ニッコロ・マキャベリ。
私は、君の魔女だ。
神は言いました。右の頬を殴られたら、お返しに鉛玉をブチ込んでやれと。……いや、うん、違うのは分かっているのだが、つまりそういう事だ。
殴られたら殴り返す。そうしなければ奪われるだけならば。
それは、分かっているが。
「だからって、なぜ私に……」
控え目なサイズであるらしい石造りの砦の上。見晴らしの良い場所に突っ立ている私は思わずそうボヤいてしまう。どうしてこうなったと。
いや、それも分かっている。我が保護者の代わりだ。本来ならアイツがここに立って戦うところを、アイツの子供なら出来るだろうと送り込まれたのだ。直ぐに送り込める手頃な戦力として、私が。
──出来るか出来ないかでいえば、出来る。だが、だが……!
だからといって進んでやりたがる奴が居るか! 迫り来る亡者の群れを撃退、ないし殲滅する……言うだけなら簡単だろう。だが、やる側にもなってみろ!
うじゃうじゃと列を成す亡者、つまりはゾンビやらスケルトンやらの群れに立ち向かう? 私は神話の英雄じゃないだぞ!?
そりゃ多少なり魔法は使える。使えるが、私に近接戦闘の心得は無い。もしゼロ距離の殴り合いにでもなれば瞬殺されるのが目に見えているのだ。となると射撃戦。それも一方的な、アウトレンジ攻撃で決めるしかないが……それが実現困難である事は、おびただしい戦史が示す通りだ。アウトレンジ攻撃で決着がついた戦争なんぞ、ただの一つとして存在しない。
「無理だ。遠距離攻撃だけでは、私の魔法じゃ……クソッ、死ぬぞ。皆死ぬ……!」
砦の下。あるいは外壁の上。既に配置についているのは、この砦に配属された騎士や民兵達。手に剣を、槍を、弓を手に持った彼らは私よりも前に位置している。
もし亡者の群れが砦に取り付く様な事になれば、真っ先に彼らが犠牲になるだろう。私の不手際のせいで、人が。
──そうだ、ここに居るのは私だけじゃない……!
最悪の気分だ。まだ私一人送り込まれた方が気楽まである。
ケツをまくって逃げ出したって良いし、勇敢にも討ち死にしてやるのも……まぁ、責任を感じないでいい分気楽だろう。だが、ここには人が居るのだ。人が、私以外の人が。私の不手際一つで、何十人という人が死ぬ。不手際が二つ、三つと積み重なれば…………考えたくもない。
「安全と平和を守りたければ、連中を追い返すしかない。しかないが……クソッタレ!」
責任が重すぎる!
さっき無理矢理食べたスープを吐きそうになりながら、私は身の丈程もある魔法の杖にすがって立ち尽くす。崩れ落ちない様に、前だけを見て。
そうして……どれだけ、砦の前の荒れ地を見つめていただろう? 草はハゲ上がり、死体と武器が散乱する古戦場。寒々しいそれを眺めていた私の背後で、ふと足音がする。小さな、可愛らしい足音が。
「レナか?」
レナだろうな。そんな事を思いながら振り返ってみれば、レナだった。
「怖い?」
「」
「ん」
「子供じゃないんだが……」
頭を撫でてくる
逃げろと、そういうべきだろうか?
──いや、覚悟を決めた者にそれは失礼か。
共に戦おう。
「そうせよと命じてくれ。それだけでいい」
軍団戦
亡者
不死王の魔力にあてられ、死してなお死ねずに現世を彷徨う者達。ゾンビ、スケルトン、レイス等、その種類は実に多彩だが、彼らは皆一様に生きている者の肉を好む。失ったナニカを取り戻すかの様に。
だが、忘れてはならない。一度溢れた物を元に戻すのは、簡単な事ではないのだ。