崩れゆく世界の片隅で   作:mikimiki

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部隊は戻ってうーちゃんとみっちーの戦いへ


5、こんなの聞いてないぴょん

 止まるな。動き続けろ。止まれば自分たちはただの的。装甲が高くない自分たちは、たとえ駆逐艦の弾だとて当たればただで済む保証は無い。

 動きを読まれるな。考えろ。相手を撹乱し、出来た隙に自身の一撃を叩き込む。数はまだ多くない。乱打するよりかは、弾の数を見ながらじっくり機を待った方が良い。

 

「卯月、魚雷よ!」

「わかってるぴょん!」

 

 卯月はそう言いながら跳びはね、体を宙へ浮かす。まっすぐ進むだけで目標に当たるはずだった魚雷は卯月の真下を悠々と通過していき、少し離れた場所で艦娘の亡骸に衝突してその体をさらに爆ぜさせた。飛び散った肉がこちらに届きそうでも、卯月の表情は変わらない。

 跳躍。肉を持ったからだからこそできる、本来の艦船ならばあり得ない挙動。もし昔のような軍艦対軍艦の戦場で、魚雷を艦艇(ふね)が一時的にとはいえ空中浮遊して回避するなんていう場を目にすれば、まずはその目を疑うことだろう。

 とはいえ、空中にいるなどただの的になるだけ。そのことは卯月も重々承知だった。跳んだ卯月に気付き、砲を向けようとする艦に牽制の攻撃を与える。

 着地地点に向けて魚雷を撃とうとする艦には満潮がよそ見するなと言わんばかりに至近弾を見舞った。改造していない艦とはいえ、この内容の濃い実戦で鍛えられた射撃精度と急所を突く技術は一級品である。相手の駆逐艦が後期型であろうがその火力は十分だった。

 

「助かったぴょん!」

 

 そう言いながら着水した卯月は魚雷をまき散らす。

 満潮の砲撃精度が上がっているのに対し、卯月は魚雷投射の腕を上げていた。田楽刺しにするように一直線上に並んだ敵を、確実に一体、あるいは巻き込みでそれ以上の敵を倒せるようになっている。逃げようとした場所にも魚雷を置き、彼女が魚雷で仕留めた敵の数は満潮が砲撃で倒したそれよりも上。

 

「あんたは確実に卯月の平均値は越えているわね」

「満潮はどうだろうねー? でもたぶん急所に当てるのはかなりうまいいはずだぴょん」

 

 まだ追ってきた敵水雷戦隊の数は少ない。悲鳴が少し遠く、先程まで自分たちがいた場所から度々聞こえてくるから、おそらくあそこに残っている子たちを先に片付けている最中なのだろう。

 卯月は魚雷を先程倒れた子から回収する。少しの間だけ瞑目し、その冥福を祈ってから魚雷を手にしている。

 満潮はと言えば、残弾が心許なくなる前に取り変えようと亡骸から砲ごと取り上げていた。「使うわ」とそう一言だけ言い置き、その表情には苦いものが混じっている。

 

 その後もいくらか追ってきた敵を倒しながらその場を離脱する。

 陽はもう既にどっぷりと沈んでいて、辺りを暗闇が支配している中、海を進む二人の走行音だけが辺りに響く。

 

「鎮守府から随分と離れちゃったねぇ」

「いまも離れる方向に進んでいるし、燃料がちょっとばかり心配ね」

「……燃料なんて戦場に溢れてるぴょん」

「それもそうね」

 

 武器の補充は仲間の亡骸から行ってきた。ならば燃料も、同じ要領でやればいいだけのこと。

 満潮はいわれてようやくそれに気が付いたのか、呆れたように顔を歪めた。

 

 その満潮の体が、光る。否、彼女が発光したのではない。

 卯月と満潮の二人は光を当てられたのだ。夜の海で視界が悪い中、その姿を光の下に曝される。それは相手に撃ってくれと言っているようなものだった。

 

「……まずいっぴょん」

「叩くわよ!」

 

 向かっていこうとする満潮を、卯月はその腕を掴んで引き止める。そしてすぐに散開して回避行動を取った。風を切って何かがこちらに近付いて来る音が聞こえたのである。

 直後に先程まで二人がいた位置に、巨大な鉄の塊が飛来する。二人はそれを見て、戦慄した。

 16インチ砲弾。それはつまり、戦艦級の射程に入ってしまったということを意味していた。

 そして嫌なエンジン音が聞こえてくる。夜襲かと思って空を仰げば、そこにあったのは偵察機だ。夜間偵察機である。

 

「さっさと偵察機を落とすぴょん」

「……そうしないとまずいわね」

 

 偵察機があるということは、こちらの位置がそのまま知られて(見えて)いるということ。先程のかなり正確な砲撃を見るに、おそらくあの偵察機は先程こちらに砲を向けた戦艦のものなのだろう。

 このまま放置すればいずれ行動を読まれ、被弾する。そうなれば装甲の無い自分たちはほぼほぼ一発で中大破。一撃轟沈防止の救命装置が備わっているとはいえ、その後に他の駆逐艦の攻撃にでもかすれば機能停止して死を待つだけの状態になるだろう。

 

 撃ち落とすべく残しておいた機銃を駆るが、当たらない。二人の対空射撃の腕は決して悪くないのだが、敵の回避行動がそれよりも上手い。夜で狙いが定めずらいということも相まって偵察機を落とすのは至難の業となっていた。

 幸い敵の砲弾はまだまだ精度が甘く当たる気配は無い。だが、余裕は無いのも事実だった。

 光の補足を振り払いながらなので、余計に動きづらく、攻めづらい。せめて光だけでも逸らそうと思うがそれも叶わず、照らされて明瞭になった自分たちに向けられた砲撃や魚雷も(かわ)さなければならない。

 

「分かれて敵を叩くわよ。光をもらった方は回避に専念しながら、できたら光の発信源を断つ。もう一人は夜偵を落として、敵を叩く。良いわよね?」

「了解でっす!」

 

 応えながら満潮を引き離すように海を滑り始める卯月。しばらく走ればその姿は光の範囲から逃れ、闇に飲まれた。

 そして自分を追ってきた夜偵に向かい、機銃を両の手で三連射。それを避けられたのを見て、一度戦艦級の砲弾を流してから今度は弾幕を張る。これも当たらない。

 

 ちらりと横目で満潮を見れば、二人に分散していた砲火が一人に集中し、戦艦の砲をしっかりと見て回避してはいるものの、駆逐艦からの被弾が少しずつ重なっているようだ。まだ小破ほどだとはいえ、いつまで持つかはわからない。

 危険の少ない自分がいつまでももたもたしているわけにはいかないのだ。

 卯月は機銃を構える。一発。二発。三発。少しずつだがその射撃精度を高めていく。足を止めては打ち、戦艦の砲を避けてからまた足を止める。

 それを繰り返して、卯月はようやく敵の夜偵に攻撃を当てた。だが、まだ墜ちない。

 

「これでおしまいぴょん」

 

 連射。乱雑に打っているように見せかけて、調整しながら打たれたそれは、回避行動をとった夜偵に直撃し、その衝撃で動いた場所でも命中し、結果的に墜とすまでもなく爆散させた。

 その結果を見届けることなく、卯月は打ち切った機銃を放り投げ、魚雷を手に取る。

 ふぅーっと長い息を吐いた。深呼吸をして心を落ち着かせ、音を消し、慎重に、しかし出せる全速力で敵の方面へと近付いて行く。

 進めばすぐに相手の戦艦が目に入った。ル級と呼ばれる個体で、その眼は黄色く光っている。所謂flagship(フラグシップ)級というやつだ。flagship(フラグシップ)級は強い。攻撃力もさることながら、耐久力もelite(エリート)個体とは段違いの完全上位個体である。

 恐らくここにいる中の一番の大物で、だがそれでも獲って見せると魚雷を放とうとしたそのとき、空で光が爆ぜた。

 何事かと思って確認すれば、光の球が落ちてきている。

 

「……照明弾」

 

 卯月はポツリと零すと、ハッとしたように敵の方へ眼を向ける。相手がこちらを見えるように明るくしたのだが、近付いてきていると判断して近場に放ったのか、相手の姿も丸見えだった。

 その卯月の思考がほんの一瞬、止まる。

 見てはいけないものを見たような気がした。

 

「こんなの聞いてないぴょん!」

 

 それでも攻撃対象を変えず、そのままの勢いでル級flagship(フラグシップ)を大破させることができたのは唯一の僥倖だと言えるだろう。これでいま叩いた戦艦が機能することは無い。

 自分が闇に紛れ、夜偵を落とさなければ見ないままで済んだ敵を前にして、卯月はふざけるなとばかりに苦い笑みを漏らす。

 満潮は卯月が戦艦を叩いた音で我に返ったのだろう。自分に飛来していた弾をすんでのところでかわして、敵艦に向かって砲撃を始める。

 卯月は残りの魚雷の数を数えた。30本。かなり使ったとはいえ残弾としてはまずまずだろう。主砲の方はだし惜しんだからかまだまだ残っている。そちらは素の火力の心許なさも相まって頼りになることは無いが。

 

 明るくなった戦場で、卯月は敵旗艦に対面する。

 迂闊だった。ル級flagship(フラグシップ)がいたから、それが最高戦力であり旗艦なのだと早とちりした。本来の深海棲艦が持っていないはずの所謂『夜戦装備』を使用してきたことや一発目からすさまじいほどに正確な砲撃を放ってきたこと考慮に入れていたならば、もっと上がいることを想像できたかもしれないのに。

 

「実践不足は難しい、ぴょん」

 

 彼女たちは実戦に出ていない。普段から深海棲艦と戦っていならば、普段とは違う挙動をする敵艦隊を見て、『それ』に比肩する戦力が存在することに気が付けたかもしれない。

 だから彼女たちは判断を誤った。探照灯の照射を受けた時点で引くべきだったのだ。そうすれば『それ』と戦わず、逃げる選択肢もあったかもしれないのに。

 

 ――敵旗艦の冠する名は戦艦棲姫改。

 未改造の駆逐艦二隻には、たとえ随伴艦が駆逐艦だとしてその荷は重すぎる。

 それでもまだ二人の眼に宿る闘志の灯は、消えてはいない。




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