戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

197 / 649
想いの形を

「提督に…残された時は…そう長くない…ですか」

「だな、実際のところ

どのくらいかはわからないが、5年もないってはなんとなーくわかるよ」

 

なにせ腕から、目からじわじわ来るし

視界の半分は赤く染まっている

…まぁこれは当初からだが

 

「魂側も侵食を受けていたんだけど

魂をより強くする事で侵食を受けない、って方法が見つかっているから

切断してしまったリンクも取り戻したい」

 

とはいえ、それは根本解決にならない

いずれは対策を見つけ出す必要に駆られるだろう

 

そんな事は口に出さず

俺は強く息を吸い、一息に言い切った

こういう事は一気に説明してしまわないと後で困る

 

「提督…榛名に何をお望みですか?」

「俺は、望む事はない…いや

力を貸してくれ、榛名」

 

「…はい、榛名は、大丈夫です!」

 

ぎゅっ!と拳を握る榛名

そして、その前では

 

「私はヒロイン…私はヒロイン…」

 

虚ろな目で自己催眠じみた言葉を繰り返している大和が頽れていた

 

俺の状態について説明したとはいえ

深海棲艦の目やら深海由来の再生やらなんてものは説明してないため

やや強引な理屈になってしまっているが

一応の説明と説得はできた

 

[まったくもって目的外だけど

榛名さんの協力獲得?]

[おう、まったく目的外ではあるな]

 

榛名はまだ、心を取り戻せていない

本来なら雷たちのように

メンタルケアに秀でた艦娘による

セラピーを受けていてもらいたい所だが

 

「…………一緒にがんばるコールですか…わたしはお留守番ですか…」

「大和!?おい!目が死んでるぞ!

地獄姉妹化するんじゃない!」

 

今度は俺が大和を揺する番だった

 

「良いんですよどうせ私なんて

燃費悪すぎて運用できない

いるだけのステータス艦なんですよ…」

「大和っ!帰ってこい!」

 

大和が加速度的に暗い表情になっていく…

 

[提督、これはもう最終手段だよ]

[は?最終?」

 

川内のやたら焦った声でまくし立ててきた

[もうこの流れを変える方法はアレしかないよ!]

[アレってなんだよ!]

 

[あぁ〜なるほどね♪]

陸奥の声とともに体が乗っ取られる

「大和、俺の目を見ろ」

 

「どうせ…どうせ…」

「大和!」

陸奥が珍しく一喝

 

俺の大声に驚いたか、

大和はびくっ!と体を震わせて、若干の恐怖感すら滲ませながらこちらを見上げる

 

「お前は、俺がさっきなんと言ったかも覚えていないのか?俺は艦娘を差別しない、俺は大和のことを大切にしているよ、今は俺の都合で出撃は自重させてもらっているだけだ」

「そんなの結局なんとでも」

「言える、だが俺は嘘をつかない

それは俺に預けられた艦娘たちの信頼を裏切る行為だからだ、大和、何度でも言うぞ

俺は提督として、お前を蔑ろにはしない」

 

ゆっくりと体を近づけながら

力説する(陸奥)

 

「だったら…証明してください

私を大切に思うのなら、」

「あぁ、どこが良い?額でも、頬でも

あるいは…唇かな?」

 

「ふぇ?……はぁう…」

「俺の個人的嗜好から唇に決定した」

 

体を若干反らす大和だが

その先は壁だ

 

そして、陸奥は大きく一歩踏み出し

壁ドンのシチュエーションを作る

 

「お前が求めた証明だぞ」

「え?ぁ…」

 

ちょっと陸奥さん!?それは流石に

[じゃあご自由にどうぞ?]

 

突然体の主導権を返され

意識が一人称視点に戻り

いきなり至近距離からスタンバイ状態の大和を見つめることになって

 

[…………無理です]

閉じられた目、上気した頬色

圧倒的質感の髪、肌に伝わる体温

 

膨大な情報の波が俺を圧倒し…

結果、俺は日和った

 

いや、仕方なかったんだ!

ショック療法目的だとしても

俺には刺激が強すぎるんだ!

 

[[意気地なし]]

[ぐふぁっ………やめろ…その言葉は今の俺に特効だ…]

 

陸奥が俺の体を再び掌握し

唇が…

 

「ダメです!」

今まさにと言うところで

榛名が突然大声を出す

 

びくっ!と再び大和は震えて

その振動で、わずかに動いた唇が

触れ合う

 

「んっ!て、提督!」

「おや、タイムアップか…榛名もして欲しかったのかな?」

 

最後まで格好をつけたまま

大和から離れた陸奥が俺の体を返す

 

「ていとく…」

大和は茫洋とした表情のままだが

……なんらかの効果があったのだろうか

 

「は、榛名は……」

所在なさげな榛名と、ぼんやりしている大和…一体なぜこうなったのだろうか…

 

「榛名、落ち着いて」

「榛名は大丈夫じゃありません…」

 

視線を彷徨わせる榛名の元へと歩み寄り

まずは背中から腰に手をまわして

抱き寄せる

 

「提督…?」

「…………」

 

ゆっくりと、心音を伝えるように

「…………落ち着いたかい?」

 

1分くらい、同じ姿勢でいたのだが、榛名は耳まで赤くして挙動不審になっていた

 

「大丈夫か?」

反射的に言ってしまってから

俺は失言を悟った

 

そう、その一言は

「榛名は大丈夫です!」

彼女の口癖のようなもの、それに

傷病者の類はことごとくこう言うのだ

 

榛名は俺を押しのけるように離して

走り去っていった

 

「…………逃げた…まぁいいか」

 

追いかけるような事もないだろう

 

俺は未だに虚ろな表情の大和を放置して、書類を片付け始めた

 

「…書類、飯、書類、飯、風呂、寝る、起きる、書類…」

このサイクルが早すぎてメンテができない…それでも艦娘たちが帰投した時には出迎えているのだが

最近それも難しくなりつつある

 

書類を大淀に丸投げしてしまうわけにはいかない、いくら事務を掌握している

大淀にも休みは必要なのだから

俺がさっさと趣味に走るなど

ありえる選択肢ではない

 

「…………よし、ひとまず片付いた」

 

書類をどうにかして取り繕い、

遠征艦隊と出撃艦隊の帰還予定時刻に間に合わせる、日課と化しているお出迎えだ

 

「行くか」

時刻は17:40

 

そろそろ夕食の準備が始まる頃、

……最近豪勢な食事が多かった分

低カロリーに引き締められていそうだ

 

「それは駆逐艦勢には伝えられないな」

 

何か笑顔になれるようなニュースはないかな?…皐月着任は知っているだろうし、

 

「提督、入るぞ?」

かちゃっ、と意外に静かにドアを開けて

入ってきたのは

 

長門と摩耶

 

「どうした?珍しい組み合わせだな」

 

「いやな?砲戦時の位置どりの重要性とか

色々話し込んでたらいつのまにか意気投合しててな」

「さようか」

 

摩耶の例に出した砲戦時の位置どり…非常に興味深いが、それは無視して

要件を聞く

 

「提督、今から出迎えに行くんだろ?」

「我々もやらせてもらおうと思ってな」

 

「そうか…歓迎だよ、書類も終わったし」

徐に書類を片付け、唇をなぞりながらにやけている大和の横を通り過ぎて

一緒にドックへ向かうのだった

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。