オリジナルTS闇深勘違いモノ ボツ集   作:キヨ@ハーメルン

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第三話

「聞いた事がありません」

 

 私がドヤ顔を決めて数分後。白い少女と私は屋敷の応接室で相対するように座っていた。話している内容は━━白い少女が妙な覚悟と共に━━屋敷に入る前から殆んど変わっていない。闇の魔女についてだ。

 

「本当に? 聞いた事がないのか? 世界の守護者たる闇の魔女も、それを補佐する光の魔女も?」

「はい。闇の魔女も、光の魔女も初耳です。世界の守護者云々も。火の魔女や土の魔女の話は聞いた事がありますが……」

「そうか……」

 

 警戒心を奥底にしまった白い少女の言葉に、私はガックリと肩を落とす。あぁ、認める他ない。彼女は知らなかったのだ。闇の魔女も、光の魔女も。いや、魔女という存在自体に関する知識が希薄だった。森で火の魔女を例に出したのもかろうじて知っていたから……それも現代でいえば『あぁ、なんかよくテレビに出てる人ね』ぐらいの感覚だ。これでは私が魔女と言っても信じず、むしろ魔王ではないかと疑うのも仕方ない。

 私は自分で入れた紅茶をカップから機嫌悪く飲みながら、どうしたものかと思案する。……そうだな。差し当たり、少女がここに来た目的を確認しよう。

 

「確認するが、貴女がここに来た理由は上の人間から魔王が居ると聞かされ、それを倒す為に来た……これで間違いないな?」

「はい。あの人達からここには魔王か、それに準ずる悪魔がいるに違いないと。これを討ち果たし、奪われた財を取り戻せと。森の入り口を見て話に間違いはないのだろうと、そう思ったのですが……」

「あぁ、うん、あれはなぁ……」

 

 少女の目的はオーソドックスなソレだった。魔王を倒す、それだけ。その為に怪しい場所に上の指示で突撃しているらしい。

 その点この森は確かに怪しい。薄暗く、陰鬱で、人を潰す程の闇の魔力が渦巻くここは、邪悪な魔王がいても違和感はない。更に彼女は森の外縁部にある、死体が転がる古戦場モドキを見て確信を深めてしまったらしい。ここには魔王か、少なくとも悪魔がいると。……うん、これは仕方ない。私でもアレを見ればそう判断するだろうから。

 そして、それら怪しげな事実が私への不信に繋がっているらしい。

 

「いえ。制御出来るような物ではないと思うので、仕方ないかと。……怪しくは、ありますが」

「まぁ、な」

 

 冗談か、それとも本気なのか、白い少女の咎める様なジト目に私は軽く肩をすくめて答えとする。

 声の調子を聞くに、どうやら彼女は私が何者かについては本格的に保留する事にしたらしい。魔王ではない。しかし闇の魔女は聞いた事がない。悪人ではない。しかし怪しい。……そんな感じだろうか? なんにせよ助かった。殺し合いなんて野蛮な事はしたくないからな。

 

「否定、しないのですね」

「怪しいのは自覚があるんだよ。闇の魔女だからな。司る属性の関係上、どうしても怪しさは出てしまう。だからこそ、闇の魔女だといえば納得してくれると思ったのだが……」

「すみません。聞いた事がないので」

「…………」

 

 数年引き込もっていた自覚はある。だからといってここまで知名度が下がるなんて誰が予測出来ようか? 一応最寄りの町ではそれなりに名が通っているのだが……遠方では既に廃れた名らしい。

 今後はもう少し外での活動を増やそう。そう思いながら私はお茶請けとして出した焼き菓子を噛み砕く。別に不機嫌ではない。あぁ違うとも。

 

「それで?」

「えっ、と……?」

「食わないのか? こいつは火の国で人気のクッキーらしいぞ。不味くはない。むしろ火の魔女が自慢するだけある品だとおもう。…………あぁ、毒は入ってない。見れば分かるだろう?」

 

 私だけがバリバリと噛み砕くばかりでは気まずいので、茶も飲まない勇者に菓子を進めておく。勿論毒なんざいれてない。誰がするか。

 しかし……そう思っているのは私だけなのか、白い少女の赤い瞳には躊躇がありありと浮かんでいる。なんだ、彼女の中では私は由緒ある闇の魔女ではなく、怪しい小娘のままなのか? だとしたら実にショックな話だ。泣けてくるね。

 

「お茶の方もだ。入れ方は兎も角、使っている葉は火の魔女が持ってきた奴だから良いやつのはずだぞ? ……それとも、紅茶と焼き菓子は苦手か?」

「いえ……頂きます」

 

 私の絵踏みを強要するがごときゴリ押しに負けたのか、白い少女は恐る恐る焼き菓子に手を伸ばす。一枚のクッキーをゆっくりつまみ、そのままと口へ運んで━━花が咲く。

 余程美味しかったのか、白い少女は懸念も疑念も一瞬で放り投げて満面の笑みを浮かべたのだ。それは一瞬の事であったが……我慢しきれないとばかりに二枚目を、あるいは紅茶を飲む度に花が咲いていく。うん、喜んでくれているようで何より。心なしかこちらのクッキーも先程よりも甘く感じれて更に良しだ。

 

「さ、て……それで、魔王の事だが」

「んっ、あ、ふぁい」

「いや、食べながらで良いぞ。うん」

「……いえ、大丈夫です」

 

 少女がつまんだクッキーを口に放り込もうとするタイミングで魔王についての話題を口に出したのだが……狙い通りというべきか、少女はクッキーを噛み砕けないまま返事を返して来た。

 それに笑みを返したのが悪かったのか、からかったのがバレたのか、白い少女はクッキーに伸ばしていた手を止めてしまう。どうやら真面目な子らしい。目線はクッキーに釘付けだが。

 

「そうか? では……んぐ。ふぇ、だ。私は魔王は知らない。そちらが信じるかどうかは別だが、それだけは確かだ」

「はい」

「だが、それで納得して帰れる訳でもないだろう? だから私から一つ、ちょっとした提案がある」

「はい」

「……睨むぐらいなら食べたらどうだ? 旨いぞ?」

「は……いえ、大丈夫です」

 

 クッキーを二、三噛み砕きつつ話をしてみれば、少女の目線は無情にも噛み砕かれるクッキーにしかいっておらず、心ここにあらずだった。ひょっとしなくてもお腹が空いているのかも知れない。さっさと信頼を勝ち取って何か奢って上げよう。

 

「話は簡単だ。私を連れて最寄りの町に行ってみないか? それで私が嘘を言ってるかどうか、ハッキリするだろう。それにあそこは火の国とも繋がる交易都市。人と物が集まり流れ、情報も手に入り易い。行ってみる価値はあると思うぞ。それとも、既に行った後かな?」

「交易都市……アルトですね? いえ、ここに来るときはアルトは経由しなかったので行っていません」

「なら調度良いな。出発しよう。私もあの町に用事があったんだ。……なに、私が妙な真似をすれば斬ればいい。違うか?」

「それは、そうですが……」

 

 一気に話を拍子に進めすぎたのか、少女のすんだ紅い目には困惑と何かに対する躊躇があった。ピンッと立っていたケモミミもペタンと元気が無い。とはいえ天秤は傾いている……最後の一押しと行こう。

 

「あぁ、そういえばあの町には最近線路がひかれてな。火の国と繋がっている。今ならこのクッキーも売られているはずだ」

「これが売られ……いえ、せんろ、ですか?」

「なんだ、線路を知らないのか? ならなおの事見ておいた方が良い。あそこだけファンタジーじゃなく、スチームパンクしてるからな。良い経験になるだろう。……それと、クッキーは土産物だ。買っておくのは悪くないと思うぞ」

「なるほど……」

 

 伏せていたケモミミを立ててピクピクと動かしながら、白い少女なにやら考え込む様子を見せる。私からすれば迷う事はないとおもうのだが、闇の魔女という世捨て人同然の身からは想像できない様々な葛藤が勇者にはあるのだろう。たぶん。

 そう思いつつ机の上のお茶請けを見れば、残ったクッキーは一つ。よし、トドメだ。

 

「私は荷物を取ってくる。町についてくるか、この場で私を殺すか……どちらにせよ、準備しておくといい。あぁ、これは貰っていくぞ」

「ぁ……」

 

 絶望。そうとしか言い様のないハイライト消えた目で私を……正確には最後のクッキーが消えた口元を見る白い少女。私はケモミミを伏せてションボリと消沈している彼女に背を向け、ポーションを回収しに調合室へと向かう。当然というべきか、部屋を出るまでに斬りかかってくる様子は見られない。

 

「……あの様子なら、殺される理由はクッキーの恨みだな」

 

 そうポツリと独り言を呟き、笑えないと肩をすくめる。

 とはいえ、実際そうだろう。屋敷に入る前には半信半疑、入ってもてなしを受け、クッキーを食べてからは━━あそこまで食い付くのは予想外だったが━━信じたい方に天秤は傾いているのだ。悪い人ではないだろう、と。それこそ見て取れる程に。ならば殺される云々は心配しなくていいはず。いや、むしろ……

 

「逆の関係を期待できる……か?」

 

 師匠の話を信じるに勇者との関係は両極端のそれしかあり得ない。殺し合いにならないのであれば、私と彼女の関係は恋人か親友のそれになるはずだ。

 

「……恋人」

 

 ふと口にして思う。悪くはない。いや、むしろ良いと。あの可愛らしくも美しい少女が私の恋人になるのであれば、私は全てを捧げれるだろう。その代わりではないが……あのモフモフケモミミをモフるのもは面白そうだし、あの分なら尻尾も相当に素晴らしいはず。雪の様に白い少女を連れて町を歩く事を想像すれば……ふふっ、それだけで丸一日楽に潰せる自信が出て来る。更にその先を考えようものなら━━くふふっ、一週間断食出来るぜ。

 しかし、しかしだ。今の私は魔女……つまりは女だ。野郎ではない。ならばあの白い少女との関係は━━

 

「親友か」

 

 ふむ、それも悪くない。親友なんて前世含めてもいないから距離感が分からないが、ケモミミモフったり、一緒に過ごすくらいあるだろう。あるいはたわいのない話でもするのか。……うむ、うむ、悪くない。

 師匠が闇に還ってしまってからというもの、独り言が癖になる程度には話相手にも困っていたのだ。彼女にはたっぷりと付き合って貰おう。

 

「どちらにせよ、楽しみだ」

 

 そうなる瞬間はまだまだ先だが、しかしそう遠くはあるまい。

 そんな事を考えつつ、調合室からポーション箱を魔法のベルトポーチに丸ごと突っ込んで回収し、白い少女が思い悩んで居るだろう応接室まで引き返す。

 特に警戒する事もなく扉を開け、白い少女を探してみれば……私が部屋から出た瞬間から微塵も動いて無いように見えた。そんなに食われたのがショックだったのか? まぁ、兎も角。

 

「準備は出来たか?」

「はい。大丈夫です」

 

 前置き無しに声を掛けてみればどちらとも取れる返事が返ってくる。出会った当初の敵意がすっかり消えている様子を見れば、どちらの大丈夫なのかは簡単に分かる話だが……少し試してみようか?

 

「ほう? それは私を殺す覚悟が大丈夫という事かな?」

「え? ぁ、い、今のは違うんです。そうじゃなくて……」

「くふふ……あぁ、分かってるよ。行こうか」

 

 グルグルと目とケモミミを回す白い少女に苦笑を漏らしつつ、その困惑しきりの様子にやはり天秤は傾いていると確信する。この調子で町まで行って楽しんでくれば、それで彼女が私を疑う事は金輪際二度と無くなるだろう。

 

 ━━そしてそこから始まるのは……くふふっ、んー楽しみだ。

 

 大きな期待に無い胸を膨らませつつ、私は白い少女を連れて部屋を後にしようとする。が、その前に少女が私におずおずと声を掛けてきた。

 

「あの。一つ、良いですか?」

「ん? 何だ、町行きはキャンセルか?」

「いえ、それは楽し……ついていきますが、そうではなく」

 

 殆んど口に出してんじゃん。何というポンコツ。礼儀正しく、落ち着いた子だと思っていたんだが……イメージの修正が必要か? 華麗に剣を振るっていたときの印象が強すぎたからなぁ。

 そんな風に思っていると、白い少女は一拍おいて疑問を口にする。

 

「貴女の名前を、知りたいんです」

 

 ふむ? これはどう取ったものか。いや、どう取るもなにもそのままの意味で、意訳するなら仲良くなりたいとかそういう事なのだろうが……困ったな。

 

「あー、言わなかったか?」

「いえ、闇の魔女だとしか」

「うん、それ」

「?」

「それが名前だよ」

「? ……え?」

 

 紅い瞳を大きく目開き、言われた意味が分からないと言わんばかりの少女。

 まぁ、仕方ないだろう。私も師匠に名前を聞いたときは同じ反応だったのだし。そう、確かあのとき師匠は……

 

「闇の魔女が名前を持っては闇の魔女でいられなくなるし、ときには崩壊を招く弱点にもなる。だから闇の魔女は代々名無しだ。闇の魔女は常に一人しかいないから、それでも今まで困らなかったしな。……まぁ、愛称ぐらいはあるが」

「名無し……」

 

 これといって形の無い『闇』を統括する闇の魔女は、闇と限りなく近くなければならない。故に形を決めうる『名前』を持ってはならないし、真名などもっての他……そんな話だったか。懐かしい話だ。

 

『あるいは、名前を持たないことによって自我を希薄にし、闇や別れへの恐怖を抑えようとしているのかも知れんな。……まぁ、わしやお主には関係ない事じゃが。なぁ、クロ?』

 

 全く、もう十年は前だというのに昨日の事の様に思い出せる。

 あぁ、思えばネーミングセンスが壊滅的な師匠だった。おかげでくすぐったい愛称を呼ばれたのはだいぶ前だよ……師匠。

 

「……まぁ、そんな訳で私を呼ぶときは単に魔女と呼べばいい。それで通じる。あぁそれと、町の人達からは魔女様とか呼ばれていたな。参考にしてくれ」

「魔女、様……」

 

 ポツリと小さく呟き、一人頷く白い少女。どうやら様付けの方がしっくりきた様子だ。あぁ、そういえば……

 

「私の名前はそんなものだが、貴女にはちゃんとあるのだろう? よければ、聞いても?」

「はい。私の名前はティーナ・アドリフ。ティーナと呼んでくれれば」

「ティーナ。良い名だな」

「えっと、有り難うございます」

 

 白い少女の名前はティーナ・アドリフ。ティーナと呼んで良し。うん、覚えた。……では、さっそく。

 

「では、行こうか。ティーナ?」

「はい。大丈夫です」

 

 私はティーナを連れて屋敷を出る。向かうは最寄りの町、交易都市アルト。

 心なしいつもと違う森の魔力を感じつつ、私はティーナを側に連れて歩みを進めのだった。

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