暗殺者モノ
暗殺者、あるいはアサシン。もしくは殺し屋。
そう呼ばれる彼ら彼女らの仕事は至ってシンプルだ。依頼された対象を殺す。それだけ。
にも関わらず……あるいはそれ故に、というべきか。彼ら彼女らは基本的に悪であり、闇の存在である。打ち倒されるべき、居なくなるべき存在だ。
しかし、不思議な事に。あるいは愚かしい事に。暗殺者は人気者でもある。仕事に困る事が無いのだ。
誰だって一度は思う事だろう。アイツ死ねば良いのに、と。職場や学校で殺意を覚えるのは珍しい事ではなく、場合によっては肉親ですら殺してやりたいと思う事はある。
だが、実際には殺さない。可哀想だから、とか。そこまでする必要は、とか。そういう理由で思いとどまる物だからだ。
……だが、もし自分の手を汚さなくていいのなら? 誰かが変わりに殺してくれるなら? それなら、幾らかのカネを払っても良い。そういうヤツも居るだろう。
特に、カネを余らしている権力者なら……暗殺者を頼りたくなるシーンは多い。実に多い。敵対勢力の権力者を消して欲しいとか、その程度なら考えなくても簡単に思いつくレベルで。
――ましてや、デジタル監視社会と化した二十一世紀の地球ならともかく、中世程度の文明しか持たないファンタジー世界なら……なおさらだ。
それはもう、暗殺を専門に行う者達が居るレベルで暗殺者は人気がある。油断を誘える幼い少女を人造的に生み出し、暗殺者に仕立て上げないといけないレベルで人気がある。中世程度のモラルと文明しかなく、しかも神秘と魔法が溢れるこの世界では……命の値段は簡単に大暴落を起こすのだ。
たった今、私の足元で冥府に旅立った貴族の様に。
「仕事、終わり……」
ブクブクと肥え太った貴族が確実に死んでいる事を確認し、私は手近にあったソファーへと座り込む。簡単な仕事だったと息を吐きながら。
時刻は深夜。魔法を使って屋敷へ侵入し、寝ているターゲットの首を裂く。……実に、簡単な仕事だった。報酬が少ないのも仕方ないレベルで。
「貴方の値段、銅貨一枚かな? それとも銀貨十枚?」
ひょっとしたら金貨百枚かもね。そんな幼さを残す少女の声が、死体へと向けられる。当然返事は無い。ロリっ娘が喋りかけているのに返答しないとは……ロリコンでは無かったのか? もう聞きようも無いが。
「知ってる? 貴方が死んでも、私には銀貨一枚だって来ないんだよ? 酷いよね。組織の連中は金貨貰ってるクセにさ。このソファーだって金貨一枚の値段はあるのに……貴方の値段はそれ以下なんだよ?」
大暴落だよ。大暴落。リーマンショックだ。
そう銅貨数枚が欲しい下請け暗殺者に殺された死体に語り掛け、私はもう一度ため息を吐く。この貴族とて年収金貨数千枚の男だったろうに……この世界は命の値段が軽すぎる。
――まぁ、私も銀貨数枚の価値しかないからね。
少女型のホムンクルス、その一体当たりの値段は割と安い。ましてその技術に精通していればいる程安くなる。
現に最近ではさらなる大量生産化に成功し、一体当たりの値段は銅貨数枚にまでコストダウンしたと聞く。……それが良いことだとは、とても思えないが。
「日本円で幾らぐらいかなぁ……」
学生バイトの代金で買えてしまう値段な気がする。
そう内心で嘆息しつつ、私は死んだ貴族が使っていたらしい大きな鏡に自分の身体を映す。年頃は中学生未満。ちんちくりんといわれても仕方ない子供がそこに居て……しかし、被っていた黒いフードを脱いだ瞬間。パッ、と。白い輝きが溢れた。
「綺麗、なんだよな。私」
月光に照らされて輝くのは、肩口を超える長い白髪。その輝きは神々しくすらあり、暗殺者には見合わない輝きですらあった。それをもて遊ぶ細い指も深窓の令嬢の様で……やはり暗殺者のものには思えない。
ただ一つ。血に染まったかの様な真っ赤な瞳だけが、恐ろしき暗殺者を思わせる。輝きを失った赤い瞳だけが、ドロドロと。
とはいえ、私が綺麗な少女である事は間違いないだろう。
相手の油断を誘い、時には相手を誘惑する為に、少女型ホムンクルスは一様に美しい容姿をしているのだ。恐らく、美しい容姿を持った少女をモデルにしているのだろうが……
――オリジナルがうちの組織に捕まって無い事を祈るばかりだな。
私はその少女のコピーでしかないが、その少女は天然物だろう? 天然物の美少女は絶滅危惧種。是非幸せに過ごし、子宝に恵まれて欲しい物だ。……もしうちの組織に捕まっているなら、ご冥福をお祈りしよう。とっくの昔に絶望にまみれた肉片になっているだろうからな。
「美少女が、銀貨数枚で製造出来る……命の値段が安くなるよね。そりゃ」
いや、今は銅貨数枚だったな。組織の本部には私が一杯居るに違いない。美しく輝く白い髪と、輝きを失った赤い目をした私が。