ダブルスタンダード
「さーて、大和さん入魂中の待ち時間だが
………ついにゲームキャップか」
いわば
あぁ、思い出しちゃうじゃないか
あの冒涜的な怪物どもの容姿を…
「まぁあれは置いときまして
大和さん、ついに自分が鎮守府に着任するんですがどうおもいます?」
「………あれ?」
応答がない、何故だ?
壁にかけていた大和撫子はまったくもって応答せず、揺らしても撫ででも変わらない
「大和?宇宙戦艦?おーい!」
ダメだ………
普段のように握ってみても
危ないから控えたけど軽く振ってみても
大和撫子からの反応はない
そして
「大和型戦艦、一番艦、大和。
推して参ります」
扉の向こうからそんな声が聞こえた瞬間
俺は大和撫子を鞘に納め、壁に戻す
1秒程の時間ののち、ガチャ、と扉が開き
「初めまして、提督…大和型戦艦ネームシップの大和と申します、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく
俺は創海鎮守府提督、神巫蒼羅少佐だ」
「はいっ!………」
にっこりと笑顔で応じてくれた大和
そして、
「実は提督…」
「茶番は終わりだ」
「…早すぎですよ、提督」
「お前大和撫子の大和だろ」
俺が指摘すると、大和は優しく笑い
「その通りです、よく気づいてくれました」
とスカートを揺らしながら一回転した
「人型は少々難しいところもありますが
人型でしか使えない所もありますから」
[さて、お風呂あるんですよね!]
精神リンクから話しかけられる
どっちもOKなのか
そして何故
俺を女湯へ引っ張り込もうとするのか
「提督を離したくないからです!」
「俺は尊厳を離したくないです!」
パワーが高すぎて引きずられる俺は
そのまま抵抗むなしく大浴場
(ドックではない)に放り込まれ
「提督っ!?何考えてんのばかー!」
「コレが随意的な動きに見えるか!」
派手にタイルで滑りながら着地、
目を閉じて…
「大和!バカ!いくらはしゃいでいるからと人を投げるな!」
「はしゃいでなければいいんですね!」
「止せと言っている!」
目を閉じているため、なんとなくしか周囲を把握できないが…大浴場の構造は着任時に見た見取図で把握済み
体感速度と空気の質からして、脱衣所過ぎてすぐ、約2メートル
「ってかすまんな蒼龍、迷惑をかけた」
「!見ないでっ!」
「見てない…それに見えない」
目を閉じているし、そもそも川内が頭の中で騒いでいるし、視覚はない!
今の死角じゃなくて視覚ね?
「朝風呂に邪魔が入って悪かったな
……ちゃんと責任は大和に取らせる」
「…提督がとってよ」
「
ぼそりと聞こえた何かの呟きは聞こえなかったことにした、さて、エクスカリバーの時間だ
ひたひたとタイルを歩く音がする
人型に慣れている動きだが…よし
音の反響を捉えた!
頭の中でエコーロケーティングを行い
周囲の環境を再想起、見取図と合わせて
「よし、マッピング完了!」
地面に転がっていた石鹸を拾い
「床がただでさえ滑るからな、とりあえず石鹸に置き場を用意しておくか…」
「あのー、提督」「とでも言うとでも思ったか!」
石鹸シュート!
九一式徹甲乳の装甲に命中!
同時に俺は走り出し…慌てた大和が進路を塞ごうとして移動する瞬間
俺の左手が腰に伸び、
ベルトに結ばれた金剛のリボンが空を舞う
それは地面に落ちた石鹸を弾き飛ばし、床を滑っていく石鹸が摩擦率の著しく低い地帯を形成する
そこに足を乗せた大和は体重の移動を制御しきれず
「きゃああっ!」
派手にすっ転ぶ、そのタイミングで
「…アデュー!」
大和の頭上を飛び越えて脱衣所の床に設置されているマットに着地、バランス型戦艦の大和を出し抜いた達成感を味わいつつそのまま外に出て目を開き…
「提督?何やってるの?」
底冷えする声とともに
鈴谷に鉢合わせた
「詳細は後で説明させてもらう、
簡単に行けば大和に投げ込まれた」
「……ふぅん?ならさ
これはどう言い訳するの?」
鈴谷が胸ポケットから出したそれは
「アイフェーン?」
「そそ、最新の13…違うし!そんなこと言ってるんじゃなくて中身の方!」
途轍もない勢いで動いた鈴谷の指が
ロックを解除し、カメラから画像を展開
「ここにニヤニヤしながら女湯から出てくる提督の姿が撮られてるんだけどさぁ?これ、鈴谷が憲兵さんに渡したら
提督どうなっちゃうかな?」
「昨日言ってたのは事実だった…だと」
「ねぇ提督?鈴谷欲しいバッグがあるんだけどさぁ」
「唐突だな、それとこれとは別問題だ、俺は例えお前に脅されてもお前のために金を不正使用はしない」
「なっ!硬ぁっ、表情筋どころか全身ガチガチになってるし!」
意図的に表情を消して目の光をごまかす
殺意のとともに、悲痛な顔を作って
「そうなったら俺は…お前を解体せざるを得ない…」
使いたくはないが…感を演出することで
使えるのではないか?
自分は分を超えた領域に足を突っ込んでいるのではないか?という恐怖感を与える作戦だ
「…ちょ、ちょっと提督?
冗談にマジレスやめてよ…ハハ、ほら消した、消したから」
微妙に引きつりを隠せていない声で
動画消したアピールを始める鈴谷
必死だな
「そう簡単には行かないんだよ鈴谷
すまないが、上官脅迫は軍規違反甚だしい、厳重な処罰が降るだろう
もしかしたら、解体もあり得るかもしれない」
「ひっ…やだ……」
「さて、新規ドロップ艦鈴谷の報告書を提出しなくてはいけないので失礼する」「待ってえっ!」
ぎゅうう!と俺の第一種軍装の裾を掴んでくる鈴谷
「なんだ?どうかしたか?」
「捨てないで…解体はいや…」
「…………お前は何を言っているんだ?
俺は新規ドロップ艦の報告書を出すだけだぞ?誰がお前を解体なんぞするものか」
優しく髪に指をかけて、その滑らかな感触を確かめながら一撫で
「んじゃ行ってくるよ」
「……〜〜」
なんも言わないんかい
[ばかばかばかばか!なんでそうやって的確にフラグを立てていくの!?バカなの?(うしろから刺されて)死ぬの!?]
[死ぬ気はないしそこまで的確に死亡フラグを判定できるわけじゃない、俺はフラグ感知技能なんて持ってないぞ]
俺は川内と瑞鶴相手に口喧嘩しながら
執務室に戻って作戦報告書をまとめ始めた
提督side out
大和side
キガ ツク トワ タシ ハカ ンム スニ
ナッ テイ タ
なんて茶番は置いておいて、
私は『大和』
日本海軍の決戦兵器にして最大最強の戦艦
と呼ばれるのは良いですけど
ただ寝ているだけ、だの資源ばかり取る
だのともいわれますし
「さて、目覚めたは良いですが
私の刀の方は提督に心配されてしまっているようですね…これは…そうですか」
提督の精神、その最奥部
おそらくは私のリンクとはズレた部分から
僅かに伝わってくる焦燥と恐怖感
そして堪えようもない孤独
そう、彼は鎮守府にいながらにして孤独に蝕まれているのです
「提督…そうですね、それなら」
もとより女性恐怖症に近い
忌避反応を持っている提督、それが僅かながらも壁となって消極的、敬遠的な反応を取らせているのだとしたら
それはすれ違いと不信の種になる
彼は
別の女性を認識させて、私から
自然に別の人物に近づけさせて
心をゆっくりと『慣らし』『馴染ませる』
ことで忌避を軽減できるはず
よし!作戦は決まりました
朝風呂に来ている子たちの中に
戦艦、空母系がいることを祈ります!
「大和型戦艦 一番艦、大和。
推して参ります!」
私は初対面を装って表情と雰囲気を作り
提督に話しかけました
600話記念番外編は
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過去編軍学校
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過去編深海勢
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裏山とかの話を
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テンプレ転生者(ヘイト)
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ストーリーを進めよう
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戦争が終わった後の話を!
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しぐ……しぐ……