たった今誕生日を迎えた僕は、生物兵器と踊らない 作:翠晶 秋
暗いピンク色の装甲が彼女の腕を丸ごと包み、辺りの空気がパリパリと唸る。
「信じてもらえたって……」
信じるも何も、いや、それはなんなんだ?
装甲はすっぽりと少女の右腕を包んでおり、見た目はどでかいカッターナイフのような。
「ガンツァー。私の、剣」
満足げに言う少女の顔は、こちらの行動を伺っているようにみえる。
つるぎ?ガンツァー?
どこから飛び出て来たんだ?
「それは、どこから出てきてるんだ?」
「……?どこから、って?」
「色々おかしいでしょ。質量とか、物質とか」
少女はベンチに再び座ろうとして、引っかかるガンツァーに顔をしかめながらも俺の質問に答えてくれた。
しかし、その答えは俺の期待したものではなく、「分からない」という返答だった。
「じゃあ、なんでそんなもの使ってるんだ。得体の知れないものなのに」
「
「そういう……?」
「それがどんなに危険であっても、私はこれを使わなくちゃいけない。これは
終わり?と少女は首をかしげる。
瞳に秘められた揺るぎない決意の証。髪先からふんわりと漂う仄かな甘い香り。
月明かりが、少女の顔とその腕に装着される無骨な武器を照らした。
その瞬間、既に俺は彼女に魅了されていたのだろう。
「……そうか」
納得できないことを、頭の中で勝手に納得させていた。
「終わり」
少女の腕から、ガンツァーが紫電となって散りゆく。
今度は逆方向に、俺の頬を微弱な電気が流れた。
「……どうしたの?」
「あっ、あぁ。いや、ありがとう。じゃ、俺は帰るけど」
「うん。またどこかで会えたら」
少女と俺は、それぞれ別の方向に歩き出す。
またどこかで会えたら、か。
こんな広い世界だ、もう二度と会うことは無いだろう。
そう、思っていた。
◇
今思えば、この頃から全ては始まっていたのかもしれない。
桜の花も全て散り、徐々に気温も上がってきた。
「おはよう」
「あ、うん。おはよ」
クラスメイトの女子と挨拶を交わし、それぞれの席につく。
小説を書き始めてからもう一年が経つ、最初は王道のファンタジー小説。
異世界に転生した男が、もらったチート能力の魔法を創造する力で無双する小説だ。
チャットサイトで勝手に書き始めた小説は、しかし読者は二人のみだった。
「では、この部分に線を引いてください」
その次に、ハーメルンのアカウントを製作、初めて投稿したのは人気ゲームのモン狩……モンスター狩人の小説だ。
小説を書き始めて、色んな物に興味を持つようになった。
多趣味になり、そして同時に思う事もあった。
小説みたいに、不思議な展開に遭遇できないかな、と。
「では、ショートホームルーム終わります。規律、礼、解散」
「なぁアキ、万術部の方はかけてるのか?俺、あっちも結構ハマったんだけど」
「んー……。まだ書けて無いや」
友人からのリクエストに答える約束を取り決めつつ、帰宅路につく。
今日は晴天だな、そう思った時。
空が、透き通るような青からオレンジ色に染まった。
夕暮れじゃない。一瞬で、さぁっと染まっていったのだ。
不意に、違和感に気づく。
音がしない。
風の音も、車の音も……人の声も。
なんだ……なんなんだ!?
辺りを見渡す。
人が、車が、宙を舞うビニール袋までもが、その場で静止している。
まるで、時間が止まってしまったかのような。
あまりの出来事に呆然と、そう、呆然としていると、ようやく後ろで物音が聞こえた。
反射的に振り返ってしまう。
それがいけなかった。
なにせ、俺の目に前に映った光景は、得体の知れない機械が静止して動かない人を収納している場面だったのだから。
今の技術では到底できるとは思えない、キャタピラが足裏についた二足歩行の大きな機械。
いつの間にそこにいたのだろうか。
機械は付近の人間を適当に掴むと、腹部の蓋を開き、その中に入れる。
ぐいいいいいいいい、と中で何かが回転する音。
鼓動が早まる。
再び、機械が抵抗しない人間をむんずと捕まえた。
腹が開く。
「…………ッ!!おえええええええ!」
見た。
見てしまった!
血肉が、骨が混ざり合う、狂気の世界を!
あまりにショッキングな光景にえづく。
膝をついて震えていると、機械の頭らしき部分がこちらを向いた。
……気づかれた!
先ほどに震えはどこへやら、一目散に駆け出す。
キャタピラが小石を踏む潰す音が聞こえる。
逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!
本能のままに走り出し、坂道を駆け下りる。
足がもつれ、アスファルトの地面にに勢いよく体をぶつけた。
体のあちこちから血が吹き出る。
痛い。
怖い。
キャタピラのお陰で転ばなかったのか、機械はすぐに追いついてくる。
伸ばされるアーム。
誰か、誰か、誰か……!
「させない」
空から、何かが降って来た。
ぐしゃあ、と機械の頭が歪み、それだけでは飽き足らずに串刺しにする。
「この前の、お礼」
ショッキングピンクの装甲から出る刃を抜きながら、機械の上に陣取っているの少女は俺を見下ろした。