最終話です。
【前回のあらすじ】
蜥蜴人族「こんなんあと40もいるとか絶対勝てない」
レイナース「呪いは消えたけど職も無くした」
ンフィー「エンリ、久しぶり……って、その男は誰!?」
クインティア妹「じゃあね、クソ兄貴w」兄「ぐぎぎ」
「……あれっ? ……私、今日、16歳になったかも?」
「──はッ!?」
この世界に来てからもう何日、という話をしていて、ふと気づいたように呟いたルイに、
「えっ、誕生日!?……そういえば、転移してすぐに来月16になるとか言ってたね!?」
「せめて昨日までに気づいて欲しかった! いや、過ぎてからよりはいいかもだけど!」
慌て出した至高の方々に、パンドラズ・アクターは首を傾げる。
「はて? 何か慌てるようなことなのですか?」
「お前、何言って──って、そうか、誕生日を祝うって習慣がないのか」
一瞬、眦をつり上げかけた父は、途中で
「《リアル》には、誕生日パーティーって習慣があってね。まあ、ようはお祝いの宴だよ。貧しい家でも、家族の誕生日だけはいつもよりいいものを食べたり、贈り物をしたりしてお祝いする」
「──なんと! では、宴の用意をしなくては!」
ヘロヘロの言葉に、パンドラズ・アクターは、何故至高の方々が慌てていたかを理解した。
「えっ!? いいですいいです! こないだカンストのお祝いもらったばっかりですし……」
しかし、当のルイは慌てたように首を振って固辞する。──気づいたから呟いただけで、特に祝ってもらう気も無かったのだろう。
「いやいやいや! 知った以上は、お祝いしないとこっちの気が済みませんよ!」
「そうですよ! それに、歳取ると素直に誕生日喜べなくなりますからね? 十代のうちに盛大に祝われるべきです!」
「えっ、で、でも……」
モモンガの勢いとヘロヘロのよくわからない理屈に、気圧されたルイが助けを求めるようにパンドラズ・アクターを見る。
(これは、どうしたものでしょう……)
祝いたい至高の方々の気持ちはわかるし、むしろ心情的にはこっちよりだが、無理に押し通しても、ルイの性格的に
しかし、パンドラズ・アクターが動きを決めるより早く、状況が動いた。
「──ご歓談中失礼します! 緊急です!」
──“
ツァインドルクス=ヴァイシオン──ツアーの愛称を持つ竜王は、半月ほど前にも来た大森林へ、端末の鎧姿で訪れた。
一晩にして南に拡大するという異変──時期的にも“百年の揺り戻し”絡みの可能性が高い。
しばらく周辺の様子を見て、強大な力を持つ存在が現れたという確信は得られた。──同時に、ことを荒立てず、対話がかないそうな相手であることも。
行動からして、この世界に対して善意的な存在のようだし、“八欲王”の時のようなことはなさそうなのだが、悪意が無くとも善意から
しかし、森の中でツアーを出迎えたのは、
「……スルシャーナといい、君たちの元いた世界では、アンデッドは慈悲の存在なのかい?」
「──そういう言い方をすると言うことは、少なくとも喧嘩を売りに来た訳ではなさそうだな」
そう言って、どこか張りつめていた気配を緩める<
「さて、我が支配地に何用かな、白金の竜王。すまないが、この後大事な予定があるので、手短にすませて欲しいのだが」
(……私のことは知ってるのか……情報収集能力はそれなりにある、と。まあ、そうでなければ、事を荒立てないように立ち振る舞いながら、縄張りを確立するような器用なマネはできないか)
そんな風に思いながらも、まず訊きたいことを尋ねた。
「……話すのに不便だから、君を何と呼べばいいのか教えて欲しいんだけど。あ、私のことはツアーでいいよ」
「……では、モンガ、とでも呼べ。──それで、用件は?」
骸骨の表情は読めないが、やや急いているような声音に、首を傾げる。
「……先約は、そんなに大事な用事なのかい? ただ、ちょっと話したいと思って来ただけだから、何なら出直そうか?」
「え、いいのか?」
わかりやすく明るくなった声音に、重要な用事というより、何か楽しみな用事なのかもしれない、と思い至る。
「なら、悪いが後日出直してもらえると──ん? えっ!? 本気!?」
言葉の途中で、ここにはいない誰かに向かって声をあげるモンガ。──誰かからの《
「……予定というのは、ある記念日を祝う宴だったんだが……その主役が、『どうせなら、お客さんもご一緒に』と言っている。来るか? ツアー」
「えっ、いいのかい? 仲間内のお祝いじゃないの?」
初対面の飛び入りが入って、水を差してはしまわないだろうか。
「……お前とはできれば仲良くしていきたいからな。少なくとも、諍い合う関係にはなりたくない。──交友の一環として、まあ、ありかな、と」
そう言ってから、ただし、とモンガは言葉を繋ぐ。
「──私の大事な家族と仲間に、毛ほどの傷をつけることも許さん」
そして、ざわりと怖気立つような気配が立ちのぼる。
なるほど、とツアーはその様子に腑に落ちるものを覚えた。
(──彼は、
だが、諍う国を滅するのではなく、諍いの原因をなくす方向で動いているあたり、そのやり方は温厚で理知的と言える。
「……私としても君たちとは仲良くしたい。君の仲間や家族を傷つけたりしないさ。よろこんで、お招きにあずからせてもらうよ」
「──そうか」
途端、穏やかな気配になった彼の魔法で、ツアーは彼の居城へと脚を踏み入れた。
──帝国にある闘技場と似た意匠の建造物。中央の広けた空間に、様々な料理を載せた卓が並んでいる。
しかし、何より、ずらりと並んだ異形の群こそ、圧巻だった。
(──こんなに……!? “八欲王”のギルドより数も力量も勝る……)
つくづく、この団体の長が、この世界に害なす気質でなくてよかった。
「──いらっしゃいませ、お客様」
代表というように、出迎えの言葉を紡いだ女悪魔。
彼女を見て、ツアーは
「──ああ! お祝いってそういうことだったのか! ……すまないね、大変な時に来てしまって。身重の身で無理はしなくていいよ。お腹の子に障ったら悪いもの、休んでおくれ」
途端、何故か、居合わせた全員が固まった。
「………………えっ?」
当の妊婦が驚いたように自身の腹に手を当てる。
「……えっ、もしかして、気づいてなかった? その子が宿ったお祝いの宴じゃないのかい?」
しばしの沈黙の後──驚愕の絶叫が、場を支配した。
「──モモンガさん、マジで!? ついに卒業したの!?」
「さ、先延ばしにする言い訳が尽きて……って、そんな話はどうでもいい! 本当に、子どもが……!? ──マジだ! 反応が二つになる! ……ああ、立ってないで休んでアルベドぉ!」
まとわりつく黒スライムを振り切って、女悪魔に何やら魔法をかけたモンガ──本名はモモンガのようだ──は、魔法で作り出したソファへ彼女を座らせる。その後も、上掛けやら何やらを魔法で量産しだした。
「──ワ、ワカ……? 至高ノオ方ノ若ガ、オ生マレニ!?」
「えっ、いや、まだ生まれてないし、若とは限らないよ? 姫かも知れない」
「……ヒメ……姫……!? ──ォォオオオ! 姫、爺ガコノ身ニ代エテモオ守リシマスゾォォオオオオ!」
「落ち着きたまえコキュートス! 今、君が、御子の害になりかけているよ!」
興奮のあまりにか、ブシューブシューと冷気を放つ巨大な蟲を、紅い衣の悪魔が必死に宥めている。
他の異形たちも各々騒いでおり、もはや場は混乱の坩堝だ。
(──え、これ、どうしよう……)
原因を作ってしまったのは自分のようだが、ツアーは完全においてけぼりである。
「──あの……」
と、そこにおずおずと声をかけてきたのは、人間のように見える少女だ。黄色い服装の異形が、その横に付き添っている。
「はじめまして、ルイっていいます。──あの、おかあさまのお腹の子のこと、教えてくれてありがとうございました」
「ああ、いや、礼を言われるようなことじゃないよ。私のことは、ツアーと。──おかあさま、ということは、君は彼女の娘かい?」
「正確には義母と嫁の関係ですね。私とルイ殿、父上とアルベド殿が夫婦なので」
横の異形がさらっと補足する。
「……父親の妻だけど、君の母親ではないんだ?」
「ええ。名誉にも息子扱いされていますが、私も正確にはモモンガ様の実子ではなく、NPC──貴方たちがいうところの従属神なので、母親はそもそもいませんから」
「や、ややこしい……っていうか、えっ!? モモンガ!? ──じゃあ、あの子どもの父親、モモンガなのかい!? アンデッドなのに!?」
「父上は、スキルで人間にもなれますから。というか、普段は人間として過ごしていらっしゃいますよ」
「……はは、何でもありだねぇ……」
もういっそ、笑いがこみ上げてきた。
「……結局、本当は何のお祝いだったんだい?」
「ルイ殿の16歳の誕生日です。プレイヤーの方々は、年始ではなく、生まれた日付で歳を数える習慣があるのだと」
「誕生日! そういえば、リーダーもそんなようなこといってたかも……何だかお祝いの席を乗っ取ってしまうようなことになって、すまないね、ルイ」
思わず詫びれば、彼女は輝くような笑顔で首を横に振った。
「いいえ! 新しい
──賑やかに、騒々しくも、その命は祝福される。
我が子の生まれる世界を荒らすようなことは、あの過保護な骸骨魔王には出来ないだろう。
そして、他の誰かが荒らすことも、絶対に許さない。
──だから、きっと、これからも、この世界は平和なのだ。
フェアリー・エフェクト 完
お読みいただいて、ありがとうございました!