たった今誕生日を迎えた僕は、生物兵器と踊らない 作:翠晶 秋
「娘はやらんぞ」
開口一番。
小太りした体型の男は、俺が近づくなりそう言った。
「……ゔぇ?」
「コード1850は随分と気に入っているようだなぁ?初めて仲間以外に【黄昏】で動ける奴を見たからか?あ?」
「ファレノのことですか?」
「……買ってやった人形の事か。その名前も教えるとはな……」
もしかして、親的な存在なのだろうか。
ワンの言うことを考えると、この人がマスター……製作者なのだろう。
「ファノレ、ファノレなあ……。まあ良い。お前、【黄昏】の中で動けるんだろ」
「え?あ、まあ、そうみたいです」
「よし、戦え」
「……は?」
「【黄昏】の中で動けるヤツは多くない……今は戦力が少しでも欲しいんだ、お前には何が何でも戦ってもらう」
いや、え?戦う?
それって……ディギーズと、だよな。
「嫌ですよ!あなたに借りはないし、どうして俺が戦わなきゃならないんですか!」
「ん?あぁ……」
ぴ、と男がリモコンのようなものを操作する。
後ろの壁が一回転し、スクリーンのような物が出てきた。
「ディギーズには会ったな?」
スクリーンに先ほど見た機械───ディギーズの姿が映し出され、男は言う。
「奴らは常に人を潰し、コアを集めようとする……」
「ん?コア?秘宝が目的じゃないのか?」
「は……?あぁ、コード1850は肝心な部分を抜いて話すからな。一度説明するが……ディギーズのコアは元々人間のもの、どちらかというとコアを持っている人間の中に秘宝を持った人間がいる。秘宝も狙いだが、コアが膨大な量集まれば秘宝になるから、ディギーズは過剰運営して何も損はないわけだ。ジッサイ───」
後ろの扉が開く。
「───コアは万能な永久機関な訳だしな」
そこには、装備を軍服のような物に整えた、ファノレがいた。
髪に飛んだ血も、頰に付いていた傷も見当たらない。
「コード1850。任務ご苦労」
「……そんな事より。アキの入隊はどうなるの?」
「……ふん。『そんなことより』か。随分とご執心らしいな、え?」
「そんなこと。挨拶よりも、戦力が増える方が兵士としては重要」
へ、兵士?入隊って……やっぱりさっき言ってた、戦うってことか?
「いや待ってくれよ!入隊ってなんだよ、戦うって!そんなんに命かけられるかよ!」
「まあそう言うな。決定事項だ」
「理不尽だろ!?勝手に戦えって!だいたい、俺とあんたは初対面だし、戦ってやる理由はないじゃん!」
「え……?」
そこで俺は異変に気付いた。
男はため息をつき、ファノレは驚愕に目を見開いていた。
なんだよその反応。俺が何かおかしいこと言ったか?
「……『キャメリアル』という、ガンツァーと同じ類の武器がある。これは基本、撮影や記録に使われる道具だがな……コード1、ネーム、【アキ】で検索」
『OK、マイマスター』
スクリーンに表示される写真が変わる。
そこに移っていたのは……。
「俺……?」
俺だけじゃない。
濃いオレンジに染まった世界で、家族が、友人が、静止していた。
後ろに落っこちているのは……ディギーズ?
「次に動画だ」
ぴっと音がなる。
キャメリアル……だったかの使用者が、撮影をしながら住宅街の屋根を走っている。
使用者は現場記録係のような立ち位置にいるのか、周りには沢山の人がいる。
その中には、ファノレの姿もあった。
ファノレが屋根から飛ぶ。続いてキャメリアル使用者も飛んだ。
ファノレはショッキングピンクの装甲───ガンツァーを腕に装着しると、真下に急降下して何かを貫いた。
ディギーズだ。
ここで、画面内の人物が初めて言葉を発する。
『ディギーズ、排除完了。コード1850、記録のために何か言葉を』
『ん。ディギーズの撃破を確認。コアは未だ1つだけの模様。なお、この動画は───』
『───穂織地域のタグをつけること』
───は?
動画は止まらず流れる。
キャメリアルが動くと、そこには見慣れた光景と……静止する、自分の姿があった。
壊される前のディギーズの体勢を考えると……俺を、喰おうとしていた。
「これでもまだ、戦ってやる理由がないとかぬかすか?」
「なんだよこれ……つまり、恩は十分にあるってことか……?」
「マァな。ああ、別に死ぬまで戦えってわけじゃない。お前に関係している者を救った分……そうだな、ざっと500は倒してもらわないと釣り合いがないよな」
「ごっ……!?」
500。あの恐ろしいのを、500!?
「まさか、逃げるわけじゃないよな?こっちに命を救ってもらっておいて、何にもなしというのはなぁ……?『他人の関わることは絶対優先』のアキ君よ?」
「スウー……全部お見通しってことぉ……」
「その通りだ。さ、やってくれるよな?アキ」
「……すっごく怖いけど」
「じきに慣れる。まずは勇気を持つことだな」
誠に不本意だが、恩があると言うのなら……。
演劇部の殺陣は得意だったんだ、きっと……ディギーズくらい、イケルと信じたい。
「あぁもうわかったよ!ディギーズ500、やればいいんだな!?」
「やれば返してやる……辛くなったら逃げてもいいぞ。もっとも、【黄昏】から逃げられるかは知らんがな」
「やってやるよ!!」
◇
今日のところは家に帰れとのこと。
【黄昏】は去り、空は元の色に戻っていた。
子どもが駆け、自転車のベルが鳴る。
平和な日常だ。
先ほどまで
また【黄昏】に遭遇するかもしれないので、俺は帰り道をファノレに送ってもらっていた。
「……理解できない」
「なにがだよ?」
「動画にも会った通り、アキは【黄昏】の中では動けなかったはず。なんで急に【黄昏】に適応した?」
「……あ」
そうだよ。
【黄昏】で動けるのは一部の人間……。
秘宝を狙うディギーズたちが気付かないようにするには、俺が急に動けるようになったのは不自然じゃないか。
「もしかして、ファノレと会ったから?」
「……ん?アキの言うことが理解できない」
「コアは俺の中にも宿ってるんだろ……。ファノレと会ったから、コアが目覚めたから……とか?」
「ん……理解はできた。でもなんで覚醒した?」
「それは俺にもわかんない……」
とりあえず、俺がなぜ【黄昏】の中で動けるのか考えるには後にして。
もう家の前に着いてしまった。
「ん。ここがアキの家?」
「そう。送ってくれてありがとう」
「構わない。……明日、また迎えに来る。それじゃ」
うん、それじゃ。
そう言って、扉に手をかける。
一見なんでもないようなやりとり。
けどその裏には、血と鉄にまみれた戦争の背景があった。