礫と化していて立体物として機能していない。要するにほぼ平地なんだが、どうしてこの人は知性巨人を圧倒してるんだろうか。

 俺が援護する必要もなく、攻防不能に陥った車力の巨人のうなじにリヴァイ兵長が迫る。

 

 決まったと思ったその瞬間、兵長の元に無数の巨大な何かが飛来した。咄嗟に『車力』のうなじを狙っていた兵長を鷲掴みにし、俺は自分の体を盾にして庇う。

 あっづ……っ!?

 まるで鈍器で殴られたかのような重たい衝撃が、後頭部と背中に走った。

 背骨が折れた、いや、まだヒビが入った程度か。これならすぐに再生できる。

 兵長を解放しながら、すぐに傷の修復を開始。

 

 つーか、今の何だ。

 獣の巨人が何かを投擲しやがったのか?

 そう思って獣の巨人が吹き飛んでいった方向に視線を向けると、そこには生き残っていた無垢の巨人を引き裂き肉塊を作っている『獣』の姿。

 あの野郎、ラガコ村の住人を『無垢』にした挙句にバラバラにして武器にしてやがる。

 無垢の巨人はうなじさえ傷つかなければ無限に再生するので、実質獣の巨人の残弾は無限だ。

 胸糞悪い戦法だが、効果的なのは間違いねえ。

 

「ダイナ、硬質化で壁を作れ!」

 

 獣の巨人が投擲モーションに入ったのを見て、リヴァイ兵長が俺の手の中で叫んだ。

 兵長の指示に従い、俺は兵長がいるのとは反対の手のひらで地面に触れて硬質化能力を発動する。

 まるで散弾のように、獣の巨人から無数の肉塊が放たれた。

 しかしそれらは俺と兵長には届かず、瞬時に形成された高さ20メートルの長方形型の壁にぶち当たって蒸発していく。

 

『な……っ!?』

 

 『女型』が『戦鎚』のような能力を使うのは流石に予想外だったらしく、獣の巨人の動きが止まった。

 その隙を、俺もリヴァイ兵長も見逃さない。

 

「右方に2つ。20メートル間隔で「塔」を建てろ!」

 

 イェッサー!

 兵長に命じられるままに、俺は立体物として使用できる「塔」を打ち建てる。

 「塔」が建つと同時に、兵長がそれを利用して獣の巨人へと突っ込んだ。

 すぐに獣の巨人も肉塊を投擲して迎撃を試みるが、兵長は「塔」を盾にして距離を詰めていく。

 

 このまま援護のみで終わるのもアレだ。

 俺も攻勢に出るか。

 自分で作り出した壁を少しだけ壊し、巨人の手のひらサイズの瓦礫を入手。

 それを握りしめて、俺は大きく振りかぶる。

 投擲のモーション。要するに意趣返し。

 兵長の迎撃に集中するあまり、俺に対する警戒が疎かになっていた獣の巨人の顔面を目掛けて全力で瓦礫を投げた。

 当たる一瞬前に獣の巨人は飛来する瓦礫に気づき、腕で防ぐが、その腕を兵長が切り落とす。

 

『いけえぇ――――ッ!!!』

 

 また腕を斬り落とされた獣の巨人(ジーク)が、叫びの力を発動させた。

 「道」を通じてジークの意思が10体の無垢の巨人に伝わり、彼らは一斉に兵長を狙って走り出す。

 が、甘い。

 

ッッオオオオオオオオオオオオ!!(動くんじゃねぇ――――ッ!!)

 

 今度は天を仰いで俺が叫んだ。

 ジークの意思を上書きするように俺の意思が「道」を通じて無垢の巨人に刻まれ、彼らの動きがピタリと止まる。

 これでリヴァイ兵長を妨げるものは何もない。

 獣の巨人の肩にアンカーが突き刺さり、立体機動装置がガスを吹いた。

 高速回転することで銀光の輪と化した兵長が『獣』のうなじを削ぎ落とし、ジークを強引に引き摺り出す。

 

 ……その筈だった。

 

 ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ!! と。

 重低音が連続して響いた。

 ジークによる投擲とは比べ物にならないほどの速度で、人間大の何かがリヴァイ兵長を狙って放たれる。

 その『何か』が巨大な鉄塊で、重低音は発砲音だと俺が気付いた時には手遅れだった。

 

 咄嗟に回避行動を取った兵長だが、いくら怪物染みた彼でも流石に音より速く放たれる人間大の銃弾までは躱せない。

 直撃こそしなかったが、無数の弾丸が兵長の体や立体機動装置に掠った。

 立体機動装置が空中でバラバラとなり、装備を失った兵長が地に落ちる。

 

 俺が走ったんじゃ間に合わねえ!

 兵長に最も近い無垢の巨人に向けて命令を出し、全力疾走させて落下予測地点へ。兵長が大地に激突する直前で、何とかキャッチに成功した。

 が、安心している暇などない。

 リヴァイ兵長を握りしめている無垢の巨人をこちらに呼び寄せながら、俺は車力の巨人を睨みつける。

 

 壁の中にそんなもん持ち込んでんじゃねぇぞ、クソッタレどもが……っ!

 頭部を覆う鋼鉄の仮面を被り、巨大な大砲を背負う『車力』。

 そして車力の巨人の背中で、巨大な大砲を操る数人のマーレ人。

 

 

 

 

 ――巨人を木っ端微塵にしてしまう超威力の大砲の砲門が、静かに俺へと向けられた。

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