カルラ・イーターに憑依しました(凍結)   作:緋月 弥生

49 / 49
第46話 三作戦同時進行開始

「つまりお前は、人間の姿を保ったまま巨人の力を部分的に発動したってことか」

 

「ええ、そういう認識で構いません」

 

 トロスト区の薄暗い倉庫の中で、アッカーマンインストールの説明を一通り聞いたリヴァイ兵長の感想に俺は肯定して頷いた。

 と言っても、アッカーマンインストールという名称やアッカーマン家の情報については伏せてある。

 兵長に説明を求められた俺は先ほどの兵長の感想の通り、人間の状態で巨人の身体能力を発動したとしか語っていない。『原作知識』による情報は俺の生命線だ。必要以上に手札を見せる必要はないし、何よりこのタイミングで『実は兵長の苗字はアッカーマンで、ミカサと兵長とケニーは血の繋がりがあるんだぜ!』なんて言っても混乱しか呼ばないだろう。

 今は“中央憲兵団に攫われたエレン、ヒストリア、アリーセを救出する”という目的から外れない方が良い。

 ただでさえ時間に余裕がねぇしな。

 

 そんな事を考えているうちに、ケニーとの戦闘で未だ全身がボロボロの俺を支えてくれている兵長は倉庫内にいる調査兵団の面々に向けて指示を出し始める。

 最初に現状を王都にいるエルヴィン団長とハンジさんに伝える伝令係。これはニファが担当となり、彼女はすでに立体機動装置を使用して倉庫から飛び出して行った。

 

「まずはエレン達が連れ去られた場所を特定する。幸い、手掛かりはあるしな」

 

 そう言って、視線を倉庫の隅へと向ける兵長。

 リヴァイ兵長の視線の先には、ロープでグルグル巻きにされたリーブス会長達の姿。

 『原作』の流れだとこの後リヴァイ兵長はリーブス会長とその息子を味方につけて、ニック司祭を殺害したあの2人の中央憲兵を誘い出し、拷問の果てにエレン達の居場所を突き止めるのだが――

 

「兵長。中央憲兵と、その裏で糸を引いている黒幕に心当たりがあります」

 

「「「……!」」」

 

 早速リーブス会長の尋問を始めようとした兵長の行動を遮り、俺は声を上げた。

 悪いが、そんな周りくどい方法はスキップさせてもらう。

 未来がどう変化するのは不明な『原作変換』は出来る限りしたくないのだが、何せ今はエレン達に加えてアリーセまで捕らえられている状態だ。バカ真面目に『原作』の展開に付き合う余裕はない。

 この場の全員が向けてくる驚愕の視線を浴びながら、俺は再び口を開く。

 

「既にご存知の通り、壁の外にも人類の活動領域は存在します。そして外の世界にも、この壁の中と同じように民を統治する『王』がいるのですが――」

 

「その話はエレンの居場所と関係するんですか? 早くしないとエレンが……!」

「ミカサの言う通り、余計な話は必要ない。今必要なのはヒストリアの居場所だけだ」

 

「……ただ居場所だけ言っても信憑性がないので、この情報が正しいと裏付ける部分も話したかったのですが……」

 

 だから懇切丁寧に話そうとしたのだが、ミカサとユミルの2人に俺の言葉は根元からぶった斬られた。

 いやまぁ、2人とも俺と全く同じ立場だから気持ちは分かるけどさ……。

 早くエレンたちの居場所を吐けと睨みつけてくる2人から、俺は視線を兵長に向けて無言で問いかける。

 ――情報が正しいという裏付けは必要ないのかと。

 

「攫われたのがエレンとヒストリアだけならともかく、アリーセも中央憲兵の手の内だ。この状況でお前が俺達に対して嘘を吐く理由も意味もねぇだろ。……信じてやるから、早く言え。時間が惜しいのは同じだろうが。細かいことは後で聞く」

 

 ……。

 あー、もう、クソが。

 リヴァイ兵長はこういうところがアレだよな。ホント、マジで。

 完璧な『人類の敵』の立場にあるせいでそれだけ信頼されていることを素直に喜べないのは、いつか裏切る時に有利だと考えるほど、俺は外道に堕ちていないからか。

 ともあれ、兵長の言葉に間違いはない。

 俺はアリーセを中央憲兵という巨大な敵から助けるために少しでも多くの戦力を欲していて、そしてそれは調査兵団と同じだ。敵の敵は味方とはまさにこのこと。

 俺も調査兵団も『自分の命より大切な人』が同じ相手に拉致されたのだから、共闘しない理由がない。

 

「……分かりました。私達の共通の敵の名前はロッド・レイス。この壁の真の王家であるレイス家の当主にして、ヒストリア・レイスの実の父親。そして拉致された3人がいるのは、まず間違いなくレイス家の領地にある教会です」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 さて、改めて現状を把握しよう。

 まず調査兵団の主な目的はエレン達の救出と、調査兵団内部に潜むスパイの特定。そして王都でエルヴィン団長が行うクーデターの成功だ。

 『原作』よりかなり早く展開が進んでいるのでリーブス会長の殺害と調査兵団の指名手配などは起きていないが、このまま中央憲兵が何も手を打たない訳がない。

 間違いなく何かしらのアクションを起こすはずなので、それに対応する人員も確保しなければならないだろう。

 

 調査兵団は大きく3つに分かれた。

 まずはエレン達の救出を担当する救助隊。

 これはリヴァイ兵長、ミカサ、アルミン、ジャン、コニー、サシャ、ユミル、俺、そして後から合流予定のハンジさんとモブリットさんがここに含まれる。

 メンツ的には調査兵団の最高戦力と言っても良いレベルだ。

 

 次に調査兵団の中に潜むスパイの特定。

 これを担当するのはペトラさん、オルオさん、ナナバさん、ゲルガーさん、ミケ分隊長。

 こちらも調査兵団の中でも特に信用が出来る選りすぐりのメンバー達だ。

 俺の情報を中央憲兵に流して『ダイナの暗殺』を企んだ人物もすぐに見つかるだろう。

 

 最後に予想外の攻撃や妨害を受けた時に対応するサブメンバー。

 ここにフォルカーを始めとする残りの調査兵団が全員が配属されることになり、ミケ分隊長達はこの中からスパイを見つけ出ことになる。

 他の救出作戦に参加しない調査兵団のメンバーは一部の例外(ラウラなど)を除いて全員が王都に集結することになったが、これはスパイの行動を制限する意味も併せ持つ。

 

 そして救助隊になった俺は、リヴァイ兵長達と共にレイス家が統治する領地に向けて馬で移動中だ。ハンジさんとモブリットさんは目的地である教会の近くで合流するらしい。

 俺の発言によっていきなり救出作戦が開始されたのにも関わらず、ここまで滑らかに連携が取れているのは、やはりエルヴィン団長がリーブス会長を殺害した容疑で逮捕されていないのが大きい。

 おかげで『原作』のように調査兵団のメンバーは憲兵によって拘束されていないし、全作戦の司令塔が人類の頭脳とも言えるエルヴィン団長なのだ。

 スパイの存在を除けば、間違いなく調査兵団は組織として完璧に力を発揮できている。

 

「だからこそ、内側から全てを潰しに来るスパイが怖いんだけど」

 

「ダイナ、独り言はやめておけ。舌を噛むぞ」

 

「失礼しました。けど、そんなに頻発に舌を噛むのはオルオさんくらいですよ」

 

 どうやら思考が漏れていたらしい。

 右隣を走るリヴァイ兵長に窘められ、俺はしっかりと愛馬の手綱を握り直す。

 

 ――この時、王都でペトラと共にスパイの捜索を行なっていたオルオが盛大にクシャミをしたのだが、レイス領に向かって馬を走らせていたダイナは知る由もない。

 

「それと、独り言は私だけじゃないようです」

 

 そう言ってすぐ後ろを走るアルミンに視線を向ければ、104期の頭脳である彼は俯きながらブツブツと何かを呟いていた。

 風の音や馬の蹄の音でほとんど聞こえないが、耳に意識を集中すると「真の王家……」「……レンは…………器……」など途切れ途切れの声を拾うことができる。

 本来なら監禁拷問した中央憲兵から得られる情報を俺が一気に話してしまったので、軽度の混乱状態になったらしい。

 因みに俺が話したのは『壁の真の王家はレイス家である』、『ヒストリアは真の王家の血筋を引く存在』、『中央憲兵の目標はヒストリアを巨人に変えてエレンを捕食させ、エレンの持つ巨人を強奪すること』の3つだ。

 これも余談だが、最後の情報を話した時にミカサとユミルがパニックになった。

 

 俺が話した情報は王都のエルヴィン団長やハンジさんにも届いているので、優秀なあの2人は既に動き出しているだろう。

 というか、この情報を得ないとエルヴィン団長はクーデターを起こそうとは思わないだろうし。ヒストリアが真の王家だと分からなければ、今の王様を玉座から引き摺り下ろしても代わりの王が立てられなくなるのだから。

 

 今のところ「救出作戦」「スパイ特定作戦」「クーデター作戦」は全て順調のように感じられるが、懸念が1つ。それはエレンとヒストリアと違って、アリーセの居場所だけは完璧に特定できていないということ。

 中央憲兵に拉致されたのだから恐らくエレン達と同じレイス領の教会にいると思うのだが、別の場所で監禁されている場合は厄介なことになる。

 誘拐犯であるケニーならアリーセの居場所は知っているだろうが、あの殺人鬼が簡単に喋るとは考えにくい。むしろどんな拷問も笑顔で乗り切ってしまう気がする。

 

 トロスト区での戦いから、今日で3日。

 目的地であるレイス領までは、後1日かかるらしい。特に問題がなければ「救出作戦」は明後日に決行となるので、アリーセは5日の間奴らに拘束される。

 アリーセなら簡単に屈して情報を漏らすことはないだろうが、5日間も拷問に耐えられるかどうかは分からない。

 

 ……最悪の場合は――……

 

「落ち着け、殺気の出し過ぎだ。馬が怯えてるぞ」

 

 再びリヴァイ兵長に窘められてハッと顔を上げれば、俺を乗せてくれている愛馬の足並みが乱れていた。心なしか息も荒い気がする。

 

「ごめんなさい……大丈夫ですよ」

 

 そう言って首をあたりを優しく撫でると、愛馬がいくらか調子を取り戻す。

 クールになれ、俺。

 自暴自棄になって敵味方関係なく大暴走とか、それこそ兵長に削がれて死ぬバッドエンドは免れない。

 今はアリーセが無事だと信じるしかないのだから、ネガティブな想像をするべきじゃねぇよな。

 

「おい見たか、今のダイナさん。『女型』が見えたぞ」

 

 聞こえてるぞ馬面。

 俺はまだ巨人化してねぇよ。

 

「シーッ! ジャン、怒っている獣を刺激しないでください! 常識ですよ!」

 

 聞こえてるぞ芋女。

 誰が獣だこの野郎。

 

「流石は怒ったら怖い人ランキングの――」

 

「「黙れバカ!」」

 

「ちょっと、何ですかそのランキング! ……何でみんな一斉に明後日の方向を見てるんですか!? おい、コニー!」

 

 思考の海に沈んでいるアルミン、俺と同じく鬼気迫る表情のミカサとユミル、そして無表情でただ正面を見つめている兵長に比べて、ジャン、サシャ、コニーは色々と軽すぎる。

 コイツら今の状況が分かってんの?

 余裕があるのは良いが、緊張感が無さすぎるのも問題だろう。

 まぁ、女型捕獲作戦の途中の旧リヴァイ班みたいな感じで嫌いではないのだけど。

 

 ……後、俺は104期の間でどう思われてるのか不安になってきた。

 敵対してるとは言え、好きだった漫画のキャラに陰口を言われるのはなかなかメンタルにダメージを受けるんだが。

 そこまで考えて、俺はふと気になったことを左隣を走るジャンに耳打ちで質問する。

 

「ところで、そのランキングで兵長は?」

 

「ランキング外っす」

 

「怖すぎるから?」

 

「いえ、怒らなくても怖いんで」

 

「納得」

 

 1位が気になるところだが、これ以上の無駄口は良くないだろうと俺は口を閉じる。

 その後はしばらく無言で馬を走らせ続け、空が赤く染まる頃になってようやく目的地の教会が見えてきた。

 間違いない。アニメや漫画で見た場所だ。

 流石に敵の本拠地近くとなると、ジャン達も喋る余裕はないらしい。全員の表情に緊張感が増し、自然とリヴァイ兵長へと視線を向ける。

 

「まずは様子見だ。森の中に身を隠せ」

 

「「「了解」」」

 

 馬を手頃な木に繋ぎ、しゃがみ込んで茂みの中に身を隠す。

 森は教会の周囲を取り囲んでいるので、森の中を進めば敵の本拠地を全方位から観測できた。

 教会の周囲には、見張りと思われる武装した憲兵が数人程度。あの数なら、見張りは一瞬で制圧できるだろう。

 問題は教会――より正確にはその地下に広がる空間に、どれだけの敵が潜んでいるかだが。

 『原作』では……えーっと、原作の兵長が一瞬で敵の数を割り出したシーンは覚えているんだけどな。確か約40人近くだった。

 数ではこちらが負けているが、こちらには巨人化能力者2人にアッカーマンが2人だ。多少の不利は覆せる。

 初戦の俺の奮闘で、最大の敵であるケニー・アッカーマンも傷を負っているし。

 勝ち目は、ある。

 

 ……しかし。

 

「遅ぇな、ハンジの野郎。王都の方で何か起きたのか……?」

 

 太陽が完全に地平線に沈み、空に星が輝き始めるころ。

 合流を予定していた時刻を大幅に過ぎても姿を見せないハンジさんとモブリットさんに、巨木に背中を預けて腕を組んでいた兵長が呟く。

 本来ならハンジさん達が中央憲兵との戦闘に必要な物資――信煙弾や原作において煙幕を発生させていた装置――を持ってくる予定だったのだが、

 

「兵長、どうしますか?」

 

「……作戦開始予定時の夜明けまで待つ。それまでに2人が現れなかった場合は、俺達だけで救出するぞ」

 

「「「了解」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして作戦開始予定時刻、トロスト区での戦いから5日後の早朝。

 ついに、ハンジさんとモブリットさんは現れなかった。




お知らせ:原作完結後に凍結を解除、連載を再開致します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:15文字~500文字)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。