オリジナルTS闇深勘違いモノ ボツ集   作:キヨ@ハーメルン

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『架空原作TS闇深勘違い学園モノ』の影には、無数のボツ作品が……プロトタイプ品がありました。
供養も兼ねて、投稿しておきます。


架空原作TS闇深勘違い学園モノ プロトタイプ
最強TS怪物少女は殺されたい


 死の運命

 

 人には運命というものがある。

 誰にでも。当然、私にも。例えそれが……死という残酷なものであるとしても、それは定められた運命だ。変えるのは、並大抵の事ではない──

 

 

 

 事の始まりは…………そう複雑な話じゃない。

 どっかの世界でいい歳こいたバカが一人野垂れ死にし、異世界に転生してなお記憶を保っていた。そんな話だ。転生した後も記憶を持っている人間というのは少数ながら実在するのだし、無限に広がる大宇宙があるのだから異世界があってもおかしくはない。ならその二つが組み合わさってしまう確率は僅かながらとはいえ確かに存在している訳で、何も、何も問題は無い話だった。……そこまでは。

 

 問題だったのは、転生者たる私は彼から彼女に……つまり性別が男から女へと変わってしまった事。そして“魔王軍の実験体”だった事だ。

 

 人造人間、あるいはホムンクルス。

 私が転生し、彼女となった肉体は人間ではなかった。勇者を倒し、世界を征服する為の魔王軍の秘策。勇者を油断させる為に可愛らしく幼い容姿をしながら、実際は無数の生物を組み合わせたキメラであり、無敵の兵士を目指して作られたホムンクルス。それが私だ。

 見た目こそ白髪赤目のアルビノ系美少女だが、その正体はバケモノとしか言いようがない存在。製造ナンバー217番。既に失敗した名も無き姉妹達の屍の上に、私は転生した。間もなく実験の為に消費されるモノとして。

 

 不幸中の幸いだったのは、私が転生して間もなく施設が“不慮の事故”で壊滅した事。警備がザルだった事。そして……私はハイスペックなプロトタイプモデルとして高い性能を持たされていた事だ。

 私自身、こういう状況が好みだったのも大きいかも知れない。大の大人になっても厨二病を引きずっていた様な奴だったから、チャンスとあれば最高効率で状況を打破出来たのは事実だ。数分で身体の性能を正確に──性別の変化も含めて──確認し、突如として発生した混乱に乗じてどこぞのビックなボスな蛇の様にスニーキングしつつ情報を集め、整理し、施設から脱出。そのまま魔王軍の影響圏から逃走を図り…………成功した。成功してしまった。

 

 一連の成功は全て厨二病のおかげ……というよりは、プロトタイプモデルとして持たされた過剰なまでの能力のおかげだろう。

 混乱の中で盗み見た資料によれば、どうにも開発者達はホムンクルスの性能向上に行き詰まっていたらしく、ヤケクソになった挙げ句暴挙に出たらしい。……つまり、採算・安定性を度外視した一品物のワンオフであり、最新技術を惜しみ無く投入した実験体であり、特殊な能力や要素を持つ人物しか所定の性能を発揮させられない欠陥品を製造しようとしたのだ。してしまったのだ。

 結果、施設はプロトタイプモデルが完成した時点で大赤字を出して魔王軍からハブられ、その上製造出来たプロトタイプモデルの実験体はごく少数。その実験体にも一体とはいえ逃げられて…………ハッキリ言って計画はコケた。派手にコケた。

 

 しかし、その性能は本物だ。マッドサイエンティストはとんでもない生き物を完成させてしまったのだ。

 普段は可愛らしく油断を誘える幼女のクセに、実際は地獄のどんな化獣よりも恐ろしく強いキメラを。……私自身、私の肉体にはドン引きしている。所定の性能の六割も出せていないのに、地形を変えれてしまうこの身体には。

 しかもこれがハイスペック版とはいえプロトタイプモデルだというのだ。更に改良を加えればどうなってしまうのか…………連中の正気や社会性はともかく、才能だけは本物だったのだろう。質の悪い事に。

 まぁ、魔王軍に敵対する人達にとっての朗報は、少なくとも私達が量産される事は無いという事か。既に戦艦十隻分のコストが泡と消えて居るのに、計画は大コケしたのだから。

 コンコルド効果にも限界はあるのだ。

 

 閑話休題。

 

 さて、さてさて。そんなハイスペック化け物幼女になった私の道行きは……さしたる苦労もありはしなかった。

 魔王軍の追撃も無く。その上ファンタジーな怪物や山賊に負ける様な性能もしていない私にとって、驚異なんて存在しなかったのだ。最初こそビビって……その…………チビってしまう事もあったが、一月も野山を駆け回れば自分が無敵である事が分かってしまった。それこそ魔王に遭遇するか、余程の慢心と油断をさらさない限り傷すらつかないのだ。このボディは。

 ときに化け物の首をへし折り、その肉を食らい。

 ときに迷子を装って山賊に襲われ、返り討ちにして貯め込んだ財宝を奪い。

 ときに冒険者の話を盗み聞きして情勢を確認し。

 やがて私は一つの村にたどり着く。山奥の小さい村。魔王軍のホムンクルスの本能を信じるなら……魔王にとって都合の良くない者が居る村に。

 

 ──そこで私は、自分の運命を確信した。

 

 旅の魔法使い──少女でありながら社会的な信用がある職業はこれぐらいしかなかった──を装って入り込んだ小さな村。その一角で木の剣を振っていた少年に……私は運命を感じた。

 恋、ではない。

 死だ。死を感じた。あぁ、私は彼に殺されるのだ……と。自分の運命の終わりを感じてしまった。

 

 何がそう感じさせたのかは、分からない。

 一つ確かなのは、少年が魔王を殺す者……勇者なのだろうという確かな直感。

 そして、今ならまだ勝てるが……ホンの数年で勝てなくなり、殺されるだろうという事。

 生きたいなら、まだ生きていたいなら、あの少年を殺すしかない。まだあの少年が力をつけていない、今のうちに。

 

 そうして一歩、また一歩と少年に近づいて。

 気づかれない様に気配を消して、背後からその無防備な首をへし折ってやろうと手を…………

 

「……なにしてるんだ? 少年」

 

 結局、私は殺せなかった。

 今殺さなければ、いつか私が殺されるというのに、殺せなかったのだ。……まぁ、殺すべき山賊にすらトドメをさせない私だ。罪もない子供を殺せるはずもなかった。

 

「……誰だよ。お前」

「ご挨拶どうも。見ての通り旅の魔法使いだ。……一人で剣の稽古か? 寂しい物だな」

「うるさい。仕方無いだろ、父さんも母さんも忙しいんだ」

「そうだろうよ。…………よし、少年。私が相手になってやろう」

「はぁ? なに言ってるんだ、お前」

「心配するな。私は強いぞ? そーら、ボサッとしてると……先手を取られるぞッ!」

「──ッ!? 危ないだろ!」

「避けれたんだから問題あるまい? それにこの私が相手になってやると言ってるんだ! 有り難く思うんだな!」

「コイツ!」

 

 ただ……その少年に稽古をつけたのは、ホントになんでか分からない。そんな事をすればゆくゆく自分の首を絞めるというのに、私はその少年の、勇者の師匠になってしまったのだ。

 なぜそんな事をしたのかは、分からない。

 ただ……稽古をつけていくうちに、ドンドン強くなっていく勇者に、私はこれで良いのだと思う様になっていた。

 女の身体でダラダラも生きるくらいなら、自分の育てた勇者に負ける方が楽しかろう、と。……どうにも、私は自分で思う以上にバトルジャンキーだったらしい。

 

 

 そうして────五年。

 私は幼女のままだというのに、少年は青年になり。そして────

 

「…………見事だ。流石だな。もう私に追い付いたか」

「……いえ、師匠のおかげです」

「世辞はよせ。……私の負けだ。降参だよ」

 

 私は、彼に勝てなくなっていた。

 汚い手を使って暗殺する事はまだ可能だろう。夜の情事にでも誘って油断させれば、まだ私は生きていられる。だが、そんな事をする気にはサラサラなれなかった。男に犯されるなんて吐き気がするし、ダラダラと女の身体で生きていく気にもなれないからだ。

 私は、間もなく殺される。彼が私がニンゲンではないと見抜いたその瞬間に、切って捨てられる。彼は勇者なのだから、化け物である私を殺すのは当たり前だ。

 だから…………

 

「師匠。その……旅に出ようと思うのですが」

「良いんじゃないか? 男なら旅の一つや二つ、したくなる物だ」

「それで、その……」

「あぁ、それとな。お前が旅に出るなら私も付いて行くぞ。そろそろ別の場所に行こうと思ってたところだしな」

「! ありがとうございます!」

「礼は良いさ。道中こき使ってやるから覚悟するんだな」

「はい!」

「……やれやれだ」

 

 彼の旅に同行したのも、コイツの手を煩わせない為だ。

 まだニンゲンではない事がバレない様に、社会性を気にしつつ。それでいて殺されるべきときに殺される様に。後はまぁ……弟子がヘマをしないか心配だったのもあるが。

 

「クソ生意気だったガキンチョはどこへやら、だな」

「師匠、準備終わりました」

「おう。……もう良いのか? 帰って来れかも知れんぞ」

「分かっています」

「……そうか」

 

 勇者は旅に出る。世界を救う為に家族と故郷に別れを告げて、バケモノと共に。

 目指すは聖都。教会勢力の中央だ。五年前に教会が大々的に勇者を探し、そのスポンサーになりたがってたのは聞いている。なら、最初に目指すべきはそこだろう。勇者は既に充分に強い。魔王に勝つのは不可能だろうが、仲間と共に四天王に挑むぐらいならなんとかなる程度には。故にこそ、仲間集めと装備や情報網の確保を兼ねて教会勢力をスポンサーにつけるのはアリだ。

 

 ──私の役目は、そこで終わりだろうな。

 

 聖都というぐらいだ。バケモノの擬態を暴くのは楽な物だろう。そうして私は化けの皮を剥がれて、勇者とその新しい仲間達に殺されるのだ。勇者の輝かしい実績の一つ目として。

 私に迷いは無い。

 バケモノとして、当然の末路を笑って向かい入れよう。力の限り戦って、潔く殺されよう。私は製造ナンバー217番。ニーナ・サイサリス。勇者と本気で殺し合い殺される……バトルジャンキーなところがある、元男のしがない転生者だ。

 

 ◇

 

 閑話 ニーナ・サイサリスという少女

 

 ・実験員の手記。

 

 実験──日目。

 魔王様より勅命を受け、最強の生物を生み出す事となった我々だが……早速意見が別れてしまった。

 最強の生物とはなにか? 

 ある者はパワーがある事だと言い、ある者はスピードこそ重要だと言う。そしてそれを成し遂げる為の手段すらバラバラだった。ドラゴンの交配実験や、遺跡から回収した機械文明の遺産を駆使するべきだという者まで……様々だ。このままでは試作品を作れる日がいつになるかすら分からない…………

 

 実験──日目。

 一ヶ月に渡る議論と殴り合いのすえ、目指すべき最強の姿が決まった。

 そもそも、本当に最強である必要はどこにも無かったのだ。勇者さえ、殺せるならそれでいい…………つまり、勇者を暗殺出来る存在だ。

 先ず、勇者と正面から戦って勝てる者は居ない。魔王様ですら無傷では勝てまい。だから油断させなければならない。例えば幼い子供の姿をしているなら……確実に油断させられる。女ならなおさらだ。よって姿形は幼い少女と決まった。かといって幼すぎては戦闘に支障があるので、少女の範疇に留める事となった。

 次に魔法能力と、毒だ。高い魔法能力があれば不測の事態にも対応しやすくなり、小さな身体でも高い戦闘能力を出せる。そして毒を持っているなら暗殺もしやすくなるだろう……

 つまり、幼い少女の姿をしつつ、高い魔法能力と毒を持つ存在だ。そして、これが決まった時点で使用される技術も決まった。ホムンクルスとキメラ。これしかない。

 

 実験──日目。

 失敗が続いている。少女型のホムンクルス自体は十回目には安定して作れているのだが、そこに戦闘能力を加えようとすると壊れてしまうのだ。ある程度までなら可能なのだが、一定水準を超えれない。そして勇者を殺せるだけの毒をもたせる為にキメラ化すると正気を失ってしまう。どうにも素材にした魔物の影響が出るらしい。命令を聞けないのでは暗殺者とした不適合。処分するしかなかった。

 容姿をまとめるのすら一苦労だったというのに……これでは完成はいつになるやら。

 

 実験──日目。

 魔王軍からの監査が来た。が、直ぐに帰っていった。

 どうにも実験体のホムンクルスの容姿を魔王様の御息女に寄せたのが不快だったらしい。それと死体を放置していたのも。

 あちらからすれば御息女によく似た死体が散乱していたように見えたのだろう……これは迂闊だった。恐らく予算が削られてしまうだろうが……仕方あるまい。

 

 実験──日目。

 失敗は遂に二百を超え、予算は底をついた。

 戦艦五隻分を使い切ってなお結果が出ない事に、魔王様も苛立っている。

 死を無駄にしてはならぬ、と。そんな一言と共に追加で同額の予算を頂いたが……最後通行も貰ってしまった。これが最後だと。なんとかしなければ。魔王様は甘くない。結果が出なければ我々はチリすら残らないだろう……

 

 実験──日目。

 誰かが持ち込んだ紅茶と酒を浴びる程飲み散らかしながら深夜に会議を行ったところ……採算・安定性を度外視した一品物を、最新技術を惜しみ無く投入し、特殊な能力や要素を持つ人物にしか使いこなせない様な特性を与えつつ作ってみてはどうか? という話になった。

 素晴らしい考えだ! なんで今まで思いつかなったのだろう? 今日はもう明け方になってしまったが、構うものか! 魔王様から頂いた戦艦五隻分の予算……全て注ぎ込んで作ってしまおう! 合計すると戦艦十隻分の予算がこれで消えるが……なに、成功すれば良いのだ! 

 

 実験──日目。

 製造ナンバー213番と217番が完成し、安定している。

 217番は未だに目ざめないが、213番の意識は安定している様子……使い潰すつもりで実験を行う事になった。どんな性能をみせてくれるのか、楽しみだ。

 

 実験──日目。

 駄目だ。強すぎる! 我々の手には負えない……! 

 

 実験──日目。

 213番の意識を強制的に落とし、封印処置を行った。217番にも明日同様の処置を行う。

 それと、魔王様をお呼びした。明日には来るらしい。

 我々の封印処置は完璧だ。魔王様の前で粗相をする事はあるまい。研究の成果を明日披露できると思うと楽しみだ。

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 ・とある山賊の人生転換。

 

 ホンの五年前まで山賊の頭をやってた俺の人生の転換点は二つある。

 一つは住んでた村が魔物に襲われて壊滅した事。行く宛も無く、頭も良くねぇ俺は山仕事で鍛えた腕っぷしに任せて山賊になるしか無かった事だ。まぁ、この辺じゃよくある話だな。

 だが、二つ目は……山賊になって仲間がチラホラと増え始めた頃にやってきたガキ。ニーナ・サイサリスを襲った事は普通じゃない。

 

「…………誰だね。君らは? 私は食事中なのだが……この肉はやらんぞ」

「いらねぇよ。そんな焦げ肉。つうか、こんなところにガキ……? 迷子、いや、その格好。村がやられて逃げて来たのか?」

「…………あぁ、そんなところだ。服もこのボロ布しかなくてな。で、君らは? 山賊かな?」

「く、はははっ! あぁ、俺らは山賊だ!」

「それは大変だ」

 

 余裕ふかした顔で大変な事になったというガキの言葉を、あの時の俺は強がりだと思ってた。だってそうだろう? こんなガキになにが出来るっていうんだ。簡単に捕らえれたさ。

 あぁ、ニーナの嬢ちゃんはノコノコと山奥までやってきて、俺達に囚われたんだ。……勿論、演技で。縄で手を拘束した後、アジトに連れ込んだその瞬間。ニーナの嬢ちゃんは自力で縄を引きちぎったのだから。

 

「さて、お楽しみの相談中悪いんだが……男に抱かれる趣味も、奴隷になる趣味も無くてね。迷惑料、頂かせて貰う!」

「バカな! ガキが縄を……!?」

「こんな縄なぞ、無意味!」

 

 そうやってニーナの嬢ちゃんが正体を現して、俺達がボコボコにされるまで……時間はかからなかった。

 強かった。強過ぎた。まるで人間ではないかのように。噂に聞く魔王軍の魔族とはこういう奴の事を言うんじゃないかと本気で思ったぐらいだ。

 

「さて、これで君等の生殺与奪権は私にある訳だが……」

「クソが……っ!」

「…………先ずは、有り金を全て寄越せ。命だけは助けてやろう」

 

 どちらが山賊なのか、分かったものじゃない。俺達は貯め込んだなけなしの有り金を全て奪われ、行商から奪った冒険者用の装備や衣服──魔法学院上がりの魔法使い用の奴だ──まで持っていかれた。中にはそこそこ高価な物もあったというのに。

 ポーションの類いはへし折った骨の謝罪だと置いていったが、その時の俺達には煽られている様にしか思えなかった。お前らなんぞどうとでも出来ると。今から思えばあれは素で、しかもその通りなのだが……その時の俺達には分かるはずもなく。

 

「このままで終われるか! あのガキを追うぞ!」

「でも頭、アイツ強えですぜ? またボコボコにされるんじゃ……」

「バカ野郎! どんなに強くたって寝てるときなら無防備だろうが! 寝込みを襲って首をはねちまえ!」

「おぉ……!」

 

 今から思えばアホな考えも、その時は名案に思えた。

 だって、分かる訳もないだろう? ガキにしか見えない少女が、その実凄腕の魔法戦士だなんてことは。

 

「寝込みを襲うという考えは褒めてやろう。考えはな。それを実行して、失敗した罪は重いぞ!」

 

 結果から言えば、失敗した。

 寝込みを襲って首をはねようとして……直前で目を覚まされて反撃でボコボコにされる事、二回。近寄ったのが駄目だったに違いないと弓矢を射るが避けられ、魔法の反撃でブッ飛ばされる事、三回。

 襲う度に思惑を同じくする山賊仲間がいつの間にか増え、しかし何も成果が上がらないまま──強いて言えばニーナ嬢ちゃんは手加減が上手くなった──六回目の襲撃。行く宛も無い俺達はヤケになっていた。数に任せて襲えばなんとかなると。そんな訳がないのに。

 

「──で? こんなメスガキに七回もボコボコにされた気分はどうかね? 山賊君」

 

 撃退される事、六回目。最初のやつを含めると七回目。

 二十人は居た男どもをボコボコにしたガキンチョは、呆れましたと言わんばかりにそう言ってくる。いい加減諦めろと。

 しかし、俺達としても諦めれない……というか行く宛も無く、やる事も無かった俺達はそれを勢い任せに白状し──やはり呆れられた。アホかね? と。

 

「近くに村がある。普通の村ではない様だが……なに、そこの住人になって畑仕事でもすればいいだろう」

「バカ言うな! 俺らは山賊だぞ。受け入れられる訳がねぇ!」

「バカはお前らだ。身だしなみを整えれば流れの冒険者を名乗れるだろう。頭を使いたまえよ。頭を。いきなり汚いのがゾロゾロ増えるから断られるんだ。段階を踏めばなんという事はない……私に任せておけ。交渉事は得意な方だ」

 

 後日、俺らは言われるがまま身だしなみってやつを整えて村に向かった。……嬢ちゃんの言った通り、怪しまれもしたし警戒されもしたが、山賊だと追い返される事は無かった。

 そして嬢ちゃんがそこの村長と交渉して……俺達は村の端っこに住める事になった! いったい嬢ちゃんがどんな交渉をしたのかは知らねぇ。ニーナ嬢ちゃんは魔法で畑を耕して俺達の分の畑を増やし、家を立て、後は自分達でどうにかしろと言ってきたのは覚えてる。畑が実るまでは山仕事でもしてろと。

 

 そして、そんな俺達は今じゃ冒険者崩れの農民としてそこそこ受け入れられてた。嬢ちゃんの言った通り進んで山に入って山菜や肉を確保して、時には魔物と戦っているのが良いんだろうと思う。後はガキの面倒を見たりしてるしな。特にニーナ嬢ちゃんのお気に入りのボウズ。アイツに稽古をつけやった事は多い。といっても一対一じゃ勝てねぇから、元山賊仲間を含めた多対一だが……それでも勝てないんだから、世の中は理不尽なもんだ。

 とは言っても、それも昨日終わった。嬢ちゃんとボウズが旅立ったからな。気楽なもんだ。

 

「頭ぁ。嬢ちゃんとボウズ、今頃どうしてますかね」

「頭って呼ぶなって言ってるだろうが。……まぁ、よろしくやってんじゃねぇの?」

「そうそう。ボウズは嬢ちゃんにお熱だからな! ……嬢ちゃん、全く気づいてないが」

「哀れなボウズだぜ……」

 

 嬢ちゃんはどうにも“男に抱かれる”事そのものに嫌悪感があるみたいだし、ボウズの先行きは暗い。たぶん強くなる前に男に犯されたんだろう……そういう経験した女は男に近づかれるのも嫌がるらしいからな。間違いねぇ。

 嬢ちゃんはそこまでじゃねぇみたいだが、あれはもう他の女を見繕うしかねぇと思うんだがな…………まぁ、元山賊のオッサンにはもう関係ない話だ。

 それより、最近妙に多い魔物への対処を考えねぇといけねぇ。……山賊から足を洗わせてくれた礼って訳じゃねぇが、帰ってくる場所はオッサンが守ってやらねぇとな。

 

 ・勇者から見た少女。

 

 彼女……ニーナ・サイサリス、俺の師匠と最初にあったのは一人で剣を振っていたときだ。

 他人行儀な父と母の居る場所には居づらく、しかし腹の底から湧き上がってくる使命感には勝てず、そのまま背を押されるように我流で剣を振っていたとき。背後から声をかけられたのが始まりだった。

 

「なにしてるんだ? 少年」

 

 なんだか怖い顔をしながら話しかけて来た少女に警戒したのを、良く覚えている。

 

「……誰だよ。お前」

「ご挨拶どうも。見ての通り旅の魔法使いだ。……一人で剣の稽古か? 寂しい物だな」

「うるさい。仕方無いだろ、父さんも母さんも忙しいんだ」

「そうだろうよ。…………よし、少年。私が相手になってやろう」

「はぁ? なに言ってるんだ、お前」

「心配するな。私は強いぞ? そーら、ボサッとしてると……先手を取られるぞッ!」

「──ッ!? 危ないだろ!」

「避けれたんだから問題あるまい? それにこの私が相手になってやると言ってるんだ! 有り難く思うんだな!」

「コイツ!」

 

 突然攻撃してきた少女の鋭い一撃を避けれたのは、殆ど偶然みたいなものだった。だというのに、頭に血が上ってしまった俺は実力の差なんて気にもせずに反撃して……そこからは、そこからの日々は、それまでとは何もかもが変わってしまった。

 家族と疎遠なのは相変わらず。しかし日々のどこかに師匠が居た。あれこれと忙しい中時間を作って毎日の様に俺に稽古をつけてくれた。挫けそうになったときは優しい瞳で諭す様にお前ならやれると支えてくれた。一人ぼっちで棒切れを振っていた俺を村一番の戦士にしてくれた。それらはなんらかの思惑があるのは、子供ながらに何となく分かっていたが……それでも良かった。もう一人で棒切れを振っていた俺ではないのだから。それでいい。

 ただ時々後悔する様な、懺悔する様な……まるで罪人の様な顔をしていたのだけは分からないが…………

 

 ともかく。そうして────五年。

 師匠は幼女のままだというのに、俺は少年から青年になり。そして────

 

「…………見事だ。流石だな。もう私に追い付いたか」

「……いえ、師匠のおかげです」

「世辞はよせ。……私の負けだ。降参だよ」

 

 ついに、俺は師匠に勝った。勝ってしまった。

 とはいえ、思わず叫んでしまいたくなる程の喜びは抑えなければならなかった。師匠がむにゅむにゅと百面相をした後、悲しそうにうつむくから。

 

 だから、それを打ち明けるのは本当に迷った。

 

「師匠。その……旅に出ようと思うんです」

「良いんじゃないか? 男なら旅の一つや二つ、したくなる物だ」

「それで、その……」

「あぁ、それとな。お前が旅に出るなら私も付いて行くぞ。そろそろ別の場所に行こうと思ってたところだしな」

「! ありがとうございます!」

「礼は良いさ。道中こき使ってやるから覚悟するんだな」

「はい!」

「……やれやれだ」

 

 やはりどこか悲しそうな師匠。

 いつからかハッキリ聞こえるようになった“精霊の声”に導かれて。

 

「クソ生意気だったガキンチョはどこへやら、だな」

「師匠、準備終わりました」

「おう。……もう良いのか? 帰って来れかも知れんぞ」

「分かってます」

「……そうか」

 

 勇者は旅に出る。世界

 

 

 師匠との旅は楽しかった。

 そして、俺は新しい町に到着する。精霊の声がする。“ニーナにとって良い出会いがあるよ”と──

 ◇

 

 勇者と旅を始めて、数日。最初の町についた私はいきなりつまづいていた。

 

「何? 勇者が既に居る?」

「知らなかったんですかい? 去年だったかな? 教会が発表してましたよ」

「……詳しい話を聞かせてくれ。タダとは言わない」

「おっと、こりゃどうも」

 

 情報収集をしようと昼間っからやってる酒場に勇者同伴で上がり込み、店主にチップを握らせながら聞いたところ……既に教会は勇者を確保してしまったらしい。

 勇者は私の隣にいるというのに。

 

「どうかしましたか? 師匠」

「いや、なんでも」

 

 偽物か? あるいはこの世界の勇者とは複数居るものなのか? それとも教会内部で養殖したのか? 

 店主から詳しい話を聞いてみたものの……残念ながらよく分からなかった。教会が外にあまり出さないらしいのだ。訓練中とか何とか言ってるらしいが、さて。

 

 ──時間稼ぎにデタラメを撒いたのか、あるいは養殖してるのか。

 

 どちらにせよ、そちらの勇者がうちの勇者より強いというのは考え難い。

 うちの勇者でさえ即戦力なのだから、それより強いなら既に前線に出てないとおかしいからだ。それすらないという事は……少なくとも、そういう事だろう。

 

「とはいえ、これで聖都行きは怪しくなったな……」

 

 ついでに私の計画も狂う事になる。そうため息を吐きつつ、勇者を連れて酒場を出る。どうしたものかと。

 このまま直通で聖都に行っても、教会がうちの勇者のスポンサーになってくれるか怪しくなってしまった。そんな状況で私が殺されても、その、なんだ。盛り上がらないだろう? 一世一代の大舞台。せっかくなら派手にやりたいところ……

 

 ──五年掛けたのは長すぎたか? 

 

 いや、私に負ける様では勇者は名乗れまい。前線にはプロトタイプモデルの私を超えた、次世代のフラグシップモデルが居るかも知れないのだから……五年は仕方無い時間だったはず。

 とはいえ、道行きが怪しいのも事実だ。さて、どうしたものか。

 

「師匠、悩み事ですか? 聖都がどうのと言ってますが……」

「いや、スポンサーがな。それと仲間だ」

「すぼんさーは分かりませんが……仲間というなら、あそこはどうでしょうか?」

 

 そう言って勇者君が指差すのは……ふむ、どうやら冒険者ギルドと言う奴らしい。デカデカと看板を掲げた頑丈そうな建物が目に見えた。

 あそこで仲間探しとなると華々しい道のりが遠退きそうだが、しかし、悪い手という訳でもない……

 

「行くだけ行ってみるか。私達レベルが居るとも思えんが」

「そう……でしょうか」

「そうだとも。とはいえ、斥候職辺りを専門にしている人財は欲しいな。戦闘力は二の次で構うまい」

「確かに。道中、苦戦もしませんでしたからね……」

 

 そうなのだ。

 私を確実に殺せる様に、その後に続く魔王軍との実戦にも備えて、勇者を鍛え上げたのは良いのだが……強くなり過ぎて苦戦も何も無かったのだ。むしろあちらがこちらを避ける事すらあり、私達は実戦経験を積む為にこちらから魔物を探して襲いかからなければならないほど……正直、私が死ぬまでは新しい戦力は不要なのではないかと思える始末だった。

 とはいえ、だからこそというか。斥候職が欲しい。特に夜間警戒だな。あれを分担したいのだ。寝なくても生きていけるバケモノとはいえ、夜ぐらいゆっくり寝たい。やる事もない夜間警戒は退屈だし……勇者君も慣れているとはお世辞にも言えない。かと言ってやらずに寝込みを襲われてはたまったものではないのも事実。その手の事に慣れた人物を探してパーティーに引き入れたいが……

 

「さて……ん?」

「……喧嘩ですかね?」

「入るのは遠慮した方が良さそ──」

 

 腕の良い斥候職が居ると良いのだが。そんな事を考えつつ冒険者ギルドに近づいて、気づくのは中からの喧騒だ。どうにも喧嘩をやっているらしい……そう思った瞬間。バギャッ! と。扉を粉砕しながら中から男が飛び出てきた! 人間砲弾! どうにも吹き飛ばされたらしく、泡を吹いて伸びている。

 治安が悪いな。

 

「勇者君。ギルドに行くのは後にす「こんの髭面ァ! 誰がまな板ですって!?」わぁーお……」

 

 冒険者ギルドの中から飛び出してくるなり、既に伸びている男の胸元を掴み上げて何事が叫びながらガクガクとゆするのは……金髪の少女だ。頬の辺りで短く切り揃え、あるいは結い上げた艷やかな金髪。深く被ったハンチング帽に動きやすそうな軽装。その背に背負った巨大な弓とサイドアームらしき短剣。恐らく斥候職だろう。それもそれなりに優秀な。

 

 ──ただ、短気そうではある。

 

 釣り上がったキツイ目がそう思わせるのだろうか? それとも殴り殺さんばかりに胸ぐらを掴み上げているせいだろうか。

 恐らく男が少女を馬鹿にして、少女が派手に反撃したのだろうが……南無阿弥陀仏。バケモノの私が言うのもあれだが、治安が悪過ぎる。

 

「君、止めたほうが……」

「なに? コイツの仲間!?」

「あ、いや……師匠」

「はぁ…………それ以上いけない、という事だ。殺してしまっては迷惑料を絞れ取れんぞ?」

「へ? あ、ヤバ」

 

 勇者君にまで噛み付く辺り、やはり短気らしい。そうため息を吐きつつ諌めてみれば、ようやく男を絞め殺しかけている事に気づいたらしい。パッと手が離され……既に伸びている男の頭がゴチン、と地面に叩き付けられる。

 ……死んだか? 生きてるな。ヨシ。

 

「──……またですか」

「受付のお姉さん……だって、コイツが」

「だっても何もありません。……壊した机や扉の代金、払って貰いますよ」

「うぐっ。そ、そんな事言われても持ち合わせが──」

 

 ふむ? 私が男の死亡確認をしているうちに金髪の少女……──は愉快な事になっていた。どうにも“また”喧嘩したらしい彼女は、受付のお姉さんから壊した机や扉の代金を請求されているが……当の本人にそれを払うカネは無いと見える。

 持ち合わせが無いと弁明しているし、間違いあるまい。……これは、チャンスだな? 

 

「ちょっといいか? その修理代、私が立て替えよう。幾らだね?」

「貴女は? いえ、そうですね。扉もそうですが、中で酷く暴れまわったので……金貨一枚といったところです」

「了解だ」

 

 この“チャンス”に乗っかりたいあまりホイホイ頷いてしまったが、金貨一枚はそこそこの大金だ。……この金髪少女、貴重品でも壊したのか? お転婆娘め。

 ともかく、今更退く気もない私は懐から金貨を取り出して放り投げておく。どうせあぶく銭なら使わねばと。

 

「確かに。しかし、良いのですか? ──と知り合いという訳でもなさそうですが……」

「なに、優秀な斥候を探していてな。丁度良かったんだ」

「なるほど」

 

 斥候を探している。そう聞いたのだろう少女は。

 

「ちなみに、ですが。その娘、借金がありまして」

「ほう? 幾らだね」

「金貨五枚です。全てトラブルによるものですね」

「……なるほど、問題児か」

「えぇ、どこかに引き取って欲しいぐらいの」

 

 顔を真っ赤にしてプルプル震える。

 

「……儲け話はあるかね?」

「ありますよ。塩漬けになってるのが」

「…………聞こう」

 

 ダンジョンらしい。

 

「本当は──に押し付け……いえ、頼もうと思っていたのです。しかし幾ら腕が良いとはいえ──は後衛。しかも彼女の戦い方とこのダンジョンは相性が悪く、一人では危険……ですので」

「同じくらい腕の良い前衛を探していた、と?」

「それと魔法使いか僧侶を、ですね」

「なるほど……」

 

 渡りに船という訳だ。

 

「分かった受けよう」

「助かります。……──をお願いしますね」

「それも承った」

 

 話をしよう。

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