戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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対策と傾向

「はい!榛名は大丈夫です!」

「いいえ、提督は大丈夫じゃありません」

 

俺は執務室に移動して榛名に

研修着任に纏わる雑事や教導官などの説明を始めようとした瞬間に、かなり無理をした表情の榛名に迫られたのだった

 

「提督!大人しくしてください!」

「できるかっ!」

 

背骨をゴリゴリと机で擦りながら榛名の肩を押して抵抗して、艤装付き状態の榛名の、初期型高速艦とはいえ戦艦故のパワーには勝てずに

少しずつ押し込まれて

 

体勢を崩す寸前に

「ひっ!」

急に、榛名が引いた

 

「…ふぅ…」

「も、申し訳ございませんでした!」

 

「落ち着け榛名、別に責めはしない」

ゆっくりと体を離して、机を迂回して

席に座り、

 

「すぅ…はぁ……」

一度深呼吸して落ち着く

 

まずは書類を渡し、初期教導として

大淀をつけておく

 

最初にやるのは秘書艦業で悪いな

執務のできない艦娘なんて笑えないから、その辺り重点でやらせてもらう

 

「榛名は大丈夫です!」

「そうか、それじゃ頑張ってね」

俺は執務室を大淀に任せて外へと出て

 

榛名の艤装を工廠へ運ぶ

タービンの開発はどうやら日の目を見たらしい、静まっている工廠の床に艤装を置いて

 

「さぁ、メンテだ…」

金剛型とはいえ、出身地の違う榛名は

金剛とは全くもって別の構造をしていると考えた方が良いだろう

 

各種レンチ、杭、鉋、ヤスリ、ハンマー、グラインダーなど、使用するものを用意して

工廠の一角に再配達する

 

そして

 

 

「始めよう」

 

まずは分解だ

兵装構造設計図(ユニットメイク)は既に用意されている

あとはそれに従って分解して

再構成するだけだ

 

「メチャクチャだなこれ…」

榛名の艤装は、外見は整っているものの

中身を見れば一目で適当に処理されているとわかるような状態だった

 

これはひどい、全くもって粗雑だ

専門知識を持つ者が見れば悲鳴をあげる

そんな状態だ

 

長門の時のような無精では無い

あれは修理を必要として無いがためにメンテもサボっていただけだ

こちらは壊れた後に無理やり回線をつなぎ直して強引に動かしているようなもの

修理者は規格電圧やヒューズというものを知っているのだろうか

 

「交換祭りな」

榛名も強引な処置が施された艤装をずっと使っていればなんらかの異常が出ていてもおかしくない、心配だ…

 

三時間後

 

「新規パーツとかまで作る羽目になるとは…金剛の予備パーツが流用できてよかった」

 

ぐーっ!と伸びをしながら

口を開く

 

まぁ予備パーツは重要だよまったく

こんな突発的事態にまで対応が効くし

姉妹艦のパーツ流用は本当はあまり良く無いんだけどな、本来パーツは本人にアジャストされたものだし

 

流用のできるパーツはあるけど

あくまで急場凌ぎのようなものだ

「そもそも同規格の同パーツなら使い回しも効くんだがな」

 

類似規格の一部同パーツを相互流用、というのはたまには聞く話だ

 

「さて、榛名の初期教育は終わったかな?」

「はい!榛名は大丈夫です!」

 

 

「っ?!」

「提督、榛名さんの覚えが想像以上に早くて、もう全部覚えちゃいましたよ」

大淀に連れられて工廠に来ていたようだ

 

「んなばかな!新任提督が教習半年間で覚えるようなものだぞ!たかが数時間で終わるはずないだろ!」

「それができてしまうんですよ」

 

大淀の目に、冗談はない

つまり、そうなのだろう

 

「わかった、君は予想以上に優秀だったようだ…これからも頑張ってほしい」

「はい!榛名、頑張ります!」

 

とはいえ、無理をしやすい性格であることは判明している、こちら側が配慮しなくては

 

「向こうの提督に示しがつかないな」

 

そう、口に出した瞬間に

榛名の顔に強く怯えが浮かぶ

 

「…大淀」

「………はい」

 

まぁ、わかるよな

かつて自分の体験したことだから

「ブラック…調査に入ろう」

「了解です」

 

最低限の情報で相互に合図しあって

一応の合意を取る

 

「さて、基礎講座が終わったなら実践だ…とはいえ今日一日中の予定だったし

掃除とかも特にない、

やるべき仕事は割り振りが終わってる

…よし!駆逐艦寮に行こうか」

「ふぇっ!?駆逐艦ですか?」

 

「何を驚く、駆逐艦だよ駆逐艦

さて、子供のエネルギーに勝てるかな?」

にやり、と笑いながら視線を向けると

 

「っ!…はい!榛名は大丈夫です!」

 

やっぱりか、嫌なら嫌と言えば考え直すよ?

 

[まぁそのあと、特に何事もなく駆逐艦寮前に着くんだけどね]

[黙れ川内、今はお仕事中だ!]

[別にメンテ中じゃ無いじゃん!ちょっと話しかけだだけで怒んないでよ]

[怒ってはいない、ただ…榛名は鎮守府で非人道的な扱いを受けていたのかも知れないから、扱いが繊細なんだよ」

 

あらかじめ駆逐艦寮に連絡しておいたお陰で、前で待機していた雷に榛名を渡すだけで済んだのだが、とりあえず

今後の榛名の扱い方に付いてを頭の中含めて艦娘達と話し合うことにした

 

「で、どうする提督…聞けば

強引に唇を狙われたそうじゃないか」

「長門…それは失礼だよ、多分なんらかの脅しをかけられて無理やりにやらされているんだ

じゃなきゃ俺に触れる寸前で怯えた表情になんかならない」

 

相変わらず飾らない、というかごまかさないというか、直接的な表現の長門に

オブラートの使い方と状況の説明を込めて細かく解説する

 

「提督、やっぱりMy sister、うぅん、榛名は送り返した方が良いデース

榛名本人がどうではなく

向こうの鎮守府側の問題ネ

憲兵を派遣してもらって、榛名側の鎮守府に解決を図らせるしかないと思いマス」

 

「……そう、ですね…せっかくブラック鎮守府とは縁を切ったのに、受け入れ元鎮守府がブラックでは

認識の齟齬が軋轢や提督への不満という形になりかねません、まず…一番許せないのは、榛名さん側の鎮守府の提督が

榛名さんに色仕掛けを命じているという事です」

 

扶桑さんが俯きながら

沈痛な表情で呟く

 

「予測という範疇を出ない推論だが

まず向こうの提督はブラックで、こちらの戦力を取り込もうとしている、そのためのツナギ、あるいは汚名を強引に着せる為のスケープゴートとして榛名を付けた」

 

俺はゆっくりと自分の予測を語る

本来ならするべきではない、

確証のない推論を、今だけは展開する

 

「榛名に俺を籠絡させる、または無理にでもそういった関係を捏造する

それによって榛名を取られたから

と交換条件に高練度な艦娘を持って行こうとしている可能性、または鎮守府の合併、吸収を目的としている可能性は高い

 

もともと榛名は素直で優しい良い子だ

容姿も優れている、色仕掛けを試すのならあり得る配役だ」

 

「提督!まさか貴様!」

「そのまさかだよ……彼女を利用して

逆に取り込む、

虚偽報告を強いることになるが

表面上はなんの問題もなく終わらせることができる策だ」

 

だが、これは同時に、

色仕掛けが悟られているということを

榛名にバラす必要がある

 

なんらかの脅して従わされている場合には

暴走を招きかねない

強引に押さえられれば俺の力では対抗できないという危険を持っている

 

「安心したぞ、提督自身が手篭めにするとでも言い出すのかとヒヤヒヤした」

 

「おい!俺を外道扱いするなっ!?」

 

安定の長門によるギリギリ発言に

全力でツッコミを入れて

その直後

 

「テートクー!!榛名はたしかに可愛いですケド!姉の前でそういう事を言わないでクダサイ!それに私の方が優先権があるはずデース!」

 

「金剛さん!はしたないですよ!」

「あの…私、さっきからずっと空気なんですけど…その、すいませんでした急に出てきた戦艦が最高火力とかいって調子乗ってごめんなさいだから話に入れて下さいっ!」

 

話題はカオスに染まった

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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