オリジナルTS闇深勘違いモノ ボツ集   作:キヨ@ハーメルン

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魔王モノ
魔王モノ


「お前、次の魔王な?」「待って?」

 

 勇者と魔王。

 

 それはファンタジー世界ではお約束の如く登場する存在だ。始まりが指輪な物語まで遡るのか、ドラゴンなクエストまで遡るのかは不明だが……まぁ、どちらにせよ歴史ある文化と言えるだろう。

 さて、この勇者と魔王。大抵は勇者は良いやつであり、魔王は悪いやつである。ついでにいえば勇者は最初は弱くて、魔王は最初から強い。もっと言えば勇者は幾らかお金を払えば教会で復活でき、魔王も数百年かければ復活出来たりする。……そう、復活。復活だ。何とファンタジーな事か、コイツらは死んでも復活出来るのである。世の権力者が泣いて欲しがる不老不死とどちらが素晴らしいだろうか? どちらにせよファンタジーな所業には変わりない。

 

 ――だが、考えてもみれば中々にブラックな話でもある。何せ、彼らは諦める事を許されないのだから。

 

 よく勇者が「俺は諦めないぞ!」とか言ってるが、正しくは諦めれないぞ!(泣)だろう。

 諦めて自殺しても、復活してしまうのだし。逃げた先で老衰しても、若々しい状態で復活するのだろう。おぞましい話だ。勇者は魔王を殺すしかない。さもなければ延々と復活し続ける……終わりのない無限ループだ。発狂しそうだな。発狂しても復活させられそうだが。

 

 ――それで世界の平和が守られるなら、安いものなのだろう。たぶん。

 

 だが安くすまない者も居る。魔王だ。

 悪い事をしているから当然と言えば当然なのかも知れないが……魔王程不利なゲームを強要させられている奴は早々居まい。何せ勇者は何度殺しても復活してくるのだ。殺しても殺しても復活してくる。終わりが無いのが終わり……それがデフォルト。無理ゲーである。

 しかも万が一魔王が殺られてしまった場合、次の復活は数百年後……その頃には機関銃とか、核爆弾とかが開発されているのだ。無理ゲーである。

 仮にそれを何とかしても、今度は宇宙戦艦とか惑星破壊ビームとかが飛んでくるのだ。ファンタジーがSFに代わってしまうのである。完膚なき無理ゲーである。

 他にも色々とあるにはあるが、基本的に魔王は無理ゲーである。もう一度言う。無理ゲーである。

 

 ――さて? ここで問題だ。

 

 こーんなよくある? 勇者と魔王の話だが……もし魔王が本気で勇者(無限復活)を終わらせたいなら、どうすれば良いのだろうか?

 私には、分からない。

 分からないから聞いてくれるな。頼むから。

 

「どうすれば良いんだろなぁ」

 

 だから聞くなって。そう言えればどれだけ楽だろうか?

 私は拒絶の言葉の代わりにため息を吐き出し……それが同情と受け取られたのだろう。目の前の巨人みたいにデカい明らかにヤバいヤツ――金の装飾が施されたダークカラーの厳つい鎧で全身武装――もため息を吐く。我魔王なのに、と。身体が震える様な重厚な声を発しながら。

 

「無限復活だぜ? 無限復活。我でさえ数百年かかるのに、連中ときたらちょびっと金を払うだけで復活よ? お手軽過ぎる……」

「理不尽ですね」

「だろ? 神様の加護か何か知らねーけどよー……理不尽過ぎるよなぁ」

「仰る通りです」

「だよなぁ。殺しても殺しても即日復活するのはズルいって 許さないぞ魔王! 次こそはお前を倒す……! じゃないんだよ! 一回死んだらそれで終わりなの! それが普通なの! お前何回死んだんだよ!? いい加減死ねや!」

「そうですね」

「うんうん、お前もそう思うか。はぁー、何か良い感じの方法が無いもんかねぇ」

 

 知らんがな。そう言えればどれだけ楽だろうか? まぁ、言った瞬間不機嫌になったコイツ――着ている鎧と身体のデカさのせいか魔王というより、ライバル系悪役が乗ってる巨大ロボットみたいなヤツ――に消し炭にされそうだから言わないけど。

 あぁ、現代日本で慎ましやかに暮らし、今日も穏やかに眠ったはずなのに……どうしてこうなったのか? これが分からない。

 

 ――この吐きそうな威圧感は夢じゃない証拠……なら大方のところ、召喚とかされたんだろうなぁ。

 

 ならなんだって一般人でしかない私が? と思わないでも無いのだが……この分だと、誰でも良かったのだろう。愚痴さえ聞いてくれるのなら。

 だって、さっきから愚痴しか聞いてないし。

 

「突然異世界から召喚されて混乱してるお前に言うのもアレなんだけどさ、我結構頑張った訳よ。一族の悲願が何たらとか言われて魔王に就任してからこっち、物凄い頑張った訳」

「そうなんですね」

「おう。だいたい百年ぐらいかな? 魔王就任の為のアレコレ含めたら二百年ぐらいか。めっちゃ頑張ったのよ」

 

 重い。めっちゃ重い。

 普通百年もあったら人が産まれて老衰出来るんだが? 世界大戦が二回起きて終わるんだが? いや、ホント。十年とかじゃなくて百年? しかも下積み時代も百年? 流石はファンタジーのラスボス、時間感覚壊れてる。千年とか言われなくてマシだったと思うしか無いレベルだ。

 

「言う事聞かない配下を何とか統率してさ。魔剣とか邪剣とかも作った訳。しかも更に、更にだよ? 異世界から召喚した魂に教えて貰いながら、町並みだって整えた訳よ」

「それは、偉業ですね」

「だろ? 人間からは同じ魔族扱いされてるけど、実際は種族間の対立がヤバかったからな。全くよぉ、似たような部族で争ってんじゃねーよ! 鱗の色の違いとか、生まれた場所が山か森かの違いぐらいで騒ぐな! グダグダやってると勇者にまとめて皆殺しにされるぞ!? 下剋上? 後にしろよ! 勇者と違ってこっちは我以外は復活出来ないのに! いや、我も復活に数百年かかるけどな!」

「そこを何とかしたんですね」

「したよ! した! 人間が攻めてくるのに、魔族の中で内輪揉めしてる場合じゃないのは分かってたからな。めっちゃ頑張ったよ、我」

 

 どうやら目の前の巨大人形ロボット、もとい魔王。普通に凄いヤツらしい。吐きそうな威圧感からそうではないかと思っていたが……言っている事が事実なら、為政者としてもかなり優秀な様だ。

 種族間対立をたかだか百年、それも他の事をしながら片付けてしまうとは……この時点で地球の為政者の八割を越えてしまっている。普通に凄いヤツだ。地球? 未だに肌の色とか、生まれた村の違いで争ってるよ。百年かけても解決しないんじゃないかな? 既に数百年掛けて解決してないんだし。

 

「後、武器な。棍棒で勇者と戦うのは無理って若い頃の我でも気づけたからさ。めっちゃ頑張ったの。我、魔法ニガテだからさ。その辺得意な奴と協力して、鍛冶が得意な奴も巻き込んで……魔剣とか邪剣とかを大量生産した訳」

「技術革新ですね」

「そうそれ、技術革新。ほら、我の邪剣どうよ? これ我用にカスタマイズされてるけど、基本は量産品よ? 昔はこれも貴重品だったけど、今はそうじゃない訳」

 

 これよりちょっと弱いぐらいのを、城の警備兵とか持ってるんだぜ? と、そう笑う――鎧で見えないけど、たぶん笑ってる――魔王に……私は頷きを返すのがやっとだった。

 彼がジャキリと気軽に抜き放った剣の発するナニカに、身体が凍えてしまったが故に。恐らくは、恐怖によって。

 あぁ、凄まじいな。抜き放っただけで、恐怖を与える代物が量産品? 慢心せずに最高の武器まで作れる……というか、作らせるとか、魔王様最強じゃん。あれが量産品なら、魔王軍は敵無しだろう。

 

 ――いや、勇者が無限復活するのか。

 

 哀れ、どれだけ凄まじい武器を用意して打ち勝とうとも、勇者は無限復活してくるのだ。ナムアミダブツ。努力の笑う様な所業は、最早どちらが魔王か分かった物ではない。神の働き過ぎである。頼むから寝ていて欲しい。ジーザス、スリープ、プリーズ。

 そう魔王側に感情移入しだしてしまった私に、魔王は更においうちをかける様に愚痴を吐く。これを見てくれ、と。空中にどこかの町並みを映し出しながら。

 

「そうそう、町並みもな。当時は城っていうか、岩削った要塞しか無かったからさ……異世界からその手の知識がある魂召喚して、色々教えて貰いながら頑張った訳よ」

 

 それが、コレ。そうどこかの町並みを指し示す魔王。指し示された町並みは……控え目にいって整っていたし、発展していた。中世ファンタジー風世界にありがちな石の町並みは、為政者の努力あればこそだろう。

 少なくとも、これを見て蛮族の町だと言える奴は脳ミソが腐っている。

 

 ――あれは、ローマの水道橋に似てるな。上水道が通っているのか……住んでいる人々の顔も明るい。物乞いの姿も見えない……ん? 街灯もあるのか。

 

 水道橋の管理というのはある程度の文明レベルが要求され、場合によっては完備出来なくなる物だ。実際、ローマ帝国が崩壊したあと、中世ヨーロッパでは上下水道が整備出来なくなり、汚物が足れ流しになってしまった。歴史の教科書にもそう書いてある。

 それを思えば、魔王の作りだした町並みと文明レベルは中世ヨーロッパを上回り、ローマ帝国に匹敵しているのは間違いない。更に魔法的な何かなのだろう街灯は、技術レベルが産業革命レベルにある事を示していた。街灯は文明の明かり。著名作品にもそう書いてある。

 そして何より……民衆の顔が明るく、その日の食い物にも困っている人が見えない事。これは素晴らしい事だ。民衆の顔が明るいのは、日々の生活に不安や不満が無いから。物乞いが居ないのは、職に困らず国が発展しているから。戦後の漫画にもそう書いてある。

 

「普通に偉業では?」

「お? 分かる? 分かっちゃうかーそうだよな。我頑張ったもんな」

 

 第六魔王? とか名乗ってた怖い人間のオッサン……しかもその残滓っぽいのを呼び出したときはどうしようかと思ったけど。

 そう――鎧で見えないけど――笑う魔王は、明らかに上機嫌だった。……一応残滓らしいが、魔王が呼び出したオッサンが大物な気がするのは気のせいか? いや、町並みに昔の日本っぽさが無いし、たぶん気のせいだろう。異世界のそっくりさんに違いない。うん。

 

「後、あれよ。我、和平工作とかもやったのよ? 勇者が来るのって人間の国と戦争になったからじゃん? なら人間の国と戦争しなきゃいい訳でさ。なるべく人間の国と問題起こさない様にして、和平の可能性を探った訳」

「おぉ……」

「でも失敗。配下は人間殺す気満々だし、向こうも向こうで魔族殺す気満々だからな。和平は無理だったわ」

 

 お互い恨み辛み積もってるからなぁ。直ぐには無理だわ。そう言って肩をすくめる魔王に、私はなるほどと頷くしかない。

 お互い恨み辛み積もっていては……確かに和平は成らないだろう。仮に条約を結べたとしても、破る前提の物にしかなるまい。難しい話だ……

 

「けど、ここ百年は我が頑張って配下をなだめたり抑えたりしてたから、そんなに恨まれてはない訳」

「おぉ、それは前進ですね」

「だと思うじゃん? そしたら人間ども、不気味だーとか言ってやがんの。今静かなのは力を傭えているからに違いない。時期にこちらに襲いかかってくる……しまいには連中は力尽きて、戦う力が無いとか言う始末! もうね、アホかと。しかもそれで同族で殺しあい始めてるし、意味分かんない」

 

 あぁ……人間の悲しいサガだな。殺し合わずには、憎まずにはいられないのだ。人間とは欲望の生き物なのだから。全人類が悟りを開いた修行僧にでもならない限り、真の平和は遠い夢……悲しいね。

 それでも和平の可能性は残してある。そう言う魔王の何と出来た事か。もうお前が勇者で良いよ。

 

「けど、そんな奴らでも勇者が産まれたらヤバいのは知ったからさ、我。備えは続けてた訳よ」

「慢心しなかったんですね」

「うん。オッサンから知恵者や学問が大事ってのを教わった我は、そこから更にオッサンの国の知識を引っ張ってきて……最終的に学校ってのを作った訳。今じゃ毎年優秀な人財が発掘されてて、そこから将軍になった奴もまぁまぁ居る訳よ」

 

 オッサンを経由する事で、その国の情報は手に入りやすくなってたのは幸いだった。そう笑う魔王は実に上機嫌で楽しそうで……実際楽しかったのだろう。恐らく、そういう街づくりとかが好きなのだ。魔王は魔王でも、温厚かつ有能な魔王な訳だな。

 

 ――とはいえ、弱い訳でもない。いや、むしろ強いのは流石か……

 

 サラッと言ってるが、魔王は異世界の知識を引っ張って来る事が出来る。それだけでも充分凄まじさが伝わって来ようという物だ。魔法の腕前は相当なレベルなのだろう……

 

「けどなぁ。そんだけやっても勇者が殺せない訳。いや、殺せるんだけど、次の日には何食わぬ顔して復活してるのはヤバいだろ」

「ヤバいですね」

「ヤバい。幸い勇者はそんなに強くないから、我がこう、ゴッとやれば塵一つ残さず消滅させれるけど……毎日毎日復活されるとねぇ。飽きる。飽きてるのに復活してくるし。何なら飯の途中とか、風呂の途中とか……後寝てる時な! 寝てる時に勇者が来たって起こされるのはまじ出腹立つ!」

「寝てる時は嫌ですね」

「だろ!! 嫌だよな! でもそんなでも行かないとさ、配下はともかく配下の配下……要するに普通の兵士は殺される可能性ある訳だから。行かない訳にも行かないんだよなぁ。我、魔王だし。最強だし」

「流石です。魔王様」

 

 寝ている時に突如としてかかる電話。慌てて飛び起きて出てみれば、今すぐ仕事に出て欲しい……あぁ、推理アニメの犯人になるには充分な理由ではなかろうか? しかも行かないと誰かが殺される? 殺意で全身が真っ黒になりそうだ。

 それが頻繁にとなれば……世界を滅ぼしたくもなる。いや、この魔王はそれでも和平の可能性を捨ててないのか。聖人か? 魔王か。ゴッとやれば、のゴッも大地が割れるレベルなんだろうなぁ。塵一つ残さず消滅させてるらしいし。

 

「いやぁ、お前話分かるなぁ。第六魔王のオッサンも話が分かる奴だったし、お前の国の人間とは気が合いそうだ……そっちの国に移住しちゃおっかなぁ」

 

 止めて?

 たぶんその第六魔王とかいう人、偉人だから。歴史の教科書に載ってる人だから。何か残滓らしいし、本人とは違うっぽいけど……それでも偉人と一般人を比べないで欲しい。移住? 勘弁してくれ……最終的に国民は順応しそうだけど、外交問題がややこしくなりそうだし。

 

「まぁ、我魔王だし? 魔王の責任から逃げ出す訳にはいかないから、移住は出来ないんだけども」

「……そうですか」

「うん。あー……勇者死なねーかな。いや、違うわ。二度と復活しないで欲しい。殺すのはこっちでやるから」

 

 勇者マジ死ね。そうため息を吐く魔王に、私はうんうんと頷いておく。

 ここまで聞かされると、魔王が不憫過ぎてな……いや、物騒には変わりないんだけど、こう、感情移入の割合としてな?

 

「でさ、本題なんだけど」

「あ、はい」

 

 今までの本題じゃないのか……そう困惑しつつ先を促してみれば、魔王は少しだけ言いよどんだ後、言葉を繋げる。ずっと前から計画はしてたんだが、と前置きして。

 

「我、そろそろまとまった休暇を取りたくてな」

「それは、そうですね」

「でもよ、魔王不在はヤバいじゃん? 勇者もそろそろパワーアップしそうだし。せっかく育てた配下が皆殺しされてたら……我泣くよ? しかも復讐に勇者殺しても、勇者死なないし。復讐も出来ない」

 

 それは、難しいな。

 休暇は確かに必要だろうが、勇者に配下が殺される可能性を考えれば……なるほど、休めない。休んだとしても一日か二日になるだろう。お世辞にもまとまった休暇とは言えない。しかし生きていて仕事をする以上、まとまった休暇が欲しいのも事実。ましてや魔王はよく働いている。何とか休んで欲しいが……ふむ。

 

「そこで我、考えた。我が休んでる間、代わりの魔王を置いておこうと」

「おぉ、名案ですね」

「だろ? ホントは第六魔王のオッサンに頼もうと思ったんだけどさぁ。彼、残滓だから不安定なのよ。魔王はちょっと任せられないし……とか言ってたら最近、何か成仏しちゃって」

「え……」

「正確には魔界に行ったみたいなんだけど、どっち道魔王は任せられないからね。だからその魂とおんなじ国から魂引っ張ってきて、魔王させる事にしたんだよ。あのオッサンの出身国。いい感じの魂が釣れるだろと思ってさ」

「待って?」

 

 おい、おい待て。まさか、それが私…………?

 いや、いやいやいや。失敗してる。失敗してますよ魔王様! 呼び出すなら一般人じゃなくて逸般人呼んで! 私には身に余る!!「召喚は指向性こそあるけど、基本がランダムだから心配だったけど、お前とは気が合いそうだし安心だわー」じゃないんですよ! 失敗してる! 失敗してるから!! 仕事のストレスで思考能力低下してるんじゃないのか……!? 頼むから考え直して!!

 

「あ、不安? まぁ、そうだよなぁ。いきなり呼ばれて魔王させられる訳だから、不安だよなぁ。だが、安心するがいい! 我のアフターフォローは万全よ!」

「いや、そういう話じゃ……」

「配下にもちゃんと説明してるし、給料も足りなければ宝物庫のヤツを殆んどプレゼントしても良い……あ、歴史的なアレコレは渡せないけどね」

 

 後、休暇も無いけどね! そう魔王らしい重々しい声を上げて笑う魔王様の目は…………淀んでいた。鎧兜の隙間から見えたその目は淀んでいたのだ。

 例えるなら、三徹させられた挙げ句、長期休暇を与えらず、ボーナスは当たり前の如くカットされ、賞与もされず、頼みの有給休暇の許可も降りなかった社畜サラリーマンの目…………やっぱり仕事のストレスで思考能力低下してるんじゃないか!? お願い確りして魔王様! 貴方がここで倒れたらここまで発展した国はどうなるの!? 勇者さえ倒せれば…………無限復活するんだったか。救えねぇ。

 

 ――そこで私の出番という訳……いや、無理だって。無理無理無理。

 

 ここまで頑張ったのに休めない魔王様には同情するけど、私が魔王は無理! スケープゴートにもならんって! 考え直して魔王様!!

 そう内心では思う物の、口には出せなかった。……いや、出せんて。ここまで頑張って、ようやく休みが手に入りそうになってる魔王様に、計画練り直しですとは……口が裂けても言えない……! 圧倒的……圧倒的圧力……! 

 

「それと戦闘能力も心配しなくていいよ。魔王が勇者に殺されちゃったら元も子もないから、勇者を殺せるパワーも最初から用意してる。我の配下が専用のホムンクルスを用意してあるはず……それに入って貰えれば」

「ホムン……ぇ?」

「悪いなぁ。突然魔王やってくれとか。混乱するよな」

 

 止めて? 謝らないで?

 というか謝るくらいなら失敗に気づいて? 頼むから……駄目か。駄目ですね。だって……

 

「でも、許してくれな? 我、魔王だけど……魔王だって休みたいんだモン!」

 

 目が、淀んでいるのだ。三徹キメて無敵になったサラリーマン魔王に、更に働けとは口が裂けても言えない。言った瞬間塵一つ残さず消滅させられる。

 

 ――アフターフォローは万全って話だが……!

 

 こうなったら魔王プレゼンツのアフターフォローに全てを託すしか無い。お願いします完璧であって下さい……!

 駄目なら? その時は、ケジメで切腹しようか。少なくとも遺体は残るし、塵一つ残さず消滅させられるよりはマシだろう。いや、やっぱりそっちの方が痛みが一瞬なだけマシか?

 そんな底辺を競う思考に、何秒費やしただろうか? 反論出来ずに居る私に、反論が無いのだと思ってしまったらしい魔王様がうむと頷いて私に手を向ける。って訳で、と。

 

「お前、次の魔王な」

「待って?」

 

 …………そう言う訳で、私は魔王になるらしい。

 いや、なんで??

 

神秘系パンツ吐いてないアルビノ美少女魔王

 

 ある日突然魔王を名乗る奴の愚痴を聞かされ、思わずウンウン頷いて同情していたら……私はなぜだか知らないが魔王をやる事になった。平和な現代日本からひっぱり出されて、物騒極まりない異世界で。

 いや、意味不明にも程がある。程があるのだが……残念ながらというべきか、夢幻の類いでは無かったらしい。

 いつの間にやら私の目の前に強大な魔王は居らず、私は暗い石の部屋に寝かされていた。勿論、自室な訳が無い。全く知らない天井、知らない部屋だ。

 

「気分はどうですかな?」

 

 何がどうなってるいるのか? イマイチ判断出来ないでいる私に、横合いから声がかかる。

 いったい誰がと視線を向けていれば……あぁ、なんて事だ。そこに居たのは亡霊だ。高級感溢れるローブを身にまとい、牛の骨を被っているナニカ。しかし、身体はどこにも見当たらない。いや、微かに骨と霧の様な物が透けて見えるが……あれを身体と言うのなら、コイツは正真正銘亡霊だろう。

 私が悲鳴を上げなかったのは、ただの偶然に過ぎなかった。

 

「……っ!?」

「あぁ、紹介が遅れました。わたくし、この国の宰相でございます。名前は……故あって聞かせれませぬが。……言葉、通じてますでしょうか?」

 

 辛うじて悲鳴だけは出さずに済んだ私は、亡霊の割にはフレンドリーな亡霊……宰相であるらしい彼の言葉にコクリと頷く。

 そんな私に満足したのか、宰相は言語理解は問題なさそうですな。と頷き、ペコリと一礼してくる。うやうやしく、しかしどこかよそよそしげに。

 

「魔王様より貴方の案内を任されております」

「魔王、様から……」 

 

 魔王から? そう言いそうになって、何となしに最後に様と付け直した瞬間、宰相の雰囲気が一気に柔らかくなる。コイツ、分かってるなと言わんばかりに。

 ……これは、様を付け忘れてたら呪い殺されてたかも知れんな。流石は魔王の配下だ。忠誠心が高い上に物騒極まりない。

 

「この国の状況や、貴方が魔王代理となる事、やるべき事等は既に魔王様より説明されていると思いますので……早速、仕事の説明には入ります」

「あ、はい。お願いします……」

 

 いや、魔王様からは愚痴しか聞かされてません。そんな事を魔王の狂信者に言う訳にもいかず、私は仕事の説明と聞かされて思わず居住まいを正して聞く姿勢になってしまう。

 

「先ず、貴方の身体を固定しましょう」

「……?」

「今の貴方は……まぁ、鏡で見れない様な状態です。ですので、先ずはそれを何とかしましょう」

 

 自覚はないでしょうが。そう言う宰相の言葉に私は頷くしかなかった。個人的にはいつも通りだと思うんだが……彼の言葉を信じるなら、鏡で見れない様な身体になっているらしい。

 そりゃ世界を跨いだのだから、何らかの異常が発生していてもおかしくはないだろう。それこそ、ゲル状になっていても不思議ではいのだ。……本当に異世界に来たのか? それは不確かだが、今余計な事をやると殺されかねない。異世界に来た事含め、基本的に宰相閣下に逆らわない方向性で進めるしかないのだ。しがない一般人でしかない、私は。

 

「先ず、前世の身体は思い出せますか?」

「前世……? いや、身体なら…………ぇ? 前世?」

「えぇ、前世です。…………あぁ、思い出せませんか。まぁ、一度死んでますし、魂も混ざり物。そうもなりましょう。第六魔王殿や、他の異世界の魂も時折そうなっておりました」

 

 仕方がない事です。そう骨の被り物をカクンと頷かせ、宰相は勝手に納得してしまう。

 前世……まるで私が死んだかの様な言い方だ。いや、実際死んだのだと、宰相閣下は認識しているらしい。しかも魂が混ざり物? 他もそうなった? 勝手に納得しているところ悪いが、気になる話ばかりだ。それこそ、説明して欲しいぐらいに。

 

 ――かといって、魔王様からは愚痴しか聞かされてません! なんて言えばどうなるか……

 

 この短時間で宰相閣下が魔王信者である事は察しがついている。にも関わらず魔王……様を侮辱する様な事を言える程、私の肝は太くない。それに、私は勝ち目の無い戦いはしない主義なのだ。

 

「では、『魔王』の身体をイメージして下さい」

「……? はい?」

「魔王、そう聞いてパッと思い浮かぶイメージ。それで身体を固定しましょう。それが……最も効率的でしょうからね。あぁ、術式はこちらで動かしますのでご安心を」

「…………」

 

 内心、未だ混乱していて整理がついていないのですが。そう言えればどれだけ楽だろうか? まぁ、出来ないからこうなっているんだが。

 魔王。そう聞いて思い浮かぶイメージね……直近で言うなら先程会った魔王様の姿が思い浮かぶ。着ている鎧のせいで、悪役ロボットじみていたあの姿を。

 しかし、それ以外となると…………一気にまとまりがなくなってしまう。魔王、そう言われる存在が多すぎるのだ。ドラゴンっぽい魔王も居れば、人形の魔王も居る。第六天魔王なんて名乗った実在の人物も居るし、何々の魔王とかいう二つ名持ちの人物は割といるのだ。これといったイメージは固まらない。もう少し範囲を絞ってくれない事には、イメージを固めるのは難しいだろう。

 

「特に思い浮かびませんか? ……あぁ、言い忘れておりました。魔王様の姿を真似たら殺します」

「!? りょ、了解です……」

 

 この魔王信者め! とは言えない以上、私は黙って従うしかない。

 まぁ、私自身あの巨大ロボットじみた姿を真似するつもりもないし……鎧の中身となれば更に想像がつかないから問題は無いだろう。声からすれば男性だと思うが、女性の可能性だってあるのだ。それこそ、ボイスチェンジャーを使っている幼女の可能性もゼロではない。姿を真似しようにも、そもそも不可能だ。

 しかし、幼女、幼女か。

 最近の魔王は、幼女の魔王も増えていたな……そんなに数は多くないが、ポツポツと思い浮かぶ。尊大なロリっ娘魔王も良いが、儚げな感じの美少女魔王も、個人的にありだと思うんだ。白髪赤目の美少女、良くないか? 私は良いと思う。……現実逃避かな? 現実逃避ぐらいさせてくれ。今しか現実逃避出来そうにないんだ。良いじゃないか。理想の美少女を妄想するのは、良い現実逃避になるんだから。

 

「ん? そうそう、その調子です。あぁ、戦闘可能でありながら、普段から着ておける服もお忘れなく。その分の魔力は別途用意してありますので。真っ裸で良いなら、別に構いませんが」

 

 む、服もいるのか? まぁ、そうだな。真っ裸で歩き回る訳にはいかない。

 そうなるとどういう服が良いだろうか? 野郎の服なんてシャツとズボン、それもスーツのそれを流用したので充分な気もする。これが女性なら、あれこれ拘った方が見栄えするだろうし、考えなくてはならないだろうが。……仮に考えるなら、そうだな。チェニックとボロマントの組み合わせとかどうだろう? いや、見栄えだけではなく、戦闘行動も考えろと言っているし……これだと下半身を露出させ過ぎか。

 いや、私が考えるべきは自分の服なのだが。こう、現実逃避として最適だろう? こういう思考は。自分の服を選ぶより、他人の服を選ぶ方が楽しいものなのだ。仕方あるまい。

 

「む、これは……」

 

 何より、自分の身体と服をデザインしろと言われても……気合いが入らないんだ。キャラメイク出来るゲームでもデフォルトのを使うタイプなんだぞ? 私は。ヒロインを設定しろと言うなら多少は考えるが、自分のはなぁ……どうしても現実逃避に思考が流れてしまう。

 とはいえ、いい加減決めなければ焦れた宰相に殺されるだろう。そろそろ美少女魔王の現実逃避は終わりにして、自分のキャラメイクを始めなければ。……良いと思うんだけどなぁ。儚げな感じなのに、実は魔王な美少女とか。ツノとか羽とか生えてると更に良い。

 いや、いや。今は自分の事だ。現実逃避はここまでにしよう。意味も分からず死にたくはない――――そう、思った瞬間。足元に魔法陣が走る。

 

「思念の流入を確認。この量に、質ならば…………ふむ、行けそうですな。では、始めます」

「ぇ?」

 

 何を? そう問う時間は……残念ながら無かった。

 突然、私の身体に電撃が走ったのだ! いや、電撃ではない。だが、これは、まるで自分の身体を内側からかき混ぜられている様な……っ!? 不快な感覚。有り体に言って吐きそうだし、吐きたい。なのにそんな事は出来ず、ウゾウゾと虫に這い回られる様な感覚に襲われ続ける。

 

 ――身体を…………まさか、作り変えているとでも言うのか……!?

 

 泥人形を作るような気軽さで、身体を弄られている。……そう思えば、今の状態にピタリと当てはまる気がした。まさしく私は身体を作り変えられているのだと。

 にしても、まだこれといったイメージを思い浮かべてな…………まさか、いや、もしかして、私の現実逃避を理想だと受け取ってしまったのか?

 

 ――ち、違っ! あぁ、私のアホ! 何だって現実逃避なんかしたんだ!?

 

 システムに融通は効かない。……つまり、そういう事なのだろう。私がウッカリ思考を横に流し、たれ流してしまった理想の美少女魔王。それを私自身の理想だと魔法システムが認識してしまったらしい。

 やってしまった。やってしまった! 混乱していたとはいえ、現実逃避の結果がコレとは!

 そう思う間にも不快な感覚は収まっていき…………やがて、不快な感覚が収まった頃。私は空気の感覚やにおいを知覚するに至っていた。暗いところ特有のジメっとした感覚と、におい。……あぁ、身体が作り終わり、五感が復活したらしい。

 

「おめでとうございます。貴方はこの世界に生誕されました。……ご気分はどうですかな?」

「……ぁ、あー、あー…………うん」

 

 ペコリと一礼してお礼の言葉を告げる宰相に、何か言葉を返そうと発声して……察した。私の声ではない。男の声ではない。これは、少女の声だ。どちらかといえば可愛らしい感じの。

 どうやら、やってしまったのは間違いないらしい。そう嘆息しているうちにも宰相の言葉は続き、やがて不思議そうに首をカクンと傾げる。奇妙なものだと。

 

「しかし、『魔王』と聞いて少女の姿になるとは……そちらの世界の少女とは、それ程強い存在なのですかな?」

「ぐっ……ひ、人に、よっては……」

 

 強いです……そう尻すぼみになりながら声を出し、私は自分自身の声がスッカリ少女になってしまっている事を自覚する。自覚させられる。まだ一人称が私ではなく俺だった頃から付き合ってきた自分の声は、もうどこにも無かった。

 そして、私の心は宰相が魔法で用意した物によってトドメを刺される。こちら、鏡ですと、突如現れた大きな姿見によって。

 

「やっぱり、女の子……」

「女の子ですな。美少女、といってよろしいかと」

 

 美少女。あぁ、美少女だ。現実逃避に連想ゲームしていたとはいえ、思い描いた理想の美少女魔王である事に変わりはなく、鏡の中で驚嘆している様子の少女はかなり可愛らしかった。

 年頃は中学生か、ギリギリで高校生ぐらいだろうか? 肩口までサラリと伸びた白髪は月の様に美しく、赤月の様に真っ赤に染まった瞳は怪しく輝き、ペタペタと頬を触る白い手は細く小さい……可愛らしいもの。あぁ、可愛らしい少女だ。感情に乏しいのか、表情筋が仕事をしてないが……その愛嬌の無さがかえって愛嬌になっている。端的にいって、好みのタイプだった。一言で言うなら無口系アルビノ美少女。素晴らしい。

 しかし、彼女は人間ではなかった。耳の上辺りからピンっと伸びた黒いツノが、人外の存在である事を示しているのだ。まるで自分は悪魔だと言わんばかりに。だが……それでも可愛らしい美少女には変わりない。むしろ恐ろしげなツノもチャームポイントだろう。カワイイは全てを超越するのだ。

 

「服は……ふむ、些か露出が多い様に思えますが、生地の無いところにも防御能力があるタイプの様子。問題は無いでしょう」

 

 良いセンスです。そう褒めてくる宰相が先程言った様に、露出は少々多めだ。

 上半身に関してはワンピースにも似た黒系のチェニックと、フード付きのコートにも似たマントでゆるく、しかし確りとガードしているのだが……それに反して下半身の露出は多く、ホットパンツらしきボトムと、履きやすそうなブーツ以外は何もない。むしろパンツの丈が短いせいで、何も付けてないんじゃないかと思える程…………シュレディンガーのパンツを思わせる魅惑のライン。これを考えた奴はイカれてる。良いセンスだ。

 

 ――まぁ、私なんだが。

 

 そう、私だ。何を間違ったのかは明白で、その結果彼女は私である。私が彼女だ。鏡の中の美少女は私なのだ。私が、神秘系パンツ吐いてないアルビノ美少女魔王だ。つまり私がヒロインだ。それもたぶん隠しヒロイン。最初は敵だけど、ラスト付近で味方になるタイプのヒロインだ。……いや、駄目だろう。それは。

 

「これ、変更とか……」

「変更? 難しいでしょう。何せそれで固定してしまいましたし……何より、魔力が安定しております。今から他の姿にしてしまうと、大幅に弱体化してしまうでしょう」

 

 オススメ出来ません。そう言う宰相の声には、間違いなく副音声がついていた。フザけた事言うと殺すぞ、と。

 コワイ。魔王の宰相コワイ。死にたくない私は、もう……従うしか無かった。そもそもやらかしてしまったのは私なのだし、無理を言える立場でもないしな。実際、宰相の仕事に間違いはない訳で。

 しかし、あぁ……どうするんだ? これ? もう意味が分からん。

 

「ふむ、何を肩を落としているのです? 問題は無いでしょう」

「いや、女の子じゃ……」

「問題ありません。魔力さえ安定していれば、魔王代理として過不足なく力を震えます。戦闘能力に問題はありません。その様に魔王様とホムンクルスを調整しましたので。問題は、一切ありません」

 

 それとも、魔王様の残した魔力にご不満が? そう牛の骨の奥で紫炎を燃やす――明らかにキレている――宰相に……私は不満はありませんと言って黙るしかなかった。

 コワイ。ひたすらにコワイ。魔王信者コワイ。……少女の身体のせいか? 異常なまでに怖いぞ……いつも以上に恐怖を感じる。気のせいか?

 

「魔王様より受け継いだ魔力の扱いに関しては……後ほどにしましょう」

 

 うぅ、まさか女の子になってしまうとは……外見のレベルは間違いなく前世以上だが、それは慰めにもならない。だって、女の子だぞ? いくら外見が可愛くても、中身が私では意味が無い。というか足がスースーする。この服考えたの誰だよ……私か。

 あぁ、私だ。私は女の子だ。……こんな事があるか? 女の子になってしまったショックは言葉に出来ん。これからどうすれば良いんだ……そう落ち込んだ瞬間、宰相の目が光る。なんか文句あんのかおぉん? と。

 

「ホムンクルスにご不満が? それとも不調ですか? その様な事が起きない様、調整をしたはずですが……いえ、イレギュラーというのは不意に訪れるもの。何かあるなら遠慮なく仰って下さい」

「その、この身体って……いえ、ナンデモナイデス」

「ふむ? ……あぁ、容姿の話ですかな?」

「え? うん、たぶん?」

 

 待って、今何か女の子っぽい発言になった。そう内心で身体に引っ張られている感覚を味わっているうちにも、宰相が淡々とした様子で語り出す。

 紳士的な事に露出高めの私の足には一切視線をやらず、こちらの目を見て。

 

「人間どもの価値観は不明ですが……そうですな。人形の魔族基準でしたら『極めて美しい少女』といったところでしょう。美しい、の部分は人に寄って可愛らしい、と感じるかも知れませんが。まぁ、些か華やかさには欠けていますが、そのぶん神秘的な気配がありますので……やはり人を引き付ける魅力には困りませんな」

「つ、つまり……」

「……ふむ、例えろと? そうですな…………街へ降りれば、注目の的でございましょう。今後実力を伴っていけば、魔王としての威厳もカリスマ性も充分に期待出来そうです。それと、吸血公が貴女をモデルに姿絵を書き出すでしょうな」

 

 あのコウモリは、芸術にハマっておりますので。そう言って一度口を閉じた宰相は……正気だ。間違いなく正気だ。あれ程私の容姿を淡々と褒めちぎっておきながら、正気。私には真似でない紳士ぶりだ。肉がついていた頃はさぞかしモテただろう……

 …………ふむ。しかし、あれだな。これだけ褒められると、悪い気はしない。

 

 ――いや、いや! 落ち着け。ちょっと気分を良くしてるんじゃァない! 女の子の身体に満足するな!!

 

 私は男だぞ!? そう内心で強く思い込み、決意し…………だが、目の前の鏡を見てしまえば決意なんてどこかへと流れて薄れてしまう。

 だって、カワイイし。この身体。褒められるのも気分が良い。

 いや、落ち着け。落ち着くんだ。いくら身体が可愛くても、中身は私。それじゃあ駄目だろう!? それと褒められると嬉しいのは分からんでもないが、理由が理由。喜んじゃァいけない。私は男、私は男。女の子ではない……!

 

「思えば、第六魔王殿も時折少女の姿になっておりました。残滓故、概念を受けて変質しやすいとはいえ……あるいは、ホムンクルス自体が少女化しやすいのか……まだまだ研究の余地がありますな」

「概念を、受けて?」

「あの人が生きていたら。あの人がもしもこうだったら。そんな妄想にも影響されるという事です」

 

 おう……気のせいであって欲しいが、心当たりが多過ぎる。あの作品とか、あの作品とか、あの作品とか。彼に留まらず、歴史的な人物は大抵我が祖国のオタク達に何度か女体化……つまりTSさせられてしまっているのだ。概念の影響は尋常では無かっただろう。ゴメンナサイとしか言いようが無い。

 ホント、軍艦だろうが馬だろうが容赦なく女体化アンド美少女化させるからな……もう、手当り次第に。そしてそれを私も楽しんでいた一人。同罪だ。

 

「ふむ。そのホムンクルスには第六魔王殿のデータを基礎として作り上げております。そういう意味では、少女化しやすかったのかも知れません……」

 

 これが、因果報応か。

 甘んじて受け入れるしかないというのか、TSを……私が彼らにした様に、今度は私の番だと。そういう事なのか……

 

「いや、少女で魔王としてのお仕事は……」

「可能です。貴方が魔王様の魔力を使いこなせさえすれば、ですが。…………質問は無いようですな。では、訓練を開始しましょう」

 

 どうぞこちらへ。そう言われて指し示された先に、突如として影が立ち上がる。黒い布が地面から立ち上がっている様にも、あるいは怪物の口にも見えるソレ。ソレに、私は飛び込めと言われているらしい。

 躊躇は、一瞬。私は直ぐにソレに飛び込んだ。ヤケクソだった。

 救いなんてありはしない。それだけを確信した私は、訳も分からず魔王にされ、女の子にされた私は……もう、自棄っぱちになっていたのだ。

 こうなったらどうにでもなぁーれ、と。

 人それを、諦めたとも言う……

 

 

 

 

 立ち上る影に自棄っぱちになりながら飛び込んだ私は、気づけばどことも知れない荒野に居た。空は曇天。太陽ささぬ大地は赤茶けてヒビ割れており、いかにも魔王の領土と言わんばかりだ。

 正しく不毛の地……そう身震いしているうちに、いつの間にか宰相が私の横に到着していた。後を追ってきたらしい。

 

「どうですかな? 我らの大地は。人間どもはここを魔界と呼びますが……」

「魔界……」

「魔界は別にあるのですがね。人間どもからすれば、この程度で魔界らしい」

 

 奴らが我々をここに追い込んだというのに。宰相はそう忌々しげに吐き捨て、大地を見つめる。枯れ草の一つも無い赤茶けた大地を。

 今のはどういう意味なのか? 私がそれを問おうと……する暇はなかった。感慨を投げ捨てたらしい宰相が、私に指示を寄越して来たからだ。身体を動かしてみろと。

 

「簡単な運動で結構。先ずは身体能力を確認して下さい。ここなら幾ら壊しても大丈夫ですので」

 

 そう大雑把な表現を交えながら言われた私は、大人しく身体を動かしにかかる。

 とはいえ、何せ少女の身体だ。しかも見た目からして非力そうだし、何かを壊せる様な大した能力は無いだろう。そう判断しつつ、軽くストレッチをしてみる。手足を伸ばしたり、その場で軽くジャンプしてみたり……

 

 ――ん? 身体が軽い……?

 

 気のせいだろうか? 身体が軽い気がする。いや、気のせいじゃない。思ったよりもジャンプ出来る! これは、一メートル近くジャンプしてるのか?

 まさか、身体能力は見た目以上に高いのだろうか。そんな疑問を抱えつつ軽く走ってみれば……速い。予想以上に速い。具体的に何秒かなんて分からないが、陸上選手並みに速い気がする。しかもそれが本気ではないのだ……この身体はホムンクルスだという話だが、いや、予想以上だな。凄まじい。

 

「ふむ、身体は問題なく動くようですな。結構。……では、あちらに用意した岩塊と鎧を破壊しましょう。先ずは岩塊から」

「……あれを、ですか?」

 

 宰相の指し示さた先にあるのは、巨大な岩塊と無数の鎧だ。岩塊は二階建ての一軒家程の大きさがあり、鎧だって鉄製の頑丈そうな物……確かにこの身体の身体能力はアスリート並みに高い様だが、幾らなんでもあのサイズの岩塊と鋼鉄の鎧を破壊するのは不可能だろう。

 そう否定的になったのを察したのか、宰相が口を開く。問題はないと。

 

「魔王様の魔力は強大です。あの程度の物体なら容易く破壊出来ます。まぁ、強大故に細やかな調整が難しく、複雑な術とは相性がよくありませんが……今回は問題無いでしょう。先ずは大雑把にブッ放すのが正解かと」

「大雑把に……」

「魔王様曰く、ゴッと放つのが楽なそうです」

 

 そういえば9段の魔王様も言ってたな、ゴッとやればなんとかなるって。

 いや、ゴッてなんだ……?

 

 ――こう、バトル漫画的なあれだろか……?

 

 生身でビームを放つ様な、そういうやつなのだとすると確かにゴッとしか言いようがないかも知れない。

 ……やってみるか。こう、何か力を集めてゴッとやれば――――ぁ。

 

「っ!?」

「その調子です」

 

 瞬間、ナニカが出た。それはわずかな発光だったが、確かにナニカが放たれていた。突き出した拳から伸びた、炎の様な何か。これは、いけるかも知れない。

 もっと力を込めてみて下さい。そう淡々と話す宰相の言葉に従って、私は更に力を込めてみる。先程一瞬だけ見えた黒い炎。あれを放てれば、正しく魔王……! そうなれば万が一にも宰相から殺処分される可能性は無くなるはずだ。

 

「――ヤァ!」

 

 一撃入魂。意気込んで突き出した拳から、黒炎が放たれる。それは数メートル程直進して消えてしまったが……間違いない。出た。出てしまった。魔法的な炎が、私から。

 

「出た……!?」

「お見事です。黒炎ですか、魔王様も良く使っておられました。ホムンクルスの調整も上手くいっているようですな。貴方自身も素直で結構。では、引き続き岩塊を破壊して下さい。習うより慣れろ、でございます」

 

 宰相の言葉にコクリと頷き、私は岩塊を破壊しにかかる。取り敢えず目の前まで近づいて……後はもう、八つ当たりだった。何が何だか分からないまま話が進んでムシャクシャしていたのだ。黒い炎を放って溶かし、拳と蹴りを叩き込んで砕き、再び炎を撒き散らす。

 憂さ晴らしに丁度良いとボコボコし続ける事……数分。岩塊はガレキと化していた。そしてそのかいあってというべきか、私は私の身体の事を正確に把握するに至る。つまり……

 

 ――強いぞ、この身体……!

 

 宰相が問題無いと豪語するだけある。ちょっと肩慣らしした程度でこれ程とは、凄まじい性能だ。訓練すればどれだけの能力になるのか……考えるだけで身が震えるというもの。

 見た目も悪くないし……これで中身が私でなければなぁ。

 

「結構、結構。では次にあちらの鎧……あれらを一撃で破壊して下さい。失敗した場合はやり直しです」

 

 もっと

 ――ヤァ!

 

「よろしい。筋が宜しい様で、わたくしも一安心です。……混ざり物なのが、かえって良いのかも知れませんな」

 

 一人では知れない事も、複数人なら知ってる事も増える。

 

「主たる人格は一つ、それに複数の残滓が混ざり込み……しかし魔王様の魔力が絶妙にコントロールする事で人格崩壊を防いでいる。……コレ、最終的には魔王様の魔力に影響された人格が残るんですかね? それなら世界にもよく馴染みそうだ」

 

 キィィィン――

 警報。

 

「今の、は……」

「勇者ですな」

「勇者……!」

 

「ふむ? 魔王様の魔力の影響、予想より強いですかな……?」

「宰相」

「はい、何ですかな?」

 

 仕事する

 

「では、ゲートを開きます。……ご武運を、魔王代理殿」

 

 やる

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 ゲート、と言うらしい影に飛び込んで。私は再びどことも知れない荒野に居た。

 

「居たぞ! 魔族だ!」

 

 挨拶でも……

 

「死ねぇ!」

 

 ひえっ

 

「よくも仲間を!」

 

 いや、正当防衛……てかホントに死んだ? なんか手応え無かったし、光になった辺り……どこかに転送された感じするんだが。

 

「うおおぉ!」

 

 光が飛んで来たぁ!?

 

 人の話を聞けー!

 

「ぐっ、だが俺は負けん。次こそは魔王を……」

 

「いや、負けたよね……?」

 

 コワイ

 

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