たった今誕生日を迎えた僕は、生物兵器と踊らない 作:翠晶 秋
そう思っていた時期が俺にもありました。
案外ここの戦力は多かったようで、俺が出動するまでも無く、他の人が出撃して一瞬でカタがついてしまう。
これじゃあ、いつまで経ってもノルマ500なんて達成できないぞ……。
それに、俺がこの秘密基地に居れる時間にも、夜までという限りがある。
学生という身分のために、そればかりはどうしようもない。
「……どうした?」
「あぁ……ファノレ」
「浮かない顔」
「まぁ、その……いつまで経ってもノルマが終わらないからさ」
「それがダメ?」
「というと?」
「私はアキと一緒にいたい」
おおう。恥ずかしいこと言ってくれるね。
もしかして俺に気があるか?いやいや、まさかそんな漫画みたいな。
「お前はそうかもしれんけど。俺はなるべく早く、元の生活に戻りたい。ディギーズ500倒す、それが終わったら俺の中のコアもお前にやるよ」
「…………」
手元のホチキリアスの説明書をぱらりとめくる。
ファノレは相変わらず何を考えているのか読み取れない表情で俺の隣に座った。
トレーニングルームのど真ん中に二人で密集していると、余計にトレーニングルームが大きく感じる、
「秘宝、なぁ」
「秘宝がなに?」
「今の俺は傭兵みたいな立ち位置だから、詳しいことを教えてもらえないのもうなづけるけど……一体秘宝ってなんなんだろうなって」
「……教えてほしい?」
「そう。でも、目的がわからんもんのために働いてもなって」
ファノレは「んー」と頭を揺らし、瞑目して考え込む。
言葉を選んでいるようだ。
そして、いい案が浮かんだのかぱっと目を開くと、俺に顔を寄せてきた。
「……秘宝は」
耳打ちするような内容なのか……?
「秘宝は、願いの塊……欲望の権化。形の安定していない秘宝に欲望を伝えると……望んだ姿になる」
「……それが、秘宝?」
「ん。たまに、宇宙から秘宝がやってくるケースもある……流れ星……」
流れ星って秘宝だったのか。
ってことは、ディギーズと宇宙もまた関係がありそうだ。
「ディギーズは【黄昏】から抜け出すのを狙ってる……だから、秘宝で【黄昏】と現世をつなぐゲートを作るつもりだろうって、パパは踏んでた」
「パパ?」
「……?知ってるはず。パパはパパ」
えぇ……誰のことだ……?
パパって言ったら……あの男の……司令官みたいな奴のことか?それぐらいしか思いつかん。
『アキ様が思い浮かべている方で問題はありません』
「ワン!」
『コード1850。今回の任務をお忘れですか』
「ばっちり覚えてる。ぶい」
『それでは、指定した時間までに準備を』
「うい」
ワンの声が聞こえ、それに対してファノレが反応する。
長い付き合いなのか、フランクで友達のような間柄を思わせる話し方だった。
……ところで。
「ファノレ、任務って?」
「新しく作られた武器のテスト。ガンツァーの強化形態とかなんとか」
「それ俺もついていっていい?」
「……?いいけど、面白いものじゃない」
「まぁ、見学になって思って。場所は?
ん、と首を頷いたファノレが時計を見て首を傾げる。
薄いピンク色の髪が揺れ、ふんわりとした女の子の香りが漂った。
「どうした」
「時間が一時間くらい余ってる」
「……それならさ、俺と模擬戦しないか?」
「……?」
「この前やろうとしたときはディギーズの邪魔が入ったろ。だから、その時間を俺と模擬戦して潰さないかって提案」
「おー」
どうやら賛成してくれたようで、ファノレは肘から先をガンツァー……ショッキングピンクの剣に変える。
キリリという音と共に刃が押し出され、照明で輝いた。
少し準備運動をした後、飛び上がって俺にその刃を───ちょちょちょ!!
「っぶねぇ!?いきなり何しやがる!!」
「……?模擬戦」
「開始の合図もなしに始めるやつがいるかよ!」
「ディギーズはいつも突然やってくる……合図はない」
「そりゃ、そうだけども!」
右手首の腕輪に付いている水晶を回す。
中に内蔵されたコアが輝き出し、ずしりとした思い感触が右腕に装着された。
「俺、まだ使い方わかってないんだけど?」
「握ってるところにスイッチがあると思う」
「握ってるところ……?」
確かにホチキリアスの内部にはグリップがあって、装甲と自分の腕を固定する役割を果たしている……と、思っていたのだが……。
一度グリップから手を離してホチキリアスの内部を探ると、確かにグリップの向こうにレバーのようなものがある。形で言うと、握力系みたいな構造だ。
グリップと一緒に握ってみると、ガチンという音と共に凹の字型の針が床に向かって一直線に飛び、ホチキリアスの上顎と下顎が噛み合った。
「銃みたいな射出機能があるんだなぁ」
「ホチキリアスの釘は直接相手に当てれば鉄板5枚は簡単に挟める。あと、遠距離武器にもなる」
「よし。これならいけそうだ。いざ尋常に、よろしくお願───」
「ッ!!」
「ぶぁっ、だからいきなり来んなってのぉ!!!」
後ろに向かって地面を蹴り、着地した瞬間にファノレの足元に狙いを定める。
さっそく使うとするか、この機能!!
「くらえッ───おごぉ!?」
ぐいとレバーを引いた瞬間に右肩から後ろに吹っ飛んだ。
バランスを崩して倒れ込む俺を横目に冷静に針を回避したファノレが、いつのまにか目の前でガンツァーを振りかぶっていた。
「せい」
「…………」
起き上がるとか、横に転がるとかする以前に、俺の目の前で平べったい刃が止まった。
このまま腕を突き出せば、俺の首は刎ねられている……なんていう簡単かつ恐ろしいビジョンで頭がいっぱいになる。
「……ま、参りました」
「勝利」
一瞬で終わった戦いに、どうすることもできずに脱力してしまう。
初めてのディギーズとの戦いで好戦績を上げたことで、増長していたのかもしれない。
生命の危機を感じてバクバクと跳ねる心臓をなんとか抑えつつ立ち上がる。
模擬戦をしたって感じがしない。命のやりとりをしていて、死ぬ寸前で見逃された感覚だ。
……って、それでもまだ30分も過ぎていないのか。
「……もう一戦、お願いします」
「ん」
「ちょっ、至近距離から始めるか!?」
◇
……。
もう一歩も動けない……。
床に背を預けて肺に空気を送り込んでいると、アナウンスのような響きで機械音声が流れてきた。
『コード1850。時間になりました。準備の程は』
「できてる」
『よろしい』
あぁ、新しい武器を試すってやつか。
ファノレが伸びをしてひとつうなづくと、床からガンツァーとおなじサイズの槍のようなものがせり出てきた。
側面に穴が空いている事から、ガンツァーやホチキリアスと同じように腕を通すタイプのものだと一眼でわかった。
ファノレもそんなことははなから知っているのか、慣れた動きで新武器を装着した。
……実践投入ができると判断されれば、この腕輪のように加工されるか、他の
新武器は先程も言った通り槍のような形をしているが、先端に銃口のような穴が空いている。
……まるで、そう。万年筆みたいな形だ……。
『では、ダミーホログラムを配置します。自由に動いてください』
「ん」
天井の投影機や部屋の監視カメラからなんかすごい光が出てきて的が出来上がっていく!原理は知らん!一般の高校生に説明できるかよ!
……と、ここから先はファノレがいかに戦闘センスがあるかを見せつけられる時間が出来上がっていた。
新武器の先端が二段階で伸びて勢いの増した突きを繰り出したり。
銃口のような穴からやっぱり弾丸が出てヘッドショットしたり。もちろんびびったよ俺は。銃初めてだもの。
戦闘モードに移行したホログラムたちに、初見の武器で完璧な対応をしていたり。
こんな18にも満たない少女が鬼神と思えるような動きをしているのに、ただただ戦慄しているだけだった。
『データを記録。コード1850、お疲れ様でした』
「ポイント支給を所望する」
『……申請中。申請が通りましたので、今夜ポイントが支給されます。お疲れ様でした』
「いくら?」
『お疲れ様でした』
「む……」
が、がめつい……。
まぁ、たしかに……こいつからしたら死活問題だもんな。
こいつめっちゃ食いそうだし。
「お疲れ様」
「ん。勉強になった?」
「も、もちろん……。うん……。」
「?」
実際はまったくもって勉強になってないけど。
ま、ここの技術力が高いことがわかったってだけでも、充分に見学した価値はあったのではなかろうか。
この光景、ネタに出来ればいいんだけどなぁ……まぁ、絶対あの人がなんらかの権力で止めるだろうけど。
いつもの日常に戻ったら、似たような景色の小説を書こう。そのために、ディギーズを倒しまくる。そうすれば、いつか報われるはず。
「あの、ワンさん。俺さ、まだディギーズ一体しか倒して無いよね」
『はい。アキ様の目標討伐数まで、残り499体です』
「……はぁ」
……せめてファノレよりちょこっと弱いくらいになるまで頑張らなきゃ……。