戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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夜明けの空

「天龍!」

 

叫びながら艇を加速し

タ級の注意を惹く

 

「龍田、このまま寝とけ」

 

「…悔しいけど、仕方ないわね〜」

 

龍田は行動不能判定

戦闘には出せない

 

突然格闘始めたタ級には驚かされたが、やはり冷静さを失っているだけだ

その証拠に、接近した俺の艇に惹かれて追いかけてきた

 

それも、天龍を置いて

 

格闘戦でマウントを取っていたはずの天龍を放置してまで艇に追いすがるなんて、愚かとしか言いようがない

 

「バカめ…この艇に追いつけるものか!」

 

タ級の最高速らしい速度に

きっちり合わせて移動して

 

相対速度を合わせる

着かず、離れず、距離を保って

砲撃がギリギリできないエリアにとどまる

相手はがむしゃらに追ってきているが、

それで追いつけるはずもない

 

しばしレースしながら

天龍の復帰を待ち

 

「おし!オレ復活!」

 

「よく言った!」

待ちわびた、声を聞いて

天龍の居る場所までタ級を誘導する

 

「よし、、よし、、」

 

輝那は使えない、

撫子も最低レベルしか励起していない

これを覚醒させるのは今の俺には無理だ

 

なにせ資材エネルギーの消費が強すぎて倒れそうなのだ、膨大なエネルギーを使う撫子は使えない

 

川内も不可、瑞鶴は夜戦ゆえに使用不能、五月雨は…適合率不足で不可能

 

天龍の力に期待するしかない

 

「よぉ、タ級…さっきぶりだなぁ!」

 

「シネ…死ネェェッ!」

 

天龍が改放、『天龍改』となって

再来する

 

半狂乱のタ級は、しかし移動しながら正確に攻撃を繰り出して来た

「っ!なんつースピードだよ!」

 

おそらく38ノット

桁外れのスピードだ

 

まぁ、避難艇や最速の島風には及ばないが

 

天龍は果敢にもクロースコンバットを挑み

「はぁぁあっ!」

「ゼェエェア!」

 

提督としては止めざるを得ない殴り合い

いや、天龍は刀で受けているから合いではないかも知れないが

 

「龍田!提督!こいつは…オレ一人でやる!」

 

威勢良く良い切った天龍

ならば、止めることに意味はない

「そうか、わかった」

 

龍田を寝かせたまま移動して、少し離れる

だいたい、一キロほど沖側だ

 

万一間違っても射程外、問題ない

ってくらいの距離

 

「天龍…ちゃん!」

 

「龍田!大人しくしろ、死にたいのか!」

「死んでも!天龍ちゃんを置き去りになんてしない!」

 

叫びながら必死に体を起こそうとする龍田の肩を掴んで、強引に押し倒す

 

「良い加減にしろ!さっきから天龍天龍!騒いでんじゃねえよ!お前が一番天龍のことを解ってやんなきゃいけねぇのによ!」

 

「何も知らないくせに!勝手なことをいわないで!」

 

「あぁ何もしらねぇさ!お前の事はな!だが天龍は別だ!魂の叫びを聞いた!あいつはお前を生き延びさせるために戦場から遠ざけたんだ!」

 

「嘘よ!そんなの!嘘に決まってる!

天龍ちゃんが私を遠ざけるなんてあり得ない!」

 

「ありえるよ!お前が大切だから!

傷つけたくないから!お前を生き延びさせるために退かせたんだよ!」

 

「嘘、、嘘よ、嫌、嫌いやいや!

いなくならないで!天龍ちゃん!」

 

「龍田、おい龍田!おい!!」

 

大声で呼びかけて、焦点の合わない目で何処かを見つめている龍田を目覚めさせようとする

 

「いやぁぁあっ!」

 

龍田は叫び声を上げながら

主砲を()()させ、

 

「…ぁ、、てぃ、とく…?」

 

自分が破壊したものの正体を知った龍田は

双眸から涙を溢した

「…こりゃ、、俺も年貢の納め時…かね」

 

右腕、全損

右足の膝から腰元にかけて重度の欠損および熱傷、一部炭化すらしている

もはや痛みすらない

 

「龍田…気にすんな…誤射や暴発は…単なる事故だ…不幸にも…一名死亡した………それだけのことだ」

 

縺れる舌で、必死に発音する

 

ゆっくりと、確実に死に向かう体を

無理矢理に操り、無事な方の左腕を動かし

 

「 ぇ…」

 

龍田の髪を撫でる

 

「やっぱり、いい髪だ…、ありがとう」

 

艇が揺れて、姿勢が崩れる

この脚では

態勢を維持することすら出来なくて

無様に転んでしまう

 

目から涙を溢れさせている龍田の涙を拭おうとして、もうほとんどない寿命を、さらに半分ほどにしてしまったけど、あまり変わらない

 

「なくなよ、龍田、

お前は…いきのびろ」

 

 

それを最後に、返事も聞けずに

俺の意識は暗転した

 

あぁ、最後に涙を拭わなければ、

その返事は聞けたのだろうか

 

そんなことを考えながら

 

俺は死んだ

 

暗転

- in to the night-

 

 

「…あら、もうこんなところに

来てしまったの?」

 

女性の声が聞こえる

 

誰なんだ、

 

「私?…さぁ、誰かしら」

 

甘い声は、しかしとても優しく

聞いているだけで、蕩けそうになる

 

「うふふ、私はわたし、だって

ここには誰もいないんだもの」

 

蠱惑的に微笑う声、

 

「ここにはまだ、あなたが見ることのできない物が多いの

それは、私も含めて、ね

 

だから、あなたはまだ

ここに来るべきではない」

 

劇的な口調で、オペラのように歌い上げる彼女は、最後に再び微笑い

 

「ほら、手を貸してあげるわ

あなたも早く、()()()()()

 

 

- turn to light-

明転

 

「ていとく、、ねぇ、ていとく

嘘でしょう?死んじゃうなんて…嫌よ」

 

誰かの声が聞こえた

 

それはとても悲しげで、

胸の詰まるような悲愴感を漂わせた声

 

その声の持ち主は

 

「…龍田…俺は、まだ、死んでねぇぞ」

 

そう、龍田だ

 

「サービスよ、

腕の方は直しておいてあげる」

 

また、あの声、

だが、今度ははっきりとわかる

 

ありがとう、姉さん

 

「龍田、いいか、お前はここで

見届けなくちゃならない、天龍の戦いを」

 

「無理よ、天龍ちゃんは改二をもっていないのよ!?フラグシップの戦艦相手に勝てるわけないじゃない」

 

再び泣きそうになる龍田の体を抱きしめて、落ち着かせる

 

「大丈夫、大丈夫だよ。

お前が信じずに誰が信じるのさ」

 

「ほら、見届けよう、天龍の戦いを」

「…はい……」

 

ゆっくりと移動し、戦闘圏ギリギリまで近づいて、戦況を見る

天龍は中破、

対して怪物化したタ級は一見無傷

 

「こりゃ、マズイか?」

 

「提督っ?!」

さっきと言っている事が真逆よ!

と俺にすがりついて来る龍田

 

「ふふ、見てろよ龍田、提督、

こっからオレの逆転劇がはじまるぜぇつ!」

 

声を上げながら刀を構えて

再びの突撃、撃ち合い、

十合と数えないうちに弾かれる

 

しかし、天龍は折れず、幾度も立ち上がり、刀を構え直す

 

次第に傷は増え、動きは鈍る

 

しかし、その黄金の瞳に宿った炎は

決して消えることはない

 

「うぉおぉっ!」

「ゼェェェッ!」

 

裂帛の一声と共に、幾度撃ち込んだだろう、幾度弾かれただろう、

汚れ一つなかった服は

もはや元の色がわからないほどに汚れ果て、擦れて色褪せ、破れている

 

刀も鍔鳴りがひどい、

茎が固定できていないのだろう

 

血にまみれ、もはやロクに動く事も叶わないはずの艤装で、しかし、一刀を撃ち込む

 

タ級もそれを受けて、弾き

受けて、また弾く

 

揺らぐ海面は、どちらにも先を示さない

 

「うぉぉおおっ!」

「ウォォォオッ!」

天龍は、力負けを強引にスピードで補い

鍔迫り合いに持ち込んだ、

 

「絶対に…競り勝つ!」

「負ケ…ナイイイイッ!」

 

決着は唐突だった、

 

 

天龍の刀が折れたのだ

「………!」

 

「ヤベっ!」

「シネェェエ!」

 

タ級の拳が振るわれ

天龍はそれを回避する

 

「天龍ちゃん!もうやめて!」

 

今度ばかりは、止めるわけにもいかない

刀無しでは、流石にあいつには勝てない

 

「天龍!もういい下がれ!」

 

「提督、、龍田…言ったろ?

コイツはオレ一人で倒す!」

 

折れた刀を放り捨て拳を固める天龍

 

その覚悟には、一片の曇りもない

 

「撤退申請よ!これ以上は持たないわ!」

「…その申請は受理できない、

天龍!夜戦継続を、許可する!」

 

「うぉっしゃぁあ!」

 

主砲も魚雷も無視して格闘を始める天龍

タ級を相手に、今度こそ殴り合いだ

 

「ぐぅぁあっ!」

「フゥェエア!」

 

殴られても、殴られても

拳は鈍らない

否、切れ味など最初からない

 

ただただ殴り合う二人

そう、これは

炎を撒き散らし、フラグシップの光も

天龍改の艤装も、

全てを無視して

行われる殴り合い(意地の張り合い)なのだ

 

「ぐがぁぁっ!」

 

天龍が弾き飛ばされ、

改が解除されてしまう

 

「天龍!」

 

「まだだ!提督っ!」

「天龍ちゃん!撤退してっ!」

 

天龍の制止と、龍田の要求を秤にかけて

 

「…天龍、、やれるんだな?」

「あぁ、勿論だぜ!」

 

 

「その言葉を信じる事にしよう、」

 

俺は対深海棲艦用据え置き武装の使用を諦め、艇を停止させる

 

「提督うっ!」

龍田に首に縋り付かれながら、

俺は天龍に視線を送る

 

「龍田、さっきも言ったぞ

天龍を信じろ、アイツは見栄は張るが

嘘はつかない、少なくとも、

俺はそう信じている」

 

「……そう、…天龍ちゃん!

信じて待ってるから!必ず帰って来てよ!」

 

 

先に動きを止めたのは、天龍

タ級から距離を取り、

 

語り始めた

 

「ハハ…艦娘ってのは、

想いを力に変えるんだ…深海棲艦には分かんねぇかも知れないけどよ、

オレは全く幸せだよ、

信じられる提督がいる、俺を信じてくれる妹がいる、軽巡としての居場所がある!

こんな条件で闘志が湧かねぇ筈がねぇよなぁ!」

 

眼帯で塞がれた天龍の左目から、

濃紫のオーラが湧き上がる

 

「…燃え上がれ…オレの魂!

第二解放!!

『天龍改二』!!」

 

一秒過ぎるたびに輝きを強めるその眼は

もはや眼帯など意味をなしていない

 

右の黄金の瞳、左の濃紫の瞳

オッドアイ(虹彩異色)

言葉にすればそれだけ、だが

天龍にとっては、その一言には収まらない

 

「これが!(龍田)との!提督との!絆の力だ!」

 

漂うオーラを振り払って

天龍改二が顕現した

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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