オリジナルTS闇深勘違いモノ ボツ集   作:キヨ@ハーメルン

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 孤独な人間がよく笑う理由を、たぶん私は最もよく知っている。
 孤独な人はあまりに深く苦しんだ為に、笑いを発明しなくてはならなかったのだ。
 フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ。


魔女と呼ばれた少女 3

 

 五月 十日

 

 春も二ヶ月目がスタートして十日。私は流刑罪を受け、地獄の只中にあった。

 いや、これを地獄というのは生温いだろう。しかし……私からすれば地獄も同じだ。何せ女子の扱い方なんぞ勉強した事がない。ましてやお貴族様のお嬢様の扱い方? まだツチノコを探して飼えと言われた方がマシだ。

 おお我が保護者よ、魔法戦士よ、そんなに一方的に喋られたのが嫌だったのか? 仕方ないじゃないか。私は口数が多くて、そっちは少ないのだから。それとも前に戦闘狂扱いしたのが気に食わなかったのか? 仕方ないじゃないか。事実なのだし。

 

 いや、それともあれか? 奴がプレイボーイだから気づかなかったのか? 

 うん、あのイケメンフェイスだ。さぞ女性に言い寄られただろうしな!! 貴族令嬢の扱いだってお手の物だろうね……私は違うが!! 

 

 …………ん、今気づいた。同性じゃないか? 私。

 

 

 五月 十一日。

 

 大人連中の目論見がそうと分かれば、なるほど。確かに道理だ。

 今の私は少女の身であり、あちらもだいたい同世代の少女。身分の差を除けば上手くいかないと考える理由が無い。むしろ同性同世代なのだから、友達として上手くやれるだろう……そう考えるのが普通という物だ。

 ましてや、あちらのお嬢様が独特の雰囲気をまとう不思議ちゃんともなれば、むしろ私の様な……というより、魔法戦士の様な武芸者の紹介を受け入れたのは素晴らしい決断力だとすら言える。普通の友達──要するに貴族仲間だ──と上手くいかないなら、普通ではない奴を連れてこようと。それ自体は悪くない考えだろう。変人には変人をぶつけるんだよぉ! と言わんばかりのそれは、実際正しい。常識や慣習等の古臭い考えに縛られない切り替えは、いっそコペルニクス的転回とすら言える。

 

 私の中身が中身でなければ。

 

 我が保護者たる魔法戦士にすら──妙な心配をされたくない為に──話してないが、私は男なのだ。少女の身体に思うところは山程、それこそエレベストよりも山程あるし、実験体の身体を少女型にしようとか言い出した奴を見つけ次第、マリアナ海溝の奥底に放り込んでやりたい程度には忌々しく思っている。

 私は男なのだ。誰が何と言おうと、身体がどうであれ、それにどれだけ慣れようとも、私は男だ! その認識を変えるつもりはサラサラない。

 

 とはいえ、期待された以上は誂んでみたくなるのが人情という物。それがどれだけ困難であれ、一応道理が通っている以上は、余計に。

 そう思い立ったが吉日。早速お嬢様のご機嫌を伺おうと思ったのが……まぁ、そう上手くはいかない。放り込まれたお屋敷の本を読み漁りながら勉学を積みつつ、それとなく様子を探ってみたが、あれは、中々に根が深そうだった。

 一言で言えば人間不信。もっといえば迷子、さもなくば諦めか。一見すればただのぽわぽわした不思議ちゃんだが、その根底にあるのは相当に暗い物だと見た。

 

 見た目こそ麗しい貴族令嬢──白髪赤目のアルビノ系美少女──だが、ぼんやりと空を眺めて……二時間、全く微動だにしないのは明らかに異常だというべきだろう。

 

 あれを友情的な意味合いで攻略するくらいなら、まだフランスのマジノ線を攻略した方がマシだ。

 あちらはアルデンヌの森という──方位磁針が役立たずになる天然の迷いの森だが──迂回ルートがあるのだし。

 

 

 五月 十二日。

 

 お嬢様に挨拶する事もせず、部屋に引きこもってプレゼント作戦を考案してみたが……実行前にボツになった。

 貴族令嬢である彼女が高価な物を贈られ慣れているだろう事は明らかで、それでああなっているという事は彼女の欲しい物はそれではないという事なのだから。やるだけ無駄……いや、むしろ有象無象とのレッテルを貼られかねない分、やるだけ損まである。

 

 色々と、考えはあるのだが……ハッキリ言おう。

 暗礁に乗り上げつつある。

 

 それは分かる。分かっている! だが……解決の一手が見えないのだ。どうにもならない。

 しかし、だからといって諦める訳にもいかない。期待された以上、早々に諦めるのは格好がつかない! 私にも男のプライドというものがあるのだ。簡単に諦めたくはない。

 とはいえ、何かヒントが欲しいのも事実。日記でも読み返し……

 

 マジノ線。森。迂回ルート。……ふむ。

 

 

 五月 十四日。

 

 ドイツの技術力は世界一ィィィ! できんことはないイイィ──────ッ!! 

 

 私としたことがすっかり忘れていた。要塞というのは迂回してしまえば良いのだ。無理に攻略する必要はない。ドイツ軍がマジノ線を迂回して連合軍を叩きのめした様に(後日ダンケルクされたけど)

 そう、要塞を迂回し、その上で別の戦略目標を叩くなり、包囲するなり、外堀を埋めるなりすれば良いのだ。それこそ、徳川家康が大阪城を攻略した様に(大軍で囲んだ割りに苦戦しまくってたけど)

 

 即ち、お嬢様の正面攻略は諦め、一旦迂回。

 別の手薄な場所を攻略した上で、お嬢様の外堀を埋めて外交的勝利を得る。……これだな。

 

 やはり知識は力なり! 

 

 

 五月 十八日。

 

 ジジイが、手間かけさせやがって。( ゜д゜)、ペッ

 

 お嬢様を一旦迂回した私は、お嬢様の父上を攻略しにかかった。別に身体を売った訳じゃない。お嬢様がどうしてああなったのか? その事情背景を聞いただけだ。

 ……聞いただけなんだがな。まさか、まさか、親バカとは。

 

 私としては三行で説明してくれれば充分だったのだが、あのボケジジイ、これ幸いと聞いてない事まで話し出すのだ。あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、当たり前の様に脱線した挙げ句、止める暇もなく暴走し始めるおかげで、知りたい情報を取得し終わるまでに三日も掛かってしまった。落城まで三日か……随分硬い要塞だな? うん? 

 それともあれか? ちゃんと十七文字以内で説明しろと指定しなかったのが悪かったのか? 悪かったんだろうな……反省だ。

 

 差し当たり、あのボケジジイにはもう話を振ってやらん。

 雇用主だろうが知った事か。無視だ。無視。労働者をナメるな。革命起こすぞ。……どうしてもというなら、隠居先に自分だけ帰った我が保護者でも捕まえててくれ。私は嫌だ。

 

 

 五月 二十日。

 

 無学は神の呪いであり、知識は天にいたる翼である……かの劇作家は上手い事を言った。正にその通り。知識は力なり。蛇にそそのかされて知恵の実を食ったのは伊達じゃない! 

 

 初日に挨拶らしい挨拶が無かった──疲れてるだろうからと部屋に即刻放り込まれた──せいで、先日までお嬢様の名前すら分からなかったが、今や彼女の名前も明白。

 彼女のフルネームはレナ・G・S・フューリアス……途中略されてるじゃないか! 本名が分からんぞ……!? 

 

 名前は明白だと言ったな? アレは嘘だ。

 

 しかも面倒臭い事に、イギリス系とドイツ系の合わせ技……いや、フランス系も混ざってるのか? いや、いや、考えるだけ無駄だな。というか、私の翻訳が間違っている可能性もある。細かい事は気にするまい。

 ただ、略されてるGやSは母親や姉、あるいは親戚の名前を受け継いだ物である点は注意しなければならないだろう。

 情報提供者のジジイはボカしていたが、恐らく既に故人だからな。レナお嬢様の場合、仲の良い親族が二人死亡している訳だ。しかも安らかに大往生した訳ではなく、十中八九非業の死を遂げて。……トラウマスイッチが多すぎるぞ。地雷原か? 

 

 

 五月 二十一日。

 

 チョロいものよ。

 いや、ゴメン。全然チョロくないわ。そもそも仲良くなれたのかの判断が分からん。どこからが友達でどこまでが友達じゃないんだ? 友達の定義を教えてくれ、頼むから。

 

 というか、そもそもだ。私は人に好かれるタイプでは絶対ないし、誰かと友達になるなんてのは鼻っから不可能じゃないのか? 息を吐く様に嫌味と皮肉を言う男……今は女だが、そんな奴が話し掛けようものなら問答無用で嫌われるだろう。普通は。当初の作戦なんざ、出会って五秒でどこかに家出しやがったし。

 

 ただ、レナ嬢の反応は悪くなかった気が……ゴメン、やっぱ分からん。友達が居た記憶が無い。レナ嬢はずっと微笑んでいた様に見えたし、暫く話した後にニーナは静かなんだねって言われたんだが…………いや、あれは皮肉か? 皮肉だな。私は普通に煩いからな。皮肉かぁ……(´・ω・`)

 いやまぁ、皮肉でない可能性もあるにはあるのだ。何せレナ嬢は不思議ちゃんだからな。悪い子では無いし、頭の回りはむしろ速い気がするのだが、独自の世界観と判断基準を持っているというか…………まぁ、ともかく、あれだ。

 

 まだチャンスはある。

 天文学的確率だろうと、勝ち目がまだあるなら挑まざるを得まい。……あれが皮肉だったら? さっさと撤退するさ。というか明日はそうなるだろう。それが普通というものだ。

 

 ただ、それでも……いや、まさかな。今更何に期待してるんだ。私は。

 

 追記。

 最近、この全自動羽ペンが顔文字を出力するんだが……どういう仕組みなんだ、これは。

 

 

 五月 二十ニ日。

 

 意外な事になった。レナ嬢が今日も話を聞いてくれたのだ。しかも私にお願い事までしてきた。何でも魔法を教えて欲しいらしい。

 ふぅん? 師匠という訳だ。宜しい。

 

 待ってろよ。今すぐ、一夜漬けで教材を用意してやるからな……! (`・ω・´)

 

 

 五月 二十三日。

 

 血が欲しい。人の血が、欲しい。

 マズイな。今日のレナは一段と美しく……そして美味しそうに見えた。見えてしまった。

 

 自分が人外なのだと、自覚させられる。

 間違ってもウッカリ襲いかかる訳になるいかない。あんな良い子に、そんな事は。

 

 駄目だ。我慢出来ん。

 屋敷に隣接している林に狩りに行こう。小鳥ぐらいは居るはずだ。

 

 

 五月 二十四日。

 

 今日の私はちゃんと笑えていただろうか。

 

 

 五月 二十八日。

 

 弟子が優秀過ぎる。

 このペースで教えてたら一ヶ月もしないうちに追い抜かれかねん程だ。以前からレナの事を不思議ちゃんだと言っていたが、訂正する。あれは不思議ちゃんじゃなくて、ただの天才肌だ。天然が入っただけの天才だ。普通に頭が良いぞ。あの子。

 たまに会話が飛ぶし、平気で省略言語を放ってくるが……まぁ、あの程度は天才肌あるあるでしかない。悔しい事に。

 

 全く、あれで友達が出来ないのが解せな……いやまぁ、IQが20違うと会話が成立しないとは言われてるからな。あの子のIQを130だと仮定しても、最低110。レナが相当な無理をしない限り、大抵の人間とコミュニケーションが取れないのは確かだ。あれではお互いに嫌な思いをするのがオチだろう。

 そして何より恐ろしいのは、レナはまだ全能力を発揮していない事か。つまり、私のIQ130の見立てすら低い可能性があるのだ。レナの知能はIQ換算で140か、それ以上……余裕でメンサ会員になれるレベルだろう。少なくとも、私以上は確定だ。間違いなく。

 

 ……仕方ない。レナに頼まれていた魔法の授業を放棄する様で悪いが、今度君主論でもブチ込んでやろう。それと孫氏と、後は各種戦術理論もオマケしてやる。それでも駄目ならアニメの話も持ち出して時間稼ぎだ……! いや、まだ負けたくないというか、追い抜かれたくないのもあるんだが、そんな頭の良いレナ嬢に難しいところは教える程熟達してないからな。ちょっと、ちょっとだけ時間をね? うん、ぷりーず。

 

 まぁ、素直にハラキリした方がいい気もするけどね。

 負けましたと。

 

 

 五月 三十一日。

 

 戦場に行く事になりました。

 

 どうしてこうなった???




 王国貴族。
 王国は滅亡の危機にあった。不死王に睨まれた彼らに余力は無く。民はその日暮らしの為に命を危険に晒し……そして、それは貴族も同じだった。
 最早彼らに仕えるべき王は無く、領地は穢れ、権力は過去の産物と化し、権威は地に落ち、同胞すら信用ならない。王国の先行きは見えず、ただ暗黒だけが広がっている。

 だが、それでも、彼らは貴族である。
 ノブレス・オブリージュを掲げ、この暗い時代を民と共に生き抜き、切り開かなければならない。

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