カルラ・イーターに憑依しました(凍結)   作:緋月 弥生

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後日談2 交差する母と息子の野望

 ――どのくらいの時間、俺はアリーセを抱きしめていたのだろうか。

 一瞬にも永遠にも感じられた抱擁は、部屋の扉を乱暴にノックする音で終わりを迎えた。

 ……? 誰だ?

 リヴァイ兵長……じゃねぇよな。

 人類最強の兵士長殿は、現在ハンジさんと一緒にこの建物の地下に幽閉されているライナーに尋問(という名のほぼ拷問)を行なっている筈だし。

 まさか、前に人の記憶を読み取れるとか嘘ついたせいか? ライナーの記憶を探れとか言われたらどうすんだ。

 『原作知識』の中に、まだ役に立ちそうなモノは残ってたかな。

 

「アリーセはラウラの側に。客人は私が対応します」

 

 親友から離れながらそう言い、彼女が小さく頷くのを確認して俺は扉へと向かう。

 緊張で若干の冷や汗を流しながら扉を開けると、見覚えのない男女の姿が。

 いや、マジで誰だよお前ら。

 そんな言葉を飲み込み、改めて2人をよく観察して本当に初対面か記憶を探る。

 

 男の方はライナー以上ベルトルト以下のまぁまぁな長身で、俺よりも背が高い。兵服の上から見ても分かるほど体は鍛えられているが、線は細くて男にしては華奢な方だ。

 髪色は茶色。目の色は髪と同じ。

 顔立ちは整ってる方で、見るからに優男って印象を受ける。イケメンは爆発しろ。コイツ絶対にリア充だ。オーラで分かる。

 

 対して、女の方はラウラと同じくらいの身長で背が低い。

 兵士にしては珍しく髪が長くて、三つ編みにしたそれを右肩から前へと流している。

 髪の色は少し赤みがかかった茶色。瞳はルビーのように真紅色。

 腰に手を当て、不機嫌そうに柳眉を逆立てる赤の少女は眠り姫にも劣らないほど気が強そうだ。

 

 ……原作キャラ、じゃねぇ。

 漫画やアニメじゃ見たことないないしな。

 それと、この城に常駐して俺や他の巨人化能力者を見張っている調査兵でもなさそうだ。フォルカーを始めとした俺の監視兵の面々の顔は覚えているが、その中にこの2人はいない。

 つまり、このクソ辺境にある旧本部をわざわざ訪ねてきた調査兵という事になる。

 で、兵長じゃなくて俺のところに来たってことは……『排斥派』か?

 いや、それなら奇襲の効果が失われるノックしないだろ。本気で俺を殺す気なら、無言で入ってきて不意打ちで俺の首を飛ばせばいい。

 

 エルヴィン団長から俺への伝令兵……も、ないか。団長は第58回壁外調査の後処理で、王都ミットラスから出てこれねぇって兵長から聞いてるし。

 火急の用事でもない限り、わざわざ伝令兵とか送ってこないはずだ。火急の用事である可能性もなくはないが、壁内に潜む敵性巨人化能力者を全て排除したばかりの現状では限りなく低いものだろう。

 

 となれば、残るは――

 

「お見舞い……ラウラの友人ですか?」

 

「……まだ何も言ってないのに、よく分かったわね。そう、お見舞いよ。さっさと中に入れなさい。そこ邪魔」

 

「リーナ、いきなり失礼だよ」

 

 俺の問いかけに刺々しい言葉を返した赤の少女――リーナを、隣に立っていた優男が窘める。

 しかしリーナはクールダウンするどころか反対にヒートアップしたらしい。漫画ならキッ! という効果音が出そうなほど鋭い眼光が、隣の優男を貫く。

 

「はぁ!? なんで巨人に気を遣わないといけないのよ!」

 

「はいはい失礼の上塗りをしない。『女型』の機嫌を損ねて戦闘になったら、リーナは責任取れる? ……まぁ、責任云々より先に僕らは間違いなく殺されるだろうけどね。立体機動装置もないし」

 

「……っ」

 

 今さら巨人呼ばわりされた程度でキレねーよ。

 悔しそうに両手をぎゅっと握りしめ、唇を噛んで俯いたリーナ。そんな彼女に代わって、今度は優男の方が前に出てきた。

 

「相方が失礼しました。彼女、今ちょっと気が立ってて」

 

「お気になさらないでください。慣れてますから」

 

 謝罪の言葉と共に微笑む優男に、俺も愛想笑いで返す。

 これ、側から見たらすげぇ穏やかな会話に見えるんだろうな。

 このイケメン、よく見たら目が笑ってねぇ。隠し切れない殺気が僅かに全身から溢れてるし、コイツら本当に『排斥派』かもしれん。

 ただ、過激派ではないってだけで。

 俺を潰せるなら潰したいけど、調査兵団の上層部が友好的な態度を取ると決めたのと、単純に俺を殺せるだけの戦力がないから、表面上は友好的に接してるって感じ。

 リーナの方は感情的だからコントロールし易そうだが、優男の方は要警戒だな。腹の底が真っ黒だ。

 

「改めまして、僕はアベル。こっちがリーナです。ラウラとは同期で、本日はお見舞いに来ました」

 

「ご存知かと思いますが、ダイナです」

 

「話はもういいでしょ、早くラウラに会わせて」

 

 互いの自己紹介が終わったのと同時、これ以上は待てないとばかりに、リーナが再び不機嫌さ全開の言葉を放つ。

 その声がかなり大きかったらしく、何かあったのかと心配したアリーセがこっちにやって来た。

 

「ダイナさん、お客さんと何かあったんですか?」

 

 瞬間、リーナの小柄な体から殺気が爆発する。

 

「アリーセ・エレオノーラァッ!!」

 

 まるで飢餓状態の猛獣が、ご馳走を目の前にした時のような。荒々しい殺意の塊と化したリーナが、雄叫びを上げて俺の後ろのアリーセへと飛び掛かろうと大きく踏み込む。

 体が小さいからこその、俊敏な動作。

 俺もすぐさま親友を守ろうとリーナに摑みかかるが、初動が遅れたせいで間に合わねぇ……ッ。

 

 

 ――命令ですの。腕を捥がれようが、足を食い千切られようが、その心臓が鼓動する限り、お姉様を守りなさい。

 

 

 落雷に打たれたのかと思った。

 体の底から、激痛と共に力が湧き上がる。周囲の景色がスローになる。借り物の肉体のくせに、俺はダイナの体の全てが完璧に支配できる。

 脳ではなく意思が。神経ではなく『道』を辿って。

 脊髄反射すら凌駕するほどの反応速度で、俺の体が動く。

 

 自分でも信じられない速度だった。

 間に合わないと思ったはずの俺の手が、アリーセへと伸ばされたリーナの右手首を掴む。華奢な敵対者の体を強引に引き寄せ、足を払って放り投げる。

 リーナがいっそ芸術的なほど綺麗な半円を描いて宙を舞い、側頭部から床に激突した。

 

「リーナ!」

 

 受け身も取れずに床へと叩きつけられた相方を見て、アベルが俺に飛びかかる。胸元を掴もうと伸びてくる優男の手を半身になって躱し、俺は反撃として掌底で下顎を撃ち抜いた。180を超える長身が吹き飛び、天井に激突したアベルは頭からリーナの隣に落ちてそのまま動かない。

 

 リーナが飛び出してから、ここまで約5秒。

 

「……っは!? ああああああああああああ!?」

 

 床に沈んだ2人の来訪者の次は俺の番だった。

 全身を駆け巡る激痛に、絶叫して蹲る。

 

 ……こ、…………っあ……ぁ!?

 …………………………………………っ!!??

 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 

 ……ゆっくりと目を開けると、心配そうにこちらを覗き込むアリーセと目があった。しばらく親友と無言で見つめ合った後、俺はまだ少し痛みと熱が残る体に鞭を打って上体を起こす。

 場所は変わらずラウラの部屋。

 ラウラの側には、頭に包帯を巻いたリーナと下顎を氷で冷やしているアベルの姿が。

 両者共に、何とも言えない表情で起き上がった俺へと視線を向けた。

 

 ……まぁな。

 自分たちを叩きのめした相手が勝手に自爆して、やられた側よりもダメージを受けたらそんな表情にもなるよな。

 このまま静寂が続くと辛いので、ひとまず俺はアリーセへと質問を飛ばす。

 

「アリーセ。私、どのくらい怪我をしてました?」

 

「複数箇所の筋断裂と内出血。右腕骨折、吐血していたので内臓も損傷していたと思います。……巨人化能力者でなければ、間違いなく数ヶ月は寝たきりになってました」

 

 ……お、おう。

 しかし、気を失うほどの激痛に反して体の傷は大したことねぇな。いや、俺の感覚が狂ってきてるだけで普通に大怪我であるが。

 

「具体的に、何が起きたんですか?」

 

「それが私にも分からな…………あ」

 

 もしかして、そういう事か?

 ラウラとあの2人のおかげで、完全にピースが埋まったのか?

 ああ、そうだ、『原作』のリヴァイ兵長とミカサの発言とも合う。今まで俺が必死こいて『道』への干渉を繰り返しても成功しなかったのは、大切なピースが1つ欠けてたからだ。

 だがもう、全て揃った。

 尋常じゃねぇほどの反動に襲われちまうが、それでも人類最強が住む領域に、片足を突っ込むことに成功した。

 これで、リヴァイ兵長に勝てる可能性が見えてくる。

 

「ダイナさん……?」

 

 会話の途中で急に黙り込んだ俺にアリーセが怪訝な顔をするが、俺はそんな彼女に笑顔を向けた。

 

「そこの2人のおかげで、遂に人類最強を真正面から打ち倒せる目処が立ちました。これでまた1つ、私たちは前へ進めます」

 

「「「……!?」」」

 

 俺の言葉にアリーセが驚きと喜びの混じった表情を浮かべ、来客の2人は顔を真っ青にする。

 自分たちの行動が敵の利となったんだから、当然の反応と言えるが。しかもその内容が、調査兵団の柱の1つであるリヴァイ兵長を脅かすものなら尚更だろう。

 ……まぁ、0パーセントが1パーセントになった程度の進展なんだけどな。たった5秒使用しただけで気絶して戦闘不能になる能力で、あの人類最強が倒せる訳ねぇし。

 付け加えるなら、この能力は人間状態の時に使うことを想定したモノでもない。コレ(・・)はどれだけ体に負担をかけても問題のない、巨人化状態で使用してこそ、真価を発揮する。

 そんな説明を『排斥派』にわざわざ説明してやるほど俺は親切じゃねぇし、むしろ敵を揺さぶる為に敢えて省略してやった。

 

「ところで、何故リーナは大人しく座ってるんですか? 私より早く回復してたなら、懲りずにもう一度アリーセに襲い掛かるくらいの殺気でしたけど」

 

 再び部屋に沈黙が降りたので、俺は目覚めた時からずっと疑問に思っていたことを口にする。

 するとリーナが顔を青くしたまま、吐き捨てるように答えた。

 

「アンタの言う通り、起きてからすぐに突っ込んだわよ。……手も足も出ずに、また床に沈められたけどね」

 

「僕らが格闘術でアリーセさんに勝つのは不可能だと嫌という程に理解させられたので、こうして大人しく本来の目的であるお見舞いをしてる訳です」

 

「あぁ……なるほど」

 

 納得。

 よく考えたらアリーセは俺やエレンより素手の殴り合いが強いんだから、格闘戦に限っては守る必要なんてねぇわな。

 『アリーセを守る』という意識ばっかりが先行してて、自分の格闘技の師匠が誰か完全にすっぽ抜けてたぜ。

 そういうことなら、アリーセを置いて出かけても大丈夫だろう。

 

「どこか行くんですか?」

 

「えぇ、ちょっと『調整』と『お勉強』に。夕刻までには戻りますよ」

 

 アリーセにそう言って立ち上がり、俺は部屋の外へと出て行く――前にアベルとリーナの耳元で囁く。

 

「もしも『一を殺して全を救う』のではなく、『全を見捨てて一を救う』を選ぶのなら……貴方達のご友人、助けてあげても良いですよ?」

 

「「…………っ」」

 

 体を硬直させて息を呑む2人に、俺はヒラヒラと手を振って今度こそ部屋を出る。

 ……はっ、我ながらゲスな手段だなオイ。

 これは間違いなく地獄に落ちるぜ、俺。

 要するに調査兵団を裏切ってこっちの味方になれば、ラウラを助けてやると言った訳だ。アベルとリーナがどのような返答をしようとも、初めからラウラを助けるつもりなのに。

 あわよくば『排斥派』の2人を裏切らせることが出来る、そう目論んで。

 

「悪りぃなアベル、リーナ。けどこっちも、手段を選んでやれるほど余裕がねぇんだ」

 

 友達思いの2人に呟くように謝罪し、俺は決戦に向けての準備に取り掛かる。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ウォール・マリア南部。シガンシナ区。

 5年前に超大型巨人及び鎧の巨人による襲撃で、人類が住めない巨人の領域と成り果てた街。

 かつてはシガンシナ区の住民を巨人から守っていたが、今や大穴が開いた壁の上に普通ならあり得ないことに人影があった。

 それも、1つだけではなく3つも。

 

 1つはメガネをかけた大柄な男。1つは長い黒髪の気怠げな表情の女。1つはメガネの男性をも超える背丈の青年。

 彼らは三重の壁に住む者ではなく、更に言うなら普通の人間でもない。

 マーレの戦士。

 『九つの巨人』の継承者。

 三重の壁を襲い、このシガンシナ区を地獄へと変えた張本人たち。

 

 『獣』の継承者ジーク・イェーガー。

 『車力』の継承者ピーク。

 『超大型』の継承者ベルトルト・フーバー。

 

 国すらも滅ぼす巨人の力を持つ彼らだが、しかし3者揃ってとある相手に敗北を喫し、ここへ逃げてきたのだ。

 言わずもがな、本来なら既に死人であったはずの極大のジョーカーである『女型』の継承者――ダイナ・フリッツ。

 彼女がいなければ、アニ・レオンハートと『女型』が奪われることはなかった。彼女がいなければ、ライナー・ブラウンは調査兵団に捕らえられなかったかもしれない。彼女がいなければ、ラガコ村を起点とした威力偵察はあそこまで大失敗に終わらなかっただろう。

 アッカーマン家というまた別のイレギュラーがいた為、ダイナがいなければ絶対に調査兵団に勝てたとは言えないが、それでもここまで大敗する事は無かったはずだ。

 

 マーレのパラディ島侵攻計画は、今のところ散々な結果になっている。

 特にマーレの誇る「7つの巨人」のうち『女型』、『顎』、『鎧』が敵の手に落ちたのが大きい。

 『進撃』と『始祖』を含めると、パラディ島が有する巨人は合計で5体。対するマーレが『戦鎚』を含めて4体と、あろう事か巨人の数で負けてしまっているのだ。

 実際のところ『進撃』と『始祖』はエレン・イェーガーが宿しているので、巨人化能力者の数は4対4と互角ではあるが。

 

「俺たちは何としても、島の悪魔に奪われた巨人の力と『座標』を奪還する必要がある」

 

 口を開いたのは「戦士」最強の巨人化能力者にして戦士長である、ジーク・イェーガーだ。

 そんな彼の言葉に、ピークが頷く。

 

「もしマーレが3体も巨人の力を失った事が明らかになれば、確実に周辺諸国が攻めてくる。もう時間もない……とにかく急いで、あの怪物たち(ダイナとリヴァイ)から巨人の力を取り返さないと――」

 

 戦士たちの脳裏に浮かび上がる、敗北の記憶。

 鋼の翼で硬質化すら間に合わない神速で空を翔け、鋼の刃で巨人を瞬殺する人類最強。

 『戦鎚』に一部匹敵する硬質化能力、その他の巨人を大きく上回る身体能力と持久力、『獣』を凌駕する無垢の巨人操作能力に、その他にまだ幾多もの力を隠している女型の巨人。

 この二大怪物だけでも手に余るというのに、そこにエレンなど他の巨人化能力者たちや、アルミン・アルレルト、エルヴィン・スミスという知略の怪物まで加わってくる。

 そして忘れてはいけない。アッカーマンは1人ではなく、まだもう1人いるということを。

 

「僕が殺ります」

 

 揺るぎない言葉を発したのは、手のひらが裂けて血が流れるほどに強く拳を握りしめたベルトルト。その瞳は憎悪と憤怒の炎が燃え盛っている。

 ユミルにマルセルを、ダイナには親友だったライナーに、想い人のアニまで奪われた彼はもはや誰にも止められない。

 もうエレンに「腰巾着野郎」などと呼ばれたベルトルトは消えていた。今ここにいるのは気弱で自分の意見を述べるのが苦手な青年ではなく、ダイナ・フリッツに血の復讐を誓う悪魔だ。

 

「けど、あの『女型』は『座標』を宿してるんでしょ? だったら殺せない。捕獲する必要があるよ」

 

 ベルトルトに言い聞かせるようにしてピークが言ったが、彼女の言葉はジークによって否定される。

 

「ピークちゃん、その可能性は低い。ベルトルトが見たっていう母親(ダイナ)の巨人を操作する能力は、『座標』に由来しないもののはずだ。事実、俺は『始祖』を宿していないが無垢の巨人を操れる」

 

「戦士長が特別なだけでは?」

 

「だとしても、あの『女型』と俺には血の繋がりがある。息子の俺が出来るなら、母親も出来てもおかしくはないと思わないか?」

 

「それは……確かに……」

 

 では、始祖の巨人の宿主は一体誰なのか。

 自然と浮上する疑問に、ジークは半ば確信したように答えを出す。

 

「『座標』を持っているのはエレンだ」

 

 ジークにとっては悪夢としか言いようのない事実だが、ダイナだけではなくグリシャも楽園送りを免れていた。

 グリシャはダイナのように無垢の巨人としてパラディ島を彷徨った果てに、運良く戦士を捕食して戻ったのではない。

 5年前の「あの日」より遥か前に……それこそ所帯を持てるほど前に、壁の中に入っていたのだ。それはつまり、グリシャが先代『進撃』の継承者だったということになる。

 巨人の力無しに、壁まで辿り着くのは不可能なのだから。

 

 グリシャは『エルディア復権派』を率いていた人物だ。

 それを知るジークは、グリシャがエルディア帝国の復権のために『始祖』を求めていたことも知っている。

 故に、グリシャが壁の王家から『始祖』を奪い、エレンに『進撃』と共に『始祖』を継承させたのだと簡単に推察できるのだ。

 

「……一度マーレに帰還して、タイバー家に『戦鎚』をパラディ島の攻略に投入するよう頼もう。次の攻撃に全力を傾ける。4体の巨人の総攻撃で、パラディ島に奪われた全ての巨人の力を奪還するんだ」

 

「しかし、それでは本国の守りが消えます。……マーレは『戦鎚』の投入を認めないのでは?」

 

「ああ。だからマーレには、本国から巨人の力が消えたと周辺諸国が気付くより早く……つまり速攻でパラディ島を攻め落とすと宣言しなければならない。もし次もまた失敗すれば、俺たちエルディア人は終わりだ」

 

 ただ自分たちが巨人の力を剥奪されるくらいなら、まだマシだ。

 最悪の場合は収容所で暮らす家族……もしくは、全エルディア人が処分されてしまう。

 それを察したピークとベルトルトがプレッシャーで冷や汗を流すのを見て、ジークは緊張をほぐすために敢えて話題を変えた。

 

「そう言えばピークちゃん。威力偵察の時に、女型の巨人に真上から奇襲を受けたじゃん。よくアレを凌いで、しかも俺を回収して撤退出来たよな」

 

「仕留めたはずの『女型』の死体が消えないことに気付いたのと同時に、うなじから離脱して巨人体の下に隠れたんです。おかげで奇襲を受けるより一瞬だけ早く、回避に成功しました。離脱直前に『車力』を動かして、残っていた砲弾を敢えて敵の攻撃に晒すことで爆発をさせて煙幕代わりにし、敵に相打ち狙いだったと錯覚させられたのも大きかったですね」

 

「流石ピークちゃん、頼りになる」

 

 サラッと説明したピークにジークが拍手を送るが、ベルトルトは『車力』の継承者が行った神業に唖然とする。

 あの女型の巨人を前に、奇襲を受けるまでの刹那の間にそこまで動けるものなのか。

 

 一通りピークを賞賛したジークは、再び表情を硬くして口を開いた。

 

「……必ずパラディ島の悪魔たちを倒そう。俺たちの使命のために」

 

 強く頷くピークとベルトルト。

 2人が目の前にいる戦士長は「安楽死計画」を企てている裏切り者だと気付くのは、もう少し先の話となる。

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