Fate/Cinderella night. Encored Grail war ~ニュージェネ+αで聖杯戦争~   作:藻介

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作者の花知識はにわかです。図書館の本を流し読みした程度なので、たぶん贈り物ならもっと他にいいものがあったんじゃないかと。
この後の展開にも関わってくるので、ただ花言葉だけで選んだわけではないんですよ?
本当に、違いますからね。


6/Never say never(1)

 ただ、気になっただけなんです。

 ヴェルデは新都にある一番大きなショッピングモールです。ここに来れば大抵のものはそろうという売り文句の通りに、食料品店に電化製品、メガネやお洋服、アクセサリーなんかのお店に加えて、カフェもあり、その広さと多彩さは国内で見ても珍しいそうです。

 そんなヴェルデですから、一人ですべてのお店を回ろうだなんてすれば一日ではすみません。四人でまとまって動いていては、全員の要望をこの時間から叶えることは不可能なんです。

 そのため話し合いの席がもたれた結果、二人一組ずつに分かれて行動することになりました。

 わたしと組むことになったセイバーさんは、未央ちゃんと藍子ちゃんを見送ったあと一番に聞いてきました。

「卯月はどこか行きたいところある? どこにでも付き合うよ」

 整った顔立ちに、透き通りながらもすこしだけ低い声。そんな王子様みたいな調子で言われたものですから、聞き返すことなんてわたしには思いつけなくて、少しだけ熱い頬を隠すために、前から行ってみたいと思っていたお店を二、三件ほど考えなしに回ってしまいました。その全てにセイバーさんは、いやな顔一つせずについて来てくれて、その上で。

「ねえ、これ卯月によく似合うと思うんだけど。着てみてよ」

 なんて言って試着室に引っ張っては、着替えた私を思い出すのも恥ずかしくなるくらいにべた褒めするんです。ええ、目の前にいるのが女の子だということは分かっています。分かってますけど、ちょっと恥ずかしすぎですよ。

 なら今度はわたしの番だと思って聞いたんです。次はセイバーさんの行きたいところに行きましょう。どこにでも連れて行ってあげますよ。とお姉さんっぽく言ってみたんです。そうしたら。

「なら卯月が楽しめるところに行こう。私が見たいのは、卯月の楽しそうな笑顔だから」

 これですよ。

 本当に勘弁してほしいです。これ以上真っ赤になって、セイバーさんのことをちゃんと見れなくなったら、どう責任とってくれるんですか。

 けど、それでもわたし、頑張りました。頑張って頑張って、ようやくセイバーさんの口から犬が好きだと教えてもらったんです。

 二人でペットショップに行きました。ガラスの向こうでトレーナーさんに待ったをされているワンちゃんに、先日と同じくセイバーさんが重なってしまって、少し笑ってしまいました。その笑顔をどう思ったのか、セイバーさんは今度はお花屋さんに立ち寄って。少し待っていてほしいと言ったんです。

 犬みたい、なんて思ったのがばれたのかな。まあ別にかまいませんが。自分でも少しふてくされていたのが分かりました。そんな私に、お会計を済ませたセイバーさんはかけよってきて。

「はい、これ、ナズナの花。卯月にあげる。そんなに目立つものでもないし、部屋の窓際にでもかざって」

「は、はい。でも、えっと」

 湯だった頭が、本来なら覚えているはずのないことまで思い出してしまいました。

 たしかナズナの花言葉って、『あなたにすべてを捧げます』って意味だったような。言いかける私の唇を人差し指で軽く押さえて。

「目立たないけど、今の私の気持ちだから。大切にしてくれると嬉しいな」

 なんて言いながら、さっきまで唇に触れていたその手で、私の腕を引っ張っていくのでした。

 

 

 ええ、だから。これは単純に気になっただけなんです。それ以上の意味なんて、これっぽちもありません。あるわけ、ありませんから。

 あのあと連れてこられたス〇バの席に座って、砂糖も何も入れていないキリマンジャロを平然とすするセイバーさん。ちなみにわたしは甘いカプチーノです。なぜか負けた気がします。けれどこんなことでセイバーさんに勝つのも、なんだか違うと思ったので、ひとまず彼女がキリマンジャロを飲み終わってから、わたしはしっかりとした覚悟を持って口を開きました。

「セイバーさんは、わたしを妊娠させたいんですか?」

 中身が空になっているのを確認してから言って、本当に良かったと思います。だって、わたしの言葉を聞いたセイバーさんは、まるで時間が止まってしまったみたいに固まって、その手からカップを床に落としてしまったのですから。

 ……いや、それにしても、それにしてもです。何かを間違えた気がします。思わず妊娠なんて言葉を口走ってしまいましたけど、もっと適切な言葉があったような。

「………………えっと。卯月、何か信じられないようなことを聞いてしまった気がするんだけど。もしかしたら私の聞き違いかもしれないし、うん。良ければ、もう一回言ってくれない?」

 どうやら言い直す機会が与えられたようです。では、改めて。

「セイバーさんは、わたしをおとしたいんですか?」

「ぐふっ……」

 なぜか、セイバーさんの方が落ちました。物理的に、椅子の上から。心臓でも貫かれたみたいに胸を押さえて倒れています。『ランサーの槍でもこうはいかなかったのになあ』なんてよくわからないうわ言をつぶやいています。

 周りの人たちまで驚いて、かけよった店員さんが大丈夫ですかと問いかけてます。危うく救急車を呼ばれるところでしたが、その前にセイバーさんが立ち上がってくれて助かりました。

 戻り際の店員さんにコーヒーをもう一杯、今度はエスプレッソで同じく砂糖とミルクなしを頼み。少し時間が経ってから到着したそれを一口ちびるように飲んでから、やっと落ち着いたみたいで。それまで明後日や明々後日の方を向いていた視線が、こっちに戻ってきました。

「だ、大丈夫ですか?」

「…………うん。大丈夫。もう問題ない」

「そう、ですか。それならいいんですけど」

 しまむー、恐ろしい娘。みたいな未央ちゃんの声が聞こえた気がしました。けれど、相手にせず、今は話の続きを急ぎます。なぜなら、そう、とても気になっていたので。

「ごめんなさい。わたし、わけのわからないことを言ってしまったみたいで」

「いいよ。卯月の言葉なら、だいたいのことは嬉しいし」

 ですからさっきから息をするように口説き文句を口にするのは止めてくださいよ。今度はわたしの心臓が破裂するじゃないですか。復讐ですか。やられたらやり返す、倍返しですか。倍返しどころじゃありませんよ、もう。

 一つ深呼吸をして、改めて聞きたかったことを聞きました。

「セイバーさん。どうしてあなたはわたしに、こんなにも優しくしてくれるんですか?」

「あれ、言わなかったっけ?」

「たぶん、ですけど。はい。理由らしきことは聞いていません。出会った夜もランサーやバーサーカーから守ってくれて、三日前、未央ちゃんちの階段から落ちそうになった時も、それに、今日だって」

「特別なことをしていたつもりはなかったんだけど」

「ううん、特別じゃなくなんてない。だってずっとセイバーさんは、わたしのためって、ずっと言っていたじゃないですか」

「うん、そう。それが理由」

「へ?」

 唐突な返しにうまく反応できず、変な声が出ていました。

「もっと言うとね、本当は卯月の笑顔を守りたいんだよ、私。卯月の笑顔が大事なの。卯月の笑顔があったから、私は今の私でいられる。だから、私は卯月の自然な笑顔が大好きだよ。大好きなものを守るのは、とうぜんでしょ? それが、私の戦う理由。だからね、私は特別なことなんて、何もしていないよ」

 その顔はさも当たり前のことを言っているみたいに、いつも通りの優しい彼女の顔でした。その顔を、誰よりも信じたいと思った彼女の、その表情を、どうしてかわたしは信じられなくて、信じるわけにはいかなくて。

「でも、それは特別です。セイバーさんがそう思っていなくても、わたしにとっては、とっても特別なことです。だって、わたしは」

 わたしには、何も——————。

 そう言いかけた私の唇に、セイバーさんはまた指を当てて、言いかけた言葉を許しませんでした。

「卯月は特別な子だよ。それは未央が、藍子が、そして私がよく知ってる。だから、そんな悲しいこと言わないで」

 そんなことを言うセイバーさんの方が、よっぽど悲しそうな顔をしていたように思います。

「卯月が悲しい思いをしないように、なんて約束は、この私にはできない。人間生きていれば、絶対に辛い思いをしなきゃいけない時だってあるから。でも私は、卯月には笑っていてほしい。だから、卯月。あなたが望むのなら、この私は何でもやる。卯月に叶えたい願いがあるのなら、私は卯月のために聖杯を手に入れる。それまで、卯月を守る。それが私の戦う理由だから」

 真剣なまなざしで答えるセイバーさんに、わたしはもう何も言えませんでした。彼女の決意は岩のように固いもので、わたしが何を言ったところで揺るがないだろうと思ったからです。言って無意味なことを言うほど、わたしも頭が悪いわけではありませんから。

 そう決めて、すっかり冷めてしまったカプチーノに口をつけた時でした。鞄に入れていた携帯が震えていました。着信音は電話が来ていると訴えていて、慌てて手に取って画面を表示すると、送り主は未央ちゃんでした。

「すこし電話してきます」

 セイバーさんに一言断りを入れて、席を立ってトイレに駆け込んでから、ようやく電話を取れました。

「はい。もしもし」

『ごめん、しまむー。お邪魔じゃなかった?』

「いえ、全然そんなことはありませんでしたよ」

 未央ちゃんから見えていないのを良いことに、少し自嘲しました。対する未央ちゃんの声はなんだか落ち込んだ様子で、いつもの元気オーラが少し陰っているようでした。

「そっちはどうでしたか? アーネンエルベでのことがあったんです。藍子ちゃんと、手をつなぐくらいはできましたか?」

『うぐ。耳が痛いことを聞くね、しまむー。……あーちゃんはもう帰ったよ。仕事が入ったみたい。ところで、そんなことを聞く余裕があるっていることは、今日の本当の目的も、ちゃんと覚えているんだよね』

 本当の目的。えっと、それはたしか。

「キャスターとアサシンをおびき出すこと、でしたよね」

『うん、正解。良かったよ、ちゃんと覚えていてくれて。で、結果からいうと作戦は失敗。キャスターの陣営に動きはなかった』

「そうですか」

『ただ』

 そう一言つけくわえて。

『今朝の時点でとっくに消えていたみたいだから、初めから失敗も成功もなかったみたいなんだけど、ね』

 そんなことを言われてようやく、私は気づきました。こういうふうに未央ちゃんの元気が陰るのは、何か大きな失敗をしていた時か、もしくは思い違いをして、他の人に迷惑をかけてしまったと、未央ちゃん自身が思っていた時だけなのだと。

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