戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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ハッピーハロウィン

「…で、結局、鹿島さんとは和解できたんだ?」

 

「陽炎…」「はいっ♪」

 

廊下に立っていた陽炎

(いつかのように起こしに来たらしい)

の(俺にのみ)厳しい視線と質問に答えて、とびっきりの笑顔で幸せそうなオーラを振り撒く鹿島、しかし

 

「不幸だわ…」

それは別の人のセリフだと思うが

曲がり角では

明石がどんよりしている

 

鹿島と陽炎を先に行かせて

俺は明石と相対する

 

「どうした?」

「……じつは提督、みんなが

…………酒保から大量の布類を購入してます…オレンジ、黒、黄色…まぁその辺のを」

 

「収入になったじゃん、俺もちょっとした物買いたいんだけど、なんかおすすめある?」

「現在は衣類系はほぼ全滅してるので、食べ物、お菓子、酒類となりますけど?」

「じゃお菓子かな?鹿島達に」

 

まぁ長年の?夢が叶ったとか言ってたし

このタイミングなら少しくらい貢いでおいても後腐れなく済ませられるだろう

 

「…そうですねぇ、お菓子なら

コレとかおすすめですよ

ハ○ポタ風百味飴」

「元ネタは百味ビーンズでは…」

 

「気にしない気にしない!

さぁて…商談に入りましょうか…」

いきなり声が暗くなる明石

 

「コイツは価格が暴騰中だ…それなりの値を出してくれるんだろうな…」

「そりゃどこだって甘味は高えよ」

 

お前は黒ずくめのヤツらか!と軽く頭をタップ

 

「ピロリン!」

「ゲームのウィンドウ開いてる訳じゃないんだし…」

 

軽快なサウンドエフェクトを出す明石

まさかの明石側がふざける展開か

 

「まぁ、いいよ、どうせ俺が買うわけでなし…とはいえ

人に渡すものだし

そこそこ以上の品質は欲しいね」

「あっ、その点は大丈夫ですよ?

製造は大本営が行なっているので」

 

「大本営…なにやってんだよ…」

 

俺が呆れ返っていると

明石は俺にパーティー用サイズの箱を渡してくる

 

「せっかくですし、お菓子、もう少し多めに持って言ったほうがいいですよ?」

 

「何故?…そこまで量を使うわけでも

ないと思うが」

俺の問いに、明石はニヤニヤと笑いながら

「その飴が、夜まで残っていますかね…」

 

とだけ言い残して去って行った

 

「あっ、明石!」

 

あいつ勘定忘れてやがるぞ

[っていうかこのタイミングでなんで

パーティーサイズの飴の箱なんて

持ってたのかな…]

 

なんか誘導されてる気がするが

気にしない気にしない…

 

明石を追って廊下を…競歩(こばしり)していると

 

「トリックオアトリート!」

 

ひょこっ!と出てきたのは

………夕立

 

「っぽい!お菓子くれなきゃイタズラするっぽい!」

「っほい」

 

[なるほどね、…つまり仕掛けか

明石は俺に飴を買わせるために仕込みを用意してたのか…多分昨日の夜から]

 

明石から渡されたした飴を投げると

はくん!と器用に食べた

ちなみに、裏のイラストが味を示すらしいので…雨と犬の絵ということは

濡れた犬の味、

という微妙すぎる味の飴である

 

「頂きまっぽい、っ!」

 

一瞬で表情を切り替える夕立

(≧∇≦)《キャーッ!から

((^ω^≡^ω<ギャアアアアアアア

に変わったな

 

「提督…なにこれっぽい」

「雨に濡れた犬の味がする飴」

 

「そんなユーモア要らないっぽい!」

「…犬の手つけてるのに?」

「っぽい!」

 

バタバタし出す夕立…本当に犬かよ

「まぁ…その味はそもそも食い物かどうか怪しいとも思うよ?」

[…そんなのを渡す提督が悪い]

 

「まぁほら、ランダムに選ばれたし

そもそも裏面のイラストが味になってるなんて説明今見たし」

 

「っぽい〜〜」

のたうちまわっている夕立…

そんなにまずかったのか…すまん

 

「っ!っ!」

床をペシペシ叩いている

抗議か?

 

「あははは…ごめんよ」

「っぽい!」

 

となりに屈み、目線を合わせて謝ろうとした瞬間、夕立が飛び上がり

 

「むぐうっ!」

「貰ったっぽい!」

強引に唇を合わせて…!

まっず!?

 

「それが私の味わってたモノっぽい!

この苦しみを味わうがいいっぽい!」

 

それだけ言い残して夕立は走り去った

[……本当に夕立(濡れた犬)の味だね]

[いや夕立の味じゃないから!だだの濡れた犬の味だから!]

 

約5分、夕立の…濡れた犬の飴が口の中から消滅するまでに掛かった時間である

 

「いくらなんでも…ぐぅ…」

[すでにグロッキー…とんでもない破壊力]

 

[感覚共有なんだから分かるだろ!

 

はぁ…」

 

ため息とともに深呼吸、可及的速やかに

食堂かどこかで水を飲んで

口の中に未だに燻る、濡れた犬の味を消し去るべく駆け出した

 

明石が金銭徴収を忘れたんじゃなく

仕掛け人側が既に支払い済みで

わざと金を取らなかったんだと考えれば

今するべきは明石を追う事じゃなく

 

この不快な味を消すことである

 

「本当にごめん…夕立」

迂闊に犬のイラストを選んだのを今は後悔している、ごめんね

 

トリックオアトリート!

その飴が夜まで残っていれば…

 

頭の中を声が巡る

 

明石たちはこんな大規模な仕掛けでなにをしようというのか、

「…しかし、この環境…だとすれば

…お菓子つまり手元の飴は残ライフか

………鎮守府を舞台に、ゴースト役(子供艦)から逃げ切れ、タイムアップは夜!」

 

日暮れなのか、それとも

0:00なのかはわからないが

少なくともその辺がタイムアップになるはず!

 

「トリックオアトリート…だよ」

 

突如として、柱の影から

黒いチュニック…いやAラインドレス?姿の時雨が出現する

 

「なっ!時雨?お前もゴースト側か!」

 

「クスッ、それはどうだろうね…ほら提督…時間切れだよ」

「タイム制!?」

 

驚く俺を尻目に、時雨は

大きく息を吸い…指笛を吹く

 

『ピィィイイッ!』

 

まずい!号令系のトラップだ!

 

「ふふっ、これが僕の悪戯(トリート)さ」

嗤う時雨を追い越して走る

 

今の時雨の言い様から見るに

各艦娘担当の悪戯がある!

号令系は確認できたが…状況は最悪に近い

 

01のオープニングの如くぞろぞろと艦娘が出てくるなんて状況になったら終わりだが

 

今のうちに隠れられればその限りではない!

 

俺は全力で鎮守府本棟の廊下を走り抜け、多目的室に潜伏する

 

「…時計…つけてくればよかった」

日の入りまでの時間くらいならば

現在時さえわかればすぐに計算できただろうに、腕時計は自室内だ

 

 

袋小路かつ貼られている可能性が高い自室に行けば…the endだ

 

「……大人しく隠れておこう」

俺は息を潜めて潜伏を開始した

 

 

 

「♪〜♪〜」

 

しばらく潜伏していると

……北上が入ってきた

 

鼻歌とともに上機嫌な様子で歩いている…どうも俺には気づいていないようだ

 

よし、この隙に…

「だれ!?」

 

突如、素早く振り向く北上

 

「っ、!?」

「…あぁ、提督かぁ〜おつかれー」

 

俺を見ると…

ひらひらと手を振ってきた

 

「お前はアレに参加していないのか?」

「…私はねー、いいことを教えてあげよう

仮装した艦娘がゲームの参加者

いつもの制服を着てるのが外野だよ」

 

声を太くして、人差し指を立てて

指を振りながら解説する北上

 

「しかし、重要な情報だ…!」

 

ゲーム外の艦娘がいる!助かる情報だ!

 

「ありがとう北上!」

[あっこら声をあげたら!]

 

「クズ提督の声が聞こえたわ!」

バン!とドアを開けて突入して来たのは…霞だ

 

「ほらクズ提督!早くお菓子よこしなさいよ!」

「フランケンシュタインの仮装…?お前がやるとシャレにならないんだが…」

 

「いいからお菓子!」

「はいはい…どーぞ」

 

蜂蜜と熊の絵が描かれた包装の飴を与える事にした

 

(じゃねー)

さっさと退散して、今度はどこに向かうか…

 

廊下を巡回するのは危険過ぎる

かといって部屋にこもる訳にもいかない

 

難しいゲームだ

 

「提督!トラックオアトリート!」

「俺に死ねと!?」

 

曲がり角からバカ丸出しなセリフで出て来たのは、襟付きの白いコートに戦艦と大書した清霜

 

……お前それ確かに海軍だけど違う作品だろ

 

「さぁ提督戦艦にしてくれないとイタズラしますよ!」「悪戯確定は変わらないのかよ!」

全力ダッシュで廊下を駆け抜け

清霜を振り切り…振り返って…

 

「うをっ!」

ぽふ、となにかにぶつかる

ってこれ榛名じゃん!

 

慌てて離れた俺は、その直後に絶望する

 

そう、榛名の格好は

黒のチューブトップにつけ尻尾、

黒のマニキュアと濁った色のラインストーンで狂気的に彩られた手指

そして片足だけのストッキング

 

セクシー悪魔コス、

に分類されるだろう格好だ

 

「提督……!トリック オア」

「言わせねえ」

 

顔をわずかに赤らめながら

それを言い放とうした瞬間に、俺は逃げる!

 

「あぁっ!提督っ!」

「知るか!」

 

俺は食堂に逃げ延び…

「提督殿…」

 

後ろから聞こえたあきつ丸の声に振り向く

 

そこには

 

白の肌襦袢に般若の面を被り、

左手に大和撫子を携えた全身蒼白な鬼女が立っていた

 

「ギャァァアッ!」

[きゃあぁぁああっ!]

 

「待つであります!」

 

全力疾走を再開しようとした俺に

声が掛けられた

 

「待てるかっての!」

 

「自分は別にハロウィンゲームに参加しているわけではないのであります!」

 

「ウッソだろおまええっ!」

じゃあ何しに来たんだよおっ!

 

「自分は朝になっても提督殿が食堂に来られていないから起こしに行こうかと思って」

「永眠するわ!深海棲艦に寝床奇襲されたレベルだわ!」

 

その後、重巡寮なら人がいないかと飛び込んだら愛宕にピンクのベビードールでお迎えされたり

サソリの仮面をつけた卯月が出てきたり、通り過ぎた窓の外にアラクネ?コスの龍田さんが張り付いていたのに気づいた時は死ぬかと思ったが

 

途中で合流したヘンゼル(陽炎)グレーテル(鹿島)と一緒に鎮守府を逃げ回り

 

時にお菓子を投げ、時に足を働かせて艦娘たちを振り切って来た

 

鹿島は途中でお菓子を使い切ってしまい、最終的に俺が抱えて走る事になったほどだ

 

そして

 

「16:48、日の入りだ」

「私たちの…勝ちですね!」

「やったー!」

 

鎮守府の廊下の片隅で沈む夕日を迎え

他の艦娘の様子からしてタイムアップを悟った陽炎たちは歓声をあげる

 

「…そんなみなさんに!」

ひょこっ!と天井裏から明石が飛び降りてきた

 

「……!」

とりあえず無言で腹パンした

 

「っぅ〜……泣きます…」

「なけ、思う存分に泣け、今日笑った分泣けや」

 

ゴリゴリと拳を擦り付けながら

微笑む

 

「説明」

「…ふぇ?」

 

「…説明よこせや」

「あっ、はい!わかりました!」

 

引っ張って来られた大淀と夕張の二人とともに説明をきく姿勢に入る

 

「…ええっと、話の発端は

ハロウィンパーティのお話でした」

 

大淀が語り出し

 

「仮装とか、サバゲーとか色々考えて…」

 

夕張が続き

 

「結局、全部くっつけちゃったんです」

 

明石が結んだ

 

「つまりなんだ?お前ら…俺たちを弄って遊ぶ企画立ててやがったのか!?」

 

《こくん》

 

三人揃って頷く○○娘たち

「………はぁ」

 

陽炎と鹿島の『楽しめたからいいや』

と言わんばかりの表情を見て

ため息をつく

 

これでは怒るに怒れない

 

「後で費用の総計出してくれ」

たりるかなぁ……

 

落ち込む俺に明石が声をかける

「大丈夫ですよ提督!コレは

全部自前の資金でやってますから!

提督側に流れる損害はゼロです!」

 

「はっ?!資金管理なんのためにしてると思ってんだよ!自分の金でパーティーなんて出来るわけないだろ!」

 

「貯めてましたし、まぁ

三人分と鹿島さんに協力してもらっ…」

 

鹿島に振り返って、

 

シーっ!とポーズを取っていた鹿島に冷たーい視線を送る

「お前が仕掛け人かよ!」

「私はお金出しただけですー!」

 

逃げた鹿島を追いかけて

第2ゲームが始まった

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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