Fate/Cinderella night. Encored Grail war ~ニュージェネ+αで聖杯戦争~   作:藻介

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聖杯戦争チュートリアル&VSバーサーカー戦です。

この時点でライダーの真名を当てられる人はいるのでしょうか。まあヒントもばら撒いてますし、そもそもピクシブの方はここより大分進んでいるので、答えとか普通に出ちゃっているんですけども。


2/願いの形、賢者の見識

「ずっと黙っていたかったけど、私、魔術師なんだ」

「未央ちゃん……」

 わたしの親友、本田未央ちゃんが言ったことに、わたしは一つ疑問を抱きました。それを包み隠さず、口に出します。

「魔術師って、なんですか?」

「え」

 先ほど、ランサーが槍を構えていた時とは違った意味で、空気が凍った気がしました。

 なぜでしょう。わたしはそんなにもおかしなことを言ったのでしょうか。

「もしかしてしまむー。何も知らない感じ?」

「はい」

「ただの一般人なのに、サーヴァントを召喚して、あのランサーを撃退したってこと?」

「いえ。わたしは何もしてません。セイバーさんが助けてくれただけで……」

「いやいや、それにしたって満足に魔力供給もままならない状況で生存って……。そもそも何の前準備もなしにサーヴァントが召喚できるわけも。その上最優のクラスと言われるセイバーとか。…………うわあ、頭痛くなってきた」

「え、大丈夫ですか!? 未央ちゃん! すぐにお家に連れて帰らないと!」

「うん、しまむー。心配はありがたいけど今そんな状況じゃないからね」

 いつものように軽快なツッコミが返ってきます。それに、やはり目の前にいるのはまぎれもなく未央ちゃんなのだと確信して。安心していいのやら、それともまだ戸惑うべきなのか。どうすればいいのか分からず、わたしはさらに質問を重ねます。

「……あの、未央ちゃん。未央ちゃんは、サーヴァント、そう呼んでますけど。それって、セイバーさんのことを言っているんですか?」

「うん。まあ」

「だったら教えてください。サーヴァントが何なのか、セイバーさんたちが何者なのか、マスターって何のことなのか。未央ちゃんはこんな時間まで何をしていたのか。それから、どうしてセイバーさんはわたしの名前を知っていたのか」

「ちょ、ちょっと待ってしまむー! そんなにたくさん一度に聞かれても答えられないよ!」

 遠目にも慌てているのが判りました。その前に立っていた男の人が、わたしたちの間に割って入ります。その人は一度、未央ちゃんの方を流し見ながら。

「ミオ。ここは私が」

「アーチャー。大丈夫? 頼める?」

「ええ。私の真名を今一度お確かめください、マスター。いまこの場にいる誰よりも、私が適任でしょう」

「分かった。私の友達だから、変なことは教えないでね」

「承りました」

 そう二言三言やり取りして、それから改めて向き直りました。

「セイバーのマスター」

「えっと、わたし、でしょうか」

「はい。かわいらしいお嬢さん。あなたです」

 それなりに恥ずかしいセリフだったはずなのですが、なぜだかもうあまり気になりませんでした。先ほどのセイバーさんで一生分をすべて言われつくしてしまったんじゃないかと、ちょっと心配になってきます。

「名を伺っても?」

「はい。島村卯月です!」

「ウヅキ殿ですか。ええ、我がマスターに劣らず元気があってよろしい。ですが、ウヅキ殿、さっそくですが一つ忠告です。これから私たちの行く先に待つ魔術師の中には、名を聞いただけで相手を呪う手合いの者も少なからず存在します。そのため、軽率に相手に名を名乗ることは控えた方がよいでしょう」

「え、あ、はい。ありがとう、ございます?」

 なんでしょう。ただ話していただけなのに、ほんの小さな隙にやりこまれてしまった感じがします。そのやり方は、久しく藤村先生で麻痺していたわたしの記憶を刺激して、ああ、こういうのが模範的な教師かぁ、と思わせるだけの魔力を秘めていました。

「アァァァァアァチャァァアアァア?」

 そう思っていたのもつかの間、地獄の底から湧き出たような声が聞こえました。よく見れば、いつの間にかセイバーさんが男の人、アーチャーさんの首に剣を向けていて。ほんの少しでも彼女が腕を動かせば、すぐにアーチャーさんの首がぽとりと落ちそうだなと予感します。

「ははは。剣をおさめてください、セイバー。これは、貴女のマスターのためなのですよ」

「……うぐ。さすがアーチャークラス、一番痛い所を的確についてくるね……。………………分かった、少しの間だけ、見逃してあげる」

「迅速なご理解、ありがとうございます」

「だけど——————」

 一応の納得をしたのか、セイバーさんは握っていた剣を腰の鞘に納めて、アーチャーさんと未央ちゃんの二人の方を向いていました。その顔がどんな表情なのか、わたしには見えません。その状態で。

「卯月に何かしたら、殺すから」

 端的に、絶対零度にも等しい温度の言葉を放っていました。

 その時青い顔をしていた未央ちゃんは、後に語ります。

「うん、まあ。いい笑顔、だったよ、うん」

 と。

 

 

「つまり、七組の魔術師とサーヴァントが、なんでも叶う魔法のコップをかけて戦う聖杯戦争。それにわたしはセイバーさんのマスターとして参加してしまった。そういうことですか?」

「はい。概ね貴女の状況はそのようなものです。ですが、まだ本格的に参加するか否かは変更できる。その手続きを行うための場所に、我々は移動しているわけです」

 未央ちゃんの提案でわたしたちは学校から離れて、一路、住宅地の広がる深山町から橋向こうの新都へと移動していました。

 彼女は、他サーヴァントとの連戦を避けるためと言って、目的地を口に出すことをしませんでしたが、ここでアーチャーさんから、ようやくしっかりと聞けました。

「街の外れにある教会。そこにこの聖杯戦争を監督している神父がいます。教会は原則サーヴァントの出入りを禁じているので、私も会ったことはないのですが」

「あれは根っからの外道だよ」

 そう答えたのは未央ちゃんでした。彼女は隣り合って進むわたしとアーチャーさんの前方で、セイバーさんと肩を並べて歩いています。ぴったりと揃う二人の歩幅に少し前、「仲がいいんですね」と言ってみたところ、「さっきから呪詛みたいに呟かれてる声と鯉口を切る音が聞こえないんなら、しまむーはきっと幸せ者だね……。ハハ……」なんて返ってきました。やっぱり仲がよさそうです。

 その彼女が言った神父さんの評価が気になって、聞き返します。

「珍しいですね。未央ちゃんがそんなにストレートに人を罵倒するなんて」

「まあね。でもあれは例外かなぁ。ま、しまむーも会ってみれば分かるよ。最低限フォローはするけど、飲まれないように注意してね」

 ひどく不安になることを言われました。教会なんて行ったこともないのですが、彼女がここまで言う神父さんが、とても怖くなってきました。

「ええ。ウヅキ殿、ミオの言う通り教会の神父、とくに私たちの世界における彼らは一筋縄でも二筋でもいかない存在です。ですから、会話は最低限にとどめるべきでしょう」

「分かりました」

「良い返事です。では、そのためにもおさらいをしましょう。これまで教えたことをテストしますので、私の質問に答えてください」

 テスト、と言ったアーチャーさんの目が光り輝いていたように見えます。気のせいだとは思いますが、それでも無意識のうちにわたしは生唾を飲んでいました。

「では第一問です。魔術師とは何でしょうか」

 その問いはわたしが学校で未央ちゃんにした問いかけと同じものでした。それに、わたしは教わったばかりの答えを返します。

「えっと、魔力を使って、一定の法則に基づいた奇跡、魔術を研究する人たち。で合っていますか?」

「はい。細かい部分は省くとして、ウヅキ殿にはその認識で問題ないでしょう。では次に、魔術師の中から聖杯に選ばれた七人のマスターが呼び出す、戦闘代行者。それが我々サーヴァントですが、その正体は本来なんでしょうか」

「……英霊。アーチャーさんはそう呼んでいましたっけ。歴史上で何かすごいことをした人は、死んだ後にその功績をたたえられて、人より一つ上のモノになる。それが英霊、セイバーさんやアーチャーさん、それから、あのランサーの正体」

「その通りです。この短時間でよく理解しました。その成長性は、私の教え子たちの中でも目を見張るものがあるでしょう」

「あ、ありがとうございます!」

 アーチャーさんの教え方は、とても言葉では言い表せない巧さでした。教わった知識では、サーヴァントになる人は生きていた頃から得意だったことがあって、それが引き継がれているとのことです。ですから、きっとアーチャーさんはそのころから教師として名前を残していたのだと、自然と頷けます。

 ……まあ、あまり学校の勉強が得意なわけでもないので、アーチャーさんの本当の名前、真名が分かったわけではないのですけど。

「さて、ここまで理解すれば、ウヅキ殿が持った最後の疑問にも自ずと答えが出ることかと思います」

「最後の疑問。それって、セイバーさんがわたしの名前を知っていた理由のことですか?」

 はい。と、アーチャーさんは答えました。

 道は街外れの坂道、外人墓地の並ぶ辺りに差し掛かっています。見上げた丘の上に、目的地の教会は立っています。ここまでのことを考えれば、そう時間はかからないでしょう。これが、最後の授業になるはずです。

「サーヴァントには、生前の記憶も引き継がれます。一部の例外を除き、例え幼少期の姿で呼び出されたとしても、晩年のことを覚えているものです。つまり、セイバーは生前、どこかで貴女を見知っていたのでしょう」

「え。待ってください。それはおかしいです、アーチャーさん」

「なぜです? ウヅキ殿」

「だってサーヴァント、英霊は、昔のえらい人たちがなるものなんですよね? そんな人とわたしが知り合うだなんて。そんなこと、あり得ないです」

「いいえ。ウヅキ殿、何事にも例外というモノは存在するものです。この場合、疑うべきは前提条件でしょう。一つ新しいことを教えます。ミオ、貴女もよく聞いておいてください。良いですか、英霊と呼ばれる者は何も過去のみから選出されるのではありません。時には」

「——————アーチャー。それ以上は」

 最後の授業と聞き入っていたそれは、思わぬところから待ったをかけられてしまいました。セイバーさんです。とくに表情を崩していたようには見えませんでしたが、その瞳は、それ以上続けるのであれば考えがある、と、確かにアーチャーさんへと伝えていました。

「……分かりました。対魔術の低いマスターを持ったサーヴァントが、自らの真名をマスターに伝えないことはよく見られる戦術だと聞きます。しかし見たところ、貴女はそういった理由とは別に、彼女に正体を隠しておきたいと見ましたが」

「そこまで分かっているのなら、黙っていて」

 セイバーさんは柄に手をかけていました。本気で剣を抜くつもりはなさそうですが、それでもこの話題は避けたいみたいです。

「ええ。失礼しました。今後気を付けるとしましょう」

 それ以降、アーチャーさんが意識して話すことはありませんでした。せいぜい、場が険悪にならないように、気を配っているだけにとどめていた。そういうふうに、わたしには見えました。

 そうして、わたしたち四人は無言で坂を十分ほど上り詰め、ようやく丘の上に立つ冬木教会にたどり着いたのです。

「覚悟はいい? しまむー」

「私とアーチャーはここで待ってる。何かあったら、迷わず左手の令呪を使って。すぐに助けに行くから」

「はい。島村卯月、頑張ります」

 

 

 教会の中は、外の暗闇や学校の校舎とはまた違った静けさに包まれていました。

 そんな神聖ともいえる空気の中にあって、どこか不思議な違和感を放っている神父服を着た男の人が一人、祭壇の前に立っています。

「再三の呼び出しにも応じぬかと思えば客人かね、未央。君をあそこに住まわせているのが、一重にお父上の熱心な申し出故であること。よもや忘れているわけではあるまい」

「当然。それを加味したって、お宅とそう長い時間一緒に過ごしたくないだけだよ」

「ふむ、随分と嫌われてしまったらしい。もとよりよろしくしろとも言われていない。ならばこれもまた、看過しておくべきことかもしれないか」

 たった三回。合計でもそれだけの会話で、明らかに未央ちゃんがこの人を嫌っているのが判りました。まあ来る前から知っていたことでしたけど、まさかここまでとは思いませんでしたよ。

「それで、そのお前がわざわざ顔を見せてまで連れてきた客人だ。まさかただの哀れな子羊、というわけでもないのだろう?」

 と、唐突に話の主題がわたしに向けられました。神父さんは明らかにわたしを見ていますが、それよりも先に未央ちゃんが答えます。

「彼女、セイバーのマスターなんだよ。ここにはエントリーをしに来ただけだから、最低限したらすぐに帰る」

「ほう。ではセイバーのマスターよ。君の名前を聞こうか?」

 今度は、未央ちゃんが答えることはありませんでした。

 さっき気軽に名前を教えない方がいいと教わったばかりです。どうするべきか判断がつかず、未央ちゃんの方を見ます。視線で察してくれたのか、親切に教えてくれました。

「今は大丈夫だよ。その人の魔術特性は把握してるから、呪術なんて器用なのは使えなかったはず」

「気軽に言ってくれる。他人の魔術を吹聴することはご法度であると、お父上に習わなかったのかね」

「もちろん習った。だから言ったのさ」

 二人は目も合わせません。なのにその間の空気はますます重くなるばかりです。ここが教会でなければ、そして話の中心がわたしでなければ、すぐにお暇したいと思えます。

「さて、未央の言ったとおりだ。君の名を知ったところで私にどうこうできる術はない。監督役としての業務上やむを得ず利用することはあるが、何の代償もなしに他人に伝えるようなことはしないと約束しよう」

 もう一度未央ちゃんの方を見ます。未央ちゃんはわたしの目を見て、励ますように頷いていました。それで覚悟を決めます。

「島村、卯月です」

「なるほど、島村。聞かぬ名だが、あまり有名な出ではないのだろう。いやそう珍しいことでもなかったか。さて島村卯月、これより君は聖杯戦争へと足を踏み言れる。その覚悟が、果たして君には本当にあるかね。その胸に秘めた願いを、望みを、欲望を、聖杯へと捧げるために、君は」

 神父さんはそこで一旦区切って、一息だけ小さく呼吸してから、改めてわたしに問いかけました。

「誰かに殺され、そして誰かを殺す。それを迷わないかね」

 その問いは、アーチャーさんにされた問いかけの何倍も、それこそすべてを同時に問われた時よりも、重い質量を持っていました。

「殺す……?」

「言峰!」

「未央。まさか伝えていなかったわけではあるまいな。聖杯戦争は、七組のマスターとサーヴァントによる殺し合いであると。平凡な少女にしか見えぬ者が参加するというから、いったいどれほどのものかと期待していたが、まさか生殺与奪すら満足に出来ぬ素人であったとは。ぬか喜びなどあまりさせないでほしいのだがな」

「……神父さん」

「む。何かね島村卯月」

「わたしは、聖杯戦争はサーヴァントさえ倒せばそれでいいと教わりました。サーヴァントはすでに死んでいる人たちです。なら、人を、殺すことには」

「ほう。死人を死に返すことは殺人ではないと、君はそう言うのかね」

 少しためらって、その上で頷きました。

「確かにその言葉には理がある。つい数時間ほど前まで一般人であったらしい君にとっては夢物語に聞こえるだろうが、この世には悪魔払いに除霊師、そして不死の吸血鬼を専門に殺す者たちが実在する。うち何人かの顔を知っているが、仕事で二三あるいは百や千殺した後、平然と神前に跪くような連中だ。君を否定すれば、彼らの信仰すらも揺らぐだろう」

「なら、サーヴァントだけ倒せば」

「だがな、少女よ。君は、自分のサーヴァントが簡単に死ぬと、そう思っているかね?」

 そこまで聞いて、この神父さんが何を言いたいのか、そのおおよそを理解しました。

「そうだ。サーヴァントはサーヴァントをもってしても破りがたい。なら賢明な魔術師であるマスターが、どこを狙うのか、自ずと導き出せるだろう?」

「……マスター、ですか」

「そうだ。マスター無くしてサーヴァントはこの世に留まれん。そこにサーヴァントの格の高さは関係しない。サーヴァントにとって、最大の弱点はマスターなのだよ、島村卯月。ゆえにマスターはマスターを殺そうとし、それを文字通り全霊をもってサーヴァントは守護する。彼らにも、聖杯へとくべる願いがあるからな」

「………………」

「ゆえに、だ。君もいずれは殺すだろう。そものこと聖杯とは人生のショートカットのようなものだ。手持ちの時間では届かないから、圧倒的な神秘をもって願いを叶える。そら、せいぜい六人の命、自身で手にかける数はその半数に満たぬだろう。辛ければ全てサーヴァントに任せればいい。代償としては、安いものだと思うがね」

「言峰。それ以上は」

「否だ。未央。そこまで心配するのだ。友人なのだろう? ならば生半可な覚悟で殺し合い、死して後悔するのは他ならぬ未熟者のお前のみ。これは私がかける、最後の温情なのだよ。そうと分かればこれ以上口を挟まないことだ。その時は説教を望んでいると判断し、その傷、遠慮なく切開させてもらう」

「…………っ。ごめん、しまむー」

「いいんです。これは、わたしの問題ですから」

 そう言って沈んでいた顔の彼女に笑顔を向けました。けれど、彼女はよけいに表情を曇らせるばかりです。どうすれば未央ちゃんを笑顔にできたのか、わたしは頭の片隅で考えます。けれど、それを遮るように神父さんは話の先を続けました。

「さて。答えを聞こうか、島村卯月。叶えたい夢、そのために必要なものがあるのだろう?」

「……言いましたか? わたし」

「言わずともだ。君のような顔の者などこの世には万といる。その悩みを見いだせずして神父など務まらんだけだ。さあ、ここで手に入れるも一手、己の精進のみで手に入れるも一手。その選択を、私も未央も、そしておそらくは君のサーヴァントであるセイバーも、笑いはすまい」

「………………」

 セイバーさんの名前が出てきたのを聞いて、ふと、学校でのことを思い浮かべました。彼女の問いに対する「願いがある」という答えは、まぎれもなく心からの真実です。

 もっと細かく言えば、わたしの中には一つの迷いがあって、それを払うために必要なものが、キラキラと輝く何かが、わたしは欲しいです。それを、聖杯とみんなが呼ぶそれは、くれるのでしょうか。

 そこまで考えて、なんとなく違うな、そう思いました。

 誰かにもらった輝きで光るものは、果たして求めているモノでしょうか。その輝きはホンモノでしょうか。

 それを抱えて、私は悔いなく踊れるのでしょうか。

 わたしには、やはり判断がつきません。なら、ここで決めることでもないはずです。

「保留、です」

「なに?」

「聖杯にわたしの願いを叶えてもらうかどうかは、とりあえず聖杯戦争が終わるまで、保留にします。ひとまず、聖杯を実際に見てから、決めることにします」

「では君は、そんな不確かな理由で他のマスターを殺すのかね」

「いいえ。できるだけ殺さないように頑張ってみます。頑張るのは得意なので、きっと何とかなるんじゃないかと」

「そうか。だが何も戦争は攻めるだけではない。時には襲われることもあるだろう。その時はどうする」

「その時は、……仕方ないです。わたしだって、死ぬのは嫌ですから」

「しまむー、安心して。しまむーには誰一人殺させやしない。泥をかぶるのは私だけだ」

 ステンドグラスの向こうを見ながら、未央ちゃんは言っていました。その目に、時たま見せるためらいはなくて、覚悟なんて、彼女の中ではとっくの昔に決まっていたんだなと。わたしはすぐに否定することができませんでした。

 その間に、神父さんがそのよく通る声を上げます。

「それでは不本意ながらも、君をセイバーのマスターと認めよう。これより本格的に聖杯戦争は幕を開ける。己が誇りと欲望に従い、各自、存分に競いたまえ」

 実際にはそこまで大きな声ではなかったようです。けれどその時、わたし、もしかすると未央ちゃんも、この声が街中の人たちみんなに聞こえているような。そんな風に錯覚したのです。

 そして最後に、神父さんはわたしにしか聞こえないぐらいの小声で、それでも不思議と胸の奥まで入ってくるような奇妙な声音で、一つ、つぶやいていました。

 

「——————喜べ、少女。この夜の先に、君の十二時は確かに待っているだろう」

 

 

 

「なら卯月。本当にいいんだね?」

 教会の門から出た直後、駆け寄ってきたセイバーさんはわたしにそう問いかけました。

「はい。その、未熟ですらない、魔術師でもないマスターですけど。よろしくお願いします」

「ううん、いいんだよ。卯月は卯月でいて。それなら、私は何を相手にしたって卯月を守れるから」

 恥ずかしい言葉を言うのは相変わらずのようです。ですが、わたしはあまり素直に受け取れません。きっとあの神父さんが言っていたように、この聖杯戦争でわたしは違うわたしになってしまうのでしょうから。そして、それをわたし自身も、心のどこかで望んでしまっているのですから。

「——————へえ。じゃああなたは、バーサーカーにも負けないだね」

 突然。鈴を鳴らしたような声が、耳に届きました。

 セイバーさん、アーチャーさん、それから未央ちゃんの三人と同時に聞こえた方を向きます。そこには、雪の国からやって来た妖精のような女の子と。

 

 岩のような、死の塊が立っていました。

 

 セイバーさんを縦に二人並べてようやく足りるだけの身長。その手には、わたしと同じかそれ以上の長さのごつごつした剣、いや、あれは、斧でしょうか。とにもかくにも、あの太い腕で一度振るわれたなら、わたしなんて丸太以上に容易く真っ二つに叩き切られる。簡単に想像がついて、思わず口を押えていました。

「……バーサーカー。それに、あの子……ホムンクルス、アインツベルンか」

「正解。さすがといったところね、ミオ。でも今日はあなたにも、あなたのアーチャーにも用はないの。セイバーのマスターが決まったらしいから、挨拶を、ね」

 彼女の赤い血の色をした瞳が、わたしを捕らえました。

 じっとりと、足先から髪の毛の一本一本に至るまでを観察するように見つめた後、スカートの端を持ち上げて。

「初めまして、セイバーのマスターのおねえちゃん。わたしはイリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 と、うれしそうな笑顔を浮かべて丁寧にお辞儀をします。その笑顔のまま。

「じゃあ、殺すね。やっちゃえ、バーサーカー!」

 まるでステージの上で踊るアイドルのように、殺す、と。宣言していました。

「■■■■■■■■ーーーーーー!!!」

「卯月! 下がって!!」

 イリヤちゃんの指示と同時に高く飛び上がり、斧剣を掲げたバーサーカー。それを迎え撃とうと、セイバーさんは弾丸のような速さで、いつの間にか抜いていた剣を手に飛び出します。

 瞬間。大きな衝撃音が辺りを土煙とともに包みました

「セ……」

 どごん、と。何かが飛んで行って後ろにあった塀にぶつかる音がしました。最後まで言い切る間もなく、慌てて背後を振り返ります。そこには、血を吐いて膝をついているセイバーさんの姿がありました。

「セイバーさん!」

 今度こそ最後まで言い切れました。彼女は立つのもやっとといった様子で、剣を杖代わりに立ち上がります。その体に目立った傷はなさそうです。ただ一つ、胸から血が出ていました。それはバーサーカーの大きな剣で斬られたような広い傷ではなくて、深い刺し傷。

 ランサーに刺されたものです。それがついさっき、何かの拍子に塞がりかけていたものが開いたように、鎧に赤い染みを作っています。

 それで思い出しました。セイバーさんはランサー、アーチャーさん、そして今目の前にいるバーサーカー。まだ四時間も経っていないうちに、それだけの人たちと戦っているんです。サーヴァントが過去の英雄で、すごい人たちだということは理解しています。けどあれは、バーサーカーはまた別格な気がします。

 そんな怪物と前の傷も癒えていない状態で戦うのは、はっきり言って死ぬことと同じで、それをセイバーさんも理解しているはずです。なのに。

「……ッ、ハアッ!」

 分かっているはずなのに、また風みたいに突貫していきます。まるで、立ち止まったらそこで負けることが決まってしまって、その時には、残されたわたしが殺されてしまうと思っているみたいに。

「ルーン。……この距離だとセイバーを巻き込むけど、対魔力があるから」

「いえ、未央。彼に魔術は聞かないでしょう。並の魔術師では、十年間()めに溜めた魔力全てをもって打ち破れるかどうかの存在です。多少の援護はしますが、私の矢でもどこまで殺しきれるか」

「え、アーチャー? 殺しきるって何を言って……。まさか!」

「ええ、そのまさかでしょう」

 未央ちゃんとアーチャーさんが話し合っている間にも、セイバーさんは触れれば肉を根こそぎ持っていかれそうな暴風をさばいています。強い一撃を与え、後退するセイバーさん。逃がさないと追うバーサーカー。その頭上に、数えきれないほどの矢が雨のように降ってきました。その全てがバーサーカーを捕らえ、まるで岩でもぶつけられたように地面に押さえつけられます。

「今っ!!」

 それを見たセイバーさんはとっさに後退していた足を急ブレーキ。止まることなくそのまま推進力に変えて、動きを止めたバーサーカーの懐へ。その速さとセイバーさん自身の力強さとが相乗された一撃が、剣を持ち上げていた右肩ごと心臓のさらに下までバーサーカーを両断していました。

「セイバー! 離れて!」

 未央ちゃんが叫んでいました。それに従いセイバーさんは剣を引き抜いて離れます。

 その時でした。セイバーさんがバーサーカーの剣の間合いだったものから離脱した時、二度と持ち上がるはずのないその岩の剣が、また、セイバーさんへ向けて飛んでいました。

「な、……っ、ハアアッ!」

 すぐに間合いを詰めてきたバーサーカーに対し、またセイバーさんは打ち合いを始めます。

「未央ちゃん、今」

「うん。生き返ってた。たぶん、あれがバーサーカーの宝具」

 宝具。それはアーチャーさんに教わった中でも、一際印象に残っている項目です。

 サーヴァントは過去に偉業を為した英雄です。そんな英雄たちとともにあった武器には、時に魔術以上の神秘を帯びるモノがあるそうです。例えば、学校で戦ったランサーさんの槍や、おそらくはセイバーさんの剣であったり。それが宝具。サーヴァントを呼ぶことは、すなわち宝具を召喚することだと言われるほどに、強力なものもあるのだとか。

 さらにアーチャーさんが語るところによれば、英雄の伝説そのものが宝具になることも少なくないらしいです。バーサーカーの蘇生は、きっとそちらに類するものでしょう。

「かつて十二もの難行を乗り越え、神様からそれと同じだけの命を与えられたギリシャ最大の英雄。ヘラクレス。アーチャーが言うには、それがバーサーカーの真名。それに、もしも伝承を完全に再現しているとするなら」

「未央! さっきから剣が弾かれてる!」

 一度距離を取っていたセイバーさんが、大きな声で言いました。

「やっぱり。セイバー! たぶんそいつに、同じ殺し方は通用しない!」

「そんな……。じゃああと十一回も、全然違う方法で倒さなきゃいけないってことなんじゃ」

「だろうね。その上生半可な攻撃が通用しないとなると、これは」

「そう。わたしたちに出会ってしまった時点で、あなた達が負けることは決まってるの。初めから詰みなのよ。だってバーサーカーは、世界で一番強いんだから」

 バーサーカーの肩の向こう。一度セイバーさんが斬ったその先から、イリヤちゃんは楽し気に言います。距離にしてほんの2、30メートル。それだけの、走れば十秒もかからないその距離が、ひどく遠く見えます。

「さあ、バーサーカー。邪魔なアーチャーの矢は無視して、その弱っちいセイバーから先に潰しなさい!」

 セイバーさんが、死ぬ?

「アーチャーの宝具なら一回は殺せる。でも………………しまむー?」

 未央ちゃんが何か言っています。けれど、それよりも、聞き捨てならないことがあった気がします。

 そうです。今、イリヤちゃんはバーサーカーに指示を出しました。セイバーさんを潰せと、それはつまり、セイバーさんを殺すということで。

「嫌、です」

 セイバーさんが戦うのは、わたしを守るためで。そのために戦っているセイバーさんが死んだら、それはきっとわたしのせいです。

「それは、嫌です」

 とても身勝手な理由です。でも後悔するだろうと思いました。まだ彼女のことを、セイバーさんのことをわたしはよく知りません。まだ彼女にランサーから助けてもらったことすらありがとうと言えていないですし、それに、どうしてわたしなんかを守ってくれるのか、その理由も、まだ聞いていないんです。

 それなのに、死ぬなんて。

 何もないわたしなんかのために、あんなにも綺麗な在り方をした人が、死ぬなんて。

「それは、とても嫌なことです」

 なので、わたしは走り出していました。

 距離にしてほんの10メートル先。さすがにもう動けないのでしょうか、それでもバーサーカーをにらみつけるセイバーさんに向かって、バーサーカーが走り出しています。このままでは、きっとあの大きな剣がセイバーさんを頭から叩き切ってしまうはずです。

 なら、このままセイバーさんを押し出せば、きっと彼女だけでも助かってわたしは——————

「え? うづ」

「何を、馬鹿なことをしているんですか!!!!」

 やけに大きな声でした。飛び出して来たわたしに驚いたセイバーさんの声を、聞き漏らしてしまうほどに、大きな叫び声。きっと助からない。そう諦めて目をつむっていたわたしは、いつまでも痛みがやってこない現状を不思議に思って、恐る恐る瞼を開きます。

 そこには、ほんの目と鼻の先まで迫るバーサーカーの剣。そして、触れれば肉を持っていかれるだけのそれを、両手の平で、いわゆる白刃取りで受け止めている、ローブを目深にかぶった誰か。

 あまりにもアンバランスでした。

 だってその人は、いえ、予想外に高い声を出していたその子は、わたしとほとんど同じ背格好です。それなのに、自分の二倍以上の体から振り下ろされた一撃を、その細腕で受け止めています。

「早く!! 逃げてください!!! そう長くは持ちません!!」

「っ! 卯月!!」

「は、はい! あの、ありがとうございます!」

「いえ、これもマスター命令なので!」

 その人は白刃取りのまま、真剣さを崩さない声で返していました。セイバーさんに手を引かれ、未央ちゃんのいる安全圏まで何とか逃げ切り、振り向きます。そのころにはとっくに二人の睨み合いは終わっていて互いに斬り合っていました。

 ……とはいっても、ローブの人は素手ですが。

「しまむー! いきなり飛び出してどうしたのさ!」

「ごめんなさい、未央ちゃん。……ですが」

「うん分かってる。事情はあとで聞くよ。それよりも今はアレだね。いや本当にどういうこと!? A+ランクの筋力を持ってるバーサーカーと素手で渡り合うとか……、一体どんな無茶苦茶な由来の英雄ならそんなことができるっていうのさ!」

「同感ですね。ミオ。彼は私の教え子のなかでも一番の出世筋のはずですが、世界は広い、ということでしょうか」

 いつの間にか戻っていたアーチャーさんが付け加えます。そのまま続けて。

「ひとまず、ここは彼女の言う通り撤退するのが得策でしょう。三人とも、異論はありませんか?」

 わたしを含め、その場の全員がアーチャーさんの提案に賛成していました。わたしも一刻も早く帰って、せめてセイバーさんを休ませてあげたいですし。

 そうしている間にも、ローブの人はバーサーカーと殴り合っています。それを見ているイリヤちゃんの顔は、相当にご機嫌斜めのようで。その頬をいっぱいに膨らませて、英語だかドイツ語だかスペイン語だか何だか分からない言葉を口々に叫んでいました。

「さて、むこうも話がまとまったようです。私たちも、スタジアムを変えるとしましょうか、バーサーカー!!」

「■■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!」

 目にもとまらぬ速さで森の中に消えていくローブの人を追って、バーサーカーも木々の間に姿をくらましました。

「あーーもうっ! ほんと融通利かないんだから!! セイバーのマスターのおねえちゃん、ああ長い! 名前! 名前教えて!」

 一人残されたイリヤちゃんは、二人を追いかける前にわたしにそう問いかけました。その姿が、あまりにも普通の子どものように見えて。簡単に名前を教えてはいけない、そのことを忘れて自然と、わたしは彼女に名前を教えていました。

「卯月、島村卯月だよ。イリヤちゃん」

「そう、ウヅキっていうの。まあべつになんでもいいけど。……いい? 次会ったらただじゃ置かないから、覚えておいてよね!」

「ずいぶんベタだなぁ」

 未央ちゃんの的確なツッコミが入りました。それによけいに地団駄を踏んで、それでもバーサーカーを放っておけないようです。こちらに向けて舌を出して、あかんべえをしてイリヤちゃんも森に踏み入って、次第にその姿が見えなくなりました。

「なんとか、生き延びられた、かな?」

 セイバーさんがランサーと戦ったあとのわたしと同じ感想を、未央ちゃんが漏らします。最後の方、状況が理解の及ばない方向にあり得ない速さで転んで行ったせいで、思わず忘れてしまいそうですが、さっきまで、わたしたちは殺されかけていました。

 それが、今こうして生きて元の場所に立っている。

「ええ、簡単には信じられませんがそのようです。今夜はこれ以上の戦闘を避けるべきでしょう。帰宅を推奨しますが、マスター?」

「うん。私もそれがいいと思う。しまむーはどう、ってしまむー! 顔色が!」

「! 卯月!!」

「え?」

 視界の中で周りの風景が引っ張られるように左に流れていきます。やがてそれらが、九十度傾き終わった時、わたしの肌には冷たい土の感触が触れていて。目に映る風景もゆっくりと暗く、何も見えなくなっていって。

 わたしは、そこで意識を失いました。

 




バーサーカーのステータス情報が更新されました

・バーサーカー/ヘラクレス
 ・巌の巨人。マスターであるイリヤスフィールと行動を共にする。
 ・言い訳というか屁理屈。
  ライダー(ローブの人)が殴り合えたのには、ライダーの出自以外にも理由があります。詳しいことはまたおいおいですが、一応、ライダー自身がその理由をちゃんと語っていたりします。基本とってもいい子なので。ただまあそのために、ちょっとしまむーに無理させちゃったかな、という気がしないでもないのですけれど。
 ・混沌・狂・天
 ・ステータス
  筋力A+ 耐久A 敏捷A 魔力A 幸運B 宝具A
 ・宝具 
  ・十二の試練 B 対人宝具
 ・スキル
  ・狂化B
  ・戦闘続行A
  ・心眼(偽)B
  ・勇猛A+
  ・神性A 
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