フェアリー・エフェクト(完結)   作:ヒョロヒョロ

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【前回のあらすじ】
ルイ「できると思ってやった。今は猛省している」
父子「おこだよ」(低音ボイス)
カジット「お母さぁああん!!!」(感涙)


魔王后、微笑する

 アルベドは、モモンガの后だ。

 その地位は、消えゆく定めにあった《ユグドラシル》で、その最期を看取りにきたヘロヘロによる最後の情けであり、一種の戯れだったのだろうと、既に理解はしている。

 それでも、アルベドは、数多いるシモベの中から自分が選ばれたという幸運に、心から感謝していた。

 ──アルベドは、ナザリックに最後まで残ってくれた慈悲深きモモンガを、恋い慕っていたから。

 そして、《こちら》への転移によってナザリックが滅びを免れたことで、アルベドは未だ、モモンガの后として存在し続けている。

 《こちら》への転移後、アルベドに私室が与えられていなかったこともあり、ヘロヘロの「夫婦なら同じ部屋で過ごすべきでしょ」という一言でモモンガと同室となった時など、アルベドは天にも昇るような心地になったものだ。

 しかし、当のモモンガは、ことの成り行きにひたすら戸惑っている様子だった。

「──勝手に后にして、あげく、同室なんて……すまない、アルベド」

「……私が后では、ご不満でしょうか……?」

「い、いや、そうじゃない。私の不満とかじゃなくてだな、むしろ、お前の気持ちの問題というか」

「私は、モモンガ様の后となれて、幸せの絶頂におりますわ」

「えっ」

「私は、ずっとモモンガ様をお慕いしておりましたもの」

「そ、それは、“后であれ”とされたせいで生まれた感情では……?」

「いいえ、違います。伴侶と定められたからといって、互いに愛を向けるとは限らないでしょう?──現に、ルイは実の親に定められた未来の夫を、愛していなかったではありませんか」

「……そ、そういわれれば、そうか……」

「ですから、私がモモンガ様に向けるこの愛は、紛れもなく私自身の気持ちなのです。──ご迷惑、でしょうか?」

「そ、そうじゃない。そういうわけじゃない、が……な、情けないが、その、女性から、そういう好意を向けられたことがないんだ、俺は」

「えっ」

「だから、お前のような美女に……あ、愛していると言われても、どうしても信じきれないというか……あ、いや! お前の気持ちを疑っている訳ではなく、経験がないから戸惑っているだけでな!?」

「──びじょ……」

「そ、それに、俺は、今やこんな(カラダ)だし……その、なんというか、何もできないぞ? ナニもないからな?」

「──えっ!? ないのですか!?」

「あっ、こら、何を!? やめっ、あーっ!」

 ──<死の支配者(オーバーロード)>であるモモンガに、そういうコトができないのは誤算だったが、それでもアルベドの気持ちを知ってもらえた上で、“后”として認めてもらえただけでも十分すぎるくらいだった。

 しかし、天は更にアルベドに味方した。──ルイのスキルと、彼女が持ち込んだアイテムのおかげで、モモンガが人化できるようになったのである!

 その後、モモンガはすぐに外の調査に行ってしまったため、ナニする暇もなかったが──

(──人の身体なら、当然()()()いるわよね! となれば、夫婦としての営みだって……うふふふふふ!)

 思わず腰の翼が羽ばたくほど浮かれたアルベドだったが、その後、地に叩きつけられるような衝撃を受けた。

 ──ルイが、昏倒したのである。

 ナザリックの内務を請け負う守護者統括としても、彼女の義母としても、アルベドには彼女を守る義務があったのに──なんという失態か!

 しかも、ルイの意識がない間、彼女の身に何が起きたのか解明すらできなかったのだ。己の無能が情けなくて、アルベドは歯噛みした。

 事件から三日後、ルイは意識を取り戻し、原因も判明したが──その一端は【最も尊きもの】にもあるとわかって、モモンガはそれによるスキル譲渡をやめてしまったのだ。

 当然、アルベドが胸に抱いていた幸せ夫婦計画も、丸ごと水泡に帰してしまった──

 かと、思っていたのだが。

「ああ、アルベド、おかえり」

「──モ、モモンガ様……?」

 ルイが目覚めた次の日の夜、職務から自室に戻ったアルベドを出迎えたのは──人の姿(モモンモード)のモモンガだった。その胸元には、【凍えた燕】の姿がある。

「も、【最も尊きもの】の使用はおやめになったのでは?」

「ああ、うん……」

 モモンガは、黒髪をかき回すように頭を掻く。

「今回、ルイさんが倒れた原因は【最も尊きもの(これ)】のせいでもあるから、俺としてはそうしたかったんだけど……ヘロヘロさんとパンドラに『現状で“モモン”を捨てるのは拙い』って止められてな……」

「それは……そうですわね」

「だからって、またルイさんが倒れるようなことになったら困るってことで、他の原因──ルイさんの種族特性と種族スキルの方を封じるってことになったんだよ」

 何でもパンドラズ・アクターが宝物殿をひっくり返して、【人化の腕輪】という装備を発掘してきたのだという。

「これなー……【人化の腕輪】って名前だけど……最初に人化の手段を模索した時に候補にも出なかったのは、一回つけると()()()()()()()()から。通称、“呪いの腕輪”」

 一度装備してしまうと、死亡時の装備ドロップでしか外せないのだという。

「しかも、種族特性と種族スキルが使えなくなるどころか、()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。俺が使ったら、種族レベルの分の40レベルが丸ごと封印されて、60レベル扱いになる」

「それは……その分、ステータスも下がってしまうのですか?」

「うん」

 ──なるほど、まぎれもなく“呪いの腕輪”である。

「これをルイさんにつけさせるのも、正直どうかと思ったんだけど……戦力的には、俺がつけるより、ルイさんがつける方が正しいから……」

 【最も尊きもの】を封印して、モモンガが【人化の腕輪】を使用するより、モモンガに【妖精の輪(チェンジ・リング)】を譲渡したルイが【人化の腕輪】を使用する方が、下がるレベルは少なくて済むのだ。

 当のルイは「別に病気になるわけでもなく、普通の人間の状態に戻るだけですよね? なら、問題ないです!」とまるで気にした風もなかったという。

 暢気というか、なんというか──まあ、安全なナザリック内にいるので、弱体化しても特に危険がないと言うのも大きいのだろうが。

「──と、まあ……これから、ルイさんは殆ど普通の人間と同じような状態なので、これから色々気を使ってやってくれ。──パンドラが装備で過重包装してはいたけど」

「ええ、わかりました。皆にもそのように通達しておきますわ」

 にっこりと笑んで頷いたアルベドに、モモンガはどこかひきつったような笑みで、

「──ところで、アルベドさん……その手はナンデスカ」

「うふふ……せっかく、夫婦で過ごせる時間ができたんですよ?」

「ま、待って、待ってくれ!──そうだ、俺まだ晩飯食べてない!」

「あら、飲食不要の指輪もなさっているじゃありませんか」

「でもアルベドと一緒に食事したことないし、せっかくだから一緒に食べたいなぁ! アルベドみたいな美人と一緒に食べたらきっと美味しい!」

「あらあら、まあまあ! モモンガ様ったら!」

 ──その後、自室で一緒に晩餐をとるも、ワインを飲み過ぎたモモンガが潰れてしまったため、アルベドの目論見は先送りにされてしまった。

 

(──でも、まあ、これからいくらでも機会はございますものね)

 

 むにゃむにゃと眠るモモンガに寄り添いながら、アルベドは妖しく微笑んだ。

 




人間形態のルイのレベル:30(=47-17(封印された種族レベル))

【最も尊きもの】での【妖精の輪】譲渡→【人化の腕輪】でルイの種族レベル封印、の順番なら、【最も尊きもの】が外されない限り効果は持続します。
既に【妖精の輪】の修得者がモモンガになっているので、ルイのスキルとして扱われず、一緒に封印されないのです。
別口座使っての差し押さえ逃れみたいなもんです(ヒドい喩え)

【人化の腕輪】(通称:呪いの腕輪)
(フレーバーテキスト:異形であることを捨てて、人となる腕輪)
効果:装備中、人間形態(セカンドアバター)へ外装変化する。
また、異形種・亜人種としての種族レベルは封印され、それによるステータス上昇、特性、スキルなども一緒に封印される。
この装備は、“死亡”による装備ドロップでのみ外すことができる。
(対に【人外の腕輪】という人間が異形種に化ける装備もあるが、こっちもペナルティが酷く、クソ運営何したいんだと叫ばれた装備シリーズ)

<おまけのアルベド考察>
原作のアルベドの不幸は、モモンガ本人に「愛している」と感情自体を書き込まれてしまったことだと思います。
「仲が悪い」とされているシャルティアとアウラの例を見る限り、設定によって言動への影響はあっても、その感情自体は完全には縛られていない。
ということは、アルベドが元々全くモモンガを愛していなかったなら、「愛している」という設定は表面上の言動にしか影響しなかった?
設定変更される前のアルベドがモモンガをどう思っていたかは、もはや確かめようのないことですが、少なくとも好意的な存在であったことは間違いないでしょう。何せ、最後まで残ってくれた至高のお方ですし。
というか、一言に「愛している」といっても、愛にも色々あります。主従愛だって家族愛だって立派な愛でしょう。様々な“愛”の中から“男女の愛”を選択したのは、アルベド自身の気持ちだと思うんですよね。
ですが、この“愛”を当のモモンガに対して証明することは、非常に困難です。
アルベドが何をしても、何を言っても、モモンガの中では「俺が設定を変えてしまったから」に帰結してしまうのですから。
なので、せめて、本作では報われてほしいなぁ、という感じです。

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