たった今誕生日を迎えた僕は、生物兵器と踊らない 作:翠晶 秋
「お礼?お礼って……」
「ご飯」
「あ?あぁ」
鉄クズに陣取ったまま武骨なガンツァー?だったかに触れる少女。
肩で息をしながら見上げていると、少女はふたたび口を開いた。
「この鉄たちは【ディギーズ】。黄昏の世界に居座って人を喰らうばけもの」
「く、喰らう?」
「どちらかと言うと喰らった人間の中身が目当てみたい。人間の中には秘宝を持っている者もいる。ディギーズはそれが狙い」
「例えば、これ」。
少女はさっき潰したディギーズ?の中に手を突っ込み、石のようなものを取り出した。
石のような形こそしているけれど、輪郭がぼやけているし色も曖昧。なぜ俺はあれを石だと判断したのだろうか。
「これはディギーズのコア。電気を良く通すし、反対に絶縁体にもなる。私のガンツァーにも使われてる万能素材」
「電気を通すし、絶縁体にもなる?」
「あと、これも……んしょ。だいぶ馴染みかけているけれど、人間から採取された純粋な秘宝。使うことは許されないけれど、使えばディギーズのコアよりはるかに強い力を手に入れられる」
骨や肉の混じるディギーズの中に手を突っ込んだからだろうか。
血に濡れた華奢な手と、その中でコアとは違い煌々と輝く秘宝。
もう一度吐き気がぶり返してきた。
「大丈夫?どこかやられた?」
「だ、だいじょうぶ、だいじょぶ…」
膝立ちになる俺に心配の声をかける少女だが、俺の返答を聴くと「そう」と割り切って話を続けた。
「あなたは特別な存在。私たちとディギーズの住まう並行世界で動けるなんて、そういない。一緒に来て欲しい」
「…………」
正直、こんな状況なのにとてもワクワクしてる。
だって、ライトノベルで起こるような事が目の前の転がってるんだぞ?
ワクワクするじゃんか。
帰りたい気持ちも強い。でも、それ以上に、小説家としての好奇心が、このチャンスを逃すなと叫ぶのだ。
どこに行くかは知らないけれど、これはめっちゃ面白そうだ。
少女のスカートが揺れる。
黄昏の世界に巻き込まれた俺と、鋼鉄の刃を持つ少女を、大風が包んだ。
あ、見えた。
◇
「じゃあ行く。付いてきて」
ガンツァーを消してディギーズから飛び降り、少女は歩き始める。
迷いなく歩く少女に置いていかれないようにやや早足で進んでいると、少女は歩きながら口を開いた。
「質問」
「ん?」
「なにか、質問は」
「えっ、あぁ。じゃあ……どこに向かうんだ?」
「着けばわかる」
うっ。
「それじゃあ……ディギーズってなんだ?人類の敵なのか?」
「ここで説明するよりあそこで説明した方がわかりやすい」
うっ。
「んーと、えーと……コアって?」
「秘宝。私にもよくわからない」
会話が進まねぇ……!
なんでそんな困ったような目を向けるだよ、質問をバッサリ切っていったのは君だろ。
「じゃっ、じゃあ……なんで戦ってるんだ?」
「え?」
「君みたいな子が、なんで戦うんだ?」
「それは……少し考えさせて」
少女は足を止め、しばしの間目を閉じる。
そして、「うん、これが一番しっくりくる」と呟くと、目を開いた。
「そういうもの」
「は?そういうものって」
「ディギーズがいたら駆逐する、そのために用意されたガンツァーも使う。そういうもの」
「ちょっと待てよ。それじゃあ、まるで奴隷みたいな───」
「奴隷で、何か悪いの?」
「は……」
「私は人に作られた道具。あなた達は、道具を使う時に『奴隷みたい』って思うの?」
「それは……」
「それに、道具として生きる以外の道を知らない」
なんでもないかのように言ってみせた少女は再び歩き出した。
慌てて追っていく。
「どうして、そういうものって信じられるの?」
「知らない。そういうものはそういうものだと認識していた」
「…………」
「質問は、終わり?」
なんだか、胸の奥が寂しくなったような気がした。
ライトノベルで読んだ時には「頑張れ主人公!楽しいこといろいろ教えてやれ!」とか思ってたけど、こう目の当たりにすると突き放された感覚を覚える。
俺はライトノベルの主人公じゃない。
多分、一生をかけても彼女に楽しさを教えられないと思う。
「あ」
「ん?」
「着いた。ここ」
いつの間についていたのか、少女はとあるマンションを指差した。
バリバリ通学路にあるんですけど。
少女は動かない自動ドアを見たあと、ふうっと息を吸い込むと。
「ガンツァー」
「ちょちょちょちょちょっと待て!」
雷が空を裂くドドドドという音を響かせながら、ガンツァーで扉を破ろうとした。
「?なに?」
「いや何?じゃなくて!ダメでしょ、扉壊したら」
「どうして?隔離世界の物なんて壊れても【黄昏】が終われば元に戻る」
「えっ……」
「知らなかった?……いや、ごめんなさい。あなたが知らないのは当たり前。悪いことをした」
少女はガンツァーを一度停止させて説明を始める。
「黄昏は隔離世界。現実と物理的に離れているからどれだけ物が壊れようと元の世界には影響がない」
「現実と、物理的に」
「そう。壊れた物は黄昏のお陰で黄昏が始まった状態と終わった状態に変わりはほぼない。……でも、私たちやディギーズは違う。黄昏の中でディギーズが人を喰らえば元の世界のその人は消えて無くなる」
「消えるって……?」
「過去と未来、それと現在から消える。……有り体に言えば、
言葉を、失う。
じゃあ何か?俺はさっきまで、存在ごと消えそうになっていたのか?
さっきディギーズに喰われた幼稚園児は?同学年の高校生だっていたはずだ。
そして、目の前の少女は?誰に知られる事もなく、ただ『そういうものだ』と割り切って、表彰もされない事に命を賭けていたのか?
なんだか、小説の世界に入ったみたいだな。
「終わり?なら、早く入る」
「あっ、待ってくれ」
固まった飴の膜にカッターを突き刺すかにように、パリパリとガラスが剥がれて行く。
ホールに入り、ガンツァーをエレベーターの扉に押し当てて
来い来いと手招きされたのでエレベーターのドアの前に立つと、お姫様だっこの形で抱えられた。
「ちょっ……」
必然的に少女の顔が近くなる。
ふんわりとした甘い香りに、今を生きる健全な男子高校生はシリアスを捨てて鼓動が早くなってしまう。
エレベーターの穴に……レーンに?言い方は知らないけど、少女は俺を抱えたまま箱に乗らずに落っこちた。
地下へ向かっている?
2、3階分くらい落下して少女は床に着地する。
完璧な膝の曲げ方。衝撃を全て地面に流している。
ビューリフォー。
……。
…………。
「大丈夫?」
「少し待ってくれるとありがたい」
内臓が浮く感覚、いつになっても慣れないもんだ。
クソ怖ぇ。
「……………………待った」
「あと少しお願いしたい」
「んー」
ぜえぜえ喘いでいると少女は小首を傾げた後、あぐらをかく俺の膝の上に乗っかってきた。
ふんわりガールフェロモン再来。
「な、なん」
「私も休憩する」
「だからって、ここに乗る意味は」
「……だめ?」
服ごしに伝わる柔らかい感触。
「まぁ…………いいですけど……」
とても心地が良い。
もう動きたくない。
いや、はや。
黄昏でも動ける体質でよかった。
役得とはこのことか。
……しかしこの少女、さっきの受け流しといい最初の攻撃といい、運動神経がすごくいいんだな。
まあ生物兵器らしいからそれくらいは当たり前なのかもしれないけれど、この鈍感具合は少し謎だ。
「ふう」
「え、どうしました」
ふいに少女がもたれかかってきた。
「落ち着く」
「さ、さいですか」
「お父さんみたい」
それはそれで傷つく。
あって一週間と立っていないのに、なんでこの子はこんなに信頼を寄せてくれるんだろうか。
「……名前」
「名前?」
「聞いてない」
「そっか、そういえば言ってなかったな。……アキ。
「アキ……そう、アキだった」
「だった?」
よくわからない。
会ったことがあるのか?
だとしたらすげえ失礼なことしてる。
「なぁ、初対面……ですよね?」
「え?うん」
「『だった』って、どういうことだよ」
「え?……え?え?」
「言ったろ、だったって」
「わからない……口を突いて出ていた」
うーん、言葉のあやってやつなのかな。
俺もたまにあるし。
「じゃあ、君は?」
「……私?」
「うん。コードなんたらって言ってたけど、俺正直覚えられる自身なくてさ。せめて、フィア、とか、ニコラ、とかにならないかな」
「そう。なら、とっておきのモノがある」
「とっておき?」
少女は自らの髪の毛をつまんでひくひくと動かすと、やがて微笑を浮かべてこちらを振り向いた。
「私の、名前は──────」
感想欄にてヒロインの名前、募集中します!
なんかこう……アニメにあるようなカタカナの名前がいいです。