冒険者モノ
遠い海の向こう、世界の果てに見つかった新大陸。そこには誰が残したかも分からない古い伝承が眠っていた。
かつて栄え、一夜にして恐ろしき者共に滅ぼされた古代文明。
古代文明を消し去った、何処からか来たりしおぞましく恐ろしい者共。
そして……その戦いの中で失われた、人智を超えた力を持つ数々の秘宝。
遠い海の向こうにあるロマンと夢に人は憧れ、しかし眉唾物だと切り捨てられる……はずだった。人智を超えた秘宝が発掘されなければ。
そして紆余曲折を経て、ついに王命が下る。
「新大陸を開拓し、そこに眠る秘宝を手に入れよ!」
大国も小国も、老いも若いも、男も女も関係ない。富者も貧者も関係無かった。
誰も彼もが大いなるロマンを手にせんと遠い海の向こうへと渡り…………だが、踏破する者は未だに現れない。屍だけが積み上がり、いつしか人はその有様を迷宮と呼んだ。
遠く離れた海の向こう、新大陸に難攻不落の大迷宮あり。数々の秘宝と、それ以上の死が待ち受ける場所。
そして今日もまた、新たな者が迷宮へと足を踏み入れる。彼ら彼女らがいかなる末路を辿るのか? それは神すら知りはしない……
◇
嵐の中で
──思えば、ずいぶん遠くまで来た。
暗闇の中で荒れ狂う海を見ながら、私はふとそんな事を思う。ずいぶんと、本当にずいぶんと遠くまで来てしまったと。現実的にも、比喩的にも。
例えば今居る場所……新大陸へと向かう船、それも騎士団の最新鋭魔導戦艦とか何とか言うらしい船のオシャレな展望室は、簡単には入れない場所だろう。その証拠にチラリと後ろを振り返って見れば、そこに居るのは──本来この部屋に居るべきではない──普通じゃない奴ばかりだ。
身の丈を越える大剣を背負った筋骨隆々の大男に、危険な雰囲気しかしない顔に傷のある女。ギラつく目をした胡散臭く抜け目なさそうな小男に、何らかの外法に手を染めたらしい明らかにヤバい気配の少女。……ここに居るのは紙一重で犯罪者ではないだけで、危険でヤバい事に変わりはない奴ばかりだ。欲に目が眩んだか、死んでもやりたい事があるか、そもそも死が怖くない奴か。そういう奴しか、秘宝を求める命知らずしかここにはいないのだ。この私も含めて。
「死にたがりのサラリーマンだった日は、遥か彼方昔の──」
雷鳴が響く。かなり近くに落ちたらしいそれに一瞬ビクッと身を怯ませた私だが、すぐに顔をしかめてローブを引っ張り、フードをより一層深く被る。うるさいのはゴメンだと。
──この身体は音に敏感で困る……
ガラスに映る赤い瞳を睨み返し、垂れてきてしまった長い白髪を鬱陶しいと背中の方へと払い飛ばして。私はため息を吐く。雷鳴が煩くて仕方ないと。
これは頭の上のミミのせいなのだろうか? ならば伏せてしまうか? しかしそれだと奇襲されたときに対応出来ない……
そう迷っているうちにも嵐は手加減なく船を襲い、風にあおられたらしい船が大きく揺れる。背後で誰かのグラスが落ちて割れ、私は慌てて手すりを掴んで耐え、耐え……おい、今三十度以上傾いたぞ?
「この船、大丈夫なんですかね……? これ」
騎士団ご自慢の最新鋭魔導戦艦とやらがどれくらいの嵐に耐えられるのか? 私は全く知らないのだ。この船に乗って数日経つが、失敗だったと思える回数は増える一方で……まぁ、また一つカウントを増やさなければならないらしい。クソッタレだ。
だがまぁ、今更降りるつもりもない。私はこの船の行き先に用があるのだ。噂の迷宮、そこから得れる秘宝の数々を使えば恩義あるあの子に治療に目処を…………クソッ、騒がしいな。酔っぱらい共め、今度は何だ?
「……へぇ?」
また肩がぶつかったとかで喧嘩を始めたのかと思ったが、様子を探ってみるとそうではなかった。来客が来たのだ。
犯罪者崩れどもの視線の先。そこに居たのは……華美な軽装鎧を着た一人の少女、姫騎士閣下だ。
──名前は……何だったか。
彼女がこの船の持ち主であり、新大陸を開拓する為に私や犯罪者崩れをかき集めたクライアントなのは覚えているが……名前は覚えていなかった。どうせ使う事はないだろうと。
しかしまぁ、姫騎士という言葉にはさほど間違いなかったはず。だからこそ思わずにはいられない。奇妙なとこに来たな? と……いや、別段彼女がここに来るのはおかしくはない。むしろこの展望室のオシャンティーな内装を考えれば、彼女こそ本来ここに居るべき人間だろう。筋肉ダルマだの傭兵崩れだのは倉庫にでも押し込んで置くべきなのだ。
しかし、ここは今や犯罪者崩れの溜まり場。こんな場所にお姫様がノコノコやってくれば鎧と服をひん剥かれて酷い目に合いそうな物だが……
──ふん。獣は自分より強い者は襲わない、か。賢い事だな。
酒瓶をラッパ飲みしていた酔っぱらいすら、姫騎士にちょっかいをかけようとしなかった。筋肉ダルマも傭兵モドキも、揃いも揃って視線をそらしている。関わりたくないと。
「それはそうか……」
再度の雷鳴にビクリと震えながら、私は船出の前にかき集めた情報を思い出す。確か姫騎士殿は某大国のお姫様であると同時に、凄まじい剣の腕前を持っており、巨人すらナマス切りにしたとかなんとか。お貴族様故誇張表現が入っているだろうが、酒に酔ってちょっかい掛けるには危険な腕前をお持ちなのは間違いない。
それと、極めて面倒な事をやりたがっているそうだ。噂によるとだが。
──確か、冒険者から話を聞きたいとかなんとか……
面倒な話だ。これが冒険活劇をねだる少女だと思えばカワイイ物だが、その実彼女は王族。下手な事を言えば不敬罪になってしまうし、そうなればギロチンだ。さもなくば火炙りだ。どっちみち死ぬ。
命知らずの馬鹿どもも、そんな理由では死にたくないらしい。揃いも揃って目をそらしてやがる。……そして、そんな状況で姫騎士閣下をジロジロ見ていれば、彼女と視線が合うのは道理でしかなかった。
「貴公、少しいいか?」
「……えぇ、構いません」
面倒な、実に面倒な事に姫騎士閣下が近づいて来た上に声を掛けてきた。
こうなっては逃げようがどうしようが、礼儀正しく答える以外は全て不敬罪。ギロチンと火炙りを避けたい私は神妙に頷くしかない。例え視線の端で酒瓶片手にこそこそと展望室を抜け出していく腰抜けどもが憎らしくても、だ。クソッタレ共め、後で覚えておけよ……!
「ん? 貴公、歳は幾つだ? 子供に見えるが……」
「…………レディーの年齢を問うのは、誰であれ失礼では?」
「む、確かに」
これは失礼した。そう毅然とした態度を崩さず、口だけで謝罪する姫騎士様は……まぁ、立場ある者としての教育を受けてきたのが目に見えていた。
この場合、どこのクソガキとも知れない奴に頭を下げるのは、外交問題にすらなりかねないので正しいっちゃ正しいし、言葉だけでも謝罪したのは根の性格の良さが…………あぁ、うん。ここで私だけ意地を張るのはかえって情けないか。
「はぁ……私は子供ですよ。見た目通りの」
「そうか……ううむ。確かに余は冒険者を求めはしたが、こんな子供までとはな。我が兵は何をしているのか……」
「……ご不満が?」
「うむ。ある。あるが……貴公は只者ではない様だし、時勢が時勢。仕方あるまい」
……なるほど、姫騎士というのは嘘でもなんでもないらしい。隠しているつもりはないとはいえ、私の実力を察せられるとは思わなかった。
──見た目に騙されないとはな……
深くフードを被っている事もあって良くは分からないだろうが、私が年端もいかない少女であるのは直ぐ分かるだろう。だが、その実力が文字通りバケモノだとは普通は思わない。しかし、それを看破したという事は……そういう事なのだろう。
これは、実力云々を探られるのは面倒だぞ。そう判断した私はもう一つの話題を広げにかかる。即ち、今の時勢だ。
「新大陸が発見されて百年以上。迷宮は一向に踏破されず、むしろ逆侵攻を受けている始末……でしたか。国を挙げての迷宮対策も実を結んでいないと聞きます」
「うん、王族としては耳が痛いな。だが、その通りだ。最初に新大陸が発見され、不完全ながら賢者の石が発掘されて百年余年。迷宮はお世話にも踏破されているとは言い切れず、今やあちらから飛来、上陸してくる怪物共に逆侵攻を受けている。……港町を見たか?」
「あぁ。その……控え目言って、寂れていましたね。あの様子では騎士団関係者しか居ないのでは?」
「敏いな。その通りだ。かつては王国随一の港町も、今や襲来する怪物共どものせいで見る影もない。担当の騎士から湾口設備の復興は絶望的だと言われたよ」
そもそも住民を水際作戦の為に全て疎開させたからな。もう十年以上前に。そう残念そうに無理もないと口にする姫騎士様に深刻そうな相づちを返しつつ、内心ではさもありなんとため息を吐く。入念に調べた訳では無いが、件の港町は随分と前に崩れたままと思わしき家屋が点在していたからな。恐らく、あれらを利用してゲリラ戦を仕掛けているのだろう。住んでいた者や思い入れのある者には悪いが、復興は絶望的……いや、不可能だろう。
──そういえば、討伐した怪物共の死骸の片付けすら追い付いて居なかった様な……?
ところどころだが、瘴気溜まりがあったような気もする。
あれは例えるなら毒物……いや、放射性廃棄物がその辺に転がったままの状態と言っても過言じゃない。しかも、下手をするとその瘴気溜まりが原因となって、そこから新たな怪物が出現するのだ。手に負えん。
──ふむ。姫騎士閣下には悪いが、歴史ある王国もここまでかな……?
ああなってしまうともうどうにもならない気がする。しかも絶望的なのはあの港町だけではないのだ。内陸の方にも被害が広がっていたはずだし……うん、どうにもならんな。それこそ、奇跡を起こす秘宝でも無い限りは。
万物の願望器か、はたまた七つの龍玉か。何にせよ私には関係無い話だ。そう他国の隆盛なんぞ他人事だと割り切っていると……ふと、姫騎士様から視線が投げられる。どこかすがるような目が。
「だからこそ、貴公らには期待している」
「…………こんな子供に、ですか?」
「うん。恥ずかしながら我が国の……というより、各国の騎士団はもう攻め戦が出来ない程に疲弊してしまっているのだ。故に貴公ら冒険者や開拓者に期待するしかない。例えそれが子供であれ、女であれ、実力があるならば」
「……そうですか」
「そうなのだ。特に貴公はまだ十五にもなっていない少女に思えるが……その実力は私にすら匹敵しよう。期待するなという方が難しい」
勿論、私も戦うぞ。そう意気込みをみせる姫騎士閣下の言葉に嘘は……見えなかった。仮にも一国の姫君が戦場に立つというのはいかがなものなのかと思わないでもないが、時勢が時勢。仕方のない事だ。
そう実力云々、期待云々をシレッとスルーしながら頷いていたのが悪かったのか。姫騎士閣下は言葉を途切れさせる事なく、話しを続けてしまう。何としてもやり遂げねばならないのだ、と。
「各国の騎士団が耐え切れているうちに、迷宮を攻略……少なくとも、怪物共を新大陸の内陸部まで押し返さなければならない。勿論、可能であれば秘宝も発掘してな」
「秘宝……」
秘宝。そう、秘宝だ。それが欲しくて私はこんな場所に居る。
最初に見つかった秘宝は賢者の石──鉛を黄金に変え、不老不死の妙薬である命の水を生み出すもの──だと聞いた。残念ながら保存状態が良くなかったのか、そもそも欠陥品だったのか、発掘された賢者の石は不完全な品だったらしいが……それでも秘宝と呼ぶになんの不足も無い品だったという。
そして、そんな秘宝が新大陸から幾つか発掘され、その何百倍もの秘宝が未だに新大陸のそこかしこに眠っているのだ。失われた古代文明由来の物もあれば、何処からか来た恐ろしき者共由来の品もある……文字通り、どんな願いでも叶うだろう秘宝が。誰の物でもない状態で。
どんな秘宝でも良い。秘宝さえ、秘宝さえ手に入れば……
「ふむ? ……貴公、どの様な秘宝が欲しいのだ?」
「…………聞いて、どうするんです」
「興味本位だ。深い意味はない」
どんな、か。そうだな、どんな秘宝でも良いとは言ったが、狙っている秘宝はある。むしろそれ以外の秘宝はハズレまであるだろう。私は巨万の富も、不老不死も──迷宮探索で使う以上は──必要無いのだ。
まぁ、どんな秘宝であれ取り敢えず一つ見つけて確保しておけば、後で狙っている物が発掘された時にトレードを申し出れば良いと“取らぬ狸の皮算用”をしてはいるが……
「治療を……」
「うん?」
「心が死んでしまった少女の治療を、可能とする秘宝を……求めています」
「それは……難しいな」
「えぇ、しかし、その為なら、あの日犯した過ちを償えるのなら、魂を捧げる覚悟は出来ています」
「……そうか」
そうだ。あの日の過ちを償えるのなら、この身体を、この魂を捧げる覚悟は出来ている。死も恐ろしくない。恐ろしいのは、あの子への償いが出来ない事。何も出来ないまま終わる事。
そも、あの日、私がもっと確りしていれば。いや、死者である私が今更のように生を望まなければ、あんな事には、あの子があんな目に合う事は……
──この世界に秘宝なんて物があったのは、不幸中の幸いだったな。
あの日起きたのは、この世界ではありふれた不幸だ。
それでも、いや、だからこそ。秘宝さえあればあの子の不幸を無かった事に……正確には、差し引きゼロに出来るはずだ。そうする事で始めて、私は…………
思わず過去の光景がフラッシュバック仕掛ける私を知ってか知らずか、姫騎士閣下が声を上げる。嵐を抜けるぞ、と。
「ふむ、あれが新大陸か。思ったよりも普通だな……」
そう口にされた言葉に視線を上げれば……なるほど、至って普通の景色が広がっていた。透き通った晴天と、青い海。暗雲と雷鳴は過ぎ去り、穏やかな海が広がっていた。そしてその向こうには、これまた至って普通の陸地が見える。木々も青々と生い茂っている、ごく普通そうな陸地が。
──けど、あの奥地は……
人の住める場所じゃないのだろう。
そう内心で嘆息すると同時、姫騎士閣下がポツリと声を溢す。そういえば、と。
「貴公、名は?」
「…………」
「覚えておこう」
そう言って満足そうに展望室を後にする姫騎士閣下を見送り、私は新大陸に向き直って睨み付ける。
やらねばならない事が、あそこにあるのだと。
◇
上陸、新大陸
新大陸行きの騎士団最新鋭の船は特に座礁する事も無く、新大陸唯一の港へと着岸。命知らずや姫騎士様を降ろし……私は彼ら彼女が粗方行ってしまった後、積み荷を降ろす作業員に混じってのそのそと船を降りていた。
なんて事は無い。万が一にも姫騎士閣下と鉢合わせしたくなかっただけだ。とはいえ……
「眩し……」
それで日光の陽射しが弱まる訳ではなく、私は洗礼と言わんばかりに照り付ける太陽の陽射しを浴びていた。眩しいまでのそれを。
──この身体は魔に属すから、強い日光はキツイんだけど……
いや、愚痴は良い。これは早いところ今日の宿を確保し、屋内での情報収集に努めねば。
そうフードを被り直した私は身の丈以上もある自分の得物──無骨な大盾と、その裏に備え付けられた長剣や戦鎚等──を担いで、いそいそと新大陸唯一の町を歩く。迷宮探索の最前線にして、人類の最終防衛ライン──完全にすっぱ抜かれてるが──である町を。
そうして港から大通りまで足を伸ばして、目につくのは武装した人間の多さ。そして活気の無い町の様子だった。
──頭数は居ても、探索は進まずか……
武装した人間が多いのは良い。ここは迷宮探索の最前線基地でもあるのだ。そういう物だろう。
だが……戦士、傭兵、騎士、盗賊、ならず者。武装した荒くれ者がこれだけがん首揃えているのいうのに、町の活気が無いというのは奇妙だ。軍の占領地という訳でもないのだし、彼ら相手に商売をする者で賑わっていてもおかしくないのだが……やはり、迷宮は金のなる木、という訳ではないのだろう。むしろ割に合ってない経営状態のところが多いと見える。
成功する者より失敗する者が多く、明るい知らせは耐え、投資はドブ底に落ち、経済は回らず、悪循環に囚われているが故の活気の無さ……誰かが秘宝を持ち帰れば、また話は別なのだろうが。
──この様子だと、数ヶ月以上成功者は出ていないんじゃないか? ……まぁ、いい。先ずは宿だ。
状況が良かろうと悪かろうと、やる事に違いは無い。
そう考えを打ち切り、なるべくマシな宿を探そうとした──次の瞬間、ミミに違和感が走る。これは、敵か!?
「上だ! 上を見ろ!」
「モンスターだ! モンスターが来るぞォ!」
周りのオッサンが次々と武器を抜き放って空を見上げるのに釣られて、私も上を、空を見上げれば……遥か上空に鳥の様な影が見えた。鳥にしては大きい影は、どうにもこちら目掛けて急降下している様に見える。
ゾワリ、と。怖気が走った。
──なるほど……あれが!
迷宮に巣食う怪物共。モンスターか! 噂通りのバケモノという訳だ……相手にとって不足無し!
そう戦いの邪魔になるフードを脱ぎ去り、急降下してくる鳥型モンスターを睨みつける。あれが私の敵なのだと。見れば見るほどおぞましい面構えをしている……殺すのに、なんの躊躇も出そうに無い。
「そこのガキ! 何してる、さっさと逃げろ!」
「あ、お構いなく」
どうにも子供が迷い込んだと思われたらしく、武器を構えた悪人面のオッサンから逃げろと言われてしまう。
だが、その心配は無用だ。私は迷宮を攻略しに来たんだぞ? こんな奴らにやられている暇はなく……当然、戦う術も持ち合わせている!
「よっ、と……」
モンスターが迫りくる中、私はどっこいしょと言わんばかりに背に担いでいた大盾を降ろし、地面に付き立てる様にしながら装備する。
どこから
ワンパン
──ん? 硬いな……
ナマクラ刀だと逆に折れかねないぞ。
「片付いたか?」
「はぐれ共だな。例の森からだ」
「厄介な話だぜ……クソッ」
「嬢ちゃんやるな。見た目からは想像出来んかったが……良い根性だった!」
「……どうも」
「嬢ちゃんも迷宮に行くのか? まさか一人じゃないだろうな?」
「そのつもりですが」
「おいおい……」
「確かに腕っぷしは認めるぜ? この辺に男どもより強そうだしな。けどよ、迷宮のモンスターはもっと強い。今飛んで来たやつなんか迷宮じゃ野ウサギみたいなもんなんだ」
「……なるほど」
「それに一番ヤバいのは毒持ちどもだな。ちょっとかすっただけで身体が麻痺したり、耐えられない程の眠気が襲ってきたり……事によっちゃ石化したりする。そうなったら何も出来ずに頭からパックリよ」
経験者は語るってやつだな、とチャチを入れられるオッサン。
「そういう時大事なのは慌てない事、そして仲間がいる事だ」
「さっすが、死にかけた奴は違うねぇ」
「俺らが居なけりゃ寝たまま死んでたからな」
「うるせぇぞ! お前らだって何回も麻痺して殴り殺されかけてるだろうが!?」
ギャーギャーと
しかし、確かにそうだ。
毒、それと罠の類い……確かに危ういかもしれない。人よりも耐性はあるつもりだが……
「仲間を集めるには?」
「そりゃ看板でも持って立ってれば……冗談、冗談だよ。殴るのはやめてくれ」
「方法は色々あるが、やっぱり困ってる奴を助けて恩を売るのが一番だな。出来れば街中で仲間を探してる奴か、迷宮の入口辺りで立ち往生してる奴が良いだろう。少なくともソイツらはこのままだと死ぬって事が分かった奴らだからな」
「なるほど……」
「だが気を付けろ、迷宮をある程度進むと引き返せねぇ。いや、引き返そうとしたところをバッサリやられるんだ。そうなってから気づいても遅い。大抵は死体になってるか、死体になるか。二択だ」
「む……」
よ、元山賊!
うるせぇ! 俺は義賊だ!
「ありがとうございます」
「良いって事よ。……それより、死ぬんじゃねぇぞ。嬢ちゃんみたいなガキが死ぬのは……もう見たくねぇんでな」
迷宮へ。