オリジナルTS闇深勘違いモノ ボツ集   作:キヨ@ハーメルン

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宇宙モノ
ファンタジー×SFモノ


 無限に広がる大宇宙。静寂な光に満ちた世界。

 

 暖かくも冷酷な空間。

 今、そこで一隻の船が力尽きようとしていた。

 

「ここまでか……無念だ」

「……艦長、我々は」

「言うな。分かっている」

 

 満身創痍。火災こそ消し止められているものの、装甲板は引き裂かれ、砲身はひしゃげ、エンジンの息吹も弱々しい……一隻の宇宙船。否、宇宙戦艦。

 かつては雄々しかったろう存在も、今や死を待つばかりの弱々しい存在だ。そして……今、エンジンがそっと力尽きた。

 

「艦長、エンジン……停止しました。サブエンジンも動きません」

「そうか……」

 

 船の心臓であるエンジン。それが息を引き取った。爆散しなかったのは機関員の懸命な処置の成果であり、この宇宙戦艦の特性でもあったが……

 船のブリッジで副長から報告を受ける艦長からしてみれば、真綿で首を絞められている気分だった。いっそ一思いにやってくれれば、乗員を苦しめずにすむものをと。

 

 ――だが、最後まで諦めてはならない。

 

 長い時を生き、立派な口髭を蓄えるまでになった艦長。彼は拳を握り締め、活路を開かんと思考を回す。

 彼は経験していた。艦長が諦めた船は、活路があってもそれに気付けなくなるのだと。だからこそ、足掻く。最後の最後まで。

 

「通信長。通信は、回復しないか?」

「全力で取り組みましたが……駄目です。システムはともかく、長距離通信に使用可能な機材は、全て……」

「短距離通信は?」

「可能です。しかし、主戦場からだいぶ流されています……それに主戦場が、あれでは」

「言うな。……準備だけは、しておいてくれ」

「了解です!」

 

 敬礼して自らの持ち場に向き合う通信長の報告に、艦長は内心でため息を溢す。……こういう時、口髭と提督帽は便利だった。感情を隠しやすいという意味で。

 

 ――切り込み艦隊は、全滅だろう。

 

 艦長達が乗る船は切り込み艦隊の前衛を率いる立場にあった。“敵”の気勢を挫く、楔として。

 その役目は果たせたと艦長は思う。しかし満身創痍になりながら戦う中でエンジンに被弾、炎上し、火災が収まる頃には主戦場からだいぶ流されてしまっていたのは不覚でしかなかった。途中でデブリストームに巻き込まれたのも良くない……そう思いながら、艦長は切り込み艦隊の末路を正確に悟っていた。

 

「生き残りは、我々だけだろうな」

「艦長……」

 

 切り込み艦隊。

 艦長達の故郷に残された戦闘可能な宇宙船をかき集めた艦隊は、彼らの希望……いや、一矢報いる為の、為だけの戦力だった。

 故郷は守れる状況になく。ならばせめて、道連れを増やしてやろう……そんな悪あがきの一矢が届くはずも無い。ましてや艦長達より後ろにいた艦隊は艦隊とは名ばかりの民間船の集まりだったのだ。後方からビームを垂れ流すのがやっとの…………そんな者達がどんな末路を辿ったのか。艦長は察しつつも、瞑目するしかない。いや、一つだけ吐き散らしたくなった。後悔を、恨み言を。遅かったのだと。

 

「我々は、ソラに上がるのが遅過ぎた」

「我々がソラに上がって百年、ですか。あの発掘戦艦が空を飛んだ日から」

「ふっ、その発掘戦艦が未だに現役なのだぞ? そしてその発掘戦艦を作った超文明は奴らに勝てず、滅びた。ならばそれを有り難がる我々が、奴らに勝てる訳もない……」

 

 百年前。艦長達の祖先は未だに剣や“魔法”で戦っていおり……そんな中で科学と魔法がハイレベルで融合した戦艦が発掘された。

 それは最初勇者が使い、戦いが一段落した段階で発掘戦艦のコピーが無数に生み出され、一気に惑星中に広まったのだ。激動の百年。艦長達からしてみれもよくもまぁ一気に花開いたものだと関心する程のスピードで発展していったが……遅かった。いや、分かっているべきだった。なぜ発掘戦艦が、埋もれていたのか? なぜ発掘戦艦を作った文明はどこにも居ないのか?

 

 ――答えは唯一つ。彼らも負けたのだ。奴らに。

 

 今更何を言っても遅い。だが……無念さだけはどうにもならない。艦長はそっと目を閉じて瞑目し、無念さを押し込めようと努力して――――どれだけそうしていたのか。副長から声がかかる。艦長、と。

 

「空気が……残り僅かです」

「……そうか」

 

 宇宙船の空気とは無限ではない。発掘戦艦由来のエンジンは空気すら生み出すが、それも先程止まってしまった。

 それと、どこかに……いや、そこら中に亀裂が出来ているのだろう。隔壁は締めているが、それ以前の問題らしい。いつの間にか、空気は残り僅かになっていた。

 

「艦長、船がアステロイドベルトに……」

 

 更に悪い事は続くもので、船は真っ直ぐアステロイドベルトに突っ込んでいってしまっていた。サイドスラスターなら何度か吹かせるかもしれないが……小惑星に鼻先から突っ込んで爆散するのは時間の問題だろう。エンジンを気づかって減速していなかったから、それなりのスピードが出ているのだ。ぶつかれば木っ端微塵になってしまうのは間違いない。

 その証拠、というべきか。船が突っ込んだアステロイドベルトは普通ではなかった。

 

「これは、アステロイドベルトではない……!?」

「デブリ帯。いや、船の墓場か……」

 

 重力の影響なのか? それとも艦長達の様な船が他にも居たのか? 船が突っ込んだアステロイドベルトは、無数の船の残骸が散乱するデブリ帯になっていた。

 艦長達の故郷の船は……そう多くない。奴らに討たれた船は大抵木っ端微塵になるし、惑星規模で見ても宇宙船の生産数が多くないのだ。にも関わらず、その場所には無数の船が転がっていた。まるで墓標の様に。

 

「ソラに上がっていたのは、我々だけでは無かった……」

「ですが、その殆どが……奴らに」

「恐らく、な」

 

 サイドスラスターを使って巧みに残骸を避け、ときには擦る事で減速を試みながら。艦長を含むブリッジの人間は宇宙に居る知的生命体が自分達だけでは無かった事を確信していた。

 発掘戦艦と同型らしき物もあれば、全く意匠の異なる宇宙船もあったのだ。恐らく、別の惑星の船だろうと思える物が、何隻も。

 ただ、そのどれもが……破壊されていた。見覚えのあるやり方で。

 

「艦長。サイドスラスターの残量、僅かです。……停止を試みます」

「許可する。やってくれ」

 

 前もって命じていた通り、航海長が停止を試みる。エンジンが停止している為、手近な船の残骸――異星人の物だろう見覚えない船――にサイドスラスターを噴射して船体を擦り付ける事で。

 衝撃が船を遅い、残っていた装甲板が火花を上げて弾け飛び――――船が、止まる。

 

「航海長、よくやった」

「いえ……」

 

 艦長が部下の妙技を褒める中、誰もがどうにもならなくなった事を確信していた。

 船は止まった。これでデブリにぶつかって木っ端微塵になる事は無い。

 だが、船は止まったのだ。エンジンは再起不能であり、もうどこにも行けない。空気も残り少ない。助けも来ないだろう。そもそも切り込み艦隊は全滅する予定であり、故郷にはもうマトモに動ける宇宙船は無いのだから。……後はもう、死ぬのを待つだけだ。

 

「各員、後は……」

 

 後は、何だという言うのだ。そこまで口にして、艦長は固まってしまう。

 遺書でも書けと? ここに来る者は亡霊だけだというのに。

 ならば自殺しろと? ここまで来て命じるのがそれか?

 何か、何かないのか。何か、何でも良い――! ……そう思考した、次の瞬間。通信長が悲鳴にも似た声を上げる。信じられないと。そして。

 

「レーダーに感ありッ!! これは……生きてる船が、いや、これは……?」

「どうした? 何があった?」

「要塞級の反応あり! 大きさ……百キロメートルを越えています!!」

「なんだと!?」

 

 百キロメートル級の要塞。そんな物は艦長達の星には無い。そもそもキロメートル級の宇宙戦艦すら無いのだ。

 そんな物があるとするなら……奴らだけ。

 

「こちらに近付いて来ている模様!」

「っ!」

 

 艦長の脳は、瞬時に答えを叩き出す。奴らが要塞級をわざわざこんなところに越させた理由は……恐らく一つ。乗り込んで来て、なぶり殺しにするつもりだ。

 あるいはサンプルデータでも取るつもりなのかも知れない。まだ同期が生き残っていたときに、そういう話をした事があった。その対策も……!

 

「白兵戦用意……! 自爆の用意もしておけッ!」

「艦長!?」

「奴らに、一矢報いるぞ!」

「……ッ! イエス! コマンダー!」

 

 ここで死ぬだけだと思っていたが、最後に出来る事が出来た様だ。

 そう決死の笑みを浮かべる艦長。部下が生き残りをかき集めようと連絡を取るのを横目に、彼も懐から拳銃を取り出す。

 もっぱら自決用だと揶揄されるそれを、戦う為に。

 そして……要塞が、近づく。

 

「間もなく光学映像が…………これは……!? 艦長!」

「なんだ!?」

「よ、要塞から……通信ですっ!」

 

 困惑。思考が止まる。通信? 通信だと? 奴らに通信する脳ミソがあるのか?

 そう困惑し……思考が再起動したのはタップリ十秒後。混乱する中、艦長は無難な答えを出す。取り敢えず、出てみようと。

 

「メインモニターに回せ」

 

 ブゥン、と。沈黙していたメインモニターに光が走る。それは暫く砂嵐状態で、マトモに使えた物ではなかったが……やがて、それが収まった時。

 果たしてそこに映っていたのは…………一人の白い少女だった。

 

「こちらaaa-0001そちらの巡洋艦さん、助けが必要ですか?」

 

 白く長い髪を中に流すその少女に、艦長の混乱は極みを迎えた。

 当たり前だろう。死ぬ覚悟を決めていたところで、ほわわんとした様子の子供が出て来れば脳ミソがバグる。しかもあちらは……情報が正しければ要塞に居るのだ。……なぜ要塞からの通信者が少女なのかは分からない。普通は厳つい軍人なのではないのか??

 脳ミソがバグる。機能しなくなる。戦場を駈け抜けた名艦長は、今やボケ老人もかくやという存在でしかなかった。

 

 …………何とか助けが必要だと伝えれたのは、脳ミソの働きではなく脊髄反射でしかない。それでも少女にはそれで満足だったのか、嬉しそうに請け負ってくれた。

 艦長を、艦長以下乗組員の全員を困惑させたまま、通信が途切れる。

 

 そしてそれが、後に救世主と言われる伝説的艦長と、彼と共に戦い抜いた彼女の……出会いだった。

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