司令書通りに横須賀鎮守府に出頭すると、そこには彼や卯月同様、駆逐艦一隻しか艦娘を持たない提督たちが大勢集まっていた。
そこには今回の招集の意図をわかっていない者が大半のようで、戦果を上げて鎮守府を持とうという野心が丸見えな態度の者が多くいた。
彼や卯月のように
待機命令が出ていた間に艦娘との関係が変わっている者も相当数いるようで、恋人や夫婦のように寄り添っているところ、奴隷のように扱われたのか艦娘が怯えて小さくなっているところ、はたまた険悪な雰囲気で両者ともにむすっとして口を聞かないところなど、その接し方が見て取れる者が多い。
彼と卯月は恋人というよりかは父と子、兄と妹のような空気を醸し出している。一つ屋根の下で暮らしているものの、間違いが起こったことは一度もなく、互いを信頼しているのが一目でわかるような接し方である。
「ふわあぁ。やっぱりすごい人だねぇ。これ全員提督ぴょん?」
「たぶんな。秘書官が付いてるってことはそういうことなんだろ」
卯月は目をキラキラさせて周りを見回している。いままで自分や司令官以外の艦娘や提督に出会ったことがなかったため、目の前の状況がとても新鮮に映っているのだろう。
彼はといえば初期艦建造の際に並んだことがあったため、さして驚いている様子はない。冷静に周りを見回し、その数の概算をする。
その数約5000。高校生のときに2000人規模のイベントのボランティアをした経験があったためか、その倍より多いと目星を立てられた。
「鎮守府や警備府、基地って呼ばれるものがいま40以上あるって聞いたから……」
「やっぱりこれは在庫処分だぴょん」
全ての鎮守府にこの人数が集まっているとすれば、その数は20万を超える。鎮守府によってその数に差はあるやもしれないが、日本にいるほぼすべての提督『候補者』が集められているであろうことを彼は確信していた。
彼の零した言葉に、卯月が抑揚の無い声で言う。彼女もまた概算して上がこの戦いで数を減らそうとしていることを改めて認識したのだ。
そもそも関東の人間でない彼と卯月がわざわざ横須賀に呼ばれたのだから、住んでいる場所から近い鎮守府に呼ばれたのでないことは確かなのである。
「それぐらいしないと勝てないのか、それとも単純に費用を浮かせたいのか」
「どっちでもいいぴょん。うーちゃんたちにはどうにもできないぴょん」
「塵だろうが木偶だろうが、積もれば山となる、か」
「駆逐艦でも大量にいればいやでも目に付くぴょん。どれだけ沈んでも主力じゃないから痛くも痒くもないお手軽な囮の完成でっす」
ふざけたように言ってみせるが、内容は物騒極まりない。
しかし卯月ももう覚悟は決まっているようで、その表情に陰りはみられない。
彼はその表情を見て一度だけ彼女の頭をくしゃっと撫で、何かを探すように建物の方へ向かって行く。
卯月はといえばとても穏やかな表情をしていた彼に驚いて、少しばかり身動きが出来なかったのだが、ハッとするなりその後ろをかけていき、すぐに横に並んだ。
彼は時間を過ぎても何の動きもない鎮守府側に今後の説明を要求しようと思っていたのだが、会議が長引いていただけらしく、彼が訴えようとしたそのときにちょうど中から役員らしき面々が姿を現した。
それを見て彼は歩みを止め、建物から出て来た者たちへ目を向ける。パラパラと周りの提督たちもそれに気が付いたかのように建物の方へ近付いてきた。
ある程度自分たちに注目が集まったのを確認すると、一人がマイクを持ち、近くで機材を操っている艦娘らしきが慌ただしくチェックを始めた。
「後ろの方々。聞こえているだろうか。聞こえていたら手を上げてほしい」
スピーカーがあったため、後ろにいた人間も、それまで建物から人が出て来たことに気付いていなかった者たちまでもその声が届く。
声が届いているのを確認できたのか、壮年の男はそのまま話を始めた。
「私のことは置いておきましょう。重要なことではありません。ただの指揮官でしかありませんから。大切なのはあなたたちの艦娘がこれから出撃するということです。もちろん訓練を行ってくださっていると思うので、簡単に沈むことは無いとは思いますが、不運なことに帰還できないこともあるかと思われます。これより昼食の場へご案内しますので、出撃前の会話をお楽しみください」
その言葉はとどのつまり、「訓練しろって言ったのにしてないから沈んだんだぞ? 文句言うなよ?」と言っているようなもの。だが、それに反抗する言葉を彼は持たなかった。
理不尽だと言えばそれまでだが、それ以上に理不尽な相手と日々彼らは戦っているのだ。ずっと戦ってきた艦娘が温存されて攻略部隊となり、遊び呆けてただただ平和を享受していた自分たちの艦娘が囮となり沈んでいくのは当然の扱いだと言えよう。
突然また頭を撫でられた卯月はふと、彼の顔を見上げる。彼がどんな表情をしているのか見ておきたかった。怒りを覚えているのか、悲しんでいるのか、はたまた諦めてしまっているのか。
彼女の予想に反して彼は笑みを浮かべていた。その笑みを理由が分からない卯月は、不思議そうな顔をして彼に問う。何故笑っているのか、と。
それに返された答えに卯月は心が温かくなるのを感じた。そしてそれと同時に、絶対に生きて帰ろうと心に誓う。
反対の声もあった。罵る声さえあった。しかしそれを受け入れることはせず、そして出口に敷かれた軍備が彼らを逃がす気がないことを物語っていて、多くの提督たちが絶望の表情を浮かべていた。
そして周りが涙でしょっぱくなったカレーを別れの言葉をお互いに飲み込みながら食べている中、与えられた少し辛口に作られた絶品のカレーを具材はなんだろうだの隠し味は何が入っているのだろうなどとごくごく普通の会話をしながら食べ終え、簡単な別れを告げた。
「行ってくるぴょん!」
「いってらっしゃい」
そして、五千隻の駆逐艦は囮として出撃していった。
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忙しくなければコンスタントに投稿していきたいところ