オリジナルTS闇深勘違いモノ ボツ集   作:キヨ@ハーメルン

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魔法少女モノ
プロローグ


 西暦2020年。日本に置いては令和2年となった新時代…………しかし、人々の暮らしは特に変わる事も無く続いていた。

 今日、この日までは。

 

「信じられません! 全く信じられません! 未だかつてこの様な事があったでしょうか? 前代未聞です!」

 

 あり得ない。それはその場に居る者全ての声であり、現場に居るテレビレポーターの現実逃避じみた声だった。

 彼らの視線の先に居るのは、たった一人の少女。丈の長いケモミミパーカーに身をつつみ、月明かりに照らされながらビルの屋上に佇む彼女は、肩口を越えて伸びる長い白髪を風になびかせながらその手に持った“武器”を構える。巨大で、無骨な、“対戦車ライフル”を。

 

 アンチマテリアルライフル、あるいは対物ライフル。現代ではそう呼ばれるライフル達の始祖は極めて強力な武器だ。30ミリ程度の鉄板なら容易に貫通する威力を持ち、装甲車程度なら容易く撃破可能。更に狙撃銃としても一定の優秀さを持ち、遠方の目標を粉砕する能力を持ち合わせる。個人携行火器としてはかなり強力な部類に入るだろう。

 しかし……実際のところ、この手のライフルはあまり一般的ではなく、戦車が進化していく脇で陳腐化し、最終的に限られた用途にしか使われなくなった歴史がある。しかも現代において少女が持っている様な古いタイプの対戦車ライフルは、博物館か好事家しか持っていない様な骨董品も同然。何せ対戦車と良いながら戦車を破壊する程の火力は無く、しかし人間に向けるにはあまりに過剰威力で取り回しが悪かった為に。生産数もさほど多くなければ、現存数もそう多くないのだ。ましてや銃規制の厳しい日本では、間違っても子供が持っていて良い品ではなかった。

 そんな時代の流れに飲まれた古い武器を、少女は何に使おうと言うのか? いや、そもそもなんだってそんな武器を持っているのか? その答えは少女の視線の先にあった。

 

『────!!』

 

 空間を引き裂く様な、おぞましい叫び。

 泥に闇と影を混ぜ込んでこね合わせて作られた様な、黒く巨大なナニカ。全長十メートル以上、恐竜にも似た二足歩行のケモノがビル影から顔を出す。ソイツはもう一度おぞましい叫びを上げ、足元にあった無人の乗用車を踏み潰した。まるで挑発する様に。

 

「押さないで! 落ち着いて避難して下さい!」

「見えますでしょうか!? バケモノです! バケモノが街を歩いて居ます! これは怪獣映画やSF映画ではありません! 実際の街をバケモノが──」

「ワシの車がぁー!」

「ジジイ退け! 邪魔だ!」

「押さないで! 押さないで!」

「足を踏むな!」

「助けてくれぇ!」

 

 とても現実とは思えない突然の事態に怒号が飛び交い、混乱が広がっていく。そうしてパニックに陥る民衆を他所に、ビルの屋上で小柄な少女は対戦車ライフルを静かに構える。任せておけと言わんばかりに。

 なるほど、バケモノを相手にするなら対戦車ライフルを引っ張り出したくもなる……そう納得出来る者が民衆の中にどれだけ居ただろう? しかし、少女にはそんな事は関係無かった。彼女はバケモノに向けたライフルの引き金を……そっと引く。瞬間、凄まじい炸裂音。

 砲音にも似た発砲音と共に放たれた弾丸は、真っ直ぐにバケモノの脳天目掛けて直進し──ズドッ! と、バケモノを殴り付ける様にして命中した。グラリとバケモノの身体が傾いていく。

 

「おぉ!? やったか!?」

 

 誰だ秒速でフラグを立てたのは。テレビレポーターだ。口を閉じてろ。

 そう誰かが罵倒する暇もなく、脳天を穿たれたはずの……いや、脳天に穴が空いているバケモノが姿勢を持ち直す。揺れた身体で立て直し、ズシンと大地を踏み締めて。頭上に居る少女を睨む。光を返さぬ泥の様な目で。

 

「……死なない、か。まぁ、そうだよね」

 

 そう呟いた少女の声は、誰にも聞こえる事なく闇夜に溶けていく。

 バケモノと同じ様に光を返さぬ、ハイライトの落ちた暗い瞳で眼下を見下ろし……突然、飛び降りた。

 もしや投身自殺か? そう見物人が焦る中、少女は手に持った対戦車ライフルを空中で乱射する。一発、二発、三発。連続でトリガーが引かれる度に凄まじい発砲音が響き、バケモノに穴が増えていく。……だが、死なない。バケモノは死なない。泥人形に穴が開いたところで致命傷にはならないと言わんばかりに。

 そして、少女はバケモノの頭上、一メートルのところまで落ちて──そして。

 

「死ね──!」

 

 殺意しかない叫びと共に、少女の落下速度の乗った鋭い蹴りがバケモノの鼻面に叩き込まれる。

 瞬間、骨を砕く様な破砕音が響き渡り──ドッ、と。バケモノがガードレールを押し潰しながら地に倒れた。そして一拍遅れて少女がバケモノの横に着地する。危なげもなく。

 

「はふぅ……」

 

 ビルの屋上から飛び降り、バケモノに蹴りを食らわせたというのに少女は全くの無傷だった。軍人ですら運ぶのに苦労する対戦車ライフルを片手で持ちながら、少女は小さく息を吐く。一安心とばかりに。

 だが──彼女に、休んでいる暇は無かった。

 

「給料分は働いたんだけど……駄目かぁ」

 

 残業代ってあるのかなぁ? 無いよねぇ。

 そんな事を呟く少女の目の前に、先程倒したバケモノと同種のバケモノがビル影からのそりと顔を出し──吠える。パニックの度合いを強める民衆の中に、あれが量産型だったらしいと気づけた者がどれだけ居るだろう? いや、居たとしてもどうにか出来る者は……一人しかいなかった。

 故に、少女は地を蹴って駆け出す。対戦車ライフルを乱射しながら、バケモノへと!

 

「このぉ!」

「──!!」

 

 少女とバケモノが吠え、お互いの力と力がぶつかり合う。

 閃光が弾け、肉がひしゃげ、コンクリートが叩き割られる。

 その戦いは非日常的で、しかし、これが少女の日常だった。今まで何度となく繰り返した闘争の延長線上の事でしかない。……だが、世界が壊れたのはこの日だったのだ。

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 そして、後日。少女は正義の魔法少女としてあちこちで取り上げれる事になる。多くの謎を残しつつ、批判や好奇の目をぶつけられながら。

 あの子のおかげで助かった。もっと被害を少なく出来なかったのか。綺麗な女の子だった。助けに来るのが遅い。対戦車ライフルとはロマンを分かっている。子供を戦わせて政府は何をしているのか。パンツ履いて無いのでは。あの子供が居たから襲われた。リアル魔法少女キタコレ。

 

 …………多くの、実に多くの声が飛び交った。

 しかし、まさか、誰も想像すらしなかったに違いない。まさか少女が……TSした元男だったなんて事は。

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