Fate/Cinderella night. Encored Grail war ~ニュージェネ+αで聖杯戦争~ 作:藻介
Interlude
ヒマワリの花びらをまた一枚、もう一枚とちぎっていきます。花占い。いくつあるのか見当のつかない、けれど、決して永遠ではない問いかけを、気が遠くなるほど繰り返していました。
好き。嫌い。好き。嫌い。好き。…………、嫌い。やっぱり、好き。ちがう、嫌い。もしかしたら、好き。ううん、嫌い。好き、なわけない。でも。
…………ねえ、未央ちゃん。あなたは私のこと、どう思っていますか?
答えが出るその時まで、私は果たして、私のままでいられているのでしょうか。
『ああ、ごめんごめん。なんかすっかり元気になったんだなって安心しちゃってさ。うん、ほんとうに良かった』
あなたの笑顔を見たあの日から、胸の鼓動が少し大きくなりました。
思うだけで幸せになれて、あなたが私の隣にいるだけで安心できて。
それなのに、その笑顔が私に向けられるとなると、なんだか見ていられなくなって。そのくせ、あなたがそばにいないと不安になって。あなたの笑顔が足りなくなってしまうと、もう、私が、私じゃなくなってしまう気がしていました。
『——————ホシイノカ? オマエモ』
……はい。欲しいです。
未央ちゃん、私、あなたが欲しいです。あなたがいないと、私、こんなにもダメなんです。私、あなたがいなくちゃ生きていけないんです。
知りませんでした。
私は私が思っていたよりもずっと欲張りでした。あなたへの思いでいっぱいで、ずっと満たされているはずだったのに、いつからか、もっと、もっとって思うようになってしまっていたんです。
『——————ナラ、オマエモワタシトオナジダ』
ですけど、ダメです。ダメなんです。
これ以上は、勝手には。
『——————デモ、ホシイノダロウ?』
…………欲しいです。けど。
それでもせめて、未央ちゃんの気持ちを確認してからでないと。
『——————アア。イッテコイ』
満ち足りた一日でした。仲のいい先輩と、新しくできた友達と、大切な人と過ごせる週末。その終わりに二人きりでお散歩して、二人で夕日を見ました。
ほんとうに、幸せだったんです。
「未央ちゃん」
って、名前を呼んだら振り向いてくれて。
「あーちゃん」
って、私の名前を呼びながら、笑いかけてくれて。
私は、私が消えてしまうその前に、未央ちゃんから胸いっぱいの温かさをもらえました。これできっと、もう何があったって耐えられる。もうなんにも怖いものなんてない。
はず、だったのに。
『ごめん。私には…………、あーちゃんの気持ちに答えられない』
涙の熱さと、芯から広がる寒さに耐えられませんでした。ぞわぞわと胸の奥が苦しくなって、この気持ちのままに未央ちゃんに何か、取り返しのつかないことをしてしまうんじゃないかと、その場に立っていることが、自分自身が何よりも、怖く感じました。
てきとうなことを言って、その場を走り去りました。
どうして。
どうして。
どうして。
未央ちゃんは追ってきません。はい、きっとこれが、答えです。
未央ちゃんは私に何も求めて来ませんでした。私が欲しがっているほど、未央ちゃんは私を必要としていなかった。隠し事があることにも気がついていました。どこか遠ざけられているような気もしていました。
だって、私たちは一度も、互いの手をつないだことすら無かったんですから。
なのに、それなのに。未央ちゃんも私と同じ気持ちかもだなんて。そんな都合のいいこと、あるわけなかったんです。
『——————ドウダッタ』
ダメでした。きっと初めから。なにもかもが。
『——————ソウカ。ナラ、モウ』
私は、もう。
『——————オマエハ、ワタシノモノダ』
落ちていく。溢れていく。
暗い暗い孔の底から生まれ出ようとする誰か。この一年、未央ちゃん以上に私の側にいた何か。これから私は、彼を繋ぎとめるための楔になるんです。彼と一緒に、呪いを吐き出す孔になって、きっとこの優しくない世界を呪い続けるのだと思います。
なんて自業自得。私は勝手に勘違いをして、勝手に絶望して、そして勝手に世界を滅ぼすんです。
ですから、これはもうどうしようもないこと。
たとえこれからの自分が、この一年必死に目指していた自分とは、全くの別物になってしまうとしても。優しい気持ちにするどころか、ただひたすらに死んでほしいと呪い続けるだけだとしても。もう、どうにもなりません。
『——————本当に?』
ほんとうに。
『本当の本当に?』
ほんとのほんとうに。
『本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当のっ、——————本当に?』
…………。
ほんとうは、心の底からイヤでした。
ほんとうは呪いになんて、なりたくないです。誰かを呪いたくなんてない。誰も傷つけたくないし、その傷つける誰かに、私が恋したこの世で一番愛しいと思う人がいるだなんてことになったら、その時には。
ここまで何とか保っていた自分があっけなく壊れてしまいます。
……自分の言葉に、自分で驚いていました。
私、未央ちゃんに、——————恋、していたんですね。
遅すぎです。手遅れにもほどがあります。もしもこれが、恋だっていうのなら、私、失恋してからになってようやく気づいたってことじゃないですか。
これじゃあ、未央ちゃんのことを悪く言えません。
『もう一度、未央ちゃんに会いたくありませんか?』
今更、何を。
そんなこと、したって。だって私のこと、未央ちゃんは。
『未央ちゃんは、藍子ちゃんのことを嫌いだとは一度も言っていません!』
それは。でも。
『答えてくれなかったその先、その本当の答えを、藍子ちゃんは聞きたくないんですか?』
……聞きたい。知りたい。けど、もうなにもかも手遅れで。
マユちゃんからの連絡も途絶えました。卯月ちゃんだって、もう生きているのかどうか分からない。私ももうすぐ完全に溶けてしまう。もう何も、できることなんて。
『できることなら、たとえどんなときだってあります!! 助けてと叫んだでしょう!? 守ってと願ったでしょう!? なら! 本当の本当の本当に、最後の最後の最後!
——————。
………………誰か、誰でもいいです。
助けてください。死にたくありません。私は誰も呪いたくありません。呪いになんてなりたくありません。誰も傷つけたくありません。誰も殺したくなんか、ないんです。誰か、誰か、私をここから出して。だって、だって。
「私はもう一度、未央ちゃんといっしょに、生きてみたいから!!」
『はい!!!! わかりました!!!!!!
光が、まぶしいくらいの光が。まるで太陽みたいに、孔の中の暗闇に光を。
『手を!! 伸ばして!!!!』
言われるがままに、孔の淵に手を伸ばしました。
「あーちゃん!!!」
「……みお、ちゃん…………!」
その手を、私の手を、ようやく。
太陽から差し込む日差しのように、降りてくる、私の大好きな温かな手が。
強く、握っていました。
Interlude out