たった今誕生日を迎えた僕は、生物兵器と踊らない 作:翠晶 秋
だってファノレのほうが呼び易いんだもん……
「それじゃあ、模擬戦でもしてみる?」
「お手柔らかに……」
ホチキリアスを起動させると、ファノレもガンツァーを装備する。
半歩引いてガンツァーを突きの構えにする様子は、殺気……と表現するべきか。プレッシャーがありありと出ていた。
お、お手柔らかに……!それで刺されたらひとたまりもないんだから……!
と、やや気圧されつつも模擬戦が始まろうとしていたその時。
ウウウウウウウウウ。
部屋が真っ赤な蛍光とサイレンに包まれる。
「ふぁっ!?なに、なんなの!?」
「狩りの時間」
「狩りって……もしかして」
『ディギーズの反応アリ。【黄昏】に備えてください』
ファノレがガンツァーをしまい、一目散に駆け出した。
早っ。
「早く、出撃準備!」
「実戦練習ってマ?」
「早く!」
「わ、わかったよ……」
ファノレが急かす中エレベーターに乗り込み、ファノレがピポパと階のボタンを複数押す。
表記が変わり、『○階へ参ります』と書かれた液晶が『are you ready?』となった。
ほんとにここ、世界救ってるんですか!?めちゃくちゃアニメみたいなんだけど!
ワンの声は聞こえない。
秘密基地からエレベーターで出たから?
「なぁ、ディギーズってどこにいるんだ?」
「手」
「ん?」
「手を」
「あ、うん」
左手を出すと「腕輪のある方!」と言われた。
解せぬ。右手を出す。
ファノレは俺の右手を掴んだあと、自分のコアの部分……胸に当てた。
「ちょっ!!」
「【黄昏】はディギーズだけのものじゃない。でも、アキはまだ使えないから」
「あぁ、はい。……ですね」
虚しい。
ファノレが眉を一瞬しかめた。
空が橙色に染まる。
気温は下がり、風は吹かず、不気味な空間が広がる。
「ん。ディギーズを探す」
「アッハイ」
ファノレがガンツァーを出したので俺も……と思ったが、意外に重いので動けなくなりそうだ。
出すのは戦闘時でいいだろう。
「なぁ、ディギーズってどうやって戦えばいいんだ?」
「こうやって……どん……?」
「マジかお前」
説明下手くそなタイプか。
とりあえず、ディギーズを行動不能にさせてからコアを取り出す……でいいんだよな。
専門家がいるから、俺はタンク役になった方がいいんだろうか。
……やっぱ無理。
「作戦とかはあるのか?」
「作戦を立てて思う通りに行った試しがない。行き当たりばったり」
「…………」
まぁ、考え方は同じタイプで安心したかな、しねえよ作戦くらい立ててくれ。
……ファノレはチームプレイをしたことが無かったのだろうか?
当のファノレは俺に合わせているのかちょこちょこスピードを落として走っている。
連携ができないというわけでも無さそうなんだけど……。
「っ、危ない!!」
「うおわっちゃぁ!?」
地面がえぐれ、飛び出てきたディギーズが俺を刺し殺そうとするのをファノレが阻止する。
突き飛ばされた俺はころころと転がった勢いで起き上がると、ホチキリアスを起動した。
「作戦は通用しない」
「そういうことかぁ……」
ディギーズだって三者三様と、そういうことですか。
前回のようなキャタピラではなく、関節のある二足歩行。
両腕は爪状の刃が重なってスコップのような形になっている。
頭部は前回と同じ監視カメラのような細長いモノアイ。
まさに、化け物って感じだ。
時にファノレさん?そういえば私、ホチキリアスの使い方を教えてもらってないのですが?
「ふっ!!」
「ファノレさん!?」
ファノレのガンツァーが光る。
一気に距離を詰めたファノレは右腕の刃を下から一気に振り上げ、いつの間にか上から迫っていたディギーズの爪のような装甲と鍔迫る。
火花が散り、ファノレが腕を引いた時、ようやくディギーズの爪に切れ目ができた。
バックステップでこちらへ飛んでくるファノレ。
「隙があったら攻撃して」
「俺、こいつの使い方知らないんだけど」
「…………」
唯一言うなら、重さに任せてぶん殴るみたいな。
「…………がんばれ」
「オイコラ説明放棄すんな!おい、マジでこれで殴れってこと!?」
ガンツァーがキリリと唸りを上げる。
先ほどの鍔迫り合いで刃こぼれ仕掛けていた刃がパキリとその場で折れ、新たな刃が押し出されてくる。
新たな刃は綺麗な切っ先をしており、なるほど、これでいくら刃が折れても新しくできるわけだ。
そしてそのまま、再びディギーズへ。
俺に出来ること……出来ること……。
なるべく視野を広げて状況を読み取ると、人影が目に入った。
なるほど、ディギーズはこの人を殺そうとやってきたわけだ。
だったら、この人を庇うように立って……。
「ッ!!」
ファノレが近接戦に負けて軽く飛ぶ。
ディギーズの視線はファノレに向いている。
「うおおおおおおおおお!!」
腰を落として、思い切りホチキリアスを叩きつける。
装甲が凹み、ディギーズがよろめいた。
……が。
体の横から迫りくる大槌に、気付かなかった。
全身に衝撃が周り、脳が揺さぶられるような痛みとともに体が吹き飛ぶ。
軋むように痛い。その場にえづき、肺に酸素を送り込む。
ホチキリアスも解除された。
アスファルトの地面が熱く感じる。
「アキ!」
「大丈夫っ……!」
「下がって!」
「うっぐ……げほっ、がっ」
たった一撃で、死にかけ。
なるべくディギーズの視界に入らないように座り、体力の回復を試みながら状況分析。
さっきの攻撃はなんだ?
よく見ると、ディギーズの右腕……ファノレが先程切り込みを入れた腕が、ハンマーのような武装に変化している。
「ファノレ!」
「っ、なに?」
「こっちにあいつの背中を見せてくれ!」
「……ん!」
ファノレが跳躍し、パルクールのように民家の屋根の上に乗る。はは、ジャンプ力すげえ……。
位置を変え始めたファノレを見失うまいとディギーズが体の向きを変える。
そして背中が……見えた。
「ファノレ!あいつは腕を切っても背中から新しい武器を持ってくる!やるなら背中からだ!」
ディギーズの背中に、バックパックがあったのだ。
そこには、先程取り外したのであろう爪がぶら下がっていた。
だからこそ、右腕をハンマーにした。戦闘スタイルを変えて、形勢逆転を狙おうとした。
やけに人間臭いやつだ。
「背中……。っ、でもっ、隙がっ」
「大丈夫だ」
俺は立ち上がり、息を整えてディギーズを見据える。
ま、自然治癒力だけは高いんでね。
切り傷とかじゃない限り、休んだらだいたい治るよ。
「俺がやる」
ホチキリアスを装備。
重くなった右腕を引きずりながらディギーズに迫り、そのままパンチするように一直線に振りかぶる。
反動で肩が砕けそうだ。失敗したかもしれん。
が、しかし、届いたのならそれでいい。
俺は思い切り、膝裏を叩いた。
節足動物のような足では、もう片方の足でバランスをとることは無理だろう。
カクンと、ディギーズがよろめいて尻餅をつく。
ここまで来たら、あとはもう。
「ッ!」
ファノレが真下に刃を向けた状態でバックパックに降り立つ。
串刺しにされたバックパック。
ガンツァーを抜くと、刃ごと体を一回転させてモノアイを切り飛ばした。
ディギーズから力が抜ける。全機能完全停止。
ファノレがガンツァーでバックパックから輝くナニカを取り出す。コアも摘出完了。
ホチキリアスを解除してファノレに手を差し出すと、ファノレはガンツァーを解除した手で握り、【黄昏】を解除した。
柔らかい風が俺の頬を撫でる。
ディギーズが暴れたためにえぐれた地面も、潰れかけた民家も、凹んだ車も元どおり。
死者、ゼロ。
「助かったんだ……」
「ん。あの子のコアも回収した」
「そんなことできるのか?」
「生きてる人間からコア単体を取り出すのは不可能だけど……でも、私が触れたらコアはこっちに集まった」
……あぁ。
たしか、コアをたくさん集めたら秘宝になるんだっけ。
で、コアを持った人間の中に、まれに秘宝を持ったものがいる、と。
ファノレの中にあるのはコア。
今回狙われた人のコアと融合したから、あの人は狙われなくなったってことか。
「このコアを集める作業さ。やり続けたらこの世の人間がコアを持たない、みたいなことになるのかな」
「?」
「世界中の人間からコアを集めたら、誰も狙われなくなるのかってこと」
「……難しいことはよくわかんない」
「そっか」
ま、そこまで踏み込んだらさすがに怒られるかもしれない。
深く詮索することは避けつつ、目標の数だけディギーズを倒す。
そしたら、いつもの日常に帰れるんだ。