オリジナルTS闇深勘違いモノ ボツ集   作:キヨ@ハーメルン

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第二話

 予想外。全くの予想外だ。あまりに予想外過ぎて一瞬軽い頭痛がした。

 私は危なげなく剣を振るい、光の軌跡を残して生ける武器達を打ち払う少女を木陰から気配を消して窺いながら、いったいどうしたものかと思案する。何せ少女の目的が不明だ。盗賊崩れの様に魔女の宝目当てとも思えず、闇の魔女を頼るにしては……闇の魔力を感じない。それどころか少女の持つ魔力は、光の魔力。闇の魔力とは正反対のソレだ。それもかなり強力で、この森の闇の魔力を力ずくでレジストして正気を保てるレベルのモノ。恐らく人としてはトップクラスの使い手だろう。こうなってくると光の魔女に言われて闇の魔女、つまり私を殺しに来たといわれた方が納得出来るレベルに……

 

 ━━いや、まさか、ソレか?

 

 しかし師匠が言うには光の魔女の席は長らく空いており、会えば喧嘩だが殺し合いにはならない程度の関係性のはず……うん、やはりそれはないだろう。発想が飛躍し過ぎだ。

 そうなればもっと無難なところを想像すべきなのだが…………思い付かない。何せここ最近この森を訪れた人間の全てが盗賊崩れや欲に溺れた悪人ばかりで、マトモな客人なんて居なかったのだ。強いて言えば他の魔女が来る事が時たまあるにはあるが……魔女を人間と同族視するのは少々難しく、少なくとも参考には出来まい。価値観が違い過ぎるし。

 

 さてどうしたものかと再度私が思考の海に潜ろうとした、その瞬間。私が隠れている枯れ木にガッとリビングソードが突き刺さった!

 バレたのか!? まさか本当に私を殺しに!? そう内心で慌てて、こっそりとあちらの様子を窺えば……こちらに気づいた様子はない。見れば突き刺さったリビングソードも折れた残骸であり、どうやら斬り飛ばした流れ弾が当たっただけの様だ。胆が冷えた。

 しかし、このまま隠れている訳にもいくまい。見たところ今飛んで来たリビングソードが最後の生ける武器達だったようで、戦闘は終了してしまっている。少女は多少疲れているようだが、怪我の類いは見られない。強い光の魔力を持つだけでなく、私が見た通り剣の腕も確かなのだろう。……放っておけば森の深部まで来かねない相手だ。歓迎するにせよ、追い出すにせよ、早めの対応が必要だった。

 

「━━この森に何のご用かな?」

 

 対応を少しだけ悩んだ後、結局私は正面から用件を聞きに行く。ウダウダ考えても答えは出そうにないし、ならば単純明快にやるのが一番だろうと。

 悪人であれば戦闘に、客人であれば話し合いを、そう思いながら少女に問い掛ければ━━反応は劇的だった。

 

「っ! 誰ですか!?」

 

 白い少女は私が問い掛けるなり剣をこちらに向け、誰何の声を上げながらキッと睨み付けてくる。薄暗闇の中でも輝く剣。やはり、敵なのだろうか?

 向けられた剣を残念に思いながら、しかしその反応も仕方ないと納得もする。生き物の居ないはずの森で、それも戦闘直後に声を掛けられたのだ、そういう反応にもなろう。見れば少女の紅い瞳は不安に揺れており、実に気まずい。……そうだな、先ずは誰何の声に答えようか。

 

「誰、か。そう聞かれて返せるような名はないが……世間では魔女と呼ばれている」

「魔女?」

「あぁ、魔女だ」

 

 向けた剣を僅かに下ろし、白い少女は怪訝そうに一瞬顔を歪める。ピクピクと動くケモミミと合わせて見れば、こちらの真偽を探っている様にも見えた。

 

「魔王、ではなく?」

「ん? いや、魔女だ。魔王と呼ばれた事はないな」

「…………」

 

 ピクリピクリと、髪の毛と同じ雪の様に真っ白なケモミミを動かしてながら、白い少女は沈黙する。本当なのか、嘘ではないのかと疑っているのだろう。

 師匠に誓ってもいいが私は魔王ではない。確かに闇の魔女はその特殊性から魔王と呼ばれる事もあるが、最後に魔王と呼ばれたのはもう十代近く前の闇の魔女で、私も師匠もほぼ無関係だ。関わりなんて同じ闇の魔女という事ぐらい。それで魔王じゃないかと疑われても……その、なんだ、困る。

 

「……なら、なぜ貴女はこんな場所にいるのですか?」

「? ここが私の家の近くだからだが?」

「こんな場所の近くに家を?」

「あぁ、奥の方に家がある」

 

 私がそう言うなり白い少女は下がっていた剣を再度持ち直して私に向ける。その赤目に宿るは不信の感情。……なにか、不信を持たれる様な事を私は言ったか? 闇の魔女の家はここ数十代変わっていないのだが。

 

「ここは、人の住める場所ではありません」

「そうだな。おかげで静かに暮らせている」

「……もう一度聞きます。貴女は、何者ですか?」

「? 魔女だよ。この森に住み、時折ポーションを売って暮らしている魔女だ。今回は薬草を取りに足を伸ばして、戦闘音を聞いてな。何事かと思ってここまで来て……今に至るんだが━━」

「…………」

「あー……剣を下ろしてくれないか? 驚かせたのは謝ろう」

 

 先程も言った言葉を繰り返して、補足し、少女に伝えるが……白い少女の紅い瞳に宿る不信は晴れない。それどころか悪化している様にも見えた。

 

 ━━マズイ、このままでは戦闘に発展してしまう。

 

 この少女が何をしに来たのかは未だにサッパリだ。しかし悪人や欲に溺れている様には見えず、殺してしまう気にはなれない。ここは何とかして不信を払いたいが……さて。

 

「ここは、闇の森です。貴女の様な女の子が居るべき場所ではありません」

「いやいや、それを言うならキミの方だろう? 闇の魔力の精神干渉をレジストする光の魔力と、リビングソードを軽々退ける剣の腕は確かに凄まじい。だが、キミの方こそ女の子だ。どう見ても私より年下じゃないか。ここに居るべきではないのはキミの方だろう。違うのか?」

「それは、そうかも知れませんが……」

 

 へぇ、ここって外じゃ闇の森とか言われてるのかーとか思いつつ、ツッコミどころのある発言に思わず私は思った事をありのままブチ撒ける。

 いくら腕に覚えがあっても、この森は生者がいるべき場所ではないのだ。ましてやそれが年頃の、どう見ても中学生以上には見えない女の子とくれば尚更。まぁ、エルフなんかは見た目以上という事がままあるが……白い少女のもふもふケモミミは獣人の証。見た目年齢=実年齢でほぼ間違いあるまい。そう思ってそこを指摘すると白い少女は暫く口ごもった後、ポツリと溢す。

 

「私は、勇者ですから……」

 

 自分自身認めていないかのような声。その声に酷く引っ掛かりを覚えたが、私はそれよりも『勇者』という単語に気を取られずにはいられない。

 何せ勇者だ。勇気ある者、あるいは魔王を倒す者。意味合いは色々あるだろうが、この世界における勇者という単語の意味はだいたいその二つだ。師匠から聞いたのだから間違いない。そして師匠はこうも言っていた。

 

『よいか、クロ。もしお主が勇者と相対するときがあれば充分に注意せよ。……なぜか、じゃと? なに、簡単な話じゃ。闇の魔女と勇者の関係は必ずどちらかに振れるからの。殺し合う程に悪くなるか、親友、あるいは恋人といえる程に良くなるか……このどちらかに必ず振れるのじゃよ』

 

 と、そんな感じに。

 だから私はどうしても『勇者』という単語を気にせずにはいられない。そして勇者だと名乗った少女の事も。

 白い少女の言葉に嘘は……無いのだろう。剣の腕だけなら兎も角、ここまで強大な光の魔力持つ事は勇者以外では難しい。むしろ勇者だと聞いてなるほどと納得した程だ。……そして、ここに来た目的も少女が勇者ならおおよそ察せる。間違いなく闇の魔女絡みだ。となれば。

 

「なるほど、勇者だったか。ならついて来るといい。どうやらキミは客人らしいからな」

「ぇ? 客人……? ぁ━━ま、待って下さい!」

 

 私は少女に一言声をかけて身をひるがえし、家という名の屋敷へと向かう道を歩きだす。

 私が背を向けて隙を見せたせいだろう。背後でホンの一瞬だけ殺気が高まり━━しかしすぐに鎮火する。聞こえるのは剣を鞘にしまう音。

 どうやらこの勇者ちゃんは優しい気質らしい。あるいは騎士道精神か。どちらにせよ、少女が私に斬りかからなかったのはお互いにとって幸運だったのだろう。少なくとも、私はあの光の軌跡を残す程に鋭く、素早く、そして流れる様な剣技を受けたくはない。間違いなく死ねるからな。

 

「待って、待って下さい! 私が客人というのはどういう事ですか? そもそも貴女はいったい……」

「そのままの意味だよ。キミが勇者であるなら十中八九私の客人だ。それ以上でもそれ以下でもない。そして私が何者かという質問の答えは今まで通りだ。……それとも、信じれないか?」

「それは……」

 

 私が歩幅を合わせた事で、隣合う様に歩く形になった白い少女は考え込む様に沈黙する。恐らく、その頭の中では色々な考えが渦巻いているのだろう。ポイントになる点は勇者、魔王、魔女、死の森と幾つかあるが……どう考えてもロクな話ではない。前世の私なら『取り敢えずセーブしよう』ぐらいは考える話だ。というかそもそも勇者が闇の魔女の勢力圏内に来る事自体が異例なのだし、まず間違いなく穏やかな話にはならないだろう。

 だが、今の勇者は敵でなく客人だ。であるならば歓迎し、もてなさなければなるまい。……決してマトモな人の訪れに歓喜して浮き足だっている訳では無い。無いったら無い。

 

 ━━それに……勇者との関係がどちらかに振れるのなら、殺し合いより仲良くなりたいし。

 

 チラリと横合いにいる白い少女勇者を見る。

 肩口まで伸びた雪の様に真っ白な髪、そこから見える同じく純白のピンッとしたケモミミ。戦士のものとは思えない綺麗な白い肌に、それを覆うドレス染みた魔法の衣と最低限の鎧を組み合わせたバトルドレス。そして今は深く思考に沈んでいる紅く輝く瞳……ハッキリ言おう。可愛らしく、それでいて美しい少女だ。勇者よりもお姫様の方が似合うだろう白い少女。そんな彼女と殺し合い? ごめんこうむる。そんな事をするぐらいなら僅かな身長差をフルに生かし、膝の上に乗せて撫で回す方が遥かに有意義だろう。

 とはいえ、このままでは十中八九殺し合いに発展する。何せ彼女は私にこう言った『魔王、ではなく?』と、これは要するに魔王を探しているという事。そして勇者が魔王を探してやる事なんて一つで、悪い事に歴代の闇の魔女の中には魔王と呼ばれた者がいる……後は、もうお察しだ。白い少女が私を魔王だと判断すれば、些細な事で殺し合いが始まるだろう。それだけはなんとしても阻止したい。

 

 ━━まぁ、私は魔王ではないし、悪事を成した覚えもない。すぐに疑いは解けるだろう。

 

 そう考えつつ、ふと思うのはなぜ勇者が魔王を探しているのか? という疑問。

 師匠の話では勇者は常に一人は居るもので、時代が必要としたり代替わりのときは二、三人居ることもあるらしい。だが魔王は違う。常に居るものでは無い。だから彼ら勇者が魔王を倒す事を目的とする事はあまりないらしいのだが……白い少女は魔王を探している。普通に考えれば魔王が出たという事なのだろうし、その拠点候補としてこの陰鬱な森を調べに来たという事なのかも知れないが…………何か引っ掛かる。見落とし、というよりは……何かのピースが欠けている様な━━

 

「あの……」

「ん? 何か?」

「貴女は魔女、なのですよね?」

「そうだな。魔女だ」

「それはつまり、あの火の魔女の様な?」

 

 火の魔女。

 そう聞かれて思い出すのは師匠の親友であり、また私の友人でもある燃える様な赤い髪の少女の姿だ。常に強気で、自信に満ち、一国を治めている女王としての側面も持つ偉大な魔女。最近は国がスチームパンクになってきて扱いに難儀しているとか言っていたな。

 それで、あの赤い少女と私が同列? それは……

 

「少し違うな。確かに同じ魔女ではあるが、あの人の様に国を治めている訳でもないし、偉大でもない。私は火の魔女より格下だよ」

「……なるほど。でも、同じ魔女ではある」

「決して同列視は出来ないがな」

 

 思わず苦笑いを溢しながら答える私。その答えが良かったのか、それとも深く考えた結果なのか、白い少女から警戒心が大きく削れているのが見て取れた。どうやら私が魔女だというのを信じてくれるらしい。……ただ、それでも警戒心はまだ残っているのか、少女の魔力はいつでも戦闘状態に持っていける様になっているのが感じ取れる。まだ、足りないか━━っと、あれは。

 

「すまない、もう少しこっちに寄ってくれ」

「……なぜですか?」

「いいから」

 

 白い少女の手を取り、それなりに空いていた距離を無理やり詰める。そんな私に彼女はピクリと剣を抜こうとしたが、私の視線の先にあるものに気づいたのか、その手を止めた。

 

「あれは、リビングウェポン……鎧まで居る。でも、襲ってこない……?」

「私が居るからな。目が無く耳も無く、魔力の波で相手を識別してる奴らは、似たような魔力を持つ私を仲間だと間違えているんだよ。私の近くにいる貴女ごとな」

「似たような、魔力。あれらと? 貴女が?」

 

 信じられない。そう言わんばかりの白い少女を横目に、生ける武器達の側を通り抜ける。十歩、二十歩と足を進め、私は少女の手を離す。チラリと紅い瞳を覗けば、そこにあるのは消えかけたはずの疑念。

 まぁ、今のは言い方が悪かったな。まるで私とあれら生ける武器達が同じだーみたいな言い方だし。とはいえ、あぁとしか言いようがないけど……補足するならば。

 

「私は当代の闇の魔女だから、な」

 

 師匠譲りのドヤ顔を決めつつそう言ってのけた私に、白い少女は疑問の表情を返してくる。

 ……あぁ、なるほど。どうやら話し合いよりも先に、お互いの常識を擦り合わせなければならないようだ。

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