勇者であるティーナが冷遇され、事によれば鉱山のカナリアの様に使われている可能性……いや、可能性ではなく殆んど確定だ。思えばクッキーにご執心だったのも、一度も食べたことが無かったからかも知れない。
「だとしたら悪い事をしたな……」
まぁ、その辺りの埋め合わせは後程確りとしよう。
問題はティーナが冷遇されている事、そしてその背景だ。このうち背景にある問題は大きいので、そうそうなんともならんが……冷遇云々は早速介入しよう。差し当たり。
「あぁ、支配人。終わったか?」
「えぇ、既に。奥で休んでいらっしゃいます」
薬屋から服屋へと戻った私は、入り口のホールに居た支配人を捕まえて話を聞く。どうやら既に着せ替えはすんだらしい。いったいどんな具合になったのか? そう楽しみにしつつ歩を進めようとすると、支配人は神妙な顔つきになって私を呼び止める。全く、何のようだ?
「魔女様、失礼ですがあの少女は何者です?」
「? 勇者だ。それがどうかしたのか?」
「……勇者? いえ、いえいえ、魔女様。それは無いでしょう。勇者にしては装備がお粗末に過ぎます」
「……お前もか、支配人」
その手の話は薬屋でもうお腹一杯だ。なのにまだこの上何かあるのか? だとしたら私は吐くぞ。吐いてやるからな!? この場で!
「はい?」
「いや、なんでもない。続けてくれ」
しかし、たとえ気分の悪さから吐く事になっても聞かねばなるまい。流石にあの少女を見捨てる程腐ってはいないし……人の悪感情絡みならば闇の魔女は一応、専門家で関係者だからな。
「はい。あの少女のバトルドレスを仕立て直そうとしたのですが……あれは仕立て直すよりも新調した方が良いかと」
「と、いうと?」
「服、鎧、術式。それら全てに疲労が蓄積されており、今仕立て直しても直ぐに取り換える事になるかと思います。恐らく作られてたから一度もマトモな整備を受けていないのでしょう。外面は最低限取り付くっていたようですが、中身はボロボロですよ。防具としては既に、服としても役立たず寸前です」
「そんなにか……」
彼もプロだ。残念だが、その言葉に間違いはないだろう。
しかし、服がそこまで酷いとなるとそれが使われていた状況は……いや、やめよう。ロクな想像じゃない。
「鎧は専門外ですので詳しくは分かりませんが、服と術式は間違いなくボロボロです。酷使、という言葉でも足りない程に使い古されている」
「……まるで過酷な戦場で一番槍を取り続けたが如く、か?」
「そうですね。その表現がしっくりきます。付け加えるなら、使い捨て同然の状況で、が付きますが」
「…………」
参ったな。これは本格的に参った。私は少し話し相手になってくれればそれで満足だったのに、念願の相手がとんでもない爆弾を背負い込んでいるとは……いや、見捨てるつもりなんてない。ないが……どうしたものか。
ふむ、差し当たり。
「バトルドレスは新調する。デザイン、性能、コスト、全てそちらに任せよう。追加の金も出す。いかなる戦場でも傷付かず、輝き続けるドレスを作れ。期限は……一週間あればいいか?」
「かしこまりました。えぇ、それで問題ありません。必ずや仕上げて見せましょう」
「頼んだぞ。……あぁ、手を貸して欲しければ早々にな?」
私はそう言って後ろ手を振りながら支配人の元を後にする。チラリと背後を見れば、足早に店を出ていく支配人の姿が見えた。バトルドレスの鎧部分の調達に走ったのだろう。
それを確認して私は軽く笑みをこぼしつつ、ティーナが休んでいるという部屋に向かう。勿論詳しい場所なんて知らないから従業員に聞きつつだったが……直ぐに到着した。
「入るぞ」
私は立派な扉を開けつつそう言って、ティーナが休んでいるという部屋の中に踏み込む。
さて、件の着飾ったティーナはいずこに? そう視線を回せば……居た。ティーナだ。
「魔女、様……」
「これはこれは……くくっ、まるで深窓の令嬢だな。ティーナ?」
「……ぇ?」
上品な白のブラウスに、同じく白のロングスカート。所々に黒い線やワンポイトがあしらわれたそれらは見る者に柔らかい印象を与え、着ている人物を穏やかに演出していた。更にスカートの方は獣人用にキチッと仕立てられたものらしく、お尻の辺りから純白のモフモフ尻尾が顔を覗かせている。今は緊張しているのかピンッと立っているが、時期を置けばゆらりゆらりと揺れるケモ尻尾が見れる事だろう。
あぁ、バトルドレスに身を包んでいた頃は勇ましさがあってそれも良かったが、今のティーナはまさしく深窓の令嬢。恥ずかしそうな様子と合わせて、保護欲がくすぐられて仕方ない。守らねば……だが、今は。
「鎧を着ていた頃から綺麗だと思っていたが……店員は良い仕事をしたな。よく似合っている」
「えっと……そう、でしょうか?」
「そうだとも。実に可憐だ。新雪の様な美しさと例えれば良いか? ティーナの魅力が一層引き出されている。何よりケモ尻尾が良い。やはり獣人は尻尾とミミ出してこそだな。可愛いよ」
「ぁ、ぅ……ぅぅ」
頬を赤く染め、唸る様な声を出しつつ小さくなってしまったティーナ。そんな白い少女を見つつ私は自分の口に関心していた。台詞は師匠を参考にしたとはいえ、ここまで回るとは思わなかったのだ。コミュ症疑惑は杞憂だったな。
まぁ、おかげでティーナをいじめ過ぎてしまったが。やはりというか、褒められ慣れてないらしい。女性勇者ともなればこの手の台詞は腐る程聞いているのが普通なのだがなぁ……薬屋の心配は当たりで間違いないか。全く嬉しくない。
「変じゃないのですか……?」
「全く。なんだ、褒められ足りないのか?」
「い、いえ! ただ、その、こういう服は着たことがないので。それに、耳と尻尾も……」
「ふむ……なら、外に出てみるか」
「外、ですか?」
意味を掴みかねたのかコテンと小首を傾げるティーナに苦笑を返しつつ、私は彼女に先んじて部屋を出る。自信がないのなら付ければ良い。それも大きい舞台で。幸いにも役者に不備はないのだから。
そんな思惑を巡らせつつ店を歩いていれば、後ろからティーナが追い掛けて来る。無視される可能性もあったのだが、杞憂だったな。
私達は並んで服屋出て、町を歩く。目指すは町の端の方に新設された駅。スタスタと迷いなく歩を進めつつ、時折ティーナの様子も伺う。新しいヒラヒラとした服が頼りないのか、慣れてないのか、あるいはアルトの古い町並みが物珍しいのか、落ち着かない様子だ。
「物珍しいか? ティーナ?」
「はい。こういう町並みは初めて見たので」
「アルトは古い町だからな。……しかし、光の国は? 勇者ならあそこは見たことがあるだろう?」
「いえ、あの町に行ったのは一回だけで……それにずっと馬車の中でしたから。少しだけ見た町並みもこことは違ったので、その、なんというか……不思議で」
「……なるほど」
このアルトの町並みは中世ヨーロッパのソレよりも明治や大正の木造日本建築に近く、あちこちにある黒を基調とした独特な意匠や、水道橋等の古代ローマの波動もあって他の町とは違う所が多い。ましてや師匠の代、そして私の代になってより強く火の国の影響を強く受けたせいか、中世ヨーロッパのソレが更に薄れ、完全に明治や大正の日本みたいになってるところもある。
なのでこの手の町並みが初めてなのも仕方あるまい。テカテカ光る事しか脳の無い━━と師匠が言っていた━━光の国の町並みとは訳が違うだろうし。不思議に感じるのは当たり前だ。
「なら、楽しむといい。今から行く駅に近づけば近づく程、町並みは変わっていくからな」
「そうなのですか?」
「あぁ。入ってきた門の辺りが一番古く、これから行く駅周辺が一番新しい。両者が作られた時間は全く異なるからな……例えば、この辺りは百だか二百年前だかに作られた部分らしい。ほら、向こうと、あっちの城壁。不自然に曲がっているだろう? 一度壊れたんだよ。で、それをこれ幸いと増築したのがこの部分だ。その証拠に頭上に水道橋が走ってるだろう? ここが昔城壁だった名残だよ」
「なるほど、百年以上前に……」
この街は最初は上から見ると丸い円形をしていたのだが、今ではイビツな楕円形だ。もっとも、重要な都市機能は最初の円の中にあり、増築した部分にあるのは住宅街と大通りぐらい。更にいえば水道橋は昔の位置のままなのだが……っと。そろそろ指摘するか。
以降の執筆は未定となっています。
コンテストが片付いたら書く……はず。