戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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ロングスリーパー

「…提督、提督、もう寝ているかしら?」

 

軽いノックとともに、控えめな声

「空母棲鬼か…入ってくれ」

 

「じゃあ、失礼するわね」

俺はぼんやりしていた意識を急速に覚醒させ、布団から起き上がって

空母棲鬼を迎え入れる

 

「すまないな…半分眠っていた」

「この時間だもの、仕方ないわ…むしろ

こんな時間に部屋に来るのが非常識よね」

 

「いや、気にする事はないよ…

用件はなんだい?」

「……」

 

俯いて黙り込む空母棲鬼

「どうした?」

「あぅ…その、笑わない?」

「何をだ?」

 

「…その、ね、秋の夜って、急に

背中がぞわって来たり、しない?」

 

枕を抱えて何をいうかと思えば

深海棲艦(オカルト存在)が心霊話か?

 

「その…一人で寝るの、怖くて」

「わかった、付いていてやるよ」

「ありがとね」

 

俺は避難用の寝袋を探し始め、程なくして見つけた頃には空母棲鬼は俺の布団に包まっていた

「…これなら、怖くない…」

小声で呟く空母棲姫、

 

そうですか、怖くないのはいいけど俺の布団占領してるんですよそれ

 

「ってかレ級はどうしたよ」

「あの子はへ級の方に行っちゃったの」

 

俺の布団の中から答えて来る空母棲鬼

「いつもは…もっと…はやく……」

 

途中で言葉が途切れる

眠ってしまったようだ

 

そっとしておこう

 

寝袋寒っ!…高い断熱性とか嘘だろ

これで15000はボリすぎだぜ…

 

さっむ!

 

 

そして、翌朝

「俺はなんで空母棲鬼に抱えられてるんですかね」

 

寝袋は抜け殻の様に床に放置され

俺本人だけが空母棲鬼に抱えられていた

 

どうすればいいのか

そもそもどうやって寝袋から

俺本人だけを抜き取ったのか

 

「しかし…基礎体温が高いのかな

ちょっとだけ温かいな」

 

少し前の電の気分が少し分かった気がした

なんでくっついて来たのかは知らないが

取り敢えず割と気分が良い温度だ

 

[……]クワッ!

いや目力強い、何を強いられたんだ?

川内がなにかを強いられているかの様な目力とすごく力の入った『私怒ってます』ポーズでサイレントお叱りしてくる

 

何を言ってるのかわからねぇと思うが

安心しろ、だいたい伝わってる

 

 

[伝わってるなら離れろおーっ!]

[謎の命令形?…そもそもさぁ

骨がギリギリ言ってるレベルの圧力で締め付けられてんだけどどうやって抜ければ良いの?]

 

俺が脱出しようとすると的確に圧力がかかってお骨がギリギリ鳴るんだけど…取り敢えず助けて

 

[司令官さん…?][五月雨か、疑問符浮かべてないで助けて]

 

俺は嫌な音を立てている全身の骨を可及的速やかに労わるために五月雨に助けを求め

 

[ごめんなさい、そこまでいくと

私にはどうしようもないです]

すげなく、いや悲しげに断られた

 

[俺死ぬ?]

[…川内さんがなんとかしますよ…]

[ちょっとっ!?丸投げしないでよっ

こっちは夜戦してないと活力が湧いて来ないんだからねっ!]

 

お前は夜戦ジャンキーか

[夜戦キメてるのか]

[えへへ、夜戦してるとね…

波を見てるだけで…楽しいのよ…

じゃないっ!そんな風に言わないで!

ってか提督は早く抜け出して!]

 

[お前は本当にそういうところがあるから一瞬ちょっと心配したぞ怖いなぁ]

[いくら私でもジャンキーはちょっと

夜戦好きなのは確かだけど

提督程じゃないし…]

[俺はそこまで夜戦好きでもないんだが]

 

[……うん、提督はそれで良いと思うよ(その鈍感に感謝する日が来るなんて)

 

[なんだっけ?]

[っ!うるさいうるさいっ!早く抜け出してっ!]

「だから俺に死ねと?」

 

「…ん……」

 

[[あっ]]

つい声が出てしまったせいで

空母棲鬼が起きてしまったらしい

 

ごめんよ空母棲鬼

「…てい、とく…?」

 

「…ドーモ」

「………」

無言で再び目を閉じて寝入る空母棲鬼

 

もちろん俺はそのまま

 

「………………」

「…………」

 

しばし沈黙の時が流れ

ぎゅっ、と腕の圧力が強まる

 

「…やっぱり、夢じゃない」

「夢だと思ってたのか?!」

 

ツッコミを入れながら離す様に要求して

「……今なら、提督と…一緒に居られる…今だけでもいいから…一緒に居て」

 

どうやら諦めざるを得ない様だ

「…仕方ないか、7時までだぞ

7時にはだれか起こしに来るはずだ」

「…分かった…」

 

そこからは空母棲鬼の独壇場である

 

もふもふもふもふ、と俺の髪の毛をいじり

撫でて、中途半端に整えてみたり

凄まじい技量で髪を梳かして

相応について居たはずの寝癖を消したり

 

髪いじりに飽きたのか俺の体を抱えたまま布団の中で転がったり、

それこそやりたい放題だった、

 

しかし、そんな時に限って早く過ぎる

 

「せーんぱいっ!起床時間よー…っ!

何が起きてるのか説明して、早く」

 

満面の笑顔で飛び込んできた陽炎が一瞬で能面もかくやの無表情に変わり

 

底冷えのする暗い声で詰問して来る

「…にゃんにゃんしてたの?!ねぇ!

してたんでしょ!私知ってるんだからっ!」

 

盛大に誤解している…

あれ?これ昨日もあったような

 

「…うふふ、お子様に本当にわかっているのかしら?」

俺を抱えたまま空母棲鬼が微笑う

 

というか声音的に『嗤う』

 

「私たちがしてたのはぁ…駆逐艦のお子様にはわからない様な事よ」

 

「なっ!分かるし!駆逐艦でも後期型だから分かるし!」「むしろお子様が中途半端な知識で知ったかぶりで出しゃばってるだけでは無くて?」

 

煽っていくー!盛大に煽っていく!!

 

「じゃあ何してたってのよ!」

「類推できない様ではそれこそお子様ね

…うふふっ」

 

まさに深海棲艦…と思える

邪悪な微笑みとともに

俺を抱えていた腕を離し

抱え方を変える

 

ペットを抱える様な固定優先の支え方では無い、優しく、しかしどこか強く

体を当てることを優先する様な抱きつき

 

「こんなこと、お子様は知ってたかしら?」

「……(助けてー陽炎助けてー)

 

「司令が助けてって言ってるでしょ!

離しなさいよ!」

(よく言った!)

[ふーん、へー、ほー]

 

川内のやる気のない声と攻撃的な視線が俺を突き刺す!俺は50のダメージを受けた!

 

「あら、ごめんなさいね…提督

そろそろ朝ごはんかしら?」

「無視しないでよっ!」

 

完全に陽炎を手玉に取っているな

まぁ離してくれたのはありがたい

 

「さて、陽炎、空母棲鬼…取り敢えず

朝食と行こう」

 

また鳳翔さんと間宮さんのねっとりした笑顔で死にそうになりながら朝食を取り

 

空母棲鬼がまだ食べ終わらないうちに

可及的速やかに席を立ち、

そのまま陽炎ごと置いて逃げ去る

 

「すまんな陽炎、大義のための犠牲となれ」

 

くっつくのはいいが謎の対抗心やら何やらで問題になっても困るからな

あとで空母棲鬼には釘を刺しておこう

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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