Fate/Cinderella night. Encored Grail war ~ニュージェネ+αで聖杯戦争~   作:藻介

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アンリマユと佐久間まゆって、ひびきが似てませんか?
配役理由はそれだけです。他意なんて当然ありません。ありませんよ?
リボンとかも共通してるなあとかそういうことまで考えたりはしていませんから。


13/S(mile)ING(2)

 念願叶ってアイドルになれました! わたしは今、とても充実しています。

 

 ——————地獄を見ました。

 

 わたしと同じ夢を見て、それぞれに光り輝くものを持つ、大勢の人たちにも出会えました。

 

 ——————地獄を見ました。

 

 負けないように、わたしも頑張らないと! いつかあの、キラキラと輝く星に手が届くように。

 

 ——————地獄を見ました。

 

 どうしてでしょう。わかりません。

 

 ——————地獄を、見ました。

 

 見つかりません。キラキラと輝く、自分だけにしかない何かが、どれほど探しても見当たりません。

 

 ——————いずれ辿る、地獄を見ました。

 

『笑顔なんて、笑うなんて、誰でもできるもん』

 

 ———どうして、そんなことを言うのでしょう。わたしには分かりません。

 ただ、その顔があまりにも苦しそうだったから、きっとそれ相応のことがあったんだろうと、他人事のように見つめていました。

 それでも、一つだけ。

 

『何にもない。私には、何にも』

 

 吐き出される言葉のすべては、きっと真実なんだろうと、すんなり受け入れられました。

 誰にとっての真実かなんて疑うまでもありません。ここは聖杯の中、そこに詰まっているのはこの世全ての悪だとイリヤちゃんは言っていました。なら、人を最も効率的に追い詰める方法を知っていてもいてもいいはずです。

 つまるところ、これは(わたし)なんです。

 人は誰しも自分が一番大切で、それ以上に自分がどれだけ醜いのかを誰よりもよく知っています。だから自分だけには何を言われても、人である以上受け入れるしかないんです。

 それは時に、銃弾で胃に穴を開けることに似ているかもしれません。

 それは時に、首を吊ることに似ているかもしれません。

 それは時に、自分を火であぶることに似ているかもしれません。

 いずれにしても、死ぬほどの苦しみが永遠に続くことなのでしょう。そうなれば人間はいつか終わってしまう。苦しみに絶望して、体よりも先に心の方が死んでしまう。

 

『笑うなんて、誰でもできるもん』

 

 ああ、またです。

 もう何度繰り返されたのか分からないので、既に数えることは諦めていました。

 それでもイヤなものはイヤなんです。聞きたくないことは聞きたくないんです。

 ただ、耳をふさぐ手も、その耳も、当の昔に融け落ちてしまっていたので。心だけに届けられるそれを聞かないようにする手立ては、実のところ一つもないのですけど。

 ——————ですけれど。

 

『笑顔なんて、誰でもできるもん』

 

 やめて。

 やめて。

 やめてやめてやめてやめてやめて。それ以上……、

 

『何にもない』

 

 それ以上、言わないで。

 

『私には』

 

 同情なんてしません。

 同情なんてしません。

 同情なんて、したくありません。

 だけど、唯一残ったこの足がこれから先、その道を歩むことになるのだと。これ以上思い知ってしまったら。その時には、心が欠けてしまいそうになります。

 なので、

 

『何にも——————』

「……っ、もう。やめてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 力いっぱいに叫びました。

 声が出たことに自分で驚いて、思わず膝をたたんでへたり込んでしまいます。膝をたためたことに驚いて、もしかしたらと全身を見渡してみれば、腕もちゃんとありました。見えるということは、眼も無事なわけで、きっと顔だって同じなのでしょう。

 

「あら。やめてしまうのですか?」

 

 音も拾えている。ならきっと耳も大丈夫……、え?

 今確かに、声が、ずっと繰り返されていた声とは別の物が、聞こえたような。

「聞こえて当然です。あなたはマユの中にいて、マユがお話しようと決めたのですから。あ、発言権もちゃんとありますので、声帯もきちんと機能していますよ」

 声の主は、目の前にいました。こんなに近くにいたのだから、もっと早く気付いてもよかったのにと思えるくらい、近くに。

 その姿は、とてもかわいらしい女の子の形をしていました。フリルを多くあしらった女の子らしい服装で、たくさんつけられたリボンが特徴的な、そんな世間一般にかわいいとされる要素の大半を敷き詰めたような、女の子。

「……あなたは?」

「初めまして、卯月さん。いえ、マユがどういうふうに貴女の目に見えているのか、マユも分かっていないので、もしかしたら、よく知っている人の殻かもしれませんけど、その時はどうか悪しからず。けれどその上で、初めまして。この世全ての悪(アンリ・マユ)。その消化器官を担っています宝具『偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)』が形をとったモノです。マユ、と呼んでください」

 

 

「ええっと、あの、まゆさん」

「まゆではありません。マユと呼んでください」

「はあ」

 その二つに一体どんな違いがあるというのでしょう。よくわかりませんが、ひとまず思い浮かべる単語を修正して、それからもう一度呼びかけてみました。

「マユさん」

「はい。卯月さん」

 今度はちゃんと返事を返してくれました。

「お話とは何でしょうか」

「……私は、貴女を消しに来ました」

 にこりともせず、逆に残念そうな表情を浮かべることもなく、マユさんは無表情で言い放ちました。その顔は魔術を使う時の未央ちゃんの顔に似ていた気がします。そうするべきなのだと受け入れている。そうすることが、最も簡単で手っ取り早い手段なのだと。

「先ほども言いましたが、マユはアンリマユの宝具です。()の持つ呪いを対象に転写し、他者を上書きする。この場において、呪いとはすなわち彼のことですから。呪いになれば、すぐに彼の一部として扱うことができます。

 ですがそうなっては、もはや貴女は彼であって貴女でない。それではマユの望みが果たせない。これも、殻を与えられたが故の余分。前回の聖杯戦争参加者の言葉を借りれば、心の贅肉、とでも呼ぶべき望みです」

「その望みを叶えるために、あなたはわたしをまだ生かしていると?」

 マユさんは頷きました。

「…………。一体、どんな望みを」

 正直に言って、とても怖いです。今すぐにでも逃げ出してしまいたいです。けれど、脚が動きません。それどころか手も、腕も、顔も。ほんの数秒前、どうやって声を出していたのかも思い出せません。

 それも当然でした。わたしの体はもうすでに疲れ果てていたんです。鏡を見せられて、見たくもないモノを見せられて。本当ならとっくに心が壊れていてもいいはずなのに、それだけは譲れないと意地を張っていました。だから心の代わりに体が壊れていたのでしょう。

 ただそこにあるだけの案山子同然になったわたし。それでもわたしであるなら意味はあるとでも言うように、マユさんは語り口を止めません。

「そう難しいことではありません。たった一つだけ、知りたいことがあるだけですから。ええ、生まれたいと願う彼のおもちゃですからね、マユは。なら、その次に原始的な欲求を持ったとしても、何もおかしくないでしょう。むしろ納得すらしてもらえるんじゃないかと。すみません。ずいぶん長々と言い訳がましいことを言ってしまって。それでも、こうでもしないと、聞くことすらおこがましく思えてしまうような、そんな自分本位にすぎる問いなものですから。

 では、聞きますね。

 貴女はとうに満身創痍、精神は摩耗し魂は折れかけ。それでもまだ、あきらめていないのでしょう? そんなにまで憧れられる、アイドルとは。果たして何者でしょうか。はい、この外殻からだいたいのことは聞いています。けれどです。けれどなんです。たかが偶像、そのためにここまで文字通り身を粉にできる理由が、果たして貴女の夢にあるんでしょうか」

 

「——————そんなの、あるに決まってます!!」

 

 体ではなく、気持ちでもなく、心が、そう叫んでいました。

 なのでこの瞬間だけはどうやって声を出せばいいのか、思い出せていました。そうして取り戻した声で、マユさんの疑問を全霊で否定します。

 

「特別じゃない自分にも笑顔を届けてくれる、その存在に憧れました。

 多くの人に元気を与える姿を見て。その姿がこれまでたった一度も見たことのないほどに、輝いていて。この世界の誰よりも、幸せに見えたから。

 だから、いつか自分もあんなふうに、誰かに笑顔を配れるような人になれれば。その時までずっと、自分にただ一つあると信じられる、あの日もらった笑顔を守り続けていれば。

 きっとその時には、きらきらと輝ける自分になれると、そう信じたんです!」

 

「……負けません」

 意味なく像を映しているだけだった瞳に、もう一度力を込めて。

「アイドルは、アイドルの笑顔は、その輝きは! どんな呪いにも、負けません!!」

「…………そうですか。たしかに、貴女の言う通りなのでしょうね。この殻もそうだと言っていますから。ですが」

 全身に込めた力が、一気に抜けていくような感覚がしました。

 

「——————貴女に、その輝きはありません」

 

 折れかけていたガラスの心が、その一言で完全に砕けてしまいました。手先から、なにか生温かいぐちゅぐちゅしたものに沈んでいきます。

「まだ、消しはしません。せめて泥の中から出直してください。自分の力でそこから出られた時には、またお話ししましょうね」

 そう言われて初めて気づきました。あの鏡の地獄が、この泥の中であったことを。そこから一時的にせよ出られたのは、彼女の気の迷いのおかげであったことも。

「(いやだな)」

 自分が絶望しているところなんて、もう二度と見たくありません。けれどまた見ることになるのでしょう。もう体のどこにも力が入らず、泥の淵に手を伸ばすことすら億劫でした。

 そうしてわたしはまた、鏡を見せられるのです。

 

『何にもない。私には、何にも』

 

 もう、何にも。自分の声以外、何にも聞こえません。

 

 




宝具のマテリアルが更新されました。
(読み飛ばし可)

・サクママユ/偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)
 ・聖杯に取り込まれた卯月が見た幻。アンリマユの宝具が卯月にとって一番分かりやすい殻を被って現れた姿。一人称『マユ』、『まゆ』なるもの、ではない。
 ・とある平行世界では黒アイリとも(ただし若干、ないしだいぶ中身に違いがある)。
 ・アンリマユが負っている呪い(傷)を対象に転写する能力を持ち、中々折れない卯月にとどめを刺そうとアンリマユ本体が遣わした。
 ・名前に縛られやすいらしく『マユ』と呼ばせるのは、『佐久間まゆ』の強烈なパーソナリティに完全に飲みこまれないようにするため。その場合、役目や自分のしたいことに支障が出ると考えている。手遅れな気がしなくもないが。


 「凛さん、急いでくださいね。早くしないと、マユが手を下すまでもなく、卯月さんは融けてしまうかもしれませんよぉ」
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