戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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ダブルフェイス(天使と悪魔)

「…………採血はこれで終わりです」

 

血圧、色覚、聴力、その他色々なテストを終えて、最後の採血に回り

それも今終わった、つまり検査完了である

 

「ふぅ…」

 

「成分、状態、血糖値、コレステロール値などは分析を掛けないとわからないので、お伝えするのはまた今度となります」

「了解だよ」

 

机にベタッと張り付き、急性貧血に耐える

「俺の魂内にいるのは三人、

艤装を含めれば六人…やっぱり侵食されるよなぁ」

男が艦霊を宿したなど尋常ではない、艦娘とは全く違う存在ではあるが

やはり少しずつ、侵食が蓄積、進行しつつあるのだろう

 

「はぁ………下手に話せないな…」

出来るだけ魂側の三人には話せない、絶対に心配されてしまう

 

心配をかければ川内達の事だ妙な世話焼きも始めるだろう…

 

その未来は回避しなくてはならない

目を薄く開き、水色の光を零しながら

書類を捌く

 

部屋がどれだけ暗くても片目だけは絶対に見えるから便利だ

「そういえば空母なのになぁ」

 

この目はヲ級だった頃の姉に譲り受けたもの…な筈だ

夜戦出来ないのが原則だったこっちの空母と違い、ヲ級達には夜でも御構い無しに艦載機を飛ばす

 

「じゃあこっちの空母は鳥目なのか?…はっ!五航戦が鶴なのはそういうことか!?」

 

[そんな訳ないでしょ!

いくら瑞鶴だからって鳥目扱いしないでよ!こっちは幸運の鳥なのよ?]

 

「なお姉」

姉の方はどちらかというとやはり被害担当の不幸艦だっただろ

 

[いいの!翔鶴姉はエロカワだからいいの!]

[いや良いのかよ、ん?…よく考えたらそもそも瑞鶴の方が露出度高くね?]

[露出は色気に関係ない!これ原則です!良いね?]

「アッハイ」

 

瑞鶴の謎の力説に押されてつい納得の返事をしてしまったが、翔鶴が…エロい?

 

正直翔鶴はエロというよりは

面倒見の良い姉キャラだよなぁ

 

妹の瑞鶴のことを心配して、不幸を嘆くよりもまず妹を守れたと喜ぶような性格だし

 

「って、そんなこと考えてる時間じゃないんだよ、書類が届いたんだし…鳳翔さんの方から食費に関する陳情が来てるな…間宮さんも…バカめここで俺が否決すればどうとでも……なに?」

 

否決されたら間宮アイスの値段を引き上げることを考えなくてはって脅迫かよ!

俺は脅しには屈さないぞ!

 

「提督殿」

 

ノックとともにあきつ丸の声が聞こえた

 

「入ってくれ」

正直鳳翔と間宮のどちらかだったら

待たせていたが

あきつ丸なら心配はいらないだろう

 

「提督殿、精が出ますな…

あぁこちら差し入れであります」

 

あきつ丸が出してきたのは

間宮スペシャル(カップサイズ)

 

「…なん…だと…」

 

「提督殿の御一考で値段が変わる瀬戸際との事で皆必死でしたが、なんとか最後の一つを手に入れることができました」

 

「………」

「どうぞ?ドライアイスで保冷しているので溶けたりはしていない筈であります」

「…お、おう」

 

最後の一つ…だと?

つまりあきつ丸はわざわざ苦労して先着戦争を制してまで自分が食べるんじゃなく()()()()()()()()買ってきたというのか?

 

いやまて、これは計略だ!

「…提督殿?お手元の書類が滞っておられるご様子ですが…難しいものでしょうか?」

 

机を迂回してこちら側に来ようとする気配を見せるあきつ丸に

まさにその書類を見せるわけにもいかない

「いや、なんでもないよ!ハハハ……」

 

苦渋の決断だった

 

「本当にどうされたのですか…」

「問題はない……そう、問題は(俺以外には)ない」

 

あぁ俺の食事が…自由が…

うどぅん食べたいです(切実)

あっつあつのうどぅん…

 

頭の中で俺が泣いているときに

電話が鳴る

 

「はいもしもし、こちら創海鎮守府

提督の神巫中佐です」

 

「あ、もしもし、こちら呉第一の鹿」

ガチャッ!ツー、ツー、ツー

 

鹿島なんて知らない、

電話なんて取っていない、良いね?

「提督殿…?」

また電話が鳴り始めた

「もう!ガチャ切りなんてよして下さ」

ガチャッ!ツー、ツー、ツー

 

トゥルルル!

「もしもし、私カシーさん」

この時点で電話を叩き切らなかった俺は十分に我慢していたと思う

 

「今、あなたの鎮守府の前にいるの」

 

ガチャ!!

即座に電話を切り、内戦に接続

「全館放送、総員第二種戦闘配置!」

 

断りもなく突然向かってきやがるとはなんたる無礼…いやそういう話ではなく

純粋に突然来られても対応に困るし

 

そもそもお前に来て欲しくない

[大丈夫?顔色悪いわよ?]

[提督さん…代わろうか?]

 

[いや、陸奥も瑞鶴もありがとう、

俺はまだ大丈夫だ]

 

震える手を抑えて再び鳴り始めた電話を取る

「もしもし、私カシーさん

今、鎮守府主棟の玄関前にいるの」

 

そして、徐々に近づいてくる電話は

玄関から廊下、階段と進み

「今、執務室前にいるの」

 

その声とともに扉がノックされる

それは不気味に間延びした間隔で繰り返され

 

「あきつ丸、閉鎖」

「良いのですか?」

「構わん、やれ」

「了解であります!」

 

強引に開かれる前に

あきつ丸が陸由来のパワーで扉を封じ

ガタガタと鳴る扉は、やがて静まる

 

そして

「もしもし、私カシーさん、今

貴方の後ろに」

その瞬間だった、

一切の躊躇なく回し蹴りを放った俺は

単なる壁を蹴りつけて

 

「いないの、普通に扉の前で待ってますよ」

クスクスと言う笑い声とともに

扉が再びノックされる

 

今度は普通のノックだった

「…すぅ…はぁ……覚悟はいいか(are you ready?)

 

一つ深呼吸して、落ち着き直して

扉を開けるように指示する

 

あきつ丸が扉を開け

「提督っ♪お久しぶりです!」

「桑島……」

 

ゲンナリした顔で睨みつけながら挨拶に応じる俺

「んもうっ、提督?ちゃんと

答えて下さいよ」

「お前に返す言葉などない」

 

「取りつく島もないですねぇ

まぁこれもこれ、頑なな心を溶かしていくのがブラックものの原則ですからね」

「その不快な声を今すぐに止めろ」

 

俺の出しうる最も冷たい声が

跳ねるような鹿島の声を遮る

「何をしにきた、鹿島

担当エリア外の鎮守府の艦娘が

勝手に移動して、何をしている」

 

「やですね、提督」

「何をしていると聞いている」

 

俺は椅子をたち、ツカツカと高圧的に音を立てながら机を迂回して鹿島の前に立つ

 

「私は単なる仕事ですよ、ちょっと表には出ない仕事です」

「…あきつ丸」

「よろしいのですか?」

 

怪しい人物と提督を一緒にはできない

とばかりの気配だが、

コイツの表情からするに害はない

席を外してもらう

 

「…了解であります」

 

鹿島と入れ替わるように

あきつ丸が部屋を去り

 

「提督、月見酒はいかがでしょう?」

「ふざけている時間はないぞ」

 

意味不明なセリフに顔を顰めると

 

「貴方にとって、この世界は何色ですか?

月の色は?海の色は?

提督は艦娘に汚染されるものですが、提督はその度を越しています

このままでは危険ですよ」

 

「そんなことは当然承知している」

「いえ、そう言う話ではありません

 

その侵食を、抑える可能性がある、それを提示しにきました」

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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