Fate/Cinderella night. Encored Grail war ~ニュージェネ+αで聖杯戦争~ 作:藻介
ツッコミどころ多数ですが、ここだけの無茶と流して、暖かい目でお読みください。
Interlude
それはいかなる術理によるものだったのだろう。
「しちこうふんけつ……? です!!」
茜は、アーチャーの指示通りに体を動かしているだけだった。それだけで、三つ。一度は手詰まりと感じた壁がみるみる内に崩れていったのだ。
今も茜が呼吸を整えて放った一撃の数秒後、バーサーカーは全身から血を噴き出して倒れてしまった。その様子に茜は、事務所で同い年の安部菜々から貸してもらったマンガのワンシーンを思い出す。
「お前はもう、死んでいる…………。ですね!」
「いいえ、アカネ。あと二回です」
アーチャーの冷静な指摘を受けて後退する茜。バーサーカーが十度目の蘇生をしている中、アーチャーと合流する。
「それで、最後はどうしましょう?!!」
「はい。 事は順調に進んでいます。ですので、最もシンプルに」
神授の智慧。
ケイローンはギリシャの神々より多くの知恵を授かっている。それゆえ、彼に不可能はなく。多くのスキルをBランク以上で再現し、また、他のサーヴァントに授けることも可能である。
とはいえ、元はギリシャ時代に得た知識。当然その中に中華武術なんてものが入っているわけもない。二度目でウルクアーツなんてアーチャーが言い出した時には、さすがの茜もいやそれはおかしいと言わざるを得なかった。
これを受けてアーチャーは、
「学習しない教師など教師ではありません。教師とは、日々他人の技術をよく見てよく学び、取り入れ盗み、成長していくものです」
「なるほどーー!!」
圧倒的にツッコミが不足していた。
一応、八極拳については言峰が自然と行っていた歩法からつかんでいたようだが、それにしたって、アーチャーの卓越した観察眼なしには考えられない話である。
「■■■■■■■■ーーーー!!!」
それもすでに過去の話。事ここにあって可能か不可能かはもはや論題にならない。やるかやらないか。茜にはバーサーカーを乗り越えて、その上でなおやることが残っていた。
だから、ここではまだ脱落できない。疑似サーヴァントである以上、死ぬような無茶をしても命まで失うことはない。けれど、やれることは極端に減ってしまう。
死ねないなら、生きるためになんでもやる。そのための一番の上策をアーチャーが考えてくれる。ならもう必要以上のことを考えている暇は自分にはない。この体でできる全てを彼に委ね、彼の期待に応える。
茜にはそれがプロデューサーへの自分の気持ちと、なんとなく似ているように思えて、がぜん気合が入った。両頬を叩き、膝を鳴らして走り出す。
「——————強化!」
教えられた通りに、文字を刻んだ拳に魔力を回す。突進してくるバーサーカーに応じてこちらも突進。まるでラグビープレイヤー達が百人同時にぶつかってきたような衝撃。それでも日野茜は負けられない。
「どっっっせええええええい!!!」
根性と意地、強化された両拳、そして令呪によりブーストされた筋力の全てをもって、正面からバーサーカーを吹き飛ばした。
「——————加速!!」
二段階目。両足両腕に魔力を通し、音速を軽く超えてバーサーカーの大きく開いた懐へ。その勢いを殺さぬままに、
「——————相乗!!!」
最後、鋼鉄を越える硬度となった拳を目にもとまらぬ速さで、突き刺すようにバーサーカーの心臓へ。掴んだ。つながっていた血管全部を引きちぎって、体の外へ引きずり出す。
成功した。巌の巨人は脱力し、その場に膝を着く。これで後は蘇生が終わるのを待ってから、アーチャーの宝具でとどめを——————
「(いや、まだ!)」
直感。突然鳴り出した危険信号。両腕を胸の前で十字に重ね、ガード体制をとる。それから一秒にも満たないうちに燃えるような痛みが走り、茜は空高く殴り飛ばされた。
地面が遠く見える。着地地点が大まかにつかめた。そしてそこに向かって走るバーサーカーの姿。十二の試練は発動しなかった。戦闘続行、最後の命を目前にして、ギリシャ最大の英雄は心臓を失ってなお動いていた。
一方、茜にとってこの状況は非常にまずい。先ほどの一撃で腕の骨が折れた。なくならなかっただけマシであり、治すだけなら後でいくらでもどうにかなる。けれどこの戦闘中に使うことはできなくなった。もう茜にバーサーカーを殺す手段はない。そして落下地点に待ち構えられている以上、地面に着いた瞬間にひき潰される。それでは倒すどころの話ではない。
「(それでもどうにかして、生きないと!!)」
往生際の悪さなら、茜だって負けない自信がある。体を捻る。魔力の通る場所を燃やして気流を変える。少しでも着地地点をずらして、バーサーカーの一撃を躱す。その後のことはその後に考える。
これで、どうにか——————
「——————アーチャー!?」
落ちている茜よりも、走っているバーサーカーよりも先に、アーチャーが落下地点に立っていた。
「受け止められず申し訳ない。ですが、ここは私が」
アーチャーは弓も何も持っていない。徒手空拳で
けれど、瞬きの後、吹き飛んでいたのはアーチャーではなく、バーサーカーだった。
不思議な動きだった。それは柔道に似ていたような気もするし、柔道にはない実践的に相手を直接傷つける動作も含まれていたように茜には見えていた。
パンクラチオン。ギリシャ語で『全ての力』の意味を持つ原初の総合格闘技術。これをもってアーチャーはバーサーカーを投げ飛ばした。
「無事ですか? アーチャー!」
どうにか安全に着地できた茜は、構えを解いたアーチャーに近寄る。
「残念ながら、互いにそうとは言えないようです」
アーチャーの左腕があり得ない方向に捻じれていた。これでは茜の両腕同様、この戦闘中は使い物にならないだろう。
「どうしましょう。撤退しますか? アーチャー」
「いえ。それは無理でしょう。ここまで追いつめた我々を、彼がそうたやすく逃がすとは思えません。なにより、そのようには教育していませんから」
「では他に打倒手段は? まだ足は使えますよ」
その場でジャンプして見せる茜。アーチャーはそれが相当な無茶の上での行動だと見抜いていた。茜の提案に首を振り、
「いいえ。貴女はもう十分に戦いました。ですのでここからは当初の作戦通り、私の仕事です」
残るバーサーカーの命は二つ。これを残り一つまで茜が削り、最後にアーチャーの宝具で終わらせる。それが二人の作戦。失敗はした。それでもまだ完全に終わったわけではない。
「宝具の威力を上げます。彼の命を、追加でもう一つか二つ同時に削れる程度まで」
「…………ですが、それは」
「はい。本当にこれが、私の最後の一撃になるでしょうね」
もともとアーチャーの宝具は威力を追及したものではない。誰よりも早く撃つこと、それに重きを置いたもので、一日に一度しか撃てず威力も大軍や城落としに使う宝具なんかとは比べ物にすらならない。バーサーカーの命をどうにか一つだけ削れる一撃、その破壊力を向上させようとするのなら、当然、命を懸ける必要がある。
それでもいいと、アーチャーは思っていた。なぜなら、
「おいたをしでかした生徒には全力を以て当たる。昔も今も変わらぬ教育の基本ですよ」
可愛い教え子たちのためなら、終わりあるこの命など惜しくはない。その誇りだけは、遠く神代から彼の中で変わらずに輝き続けていたのだから。
アーチャーが誰にも譲ることなく守り続けた誇り。それを前にして、茜はもう彼を止められなかった。それが少しだけ悔しくて、けれどこの感情を表には出したくなくて。せめてもの強がりを、茜はいつも通りの笑顔で返した。
「今だと、体罰で訴えられますけどね!!」
二人は戦場で笑っていた。腕はともに折れ足も震え、心臓は早鐘を鳴らしている。それでも、負ける気はしなかった。慢心はしない。一歩でも踏み外せば失敗することが分かっている。それでもこの瞬間だけは何が何でも絶対に成功させる。
笑い声はバーサーカーが立ち上がるまでの、ほんの数秒間だけ交わされた。それが終われば、二人はもう互いを見ることなんてない。自分のやるべきことを、自分にできることを、精一杯に。
先ほどまでとは逆に、アーチャーが前へ飛び出す。当然すぐにバーサーカーとぶつかることになるが、彼に対処している暇はない。本来準備時間を必要としない宝具を、本来の用途外で扱うために少しの時間がいる。それを茜が稼ぐ。
「あの人を守って!! 『
そそり立つ炎の壁。ここにかの太陽の騎士ガウェインがいたのなら、あるいはこう呼んだかもしれない。
炎熱の城壁。けれど決着の場を守るために使われるそれとは違い、茜の焔が覆っているのはアーチャー一人だけ。
準備が整うまで、彼には少しだって触れさせない。茜だけではない、彼女の霊基に刻まれた全ての意志による絶対防御。それはむしろ基にあった宝具『
触れるだけで身を灰にする灼熱に突進するバーサーカー。押し通れはしない、けれど体が燃えることもない。すでに茜の宝具による炎で一度死んでいる。一度経験した死に方でギリシャの大英雄は死なない。何度でも、開かずの門を叩き続ける。
「……っぐ! うああああああああ!!!」
城門が開くことはなかった。それでも維持できる時間は限られている。アサシンとキャスターが復活しないよう泥を燃やし続けている炎も未だ展開中だった。もって、あと三十秒。
「——————それほどの長い時間、貴女に苦行を強いるわけにはいきませんね。ええ、それは教師の沽券に関わりますので」
炎の中、宝具の解放準備は無事終わる。
最後。本当にわずかだけ許された時間。アーチャーはこの聖杯戦争中にできた新しい教え子たちを思った。
彼女らはアイドルになる。その隣に立つのは教師である自分ではない。プロデューサーと呼ばれる、彼女たちを導く者。
その存在が、彼にはすこし羨ましく思えた。
「同じ教え導く者であったとしても、教師では、ともに歩んでいくことはできませんから。
ですが、その私にも、彼女たちに目指すべき星を指し示すことくらいは、きっとできるはずです。そう例えば、こんなふうに——————」
炎の城壁は二十秒とたたずに消え去った。城門を抜け、かつての教え子がアーチャーの前に姿を現す。アーチャーはその瞳をまっすぐに見据えた。
——————そして射手は、弓を持たず、その指先で星空を射貫く。
「『
「本当に、たおしちゃったんだ」
焼け焦げた柳堂寺の境内。山門でその闘いを見守っていたイリヤ、そして辛うじて立っている茜の他に、残っている者は誰もいなかった。
「イリヤさん。アーチャーは」
「問題ないわ。バーサーカーと一緒に回収できてる。後は」
「はい。後は、聖杯を閉じるだけ、ですね」
「なんだ。あなた、そこまで知っていたのね」
「これでも、抑止力に呼ばれた神霊ですから。きっと一週間もすれば忘れますけど」
「その方がいいわ。知っている人なんて最小限にするべきだもの」
山門から離れ、イリヤは茜に近寄る。
「傷を見せて。簡単にだけど、治癒魔術をかけておくから」
「ありがとうございます」
一小節の短い詠唱。傷口は塞がり、折れた骨も元に戻った。けれど、この腕での無茶は今日限りはもうできないだろう。
「(まあ、もう誰とも戦う必要はないので、十分なのですが)」
「それじゃあ、連れて行ってくれる?」
「あ、すみません。少しだけ、待ってもらってもいいですか?」
「かまわないけど、手短におねがい」
「分かりました」
空を見上げる。二月初旬の空気は澄み渡り、深夜になって街明かりが消えたこともあってか、頭上には満天の星空と呼ぶにふさわしい光景が広がっていた。
「あれ? イリヤさん、射手座ってどこでしたっけ? すっごい目立つ一等星が近くにあるので、簡単に見つかるはずなんですけど」
「射手座は夏の星座よ。むこうでならこの時期でもぎりぎり見れるだろうけど、日本からだったら地球の反対側にしか見えないわ」
そう言って境内の石畳を指さすイリヤ。当然、境内に何かが落ちているわけではなく、その奥、地球の裏側から見える星空を指している。
ではあの時、アーチャーはどこを指さしていたのだろう。茜はなんだかおかしく思えて笑う。たしかあの時、彼はこう言っていたはずだ。目指すべき星を示すことができるはずだと。
それをこうやってあいまいにしていくのは、何とも彼らしいというか、逆に彼らしくもないというか。こういういい加減さは
「(まあ、いいです。わたしが目指す星は、とっくに決まっていますから)」
それに、こんな風にだって考えられる。例え地球の裏側からだって、彼の矢は届いた。それはとても勇気をもらえる想定だ。
息を吸う。遠く先、彼が待つ星空に届くように、
「ありがとうっっございましたっぁぁぁぁああ!!!!!!!」
大きな声を茜は上げた。森が震える。何事かと住宅の明かりが数軒点いたが、それもすぐに消え、辺りはまた元の静けさを取り戻した。それで茜は満足した。届いたかどうかも分からないが、彼なら聞いていてくれていると信じた。
「行きましょうか!!」
頷くイリヤの手を取って、茜は森の中に踏み入る。
暗い森。夜闇につつまれ数メートル先も定かでない。それでも目指すべき場所は決まっていた。だから、迷うことなく進んで行ける。
星のきれいな夜だった。
Interlude out
サーヴァントのステータスが更新されました。
(読み飛ばし可)
・アーチャー/ケイローン
・未央のサーヴァント。
・未央との縁は、彼女の生まれ月の星座が射手座だったこと。少し弱いが、そこは迷える生徒候補を放って置きはしないだろう、アーチャーの人徳のなせるわざというところでどうにか。
・聖杯は手に入らなかったものの、教え甲斐のある生徒に恵まれ終始うっきうきだったり。そのため未央との関係も、フィオレには及ばないが、ぐだと同程度には良好。
・秩序・善・地
・ステータス
筋力B 耐久B 敏捷A+ 魔力B 幸運C 宝具A
・宝具
・天蠍一射(アンタレス・スナイプ)A 対人宝具
・スキル
・対魔力B
・単独行動A
・千里眼B+
・心眼(真)A
・神性C
・神授の智慧A+
・永生の奉献EX
「アイドルは星を目指して輝く、ですか。ええ、射手座(私)はいつだって貴女達を待っていますよ。いつかまた、その時にお会いしましょう。どうかその時、我が星々のいずれよりも強く輝いていることを願って」