Fate/Cinderella night. Encored Grail war ~ニュージェネ+αで聖杯戦争~   作:藻介

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後書きに補足説明(というよりもただの言い訳)を載せています。
いや、そうはならんやろと思われるかもしれませんが、お見逃しください。


1/運命の夜、蒼の剣

「ねえ、答えてよ。あなたは島村卯月で間違いない?」

 知らない女の子でした。彼女もアイドルなのでしょうか。雲間から差す月明りに照らされた長く艶やかな髪と、流れるように線を描く細い身体。そして、強い意志を感じさせる確かな眼差し。

 それを、わたしは知らずのうちに、綺麗だと。そう思っていたんです。

 そんな綺麗な女の子が、どうしてわたしの名前を知っていたのでしょう。それが不思議で不思議でしょうがなくて、その上、左手も熱を持ったように痛んでいたものですから、端的に言って、わたしはぼーっとしていました。そのことを彼女は見抜いていたようで。

「ねえ。聞いてる?」

 と問い直しました。それにわたしは慌てて答えます。

「はっ、はい! 島村卯月、16歳です!! 間違いないです!」

「そう。なら、良かった。うん、本当に」

 女の子はわたしの答えを聞いて、心の底から安堵していたみたいでした。

「なら、私は卯月を守らなくっちゃね」

 そして次の瞬間には持っていた剣を強く握りしめて、彼女の向こうで様子を窺っていた男の人に向けて走り出しました。

「え、ま、待って。危ない!」

 あの人は危険です。わたしたちとは、きっと生き物としての格が違うんです。あの人にとって、わたしたちはただ殺されるだけのもので、決して立ち向かってはいけないし、逃げることだってできない。だから、わたしとそう年の変わらないあの子が行ったところで、返り討ちに会うに決まっています。

「たわけ」

 男の人の口端が吊り上がりました。あの獣の目が、急所を瞬時に突こうと輝きます。ですが。

「——————遅い!」

 赤い槍が突き出されるよりも、速く、女の子は間合いに踏み込んでいました。

 正確に首を刈り取る一撃が、男の人を襲います。それを目に見えない手さばきで持ち替えた槍の中ほどで、男の人は受け止めました。

 決して脆いわけではないはずです。ですが、受け止めている槍がしなり、鬼神の形相でそれを押している女の子は、なおも剣にさらなる力を加えようと叫んでいます。

「こん野郎、なめんじゃねえ!」

 押されていた槍の人は、槍に力を入れ、弾いて宙に浮いた女の子を蹴飛ばしました。

「……っ!」

 その驚きの声は、わたしと女の子、どちらから出たものだったのでしょう。とにもかくにも、吹き飛んだ彼女が心配で、槍の人から数メートル離れたところに着地した彼女にかけよります。

 けれど、彼女はわたしを目線だけで制して、何事もなかったようにその場に立っていました。そのまま、槍の人を見据えます。

「女の子を野郎呼ばわりなんて、礼儀がなってないんじゃないかな? ランサーの誰かさん」

「ハッ、生憎戦に社交なんて求めちゃいねーよ。死ぬか生きるか、そこにいらねぇもん持ち込む方が無粋ってもんだろうが」

「ふうん。じゃああなたは、戦うために戦って、そこに何の理由も無いって言うん、っだ!」

 言うが早いか、それとも、動きに声が果たして追い付いていたのか。風を切り裂いていく音とともに女の子は槍の人、彼女が言うところのランサーに向かって踏み込んでいきました。

 それをランサーは正面から見据え、槍の連撃で迎え撃ちます。速すぎて、わたしには赤い壁のようにしか見えないそれに女の子は同じく連撃で応じて、何度も何度もぶつかり合う音が辺りに響き渡りました。

 わたしの目が追い付いていたのはそこまでで、その先は、鉄が弾けるような破裂音が、鳴りやまない目覚まし時計のように鳴り続けて。その度に、互いの武器で互いの武器を押し合う二人の姿が、ほんの一瞬だけ止まっていて。

 ——————その一瞬一瞬、ランサーは確かに笑っていたように見えました。

 それからまた同じことが二度三度続き、最後に一際大きな衝撃波がわたしの体を通り抜けた後、二人は間合いを離して相手を見合っていました。

「なかなかやるじゃねぇか、セイバー。キレイどころだったんで、どうせマイナーな英霊だろうと思ってたんだが、撤回させてもらうわ。加減してるとはいえ、オレとまともに打ち合えるなんざなあ。東洋の女は怖えな、いやマジで」

「ありがとう。けど、そう言うあなたは結構分かりやすいよね。ランサーには最速の英雄が選ばれるらしいけど、あなたほどの槍の使い手なんて世界に三人もいない。加えて、獣のようなその戦闘方からすれば、おそらく一人だけ」

「ほう、アーチャーの野郎と同じことを言うか。なら、(コイツ)のことも知ってんだろ? できればてめえとは加減抜きでまたやりてえからな、ここで落とすには惜しいと思って分けにしたかったんだが」

「かまわない。好きにするといいよ、ランサー」

「応よ! ならばこの一撃、手向けと受け取れ! セイバー!!」

 瞬時に、二人の間の空気が凍り付いたように思えました。

 ランサーは体を前に倒し、槍を構えています。その穂先は下げられていて、あの状態からセイバーと呼ばれた女の子に当てるには、もう一度槍を構えなおさないといけないはずです。……なのに。

 確かな予感がありました。ほんの数十分前に感じたのと同じものです。あの槍に、距離やタイミングなんて関係ない。一度放たれてしまえば、絶対に心臓を貫いてくる。

 だって、アレを構えるランサーの目はさっきと同じ。誰かが死ぬ。それ以外考えていないようにしか、見えてしかたなかったから。

 だから、わたしはとっさに叫んでいました。

「セイバーさん!」

「もう遅い!

 『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』!!!」

 

 

Interlude

 

 アイルランドの大英雄、クー・フーリン。

 その名前をセイバーが知ったのは、同じ事務所のアイドル、神崎蘭子とユニット名を話し合っていた時だった。

 彼女との会話には、彼女と他数名しか理解できない言葉が多分に含まれているため、その全てをセイバーは理解できていない。せいぜい八割。セイバーが彼女の熊本弁から読み取れたのは、その程度。

 その中にある情報によれば、クー・フーリンは影の国と呼ばれる魔境で、師匠である女王スカサハから魔槍を授かったのだという。

 名前はゲイ・ボルク。一度放たれれば避ける手段などなく、たとえクー・フーリン本人が放った後に死んだとしても、必ず相手の心臓を貫いたとされる呪われた槍。

 今、自分の目の前で構えられたものが確かにそれだというのなら、放たれた時点でセイバーに勝機はない。そして負ければ、次に槍の穂先が向けられるのはマスターである卯月だ。

 ——————なら、セイバーはこの一撃を何が何でも防がなくてはならない。

 避けるのではない。その軌道に剣を当てて、反らす。そのわずかな隙間に、自分の生存を捻じ込む。

 全神経を自分の直感に賭ける。剣を構えて、足を楽にし、肩を自由にする。ここから先はただ、自分の体が求めるモノに従うだけ。

「(そう、いつもと何も変わらない。ステージに立って、今まで身につけてきたもの全てをぶつけて。その先にある、光り輝く何かをつかむ)」

「セイバーさん!」

「もう遅い! 

 『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』!!!」

 耳に届いた真名は予想通りの物、なら、このままでいい。

 まだ。

 まだ。

 まだ。

 …………今!!

「ハっ!」

 捉えた。剣の中ほどで、伸びた槍の穂先を受け止められている。このまま抑え込めれば……。

「(違う! もっと上!!)」

 急な虫の知らせ。それにスズメバチが瞬くよりも早く反応し、剣の位置を修正。さらにそのすぐ後に、槍が不自然な、まるで時間を巻き戻すように引っ込んだかと思うと、修正した位置から再度心臓を狙ってきた。槍は剣にはじかれ、やむなく心臓のほんの紙一重だけ上の肉に突き刺さった。そのまま、体を乱暴に宙に投げられる。

 直感はそれ以上何も言わず、なされるがまま、セイバーは地面にたたきつけられた。

 

Interlude out

 

 

 その瞬間に何が起きていたのか、やはりわたしには分かりませんでした。

 ゲイ・ボルク。

 そう叫んだランサーの槍は、構えていた所から滑るように走り、途中、UFOのように軌道を何度も変えたかと思うと、その穂先が光って伸びて。セイバーさんの心臓をしっかりと捉えていました。

 それを、絶対に心臓に刺さるはずの一撃を、セイバーさんは剣で受け止めていて。次に目を開けたとき、彼女は身長の三倍以上の高さまで放り投げられていました。

 わたしに分かったのは、それだけでした。

 ただ、それでも確かに言えることが一つだけ。

「躱したな、セイバー。我が必殺の一撃を……!」

 ランサーが目の前で起きた事実を怒りの形相で口にしました。投げ飛ばされ、地面に剣を杖代わりに突き立てていたセイバーさんは、それに答えます。その彼女は、鎧に空いた穴の上から胸を押さえていました。

「やっぱり。クー・フーリンで間違いなかったか」

「……チッ、しくったぜ。コイツを使うからには、必殺じゃなくちゃいけねえってのによ」

 セイバーさんが呼んだランサーの名前らしき言葉、それにランサーは舌打ちをして、背中を向けます。

「逃げるの?」

「馬鹿言うんじゃねぇ。見逃すと思っとけよ。うちのマスターは臆病でな、槍が外れたのなら出直せとのお達しだ。それになセイバー、オレを殺すつもりなら、その時は死ぬ覚悟を持っておくことだ。それもないヤツに本気なんか出せっかよ」

 そこまで言って、ランサーは校門の外に消えていきました。

 震えていた両足から力が抜けます。それでもまだ、倒れるわけにはいかないと、なんとか膝を奮い立たせました。

 そうしてふと思います。わたしは、生き延びたのでしょうか。いえ、それには語弊がある気がします。わたしがしたことは助けを求めただけです。それに答えてくれたセイバーさんのおかげで、わたしはまだ生きているんです。なら、せめて感謝と、それから負ってしまった傷を治すために病院に送るくらいはしないと。

 膝をついている彼女のところまで走っていきます。そこは植え込みの側で、どうやら葉っぱが多少クッションになってくれていたみたいです。いえ、それでもあの高さから落ちたんですから骨折くらいはしているはずです。

「だ、大丈夫ですか?」

 なのに、彼女は平然と立ち上がっていました。ランサーの消えた校門をしばらく見つめて、戻ってくることはないと確認したのか、こちらに向きます。その顔は、さっきまで戦っていたとは思えないほどの満面の笑みでした。

「うん。卯月が無事でよかった」

「あう」

 その笑顔と呼び捨てに、一瞬怯みます。すごく、いい声です。たった二言三言で体温が上がるのが分かります。けれど、相手はけがをしているんです。ここで躊躇っては命の恩人である彼女の命が危ないのです。

「あ、え、えっとその。ですね。わたしじゃなくて、あの、あなたの方、なんですけど」

「セイバーって呼んで、今だけでいいから」

「あっ、はい。セイバーさん」

「うん。何? 卯月」

 ですからその笑顔を向けるのはちょっと勘弁してほしいです。直視できません、まぶしすぎて。

「うう……。せ、セイバーさんは、けが、大丈夫なんですか?」

「ああ。これ? うーん、卯月に治す手段はないし、まあひとまず応急処置でいいかな」

 セイバーさんがそう言うと、時間が巻き戻るように胸に空いていた穴がふさがっていきます。

「治、った? あの! 本当に大丈夫なんですか? 足とか、骨折してたりとか」

「大丈夫。今なら卯月をお姫様抱っこしてフルマラソンしても全然問題ない。試してみる?」

「か、勘弁してください……」

 本当になんなのでしょう、この子。どうしてこうも矢継ぎ早に殺し文句を言えるんですか。一番に思っていた、どうしてわたしの名前を知っていたのかという疑問さえ、危うく聞き忘れそうになります。

「あの、セイバーさん」

「ねえ、卯月」

 それも、なんだか聞きそびれそうです。全く同時に互いを呼び合ってしまって、なんだか言い出しにくい空気が出来上がってしまっています。

 なんとか打開しようと、わたしは譲ります。

「せ、セイバーさんからどうぞ」

「いいの?」

「はい……。また後でも大丈夫なので」

「そう、なら申し訳ないけど、先に私から卯月に聞くね」

「はい。どうぞ」

 セイバーさんの瞳が、鋭くわたしの瞳を見つめていました。それは、今までみたいに目をそらすことを許される類のものではなく、わたしは吸い込まれるように、彼女の瞳を同じように見つめ返していました。

 そして、セイバーさんは質問を口にしました。

「卯月。あなたに、何を犠牲にしても惜しくないほど、叶えたい願いはある?」

 果たして、どう答えるのが正解だったのでしょうか。本音か嘘か。彼女はまだ出会って一時間も経っていない、見知らぬ命の恩人です。たったそれだけの彼女に、その質問に、真剣に答える理由は本来ないのだと思います。

 ですが、それでも、何か理由があるとするのなら。それはとても個人的なことです。

 信じたいと思いました。

 何にもない。けどだからこそ死にたくない。助けてほしい。その呼びかけに応えてくれた。特別でも何でもないわたしを守ってくれて、今もまっすぐに見つめてくれている。

 その姿を、瞳を、声を、その在り方を、信じてみたいと思ったんです。

 信じたくて、信じてほしい。なら、ただ誠実に、本当のことを言うべきだと思ったんです。

「あります」

 なので一言。心の中にあるたった一つの真実を、わたしは見知らぬこの人に伝えました。

「そう」

 それを、彼女はどう受け取ったのでしょう。ただ、少しの逡巡も何もなく。

「なら、叶えなくちゃね」

 と、花が咲くように笑って頷いたんです。

「ごめん、状況が変わった。卯月がそう答えるなら、卯月の疑問は後に回す。今は一秒でも早く敵を倒さなくちゃいけないから」

 けれど笑っていたのもほんの一瞬。すぐにランサーと戦っていた時と同じく、倒すべき何かを見つけたような顔つきに戻って、風と一緒に校庭の方へ駆けていきました。

「セイバーさん!? て、敵って一体?」

 思えば、それも聞くべきでした。すっかり忘れていました。突然わたしを襲ったあのランサーという男の人とセイバーさんが一体何者で、どうして戦っているのか。わたしは何にも知らないんです。

 追いかけます。

 わたしを追いかける前、ランサーは校庭で誰かと戦っていました。もしセイバーさんの言う敵が、その誰かなら、その敵はランサーと同じかそれ以上に強いことになります。

 もし、その闘いでセイバーさんが死んでしまったら、わたしは、彼女がわたしの名前を知っていた理由すら聞けずに別れてしまうことになる。それは嫌でした。

 幸い擦り傷だけで、どこも痛みません。走ることになんの支障もありません。すぐに校庭端の、校舎と体育館をつなぐ渡り廊下にたどり着きました。そうやって見つめた先、陸上トラックのスタート地点付近で、剣を落としたセイバーさんの眉間に、長い髪の男の人が弓矢の先を当てていました。

「セイバーさん!!」

 思わず叫んでいました。それで気づかれてしまったみたいです。セイバーさんに向いていた矢の狙いがこちらに向きました。

 なんて間抜けなことをしてしまったんでしょう。また、死ぬという予感が心臓を握りしめて、足が動きません。

「卯月! 逃げて!!」

 セイバーさんまで叫んでいました。こぶしを握り、剣を拾い上げて弓を構えている人に振り上げようとしています。けれど、それよりも矢が放たれる方が早そうです。

 そこまで考えが至って、それでもあきらめきれずに体を反らそうとしていた時でした。

 

「アーチャー! ストップ」

 

 聞きなれた響きを含んだ声が、耳に届きました。

 改めて、弓を構えている人を見据えます。その人は指示に従い弓を下げ、その隙に振られたセイバーさんの剣を軽やかに躱しました。その後ろ、月明りで校舎の影になっていた暗闇から、一人の見慣れた姿が顔を出しました。

「あちゃー、やっちゃった。できればしまむーには、秘密にしておきたかったんだけどな。うん」

 その明るい語調も、太陽のような笑顔もいつもと同じです。ですが、それでも確かに、すまなそうな表情を顔に張り付けて、その目線は下を向いていました。

「いままで秘密にしててごめん、しまむー。ずっと黙っていたかったけど、私、魔術師なんだ」

 そこに、藍子ちゃんが探していたわたしの親友。

 本田未央ちゃん本人が立っていました。

 




ランサーのステータスが更新されました。

・ランサー/クー・フーリン
 ・禍々しい赤色の槍を構えた青い全身タイツの男。
 ・秩序・中庸・天
 ・ステータス
  筋力B 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具B
 ・宝具
  ・刺し穿つ死棘の槍 B 対人宝具
   ・言い訳というかただの屁理屈。
    本来の使い方(投げボルグ)をした場合何度でも刺してくるらしい(UBWルートアーチャー談)ので迎え撃つ必要があるけれど、刺す方であれば、原作で青王がしていたように幸運と直感で、一度目の本来の軌道と二度目の因果が修正された方の両方防げば、心臓直撃ルートは防げるかな? という理屈で蒼セイバーは躱してます。
    なんか第二魔法に片足突っ込んでる気がするけどたぶん問題ないはず。
    今後もこんな感じのこじつけが何回か出て来ますが(そうでもしないととてもこの先生きのこれそうにないので)、ふーん、そうなんだー。と軽く流してもらえると助かります。
 ・スキル
  ・対魔力C
  ・戦闘続行A
  ・神性B
  ・ルーンB
  ・矢避けの加護B
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