転生先はアベンジャーズ!?生き残れる自信がありません!! 作:断空我
多くはいいません。
「驚いたな、散歩をしていたら指名手配されているテロリストと友達がいたぞ?」
「偶然だな」
あくまで偶然を装っているような態度をとっているが確実に情報があってきたのだろう。
すぐに攻撃してこないことに疑問を抱きながら警戒を高める。
ただでさえ、後ろにはキャプテン・アメリカとウィンター・ソルジャーという攻撃にステータス全振りしているようなヤバイ人達がいる。さらに科学の結晶のような連中と正面からやりあうなんて正気の沙汰ではない。
「さて、テロリスト君。大人しく投降するつもりはないかな?キミの持っているその武器は非常に興味深い」
「それはそれは、ウィーンで売買しているから探して来たらどうかな?」
アイアンマンへ軽口をたたきながら横へ移動しようとする。
「出番だ、新入り!」
「はい!」
後ろから声が聞こえて振り返ると同時に体の自由が奪われる。
「なんだ、これ、糸!?」
片手に持っていた近未来的なデザインのライフルが奪われた。
「うわぁ、これ、スターウォーズに出てきそうな武器だね!カッコよさそうだ!」
スタンと近くの作業車両の前に降り立ったのは赤と青、蜘蛛を模したようなスーツを纏った人物がいる。
「誰?」
「あ、はじめまして、悪者さん、僕はスパイダーマン、ニューヨークで活動しているんだ!それにしても、この銃、スターウォーズのボ〇・フェッ〇が使っているようなデザインだね?もしかして、大好きなの?スター」
「新入り、ストップだ。お口チャックして大人しくしていろ」
「わかりました、スタークさん」
「本当はキャプテンを拘束するために連れてきたのだが、まぁいい、テロリスト君。キミを捕縛――」
飛来したヴィブラニウムの盾が拘束していた糸を切り裂いた。
「トニー!やめるんだ!」
「キャプテン、ここで何をしている?」
「聞いてくれ、トニー!シンジはテロ活動に関与していないんだ!彼は我々と同じ、平和を望んでいる」
「潔癖だというのなら大人しく法廷で証明すればいい。潔白ならば逃走する理由はないはずだ」
「トニー、何かが起きているんだ。うまく言葉にできないがシンジを悪者にしようとしている存在がいる……私は彼を助け」
咄嗟にキャプテン・アメリカへ発砲する。
「悪いけど」
次弾を装填して肩をすくめる。
「仲間内での争いは他所にしてくんない?先を急いで」
「死ね!!」
「見えているよ」
背後から不意打ちしようとするドールだが、わかりきっていたシンジは回避すると同時にATフィールドを纏った拳で殴り飛ばす。
殴られたドールは置かれている飛行機の中に消える。
エンジンが入っていたら爆発を起こしていたかもしれない。
「先を急ぐから、これにて」
逃げようとした俺の前にブラックパンサーが降り立つ。
「シンジ・ジャッカー」
最悪だ。
「王子がお前に話があるそうだよ?テロリスト君」
アイアンマンの皮肉に笑ってしまった。
「父の仇」
「すいませんね、アンタと戦うつもりはない」
肩をすくめながら背を向けて走る。
パンサーに背を向けて走るというのは自殺行為に等しいのだが、ATフィールドを背面に展開することでパンサーの攻撃を防ぐことにした。
「逃がさん!」
追いかけようとするブラックパンサー。
「今だ!スコット」
「え?うわぁあああああああ!?」
俺の武器を奪っていたスパイダーマンの近くから飛び出ししてくる何か。
ガスマスクのようなマスクとスーツ。
一瞬で姿を見せていたことから、小さくなっていたか瞬間移動の類だろうか?
驚くスパイダーマンは武器手を手放す。
その際にトリガーが押されてブラックパンサーの方へ光弾が。
「シッ!」
咄嗟にハンドガンをブラックパンサーの方へ撃つ。
パンサーが後方へ下がったことで誤射された光弾は地面を抉るにとどまる。
「このままクインジェットの方へ」
「テロリストめ、逃がさないぞ!」
ウォーマシンが突撃しようとしてくる。
そこへ数本の矢が牽制のように放たれた。
「久しぶりだな、ボーイ」
「……ホークアイ」
弓を携えていたのはソコヴィア事件以降、家族の為にということでアベンジャーズを脱退していたバートンだ。
向こうはニヒルな笑みを浮かべて矢を構えるバートンだが、俺は距離をとる。
すぐ横からナターシャがバトンを構えて襲撃してきた。
ナターシャとバートンが戦ってくれている間にクインジェットまで走る。
「えぇ、何が起こったの!?」
後ろでは巨大な存在とウォーマシン、アイアンマン、スパイダーマンなどが戦っていた。
いつの間にか現れたファルコン、ヴィジョン、ワンダなども戦闘に参加している。
「まぁ、今がチャンス、と」
「逃がさんぞ!」
「アンタはそっちよろしく!」
追いかけてきたブラックパンサーを蹴り飛ばして背後から剣で攻撃しようとしていたドールをぶつける。
ドールは怒りで我を失っているのかパンサーを剣で斬ろうとしていた。
パンサーは鋭い爪で防ぎながらにらみ合う。
クインジェットまでたどり着いた俺はシステムを起動させる。
自動操縦システムで目的地をシベリアに設置した。
「さて」
偶然にもクインジェットに武器がいくつか保管されていた。
一つを手に取って後部ハッチを開ける。
滑走路を走り出すクインジェットを追いかけようとしているアベンジャーズ達。
蜘蛛の糸でこちらを捕えようとしているスパイダーマンをスタンモードで狙撃。
乗り込もうとしているウォーマシンにはATフィールドを壁のように展開して阻止。
アイアンマンがレーザーを撃つも同じくATフィールドで妨害。
そうしている間にクインジェットが空へ舞い上がる。
飛行能力を持つウォーマシン、アイアンマンが追いかけようとしてくることはわかっていたので。
「ごめん、よ!」
「なに!?」
クインジェットから跳んで勢いを利用したATナックルで飛ぼうとしたウォーマシンを殴る。
衝撃を受けたウォーマシンは派手に地面を転がっていく。
その際にスーツの一部がバチバチと火花を散らしていた。
ウォーマシンへアイアンマンが向かう。
彼らが友人であることは知っていた。だから、友人に何かあればトニー・スタークは放っておけない。
「我ながら卑怯な手段を用いたものだよ」
背中につけていたワイヤーを戻しながらクインジェットの中に入り込む。
「無断搭乗は感心しないな」
振り返ると同時にハンドガンを構える。
「シンジ、僕はキミの味方だ」
「俺のことを知らないと言ったのは貴方だ。キャプテン・アメリカ」
いつの間に機内へ入り込んだのか、キャプテン・アメリカとウィンター・ソルジャーの二人が操縦席の傍にいた。
「シンジ・ジャッカー、独りで抱えていても解決はしない」
「……俺に銃口を向けた人のセリフじゃない」
「すまないと思っている。一度失った信頼を取り戻すのは難しいこともわかっている。だが、お前を助けたいという気持ちにウソ偽りはないんだ……」
「シンジ」
銃口を向けるもキャプテンは身構えない。
それどころかこちらへ歩み寄って来る。
「来るな」
「信じてほしい。僕はキミを助けたい」
「だから、来るなって!」
震えながらも俺はトリガーを押せなかった。
手を震わせながら銃を下す。
「俺は、今、誰も信じられない……」
「それでも、僕達はキミと共に戦おう」
「また、後ろから撃とうとしたら今度は容赦しない」
「……わかった」
「目的地はシベリアだ。おそらくライノも邪魔してくる……各自、休みを取っておいた方がいい」
「シンジ、大丈夫、か?」
「どうだろう、冷静のようにみえて激情かもしれない」
「シノのことは……」
「必ず取り戻す」
短く俺は言う。
彼女が死んだ事実など、俺は認めない。
あんな形であったとしても彼女には生きてもらいたい。
それが俺の本心だから。
ヒドラが保有していたシベリアの基地。
アベンジャーズによってヒドラは虫の息。
残りのメンバーはひっそりと、水面下に活動しているらしい。
「施設はまだ生きているみたいだな」
電力をチェックした俺は二人に報告する。
「んで、何でアイアンマンが当たり前のようにいるの?」
「いたら悪いか?ボーイ」
頭部のマスクをスライドさせて顔をのぞかせるのはトニー・スターク。
スティーブが説明してくれたがヴィジョンが密かに彼の記憶を元に戻したという。
そのことで事実を把握して彼がやってきたらしい。
他のメンバーは混乱と負傷のためここに一人できたというスタークに疑いの目を向ける。
「操られていた」
「だろうね、仲間でためらいもなくレーザーを向けられると流石に辛いよ」
「悪かった。だから、これをもってきた」
トニーが指を鳴らすと目の前にガチャンと降り立ったのはジャスティスハンターアーマーだ。
『またお会いできて光栄です。シンジ様』
「エヴァか」
優雅に一礼するアーマーに俺は小さな笑みを浮かべる。
「私が開発したものなのに、倉庫で埃をかぶっていた。驚きだよ。最高傑作をあんなところに放置しておくなど」
『事情把握しています。貴方の為にもう一度、戦います』
エヴァの言葉を嬉しく思い、俺はアーマーを纏う。
「さぁ、行こう」
一歩、踏み出した直後、雪の一部が吹き飛んでそこからライノが姿を現す。
「ジャッカァァァァアアアアアアアア!」
「うるさいな」
ATフィールドを展開して突撃してくるライノを防ぐ。
「ここは俺がやるから、中はよろしく」
「無茶はするなよ!」
「そっちに返すよ」
突撃してくるライノをアーマーで迎え撃つ間に三人は施設の中に入った。
「何で、お前がここにいる?」
ライノをシンジに任せて中に入った三人を出迎えたのはドールだった。
驚くスターク達の前でドールはため息を零す。
「どうしてこう、思い通りにいかないのやら、折角、神様が用意してくれたのにさぁ」
面倒だというようにぶつぶつ呟く姿はスタークの知っているドールと大きく異なる。
おそらく、これが本来の姿なのだろう。
濁った瞳でぶつぶつ悪態をついている彼の姿にスティーブとスタークは戸惑いの表情を浮かべてしまう。
「だからさぁ、神様に頼んでリセットしてもらうよ……」
ドールの漏らした言葉に三人が身構えた直後、初老の男性が背後から現れるとともに杖を振るった。
「さ、本当のシビル・ウォーの始まり……ってきたのか」
「お前、何をした」
ライノを撃退してやってきたシンジが見たものはアイアンマンがキャプテン・アメリカとウィンター・ソルジャーが戦っている。
たった短い間に何が起こったのか理解ができず、アーマーの中で戸惑いの声を漏らす。
「フン、貴様が招いたことだ」
「アンタ……」
シンジは初老の男性に見覚えがあった。
あの時と比べるとみすぼらしい姿になっているがシンジを転生させた自称神様だ。
「これもすべて貴様のせいだ。あの時、余計な邪魔が入ったが為に力のほとんどを失い、こんな借りものの体を用意しなければならなかった……先ほどまではジモとか、ネモとかいう奴の体を借りていたのだがな」
悪態をつく神様とやらの前にドールがコズミックソードを構える。
「お前さえけせば、俺がオリ主になれるんだよ。だから、邪魔者は消し去る。ほら、簡単だ」
「いいや、簡単じゃない」
ドールの言葉をシンジは真っ向から否定する。
「お前がどう考えているかなんて興味はない。だけど、生きるってことはそんな簡単なことじゃない。お前らみたいな存在が、お前らがシノを消し去った。だから」
ドールと自称神様は気づかない。
シンジの瞳がうっすらと紫色に輝きを放ち、オーラのようなものがジャスティスハンターアーマーを通して纏っていた。
「消えろよ、踏み台!」
振るわれるコズミックソード。
今までATフィールドを貫いてきた刃なら確実にアーマーを傷つけると二人は考えていた。
しかし、大きな音を立てて刃が弾かれる。
「はぁ!?」
「なんと!?」
驚きの声を漏らす二人の前でアーマーの肩からミサイルを連射。
ミサイルの衝撃で吹き飛ぶ自称神様。
顔で瓦礫などが飛来しないように防ぎ、コズミックソードを振るおうとした。
眼前にシンジが現れる。
「なっ」
回避する暇もないまま、シンジの拳がドールを射抜く。
吹き飛ぼうとしていたドールの腕を掴み、引き寄せてさらに殴る。
アーマーの拳が顔に一発、二発、三発、四発と何度も振るわれていく。
「こぉのぉ、踏み台風情がぁああああ!」
起き上がった自称神様が杖を振るおうとした。
振り返らずにアーマーの腕からヒートエッジを射出。
刃が自称神様の腕を切り落とす。
うめき声を漏らす自称神様。
隙をついてコズミックソードがアーマーを抉る。
『装甲にダメージ、システム70パーセントまでダウンです』
「問題ない」
ATフィールドを拳に纏いながら殴る。
「この、なんで、おれがぁ、俺が、こんなめにぃ」
「現実をみないからだよ。クズ」
いつものシンジとは思えない、ぞっとするほどの低い声と共に振るわれる拳がドールの頭を叩き潰した。
びくびくと痙攣する体。
「灰にしてやるよ」
アーマーから火炎を放射して体を灰に変える。
「さて、次はアンタだ」
腕を抑えながら呻いている自称神様を睨む。
睨まれたことで悲鳴を漏らしながら怯える自称神様。
自分の用意したドールが無残な姿にされて、灰となった光景を見せられたことで傲慢な表情は失われて、恐怖に包まれている。
「た、助けてくれ!」
「命乞いか?」
「た、助けてくれたら!死んだ、死んだ女を生き返らせてやる」
「口ならなんとでもいえるよな?」
ジャスティスハンターアーマーの武装を全て展開する。
オールファイヤの手前だ。
「ほ、本当だ!」
「だったら、すぐにやってみせろよ」
「え?」
「どうした?できないのか、だったら」
「や、やる!やるから!」
自称神様は震えながら何かを呟いた。
理解できない言葉を終えるとシンジを見上げる。
「や、やったぞ」
「エヴァ」
『インターネットにアクセス、確認……シノは生きています』
「そうか」
片方の無事なヒートエッジを展開する。
熱を放つ刃をみて自称神様は悲鳴を上げた。
「た、助けてくれるんじゃないのか!?」
震える声で叫ぶ自称神様にシンジは紫色に染まった瞳で笑みを浮かべる。
「誰が、助けるなんて、いった?」
直後、施設の中に自称神様の悲鳴が響き渡った。
あれからのことを話せば、死んでいたシノは生き返り、俺の罪は……覚えのない罪はきれいさっぱり消えた。
その代償はとても大きかった。
アベンジャーズ内乱と後に呼ばれることになるこの事件によってキャプテン・アメリカ、スティーブ・ロジャースを含む数名は戦犯者とみなされて、世界で指名手配されることとなってしまう。
スティーブはバーンズさんを連れて、ワカンダへ亡命した。
どうやらウィンター・ソルジャーとしての洗脳は消えていなかったため、洗脳を打ち消す方法をワカンダで見つけるのだという。
大きすぎる代償だ。
「……本当に行かれるのですか?」
荷物をまとめたところで室内にヴィジョンがやってくる。
「ごめん、俺が引き起こしたことで……アベンジャーズを分断させてしまった」
「それは、違うと思います」
ヴィジョンは首を振る。
「貴方がいたから、今までアベンジャーズは大きな争いもなくやってこられた……少なくとも私はそう感じています」
「ありがとう、ヴィジョン。また、戻って来る」
「えぇ、貴方にチェスの勝負は勝ち越されているので、次は勝たせてもらいます」
「それまで腕を磨いていてくれ」
「……そういえば、聞き忘れていましたが、どこへ向かうのですか?」
荷物をまとめた俺にヴィジョンが問いかける。
「あぁ、ニューヨークだよ」
「これで、これで、わしの恨みを晴らしてくれぇ」
宇宙のとある空間。
見るも無残な姿になっている自称神様の手の中にはザンダー星から盗み、ドールへ与えていたインフィニティー・ストーンの一つ、パワー・ストーンをある人物へ差し出していた。
「噂で聞いた、アンタはこれを欲しているのだろう?これを与える代わりに」
口の端から泡を零しながら自称神様は目の前の巨漢の男へ石を差し出す。
「成程」
男は石を受け取り、片腕に装着されている金色のガントレットのようなものへ装着する。
磁石のように石は男のガントレットへ取り付けられた。
その姿に自称神様は笑みを浮かべる。
「では――」
「お前は用済みだ」
腕を振るうと自称神様は灰になって消滅する。
まるで元からいなかったかのような光景にガントレットを撫でながら感嘆とした声を漏らす。
「さぁ、はじめよう」
”サノス”はそう呟いて歩き出す。